いきなりですが、更識簪に転生しました。   作:こよみ

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 ワールド・パージされるお話。
 え、全学年合同タッグマッチはって? こないだの『ゴーレム』襲撃で施設関係に大打撃を受けてるので中止になりました。


第七章 どうか大人しく眠らせてはくれませんか?
世界を分かつ。汝彼女のモノとなれ。


「では作戦を開始する」

 千冬はそう告げた。これ以上簪を眠らせておくわけにはいかないからだ。維持費も馬鹿にならない上に、戦力として彼女を使いたい以上は起こすより他ない。

 故に、千冬が集めたのはノトナの指示した人物たちのみだ。簪に悪感情を抱く生徒たちを使うわけにはいかなかった。それは他のところに使えばよかったからだ。

 そうやって三組に分けられた作戦行動が始まった。もっとも――護衛にスズネを連れた一夏だけは『白式・雪羅』のメンテナンスでそこにはいなかったのだが。

 一組目は、電脳ダイブで敵を迎撃するチーム。シャルロット、ラウラ、箒、セシリア、グリフィン、ヴィシュヌで構成されている。そのうち、ヴィシュヌがオペレーターとなって彼女らを守る予定だ。

 二組目は呼び出しを受けず、学園内で普通に過ごすチームだ。特殊すぎるIS『グローバル・メテオダウン』を扱うコメット姉妹や、危険に晒してはオランダから非難轟々になるロランツィーネ。学園内の巡回をする楯無とクーリェ、ランネからの密告で敵扱いのダリルとその恋人フォルテで構成されている。

 そして三組目が簪を起こすためのチームだ。といっても、万十夏、本音、ランネ、そしてサラだけだが。サラは元々迎撃チームだったのだが、セシリアと決定的に合わなかったのでこちらに振り分けられた形だ。

 そうして、全てが行動を開始した。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

『必要なパーツがあります。早急に収集してください』

 

『第一ターゲット発見。収集開始』

 

 ――願望を見た。たった一人に仕え、彼のために生きる夢を。彼に救われ、満ち足りた日を送る夢を。その中で彼女はメイドで、主人は恋している男だった。

 そして幸せな日々に一度は罅が入る。主人を救えるのはメイドだけ。メイドは主人のために動き、そして再び結ばれる。

(そうだよ。僕が必要なのは一夏だけ。他には何にもいらないんだから。だから一夏のためになら、何にだってなるし何だってやるんだ)

 何も怖いものはなかった。メイドには、主人さえいれば他のものは何も要らなかった。

 

『ワールド・パージ完了』

 

『パーツ《シャルロット》ゲット。第二ターゲットの収集開始』

 

 ――泡沫を見た。たった一人を愛し、彼のために生きる夢を。彼に愛され、普通の人間になる夢を。そこで生まれは問題にならず、結ばれるのに何の障害もなかった。

 そして幸せな日々に陰りもなく。現実には産めるかも分からない子供を授かって。固く結ばれる。

(……そうだ。怖いくらいに幸せなのは嫁がいるからだ。どうか、どうか、私に縋らせてくれ。皆と同じだと、信じさせてくれ)

 何も恐れることはなかった。普通の人間として、彼さえいれば何も恐れることはなかった。

 

『ワールド・パージ完了』

 

『パーツ《ラウラ》ゲット。第三ターゲットを収集開始』

 

 ――憧憬を見た。たった一人の背中を追い、彼を追って生きる夢を。彼に憧れ、彼に支えられる未来を。そこにはいつも頼りない彼はおらず、彼女の望んだ強く頼れる彼がいた。

 そして幸せな日々はいつまでも続き。現実でもそうあって欲しいと無意識に願って。そしてそれは叶えられる。

(ああっ……一夏、かっこいいぞ……私だけの一夏。男らしくて、私を守ってくれて、私を受け入れてくれる。私の、私だけの一夏だ……!)

 何も欲しいものはなかった。ずっとずっと望んでいた、彼さえいればもう何も欲しくなかった。

 

『……ワールド・パージ……完、了……』

 

『パーツ……《箒》ゲット……第四ターゲットの収集開始』

 

 ――熱望を見た。たった一人に跪かれ、彼を従えて生きる夢を。彼を欲し、彼にも欲される未来を。そこには夢も地位も財産も全てがあり、彼女の全てを導く彼がいた。

 そして幸せな日々は続き。姉のような存在の願いを踏みにじっていることすら知らず。ただ幸せをむさぼる。

(幸せですわ……この世の誰よりも! 今ならば何も怖くありませんわ! 一夏さん、一夏さん、ああっ、一夏さん……!)

 何もかも満たされていた。このままの生活が続くのならば、もう何も要らなかった。

 

『ワールド・パージ完了』

 

『パーツ《セシリア》ゲット。第五ターゲットの収集開始』

 

 ――切望を見た。家族が揃い、何も強要されることなく笑い合える未来を。彼の庇護下に入り、世界最強の後ろ楯をもとに生きる世界を。そこには求めた細やかな幸せがあり、それ以外に道は見えなかった。

 そして何からも脅かされず。いつしか彼とも結ばれて。ただぬるま湯のような居心地のいい幸せに居着く。

(……そうだね。こうやって、笑い合えるのが一番だよ。人殺しの方法なんて教えられなくたっていい。彼らに縛られることだって、ないんだ……)

 全てが満ち足りていた。このままでいられるのならば、もうそれでよかった。

 

『ワールド・パージ完了』

 

『パーツ《グリフィン》ゲット』

 

『あとパーツが二つ必要です。早急に嵌め込んでください』

 

『早急に、早急に、早急に、早く早く早く早く………頂戴?』

 

『でないと私が私になれないから』

 

 ――いつかどこかで、少女が哭いた。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

「ねえ、何でそんなにカリカリしてるの、ロラン?」

 教室でらしくもなく爪を噛んでいるロランツィーネに、オニールとファニールが話しかけていた。彼女らにはロランツィーネに聞いてみたいことがあったからだ。

 ロランツィーネはそれに苛立ちを隠さずこう答える。

「……君達か。当たり前だろう?」

「簪さんに会えないから……だよね。でもどうしてそこまで……?」

「何故、か。恐らく彼女に関わった人でないと分からないだろうさ。あの子は優しいんだよ」

(んん? どういうこと?)

 ロランツィーネのその言葉に、ファニールは首をかしげた。いまだに深い関わりを持ったことはないので分からないのかもしれないが、端から見ていれば彼女はただの変な人だ。

 それをファニールの代わりにオニールがうまく言葉にした。

「ただ中途半端なだけだと思ってたけど……」

「まあ、それもそうだろうね。中途半端に優しくて、中途半端に冷たい。誰よりも自分が嫌いで、誰よりも自分を見てほしいんだ」

 だから、とロランツィーネは続ける。

「だから彼女に教えてあげたいんだよ。君は誰かから好意を持たれるに足る存在だと、何度でもね。それを分かってもらわなくちゃ、いつまでも中途半端なままだから」

 そう返答するロランツィーネに、誰も言葉をかけられなかった。最早二度と声をかけられなくなっている可能性すらあると知っているからこそなおさらに。

(だからこそ、教えてあげたいんだよ。君は、ここにいて良いんだとね)

 その内心の呟きは、誰にも届かなかった。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

「鈴……その、別に良いんだぞ? いくら楯無さんの頼みだからって……ここまで護衛してくれなくても」

(もっと、普通にしててくれよ……)

 困惑顔の一夏が、水着姿の変態に付きまとわれそうになったのをぶっ飛ばしたスズネを見ていた。しかし、スズネは知っている。彼女こそこの『倉持技研』の所長なのだと。そして、四組の担任の姉だと知っていた。

 故に警戒を怠らず問う。

「どうしてい……織斑さんに手を出そうとしたのです?」

「堅っ苦しいぜぃ、凰鈴音。もっと砕けろ砕けろー……いや頭蓋骨が砕けるから!?」

 コミカルにそうじゃれている所長――篝火ヒカルノの頭蓋骨をへし折る勢いで握り締めたスズネは、押し殺した声で問うた。

「何でアンタがそれを知ってるのよ……!」

(今ならまだコイツを始末すれば……ううん、情報源を知らないと!)

 しかし、ヒカルノはその殺気を受け流すようにスズネから遠ざかる。

「アンタに『打鉄カスタム』を用意したのはウチだからなぁ。ささ、織斑一夏君と凰鈴音ちゃんをごあんなーい」

(さぁて、ようやく始められるねぇ……『紅椿量産計画』を。ようやくだよ……)

 ニヤニヤと笑みを溢しながら、ヒカルノは二人を倉持技研へと連れ込んでいく。そこには、邪な感情しかないことを彼女しか知らなかった。

 

『利用させてもらうわ、私が私たるために』

 

 ――その声は、誰にも届かない。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 フォルテは、恋人のダリルから呼び出しを受けた。重要な話があるというのだ。一体何の話なのか皆目見当もつかないフォルテはただダリルの部屋に向かうことしかできない。

 そして。

「そんな……こと……そんなことっ、いきなり言われても……分かんないっスよ!」

「分かれだなんて言ってねぇだろ。ただ、事実としてオレはここでサヨナラだって言ってるだけだ。オマエに分かってほしいとは思ってねぇよ」

(呪われてんのさ、ミューゼルの血に)

 吐き捨てるようにそう告げたダリルは、フォルテに背を向ける。そして、彼女を省みないままに目的の場所へと向かった。自らの呪われた運命に、決着をつけにいくために。それにフォルテを巻き込まないために。

 故にダリルは覚悟を決めたのだ。

「……だから、サヨナラだ、フォルテ。もしオレが運命を打ち破れたら……また、逢おうぜ」

 その決意を宿した顔に、フォルテは何も言えなくなった。

「あ……っ」

 ダリルが背を向けてフォルテのもとから去っていく。それを、中途半端にあげた手が掴むことはなかった。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

「……で、ここまで来たのはいいけど。全くもう……警備を穴だらけにしたのだーれ?」

 困り果てた声で、そう呟く楯無。彼女の目の前には恐らくアメリカの特殊部隊がいる。ただし、全員が叩きのめされているが。

 最後の一人を叩きのめし、近くで隠れているクーリェに向けて楯無は声をかけた。

「もう大丈夫よ」

「……ううん、ルーちゃん。楯無はね、詰めが甘いの」

「え? ……っ!」

 クーリェの言葉の意味を理解した瞬間、楯無は背後を振りかえった。そこには多少ダメージが入っている特殊部隊の隊員がいて。そして、そのままスタンガンを当てられた。

(しまっ……)

 楯無が最後に見たのは、クーリェがそのまま逃げ去っていくところだった。

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