いきなりですが、更識簪に転生しました。   作:こよみ

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 セシリア、君なんでそんなに消えるの? 気付いたら入ってないとかマジ勘弁して。


第三レース。貴方に捧げる恋歌。

 ミニライブにハプニングが起きたおかげで少し長く準備期間が取れた一同は、スタートラインに立った。第三レース走者はグリフィン、クーリェ、サラ、ランネ、ロランツィーネ、そしてティナである。

 先程までのギスギスした空気そのままに、レースは始まった。グリフィンは逃げきりを狙ってトップに躍り出た。

 そして背後に向けて浮遊ユニット《ダイヤナックル》を撃ち出しながら遁走する。

「悪いけど、このまま……!」

「逃がすわけがないだろう? グリ姉先輩……!」

 無論それを止めにかかる人物はいるわけで。ロランツィーネが派手にエネルギーライフル《スピーシー・プランター》を乱射する。その横をサラとランネがすり抜けていった。

 それを見てグリフィンが声をあげる。

「あっ!」

「お先に、グリ姉先輩」

「ついでにこれあげるわ」

 サラは無難にそのまま抜けたが、ランネは特殊武装《黒の水》を展開して二人を薙ぎ払ってから瞬時加速していた。

 だがグリフィンもロランツィーネも腐っても代表候補生だ。その攻撃は一瞬の停滞にしかならない。

 

 もっとも、その停滞こそが命取りなのだが。

 

「貰ったァ!」

 勝ち気な咆哮をあげたティナが二人に衝撃砲《龍砲》を叩き込み、再起不能直前まで追い込む。それに追い打ちをかけようとして、躊躇いが生まれたのでそのまますり抜けようとするもう一機のIS。

 僅かに眉を下げたクーリェは、ポツリと呟いた。

「……そうだね、ルーちゃん。グリ姉は……攻撃しちゃ、ダメだよね」

 その言葉の裏を返せば、ロランツィーネならば攻撃しても良いことになる。故に『ルーちゃん』はクーリェに指示を出してロランツィーネに向けてエネルギー槍《バルディッシュ》で斬りつけた。

 それをロランツィーネは《スピーシー・プランター》から銃身を外し、レイピア状にして弾く。

「くっ……まだまだ、まだまだこれからさ!」

 そう言って自身を叱咤し、大きく離された先頭集団へ向けて瞬時加速する。そこを狙い澄まして攻撃が繰り出されるが、それが当たる前に無理矢理方向転換する。

(キツい……けれど、ただで負ける気はない!)

 そうやって神業のごとく瞬時加速と無理矢理な方向転換を繰り返したロランツィーネは、結果として四位となった。一位はコンマの差でグリフィンで、二位はサラ。三位はランネで、『ルーちゃん』の指示でロランツィーネにギリギリまで嫌がらせをしていたクーリェが六位。様々な巻き添えを食らったティナが根性でクーリェを抜いて五位となった。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 そしてここで暗躍を始めるのが第二レースを終えたばかりの面々だ。といっても、小細工をする必要もなく誰からも指示を受けない人物もまたいるわけだが。

 その人物達は、のんびりと観客席で観戦していた。

「……やはり実力だけはありますわね」

「? 誰のことだ? セシリア」

「二年のイギリス代表候補生、サラ・ウェルキンですわ、一夏さん」

 そう言ってセシリアは一夏にしなだれかかった。敢えて胸を一夏の腕に当て、下から媚びるように上目遣いで彼を見る。

 それで一夏がどぎまぎしているのを見て内心でほくそ笑むのだ。

(ふふ……意識してくださっていますわ……!)

 勿論その状況を良しとしないものもいる。セシリアに一夏をとられてなるものかと行動を開始した。

 その人物は、セシリアよりも大きい胸をこれでもかと押し付けて一夏に告げたのだ。

「ろ、ロランだって頑張っているぞ!」

「うえっと……その、箒? お前とロランツィーネってそんなに仲良かったか……?」

 その人物――箒は自身の行為で一夏が狼狽えたのを見て頬を緩ませる。

(せ、セシリアよりも反応が良いな……じゃない! セシリアなんかに鼻の下を伸ばすな一夏! 私を見ろ!)

「おーい、箒?」

「な、何だ一夏!」

「え、えっと、ロランツィーネって箒と仲良かったか? 何かずっと箒から避けてたような気がするんだけど……」

 その返答に困る問いに、箒は言葉を濁そうかと考えた。

(いや、ここで誤魔化せば勘違いされる! 私は断じてゆ、百合ではない!)

 考えただけで、濁すのではなくはっきりさせる方を選んだのはある意味では進歩なのだろう。それが一夏に通じるかどうかはまた別だが。

「その、私には断じてその気はないが! ……好きな人にすげなくされるのは辛いっていうのは、よく知ってるから」

「そうなのか……まあ、確かにそうだな」

 その肯定の言葉にセシリアと箒は色めき立った。その返答はつまり好きな人がいると宣言しているも同然だったからだ。目に見えて動揺する二人。

 しかし、その心配はやはり杞憂だった。

 

「俺も千冬姉に冷たくされたら辛いしな」

 

 そのあまりのシスコン発言に、箒とセシリアは一夏に容赦のない制裁を加えるのだった。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 簪の監禁室前。そこで、五人の少女が戦っていた。うち一人はここにいるはずのない人物である。長い赤髪を翻し、本来であれば敵対するはずのない同国の代表候補生に襲いかかっている。

 その人物に対し、フォルテが叫び声をあげた。

「何でここにベルベットがいるっスか!」

「何でって、急進派に唆された貴女を止めに来ただけよ」

 淡々とそう返答したベルベットは、そのままプライベート・チャネルで楯無に告げる。

『フォルテは任せなさい、楯無』

『ありがと。ラウラちゃんには邪魔させないから安心して頂戴』

 それを聞いてベルベットは安堵した。

(待っていて、フォルテ。貴女が騙されていると気づかせてあげる)

 今現在、ギリシャの中の勢力は二分されていた。誰かを殺してでもIS保有量を増やしたい急進派と、人道的な立場にたって他国から人材を引き抜こうとする穏健派。どちらも力を欲しているのに変わりはないのだが、ベルベットとしては他人を傷つけてまでISの力が必要だとは思っていない。

 だからこそ、親友に簪暗殺の指令が下ったと聞いて飛んできたのだ。

「そこまで必死になったって、得られるものなんてないわよ」

「……ベルベットには分からないっスよ……! 私はっ! 私にはっ、守りたいものがあるんっス!」

 確かにベルベットにとっては得られるものはないかもしれない。だが、フォルテにとっては得られるものは確かにあった。恋をしている先輩――ダリルの安全を守るためなのだ。

(このままだと先輩は殺されるっス……なら、私が先輩を守るしかないっスよ!)

 その気合いは十分だが、フォルテは知らない。彼女を唆した人物こそダリル本人であることを。彼女が変声機で声を変え、隣の部屋からフォルテを脅していたことを知らなかったのだ。

 簪という庇護者を失った形のダリルは叔母に接触され、再び呪われた運命に舞い戻ったのだ。その呪いを解くためならば、ダリルは何だってする。その呪いを解かなければ幸せになれないのだ。

 ダリルに利用されているとも知らず、フォルテはベルベットに吠えた。

「だから退くっス、ベルベット! さもないと容赦しないっスよ!」

「……仕方ないわね。退く――なんて言うわけがないでしょうが。絶対に止めるわ。どんな形になってもね!」

(これ以上ギリシャを裏切らせないわよ、フォルテ!)

 そしてベルベットはフォルテを押さえにかかるために楯無を利用することにする。

『私に遠慮しないで楯無!』

『分かったわ。遠慮なく巻き添えにさせてもらうわよ!』

 べるのプライベート・チャネルを受けて楯無と本音もラウラを押さえにかかった。フォルテもラウラも簪の暗殺に来たのだ。危険すぎる生体融合型ISとなった彼女を生かしておくわけにはいかなかったから。あわよくばその特殊なコアを奪い取るために。

 楯無と本音の息が合う様子を見てラウラは歯噛みした。

(チッ……さすがに分が悪いか。だが、ここで簪を殺さねば私は……!)

 本来であれば、ラウラはこのまま退いていた。しかし今回は引くわけにはいかなかったのだ。ラウラに与えられた任務は『織斑一夏あるいは更識簪の暗殺』なのだから。

 勿論ラウラが一夏を殺すわけがなく。彼女が狙うのはあくまでも簪であった。

(嫁を殺すくらいなら、どれほど難易度が高かろうが簪を殺る!)

 その気迫は十分だ。それが合理的な考え方ではないことくらい、ラウラにも分かっている。こうして楯無や本音に守られている簪を殺すのは不可能に近い。それでも彼女は一夏を殺したくなかったのだ。生涯の伴侶となってほしいと願うほどに、彼に恋しているから。

 それは楯無も同じだった。

「こんなことして、一夏君に嫌われても知らないわよ!」

「ハッ……どうだか、なッ!」

(何よ、その自信は!)

 言葉で揺さぶりをかけたはずなのに、自身が揺らぐ。暗部の長としてどうかと言われるかもしれないが、楯無が『楯無』になったのは簪を守るためだ。可愛い妹を暗部に堕とさないために楯無はその地位を継いだ。

 だからこそ、彼女自身は心から望んでそうなったわけではないのだ。故に、揺らぐ。

「嫁に嫌われるのは、お前の方だ!」

「そんなわけないでしょ!」

(一夏君はそんな、他人を殺すのなんて望まないわ!)

 その、ある意味ではブーメランな思考に楯無は気付かない。恋で盲目になった対暗部用暗部の

長は、動きに精彩を欠きながらもラウラを止めていた。

 軍人で兵器であるラウラも。貴族であるセシリアも。幼馴染みの箒とスズネも。一夏に救われたシャルロットも。そして、彼の護衛として動き始めた楯無も。皆が一夏に恋をしていた。

 甘酸っぱい青春。故に彼女らは理解していない。

 

 恋が愛に到達するには、一夏のことも考えられなくてはならないことを。そして、その一夏からも自身のことを考えてもらわなくてはならないことを。

 

 恋と愛とは違う。恋は独りよがりで、愛は双方からお互いを思いやれることだ。故に、家族間であったとしても『恋』はあり得る。一方通行の思いやりは、もはや押し付けでしかないのだから。

(ってことを、誰も分かってないんだよねぇ)

 本音は醒めた目で戦況を俯瞰する。彼女にとって、仕えるべき相手は生まれる前から決まっていた。簪のために全てを捧げるのだと教え込まれ、実際そうやって生きてきた。一度はそれに嫌気がさして取り返しのつかないことをしてしまった。

(分かってる。かんちゃんが、私のことを望んでないっていうのは。でも、今度こそ守る……誰にも傷つけさせない!)

 その決意のもとに、本音は自らの力を振るうのだ。

 

 そうして、時間いっぱいまで誰も何も果たせなかった。

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