いきなりですが、更識簪に転生しました。 作:こよみ
陰謀渦巻いてると、IS2次書いてんだなぁって気になる。
コメット姉妹のミニライブを含めた少々のインターバルを挟み、第二レースが始まった。先手をとったのは強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』を装備したセシリアだ。
「お先に失礼しましてよ!」
「そうはいかないっスよ!」
優雅に微笑みながら飛び出していくセシリアに向け、フォルテは氷を射出して妨害しにかかる。それに追従するように楯無がナノマシンをばらまき、箒が《雨月》《空裂》を振るって防御を削ろうとする。ある意味では素晴らしい連携だ。
お互いが敵でなければ、だが。
フォルテの『コールド・ブラッド』は空気中の水分を凍結させて放つのだ。ということは、楯無のナノマシンを含むということでもある。
要するに――
「なっ、何するっスか生徒会長!」
「あはーん、ごめんね?」
氷によってより殺傷力を増した楯無の攻撃が、周囲を蹂躙することになる。なお楯無は爆発の拍子に飛び散る氷が危険すぎるので『
それを巧みに防御するものがいた。
「お、おい何をする!」
「悪いがこれは勝負なのでな!」
その攻撃をワイヤーブレードを巻き付けた箒で防いだラウラが飛び出す。ワイヤーブレードに捕まった箒はたまったものではないが、ある意味ではラウラの後ろの順位を確保できるので運が良いといえば良い方なのだろう。
それを見てあきれた声を出す少女が一人。
「うわぁ~……かわいそ~」
それらに巻き込まれてはたまらないと、敢えて最後尾を飛ぶ本音だ。彼女はある意味我慢していたと言っても過言ではないだろう。敢えて攻撃の目を向けさせることなく静かに飛ぶ様は、全く目立たなかった。
そして。一位と二位はギリギリを争って一位は楯無。二位がラウラで、少し遅れてフォルテ。フォルテの影に隠れて抜けた本音が四位で、ラウラに投げ飛ばされてもなお食らいついた箒は五位。先頭だったはずのセシリアは最下位となってレースは終了となった。
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レースが始まる前のインターバルの間にIS学園に戻った一夏とシャルロットは、簪が昏睡している監禁室へと向かっていた。手伝ってくれると申し出てくれたダリルも一緒である。その監禁室へと向かい、簪の悪事を暴こうとする一夏は、あまりにも何も起きないことに油断してしまっていた。
その一瞬の気の緩みが、彼にとっての命取りとなりかねないことを彼だけが自覚していない。壁であるはずの場所から伸びてきた手が一夏を掴み、彼をそこにあった隠し部屋へと引きずり込もうとしたのだ。
一夏は声を出すことしかできない。
「うおっ……!?」
(いきなり何なんだ!?)
驚愕に動くことすらできずに引きずられる一夏。しかし、彼が声を出すことしかできなくとも、それに気づくものがいる。
「一夏!?」
シャルロットはその声に振り向き、褐色の腕に引きずられようとする一夏を引きずり戻そうとする。ダリルはそれをニヤニヤしながら見ており、手伝う気はないようだった。
それに舌打ちをしたシャルロットは、その褐色の腕に対して容赦なく近接ブレード《ブレッドスライサー》を振るった。その腕は引っ込められるかと思いきや、見覚えのある装甲を纏って防御する。
その正体を看破したシャルロットは低くその名を告げた。
「ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー……!」
「……シャルロット・デュノア、貴女に用はありません」
ギリギリまで低く押さえられたその声は確かにヴィシュヌのもので。知っている相手だということで油断が加速した一夏はヴィシュヌにこう告げてしまった。
「じゃあ俺に何の用なんだ? 急いでるから手短に頼む」
「では手短に。死んでください織斑一夏」
「……え?」
その攻撃が、一夏にはやけに遅く見えた。見えるだけで避けられないのは、鈍くしか動かない自身の身体を鑑みれば分かる。足元から迫る、装甲に包まれたヴィシュヌの足。
(あ、死んだ――)
それが無防備な一夏の頭に刺さり――はしなかった。
「させないっ!」
シャルロットが《ブレッドスライサー》でその足を受け止めたのだ。ヴィシュヌは軽く舌打ちをして足を引き戻す。そして拡散弓《クラスター・ボウ》を発動させて牽制した。
そしてそれもまたシャルロットに防がれたのを見てヴィシュヌは眉をひそめる。
(……その男をそこまでして守る価値がどこにあるというのですか、シャルロット・デュノア)
その態度に、シャルロットは苛立った。
「何で一夏を狙うの!?」
そう小声で叫ぶ彼女に対し、ヴィシュヌは冷たく返答した。
「むしろ何故彼が狙われないなどと思っているのですか? 流石に男性操縦者でブリュンヒルデの弟だから狙われないなどという馬鹿げた答えは聞きたくありませんけれど」
その答えにシャルロットは絶句した。それは彼女には全く理解できない考えだったからだ。一夏は確かに狙われるかもしれない。それは世界に一例しかない男性操縦者であるからで、決してブリュンヒルデの弟だからではないと信じていた。
一夏もそれを思ったのか、反駁する。
「俺が男だからってのは分かるけど……千冬姉の弟だからって狙われるわけないだろ!」
「なら何故貴方は第二回モンド・グロッソで誘拐されたのですか? それ以外に理由があるなら聞かせていただきたいものです」
「それは……っ、待てよ、何でお前がそれを知ってるんだ?」
その問いにヴィシュヌは肩をすくめた。これはお話にもならないと判断したからだ。ヴィシュヌの祖国タイやその他の弱小各国にとって、千冬は邪魔なのだ。あわよくば再起不能になってくれた方がありがたいのである。目下『白騎士』の容疑者たる千冬を、専用機の在処すら分からないままに野放しにしておくのはあまりにもリスクが高すぎた。
だからこそ、ヴィシュヌという貴重に見えて貴重でない少女を使い、一夏に危害を加えようとしているのだ。
「何故? むしろ誰にも知られていないと思っている方が驚きです。貴方がブリュンヒルデの弱点であることなど誰でも知っていますよ。少し調べれば分かることです」
「だからって……俺を殺したって千冬姉がどうにかなるわけないだろ」
その言葉をヴィシュヌは鼻で笑った。彼女の目的は一夏の評価を落とすことだけでも果たされる。何も殺さなくても良いのだ。千冬が再び専用機を身に付けるだけの事態になれば。そのきっかけ作りに自身が利用されていることにも気づいていた。
故に言葉を漏らすのだ。
「本当に……おめでたい人ですね。貴方がまだ生きているのはブリュンヒルデが庇っているからにすぎないというのに。そろそろその発言力を維持するのに『暮桜』がないと厳しいことくらいは察しているはずです」
確かに千冬に武器を持たせるのは危険かもしれない。だが、その武器すら行方不明のまま行動の方向性すら分からないのはそれ以上に危険だ。
ならば、どうすれば良いのか。弱小各国の結論は、千冬の行動を方向付けてやれば良い、というものだった。その方向付けにうってつけなのが弟であり、彼女にとっての弱点である。
ならばどうするか。手を出せないよう力を見せつければよい。そのために手っ取り早い手段は専用機を身に付けることだと千冬が考えてくれると判断したのである。
無論これは希望的観測であり、実際にそうなるかどうかは別であるが。
その後、ヴィシュヌは派手に一夏を傷つけるべく戦った。その結果、何故か万十夏が出てきて事態が混沌とし、乱入した万十夏以外の人物の思惑は叶わなかったのだった。
まだ、簪は目を覚まさない。
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(あたしは……間違ってた?)
暗い部屋の中で、自身を慕ってくれていたはずの従妹が戦っていたことをスズネは知った。それを知らせてきたのは『更識』の一人。かつて『マドカ』と呼ばれていた鎬空音という少女だった。
震える声でスズネは問う。
「何で……ランネがそんなことしなくちゃいけないのよ」
「分からない? あなたを守るためで、あなたを戦力にするため。ランネを戦力として使う代わりにあなた達を保護する約束だったけど、あなたがその前提を崩したから。だからあなたに刺客が来て、あなたも戦力としてカウントしないと割りが合わなくなった」
うたうようにそう告げた空音は、スズネに言葉をかけた。それこそがスズネに望まれていることで。それがスズネの願いに合致してしまうからこそ、彼女は躊躇うことしかできないのだ。
その言葉は。
「だからスズネ。あなたは織斑一夏のそばにいて。彼を守って。誰にも傷つけさせないで。誰にも利用させないで」
一夏に恋するスズネとしては願ったりだ。だが、彼に許可も得ずにやってしまったことがスズネに躊躇させるのだ。
顔を歪め、スズネは言葉を漏らす。
「あたしに……そんな、資格は」
「ある。
(……え)
その言葉の意味を理解するのに、スズネは数分を要した。『認知』、『彼』。その二つの単語が何を意味するのかを理解したとき、スズネは守るものが増えたことを実感した。
要するに空音はこう言っているのだ。『スズネの息子がいる』と。確かにスズネは危険日に一夏と結ばれた。その結晶を『更識』に託しもした。だが、本当にそれが育っているとは思っていなかったのだ。
(本当に……あたしと一夏の子が……! えへへ、目元は一夏似なのね。ああ、でも鼻はあたしに似てる? そうかなぁ……ふへへ)
そのピンク色の妄想に囚われたスズネは滑稽だった。彼女が妄想した全てを叶わなくしたのは、スズネ本人であるから。
故に空音は嘲るようにスズネに告げた。
「守ってあげてね、『オカアサン』」
そうして。スズネは、完全な『更識』のスパイに堕ちた。
名前だけ出てた鎬空音がようやく登場。引き取られた当時は布仏空音だったというどうでもいい裏設定があります。