いきなりですが、更識簪に転生しました。 作:こよみ
あい、運動会編で。
運動会。それははじめて無事に?
重症を負った楯無は、迫り来る修学旅行にやきもきしていた。自身が警護につかなくてはならないのに、今のままではままならないからだ。故に彼女が行うことはといえば修学旅行の延期である。
学生の一大イベントともいえる修学旅行を延期するにはどうすればいいか。答えは簡単だった。それに匹敵するだけの価値があるイベントを開催すればいいのだから。
すなわち――
「二週間後、全学年対抗織斑一夏争奪大運動会を開催するわ!」
一夏を利用するだけで生徒達の食い付きが違うと理解した上での苦肉の策。しかし、生徒達は楯無の想定以上に食いついたのである。もはや誰が止めようが中止にはならないほどに。それは的確すぎる時間稼ぎだった。
それに頭を抱える教師たち。だが、楯無の言葉を止める術も彼女らにはないのだ。たとえ楯無が優勝の景品として『織斑一夏と同クラスになれてかつ同室で暮らせる権利』をぶちあげたのだとしても。重傷の楯無にかわって対応を余儀なくされている教師たちは、連日の事件の後始末に逐われっぱなしなのだから。
その日のうちに貼り出されたルールは、毎日を殺伐としたものに変えた。
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全学年対抗織斑一夏争奪大運動会(以下全夏会)のルール
リーダーはランダムに選ばれた以下の9名である。
夜竹さゆか
黛薫子
ロランツィーネ・ローランディフィルネィ
更識簪
布仏スズネ
サラ・ウェルキン
フォルテ・サファイア
ダリル・ケイシー
グリフィン・レッドラム
リーダーであることの特権は『優勝すれば好きな人と同クラス、同室になれること』。その代わり、専用機持ちとのISを用いた戦闘を行う可能性がある。
リーダーは自分から他人に譲り渡すことができる。また、同一人物には1日三回までISによる決闘を申し入れられる。その決闘に勝てばリーダーは自動的に勝者に移る。また、薬を盛る、脅迫等の手段を使った者は退学に処す。
チームとしての優勝商品は『織斑一夏のボイス』『織斑一夏のブロマイド』『織斑千冬の一週間の指導』『食堂で一週間リクエストしたものを無料で食べられる権利』のいずれかひとつ。チーム間の移動は認められない。
また、このチーム以外に裏方になることができる。ただし裏方になれば二度とチームには戻れず、チームの特権は受け取れない。その代わり『生徒会のお茶会(織斑一夏のアフタヌーンティー・セット)一回以上』『織斑一夏の1/16フィギュア』『訓練機の優先申請権(24時間分)』『食堂スイーツ無料券(五枚)』のいずれかを手に入れる権利を持つ。それとともに織斑一夏と運動会の準備に参加できる。
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これを見て、各々が動き出す。あるものはリーダーに挑み、あるものは裏方へ、あるものは遠い目をしながら。最終的には、いつもの面子がリーダーになっているのは言うまでもない。
なお、主要人物の組分け及び裏方の編成は以下のようになった。
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第一チーム『紅き大和撫子』
リーダー:篠ノ之箒
夜竹さゆか
第二チーム『ブルー・ノーブル』
リーダー:セシリア・オルコット
布仏虚
第三チーム『コスモス・フルール』
リーダー:シャルロット・デュノア
第四チーム『シュヴァルツェ・シュヴェルト』
リーダー:ラウラ・ボーデヴィッヒ
オニール・コメット、ファニール・コメット
第五チーム『ロンフー』
リーダー:布仏スズネ
鎬空音
第六チーム『オーランディ』
リーダー:ロランツィーネ・ローランディフィルネィ
第七チーム『グレイシアス』
リーダー:フォルテ・サファイア
第八チーム『バーニング・フレイム』
リーダー:ダリル・ケイシー
布仏ランネ
第九チーム『グリ姉と愉快な仲間たち』
リーダー:グリフィン・レッドラム
布仏本音
裏方『おいこら専用機持ちィ!』
更識楯無(実況)、織斑一夏(実況)、更識簪(設営)、鎬万十夏(設営)、ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー(設営)、黛薫子(カメラ)
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実施する競技についても、かなりの話し合いが持たれた。施設の破損の影響で行えなかった専用機持ちタッグマッチも行わなくてはならない。故に1日のスケジュールがかなりタイトになってしまうのも無理はなかった。
しかし、生徒たちは何ら文句を吐くことはなかった。それだけ商品が魅力的だったからだ。そうやって無理は押し通され、外面だけを取り繕ったイベントが行われる。
いつもならば邪魔の入るイベントなのだが、今回に限っては無事に行われることになる。その理由を知るものは、そこにはいなかった。
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全夏会プログラム
1.選手入場(9チーム行進)
2.開会式(選手宣誓:織斑一夏)
3.IS体操
4.選手退場(テント下へと移動)
5.徒競走(専用機持ち以外、一位5点、二位3点、三位1点)
6.ISレース(妨害なし、一位10点、二位5点、三位3点。誰かを妨害したと見なされた時点で失格)
(昼休憩、応援合戦:審査員の採点で最大20点)
7.玉入れ(専用機持ち以外、順位に関係なく入った数÷5点)
8.玉撃ち(的大5点、中10点、小15点、極小20点。他者に危害を加えた時点で失格)
9.綱引き(勝ったチームに10点)
10.訓練機バトルロワイヤル(勝ち残った生徒の所属するチームに30点)
11.障害物&借り物競争(専用機持ちのみ、一位10点、二位5点、三位3点)
12.IS騎馬戦(勝ち残った生徒の所属するチームに30点)
13.各クラス担任によるエキシビション・マッチ(なお一年一組は織斑千冬ではなく山田真耶が出場。各クラス担任は当日抽選で選ばれたチームに所属し、生き残った時間が長い順に一位10点,二位5点,三位3点)
14.結果発表
15.閉会式
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これらを見て、チームのリーダーたちは動き始める。全ては自らの願いを叶えるために。そして――その願いを、壊させないために。
頭がお花畑のままの箒は。
「ふふ、あの日の楽園をもう一度……そうすれば一夏もきっと私の魅力に気付くだろう!」
そういって自信満々に豊満な胸を張り。その願いが叶うことなどないと知らぬままに夢を見る。
妄想暴走中のセシリアは。
「うふ、うふふふふふ……やん、一夏さんってば……そこはお尻でしてよ?」
『ワールド・パージ』のときの妄想の続きをやんやんと首を振りながら繰り返し。その妄想が現実にはなることはないも知らないままで耽る。
それとは対照的に現実を見ているつもりのシャルロットは。
「……僕といた方が一夏のためなんだ。うん、そうだよね、一夏?」
いまだに納得しきれていない自身にそう言い聞かせ。一夏のためという免罪符をもとにどこまでも落ちていく。
どんなときでも冷静なはずの軍人ラウラは。
「こ、これで名実ともに嫁と同居……!?」
まさかのピンク色の妄想にとりつかれ、あり得ないことだと知りながらも望みを捨てきれなくなっていく。
そんな周囲の熱狂ぶりに慌てるスズネ。
「ぜ、絶対誰にも渡さないわよ、あたしの一夏……!」
誰にも知られていないアドバンテージがスズネにはある。いまだ会わせてもらってもいない自らの息子だ。その父親を誰かに渡すわけにはいかない。
思い詰めるスズネの隣で、何を考えているのか分からないロランツィーネは。
「フッ……やれやれ、生徒会長も粋なことをする」
気障に振る舞い、自身の本心を悟らせない。その目的がすでに形骸化していることを本人だけが知らない。
そして追い詰められているフォルテは。
「これで……これで、先輩と……!」
自身と同室になれるという大義名分をもってダリルを学園に繋ぎ止めようとする。そうしなければ、ダリルは去っていってしまうから。
そんなフォルテを一顧だにしないダリルは。
「正気か? まあ、オレはオレのやるべきことをやるだけだけどな」
『誰でも』という文言を悪用して『機業』からのスパイを連れ込もうとしている。そうしなければ、フォルテを守れないから。
そして誰よりも明後日の方向に闘志を燃やすグリフィンは。
「これって誰と同室になっても良いんだよね? なら……うん、負けられない、かな」
孤児院の子供達全てを呼び寄せるつもりでいた。そうしなければ、誰に利用されて使い潰されるかわかったものではないのだから。
そうやってチームリーダーが闘志を燃やしているのを、簪は冷ややかに見つめるのだ。いつものように、淡々と。
(また波乱の予感しかしないじゃないのやだー)
やっと昏睡状態から覚めたにも関わらず、前と同じように嘆息する。それでもなお変わったところは――
「で、本当に良かったの? 万十夏」
「何がだ?」
「いやその、万十夏ならリーダーも楽勝で取れるじゃない。優勝商品ってそんなに魅力なかった?」
中途半端な敬語が消え去ったところだ。万十夏はその変化を内心嬉しく思いながら返答した。
「必要ない。別に今の部屋割りには文句はないし、チームの特権とやらも大半が必要ないな。別に私はねえさんとは違ってブラコンじゃない」
「ふーん……」
「それよりも、お前はどうなんだ簪」
どうとは、などと簪は問うたりはしなかった。ただ、万十夏がブラコンでなかろうがシスコンであることは確定していることを指摘することもなかった。
そして、万十夏の問いにはこう答える。
「わたしも別に今の部屋割りには何もいうことはないし……魅力的だったのがスイーツだけだったから。織斑一夏さんのグッズはいらないかなぁ」
(転売してもいいけど、そんなことして織斑千冬に睨まれたくないしね)
それを聞いて万十夏は内心でガッツポーズをとった。それが簪なりの許可だと分かっていたからだ。何せ、昏睡状態から帰ってきてからの簪には万十夏というルームメイトが出来たのだから。その生活に文句がないというのは素直に嬉しかった。
それを押し隠しながら万十夏が問う。
「むしろそれで士気が上がるとかここの生徒は大丈夫なのか?」
「まあそこは女尊男卑の弊害じゃない? IS乗れる女って強い→じゃあそんな女にはIS乗れる男がふさわしい、みたいな」
簪も自分で言ってから『あり得ない話ではない
』と気づき、笑い話にもならなかったのはいうまでもない。
そして、さまざまな思惑渦巻く全夏会が始まる――
こっから簪の口調が丁寧語→ノーマル女子に。