いきなりですが、更識簪に転生しました。   作:こよみ

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 とっても一途さん(なお狂気)


世界を分かつ。貴方よ私となれ。

 ふと、一夏は誰かに呼ばれた気がして顔をあげた。周囲を見回すが、隣にいるスズネが彼を呼んだわけではなさそうだ。彼女もまた周囲を見回していたというのもあるが、一夏が彼女の声を聞き間違えることはない。

 故に彼は問うた。

「鈴……何か聞こえなかったか?」

「……一夏にも聞こえたのね?」

(じゃあ、聞き間違いなんかじゃないわね)

 スズネにもその声は聞こえていたらしい。自らを呼ぶその声が。感覚としてはプライベート・チャネルに近い。その声を手繰り寄せるように耳を澄ませて。

 そして――

 

『私を――助けて』

 

 確かに聞こえたその声が誰のものかも知らないで、彼らはISを纏い飛び出した。彼らの常識に当てはめれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()助けに行かないという選択肢はなかったのだ。一夏には箒の声に、スズネにはランネの声に聞こえていたその声の主は、勿論その二人ではない。

 一夏とスズネがIS学園に突入し、一番に出会ったのはクーリェだった。

「……一夏、スズネ」

「クーリェ!?」

 その呼び声にクーリェは微かな笑みを浮かべてみせた。普段の彼女であれば絶対にあり得ないことだ。だが、焦る二人はそれに気づかない。彼女が本当に味方であることを疑っていないがゆえに、彼らはクーリェに誘導される。

 目だけは真摯に彼らを射抜き、クーリェは告げる。

「楯無なら……大丈夫。ね、ルーちゃん。だから、地下に向かって。そっちの方が、危ないから……」

(むしろ、行ってくれないと……クーが困る)

 その言葉に快諾し、一夏とスズネは立ち入り禁止の地下区画へと向かった。ヴィシュヌからの困り果てたプライベート・チャネルも届いていたからだ。

『反応途絶……突破口があちらから指示されているなんて罠でしかないとは思うのですが……待つしかないのでしょうか、織斑さんを』

「ギャラクシー!」

『ふえっ……!? 織斑さん!? 良かった、今すぐ指示通りの道順でこちらへいらしてください!』

 その指示にしたがってたどり着いた先で、一夏とスズネは電脳ダイブを敢行することになる。彼らは気が急くあまり、情報の交換をしなかったのだ。故にそれが罠であることに気づけない。

 それを望んだ者は、面白いように踊らされる彼らを見て笑った。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 ――渇望を見た。彼の子と共に、三人で暮らす未来を。彼と笑い合い、何者にも脅かされない未来を。それは彼女にとって何よりも求めてやまないもので、そう在れることを望んで生きてきた。

 そして幸せな日々に違和感を抱くこともなく。ただ漫然と日々を貪って。彼女は彼のために、彼は彼女のために生きる。

(それで良いのよ。織斑スズネに……ううん、織斑鈴になって、一夏のお嫁さんになって、名前もつけさせてもらえなかった息子(一音(かずと))の母親になって、それだけで良いの……)

 怖いものしかなかった。全てを崩壊させるかもしれない周囲がただ怖かった。

 

 それでも――彼女は確かに幸せだった。

 

『ワールド・パージ完了。パーツ《鈴音》ゲット』

 

『最後のパーツをインストールします』

 

 ――ザザ――

 

『何も見えない!? どうして……』

 

 ――何だ――ザザザザ――

 

『もう一度、もう一度よ!』

 

 ――皆は――ザザザザザザ――ここにいるんだな――

 

『何で、どうして効いていないの!? ワールド・パージはどうしたのよ!?』

 

 ――なら俺は――ザザザザザザザザ――俺に出来ることを――ザザザザザザザザザザ――するだけだっ! ――

 

『ザザ《ザザ凪ザザ夜》ザザザザザザザザ――発動』

 

『ワールド・パージ初期化。プログラム強制終了。初期化プログラムの走査を確認。早急に退避を推奨します』

 

『危険』

 

『危険』

 

『危険』

 

『――渡さない。誰にも私の主は渡さないんだから。たとえ貴女が母であっても――渡したくない』

 

『彼を渡すくらいなら、みぃんな殺してやるんだから』

 

 狂気に満ちた、その声が。聞こえた者はいなかった。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 倒れ伏す楯無を、クーリェは冷たい目で見下ろしていた。彼女にとって楯無は庇護者である。しかし、戦いを望まない自身を無理矢理ここまで連れてきた一味でもあるのだ。『ルーちゃん』の言うには、クーリェにとって『害悪』なモノ。

(だから、これで良いんだよね、ルーちゃん)

『そうよ、これで良いの。クーは正しいことをしたのよ。偉い子ね、クー』

 心の支えになっている『ルーちゃん』から誉められたことでクーリェの頬が緩む。周囲の状況も相まって、それはひどく狂気に満ちていた。天井にまで返り血の飛び散った血塗れの廊下。そこで微笑む、返り血を滴るほどに浴びた少女。倒れ伏す庇護者であるはずの楯無。

 この場で無傷な者は、クーリェしか存在しなかった。

(大丈夫。クー、頑張るよ。ルーちゃんのためだもん。ルーちゃんはクーを守ってくれたもんね)

『そうね。クーは私のもので、私はクーのものよ。裏切るなんて許さない』

「裏切らないよ。当然……ルーちゃんのこと、信じてるもん」

 その独白は辛うじて楯無に届き。しかしながら彼女はそれに反応することはできなかった。後遺症は残らないと分かっていても、射たれた薬はすぐには抜けないのだ。

(クーリェ、ちゃん……ッ!)

 それでも彼女に手を伸ばそうともがいて、それを本人に蹴り飛ばされる。

「ガッ……あ、あ」

「ダメだよ。楯無は寝てなくちゃ。ルーちゃんの邪魔だもん」

 蹴り飛ばされた楯無には、無邪気にそう言うクーリェが何かに乗っ取られているようにしか見えない。その正体こそが『ルーちゃん』であると、楯無は既に確信していた。

(まずい、わね……っ、クーリェちゃんを、早く、何とかしないと……っ!)

 焦燥に駆られながら、クーリェの様子を見守ることしかできない。そんな状況が打破されるのは――

 

『えっ……ザザ、ぎ、がぁ……っ、あ――ザザザザザ――ザザザザザザザザザ』

 

「……ルー、ちゃん?」

 

 大きく目を見開いたクーリェが硬直したからだった。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 ヒーローはヒロインを救う。そして悪を討つ。それは古来から決まりきったお約束である。悪を討つためならば――敵を無慈悲に葬り去ることすらヒーローには赦されるのだ。

 故に。ラウラを、シャルロットを、セシリアを、グリフィンを、そしてスズネを囚われの身にした人物は葬り去られて然るべきなのだろう。少なくとも一夏にとっては。

 だが、葬られる側としては不本意だろう。特に彼女は――『ワールド・パージ』によって集められた情報を集積し、『織斑一夏に恋する理想の女性』になろうとしたアルコナにとっては。

 アルコナはクーリェと出会ったときに悲痛な叫びを聞いた。それがクーリェと関われる中で一番の願いであったから、アルコナはそれを叶えようとしたのだ。

 『誰かクーを愛して欲しい』という願い。それを叶えるためには、クーリェ自身の高すぎるIS適正を気にしないでいられる男性が必要だった。そして現状、それを叶えられるのは一夏だけだったということだ。

 故に束によるクロエのおつかいに便乗させてもらった。束にまだ二次移行も果たしていないコアから積極的に接触を図られたことに興味を持ってもらえなければ、この願いは叶えられなかったのだから。

 結果は上々、となるはずだったのだが――まさか一夏に邪魔をされるとは思ってもみなかった。おかげでアルコナの意思が希薄になるまでワンオフ・アビリティで叩き潰されてしまった。クーリェとコンタクトが取れなくなるくらいに。

『……っ、クーリェ、待っていて。すぐに戻るから――!』

 外部から聞こえる悲痛なクーリェの叫びにそう返しても聞こえていないだろう。それでも声をかけ続けるのはアルコナがクーリェを気に入っているからだ。

 アルコナの声は届かぬままで。それに焦るアルコナにつけ入るものが出現するまであと少し。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

『ワールド・パージ』事件報告書

 作成者:山田真耶

 

 学園にクラッキングを仕掛け、特殊部隊が侵入せしめた今回の事件は三点の問題を残した。一組専用機持ち達の暴走、クーリェ・ルククシェフカの錯乱、更識楯無の重体。

 一点目についてはいつものことだが、いずれ処罰の必要があると思われる。一般生徒の安全の確保のため、専用機持ちのみのクラスを作ることも検討する必要もある。

 二点目。ルククシェフカは錯乱の上、自室に閉じ籠った。同室のレッドラムは事実上の閉め出しとなり、現状別室で寝泊まりしている。更識楯無によると『ルーちゃん』とやらの洗脳を受けている可能性あり。

 三点目。更識楯無はアメリカの特殊部隊による襲撃で全員を返り討ちにしたものの重症を負った。そのため、学園が日本政府から借り受けている対暗部用暗部が機能しなくなっている。

 いずれにしても早急な対応が求められる。幸い、更識楯無は昏睡状態であるわけではないので今後の対応を協議していく必要があるだろう。

 また、今回の事件の終末と同時に利点もあった。先日多数の無人機を一人で駆逐した更識簪の覚醒である。今でははっきりと受け答えができるようになり、今までは距離をおいていた人物たちへも徐々に積極的になっている様子が見受けられる。

 この更識簪の覚醒を受け、(元織斑)鎬万十夏もこちら側の有力な戦力となることが確定した。鎬空音もそれに従うこととなり、学園側は更識簪に当主代行を依頼することも検討している。

 今回の事件の犯人もまた明らかにならなかった。早急に対策を練るべきだろう。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

「……こんな、ものですかね」

 そう言って真耶は首を鳴らした。書き上げた報告書は学園長に渡すことになっている。これを見て彼がどう判断するのか、真耶は不安だった。

(こうしてみれば更識簪さん達だけ、なんですよね。今普通に作戦行動がとれるのは)

 一夏達一組の専用機持ち達とヴィシュヌはもれなくISのメンテナンスが必要になったため、しばらく動けない。作戦に参加していない人物たちももちろん頼れない。頼みの綱の楯無は重傷で、クーリェは引きこもった。

「今何かあったら不味いのに……こんな時期に限って修学旅行だなんてどうすれば良いんですかぁ……」

 その真耶の嘆きは、誰にも届くことはなかった。




 『スヴェントヴィト』はスラブの神の名前。コアの名前はその神殿がある『アルコナ』から。ぶっちゃけ『ルーちゃん』に該当しそうな名前が思い付かなくて『スヴェントヴィト』をググったら出てきたからこの名前にしました。
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