いきなりですが、更識簪に転生しました。   作:こよみ

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 ひっさびさの普通の楯無と簪との会話。とはいえ残念ながら簪の最高の理解者は万十夏という。


恋する乙女達。噛み合わない姉妹。

 楯無によって割り振られたチーム分けは、これ以上なく生徒達の性格を鑑みたものであった。才能の無駄遣いではあるが、せめて楽しめるよう考えた結果なのだ。それを責められる人物達はいない。

 というよりも、昨今のイベント事情を省みればわかる。普通に物騒にはならなさそうなこのイベントこそ力をいれるべきなのだと。一般生徒達も、外部からの人間がいるときのイベントの中止率に苛立っていたのだ。

 そうして異様な熱気を孕みつつ、準備に励む。負けられない女の戦いがそこにはあったのだ。勿論それに加わらないやる気のないもの達もいるのだが、それはそれ。今ここに乙女達の聖戦は発動されたのだ。

 なお、サラに関しては『メイルシュトローム』関連でイギリスに戻らなければならなくなり、ティナに関しても何らかの作戦に駆り出されて出られなくなったことをここに明記しておく。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

「選手宣誓! 俺達は、正々堂々と戦うことを誓います!」

 

 その一夏の声に皆は歓声をあげた。いよいよ一夏の争奪戦が始まる、という気合いの声でもあるが、それだけではなかった。全夏会の開催が決まってから一夏はずっとボイストレーニングを課せられていたのである。報酬用に準備されたボイスを集めるためだ。おかげでいつもよりも張りのある声が出たのだ。

 そこから始まるIS体操の掛け声も、勿論一夏がやらされて録音されたバージョンを持っている生徒がいたりする。なお、これまでIS体操などという珍妙な準備体操は存在しなかったことをここに明記しておく。

 ただ、今は生掛け声をやらねばならない。

「あっ、IS体操第一ーっ!」

 始まる軽快な音楽はしかし、日本人ならよく知るあの『ラジオ体操』ではなかった。所々にIS学園クオリティの混ぜ込まれた楯無オリジナルの一曲だ。なおそれを演奏させられたのは裏方の生徒達だった。

 一夏の声で『展開された『打鉄』に乗り込むようにいっ! はいいっちに、いっちに!』などとやられては平静を保つことすら難しかったが、パソコンの作曲ソフトを弄らされ続けた簪は慣れた。なお動作的にはエア踏み台昇降である。何の運動なのかいまいち分かりづらかった。

 なお、別の準備に追われていた万十夏はというと。

「ぶっふ……くくっ、か、簪ぃ……こ、の、『打鉄』に乗り込む運動とぉ……っ、『ラファール』に乗り込む運動との違いって何なんだ……っ!」

(そこを分ける必要が一体どこにあるというんだ!)

 口を押さえ、肩を震わせながらその滑稽な声に突っ込みをいれていた。それに簪が遠い目で答える。

「些細な位置取りの違いだよ。まあその……姉が何を考えてるのかは知らないんだけど……というか知りたくない」

(知ったところでろくでもない理由に決まってるし……)

「あん、簪ちゃんってばつめたーい☆」

 目を逸らした先でバッチリ目があってしまった楯無にそう言われるが、簪には本当にどうでも良いことだったので適当に流すことにする。

 ちょうど視線の先に『『打鉄』の《葵》を振るうようにぃぃっ!』という一夏の掛け声と共に闘志を燃やしながら腕を振るフォルテが見えたので、簪は彼女を引き合いに出す。

「……あそこにサファイア先輩がいますね、姉。抱き付いてくれば物理的に冷凍してくれますよ」

「あら、それはおねーちゃんを買いかぶり過ぎよ、簪ちゃん。フォルテちゃんなら完封できるわ――何があっても、ね」

 最後だけは低い声でそう告げた。それは隣に一夏がいないからこそできる会話だ。それが分かっているからこそ、今のうちに簪も楯無に伝えておくのである。

「何があっても、ねぇ……二人揃って無敵のイージスとかやられても安心して。万十夏なら勝てるから」

 その思いっきり他力本願な返答に楯無は突っ込んだ。

「いや、そこは『わたしがいるから』じゃないの!?」

「忘れてない? 姉。というかもしかして気付いてない……?」

 簪はそういって楯無を見つめた。楯無はきょとんとしているだけで、簪の言葉の意味が理解できていないようだ。勿論言葉足らず過ぎるその問いの意味を楯無が理解できないのは当然なのだが、簪フリークの万十夏には分かってしまった。

 それをギリギリまで抑えた声で楯無に伝える。

「要は武装はボロボロにできても人間には武器を向けられないんだろう? 鮫ならともかく」

「うえ、はっきり言葉にしないで……というか鮫は思い出させないでくれない?」

(あのときは無我夢中だったけど、結構派手にやらかしちゃったのは自覚してるからさぁ……)

 その簪の返答はふざけているようで、万十夏の言葉を全く否定していないことに楯無は気づいた。それで妙に納得できたのだ。あの時――万十夏を認めさせるため、といいながら簪が狙ったのは確かに楯無の武装だけだったのだから。

 そのことに一切気づいていなかった楯無は愕然としながら問うた。

「それ、いつから?」

「……最初から。でも、父さん……先代の腕を使えなくしたあとは完全にダメになって、そこから何とか武装だけは狙えるように頑張ったよ」

(まあ、焼石なんだけどね。武器は構えられるようにはなったってだけだし、荷電粒子砲は絶対に人体の部分には向けないし)

 その事実を、楯無は受け入れられなかった。確かに簪には暗部に関わってほしくないとは思っている。それでも今が苦しいのは確かで。学園から簪に対する当主代行の依頼を楯無の一存で撥ね付けたのは間違いだったのではと思っていたほどだ。かつて寄せ付けないように拒絶したはずの簪を巻き込まなければならないほどに状況は緊迫してきている。

 簪の告白に対し、楯無はぎこちなく笑いながら返答した。

「そうだったの……」

「まあ、暗部には関われないだろうっていうのは最初から分かってたようなものだしね……っと、準備体操が終わったみたいだから競技の準備にかかるよ」

 軽く楯無に手を振った簪は、万十夏と連れだって徒競走用の順位の旗とゴールテープを用意した。

(というか、気付いてなかったんだね、やっぱり……はぁ)

 現実逃避ぎみにそう考えながら、迅速な準備を心掛ける。その裏には勿論一夏との接触を避けたい意思が見え隠れしていた。楯無とは会話してもまだ耐えられるが、同じく実況の一夏とは会話が成立しないのだ。主に簪に言葉が足りないせいだが、一夏も一夏で思い込みが激しいのである。

 そんなことを考えながら、無駄に高性能な計測器の記録を整理していく。360人のうち、専用機持ちが16人。裏方に回った一般生徒が20人で、それらを引いた324人が9チームに分かれている。なお、チーム間の移動はなしなのでひときわ少なくなったチームがありそうなものだがそれはそれ。楯無が指示をして裏工作を行い、人数が均等になるように裏方へと誘導したのだ。

 そして徒競走は始まり、終わった。出場者数は9チーム20レースの180人。一時間近くかかった競技を終えた後はISレースだ。専用機持ちが複数人いるチームは一人(コメット姉妹は一組だが)を選んで出場することになっている。今回はリーダーのみの出場のようだ。

 計器類を弄りながら、簪は周囲の声をBGMがわりに聞き流そうとする。

「負けないわよ……絶対に!」

「あら、スズネさん。大人しいふりはもうなさらなくてよろしいのかしら?」

「……アンタにだけは言われたくないわよ、セシリア。何があってもアンタにだけは一夏は渡さないから」

 聞き流せなかった。セシリアとスズネの会話だ。なおこの会話は会場内に流れているので思い切り身バレしていることを追記しておく。なお、スズネがそれに気づくのは全夏会が終わって『更識』にそれを指摘されたときだった。

 簪はこの発言が生む波紋に内心で頭を抱えながら調整を終え、楯無に合図を送った。

『さーて皆さんお待ちかね、専用機持ちレース開催よ! はい位置についてー、よーいどん!』

「流石に唐突すぎるよ……やれやれ」

 簪の合図の瞬間に始まったレースに、数秒とはいえ乗り遅れたロランツィーネが最下位だ。それとは対照的にフライングギリギリで飛び出したスズネがトップである。

 とはいえ、このレースは妨害不可なので純粋に速度とコーナリングだけを見る競技である。スズネの専用機が『打鉄カスタム』になった以上は勝てるはずのない競技だった。たとえその『打鉄カスタム』が機動性重視であってもだ。

 それでもその事実を見て声をかける者がいる。

『負けるな鈴、頑張れ!』

『――っ、勿論よ!』

(一夏……!)

 セカンド幼馴染みから発された、打てば響くその返事に一夏は笑顔を見せる。それはいくつもの感情を専用機持ち達に抱かせた。

 スズネに嫉妬を抱くセシリアや。

(ズルいですわ、スズネさん……!)

 一夏に対して自身を応援してほしいという期待を裏切られたことによる恨みを抱くラウラとシャルロット。

(良い度胸だ、嫁のくせに私を応援しないとはな……!)

(僕、一夏のために頑張ってるんだけどなぁ……?)

 そして思考がブッ飛びすぎて最早殺害予告にしかならない箒。

(――全員斬る)

 などなど。後で一夏は刺されるかもしれないが、そのときはそのときである。なお楯無は一夏の隣という特等席にご機嫌だったのでスズネのことも微笑ましく見ていた。

 そしてもちろん、簪は――

「うわぁ……女心を理解してなさすぎて凄いことになってる……」

(むしろ気付こうよ……)

 ドン引いていた。あれほどまでの妬みの視線で穴が開かないだろうかとも思えるほどの圧力を、一夏が平然と流していることに。

 しかし、そこに万十夏が突っ込みをいれた。

「ん? いや、あれはあれが限界だろう。これで他の奴を応援していてみろ、恐らくスズネが『潰れる』ぞ」

「……ホントに理解してやってると思う?」

「いや、本能的にやっているんだろう。自分がギリギリ死なない程度の振る舞いぐらいは出来るようになっているからな」

 呆れたようにそう吐き捨てる万十夏に、簪は何も言えなかった。万十夏は一夏が妬ましいのに、それを敢えて抉るような言葉になってしまったと気づいたからだ。

 その微妙な空気が打破されたのは、レースの結果が出たときだった。




得点表
 第一チーム『紅き大和撫子』:22点
  リーダー:篠ノ之箒
   夜竹さゆか
 第二チーム『ブルー・ノーブル』:25点
  リーダー:セシリア・オルコット
   布仏虚
 第三チーム『コスモス・フルール』:16点
  リーダー:シャルロット・デュノア
 第四チーム『シュヴァルツェ・シュヴェルト』:14点
  リーダー:ラウラ・ボーデヴィッヒ
   オニール・コメット、ファニール・コメット
 第五チーム『ロンフー』:21点
  リーダー:布仏スズネ
   鎬空音
 第六チーム『オーランディ』:21点
  リーダー:ロランツィーネ・ローランディフィルネィ
 第七チーム『グレイシアス』:30点
  リーダー:フォルテ・サファイア
 第八チーム『バーニング・フレイム』:8点
  リーダー:ダリル・ケイシー
   布仏ランネ
 第九チーム『グリ姉と愉快な仲間たち』:25点
  リーダー:グリフィン・レッドラム
   布仏本音
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