いきなりですが、更識簪に転生しました。   作:こよみ

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 実際、一夏はルクーゼンブルクで千冬含めたハーレム作るしか生き延びられないと思うの。


恋する乙女達。貴方に愛を。

 楯無の合図と共に始まったISレースは、妨害なしというルールのもと行われた。故にこそ機体の性能差というものが如実に現れる。そう、たとえば――

「いける……これなら、この『紅椿』ならっ!」

 束作の第四世代機なら。他を許さぬ加速度で一気にスズネを追い抜かし、トップに躍り出る。そしてそのままゴールした。必死に追いすがったスズネが他の第三世代機を抑えて二位だ。

 ならば三位は。

「いやー、流石に8点はないだろ。てなわけでテメェらはオレのケツでも追っかけてろ」

 なんの不運か、徒競走で平均20点弱取っている全9チームのうち、ダントツの最下位になってしまったダリルだ。彼女は誰にもマークされていないことを良いことに一気に他の専用機持ち達を抜き去ったのである。それでも三位だ。合計点でもまだまだ最下位である。

 その結果に内心焦りつつ、ダリルは観客に回った。次は応援合戦だ。勿論ダリルはそこには参加しない。してはいけないわけではないが、派手に皆が注目するだろうことは推測できていた。ならば彼女がすることは、今日のイベントに対する仕込みである。静かにその場から立ち去ったダリルに気付いたのは簪とフォルテだ。なお楯無は気付いていても位置的に追えなかった。

 フォルテがダリルに追い付くのを確認して簪は聞き耳をたてる。

「先輩……その」

「何だよフォルテ。もうサヨナラだって言ったろ?」

「……あれから、考えたっス。このままで良いのか、私はどうしたいのかって……」

 その空気に簪は不穏なものを感じ取ったが、今さら止められるわけもない。ついでに面倒な人物もフォルテの近くに潜んでいるようだった。見えたのだ。淡い金髪をリボンでまとめた女子生徒が。

 それすらも知らず、フォルテはダリルに告げた。

「……分かっちゃったんっスよ。私には、先輩以外いらないって。他の何と引き換えにしてでも、私は貴方の側にいたいっス」

 それは愛の告白だった。駆け落ちしてでも叶えたいほどの告白。それをただの脱走宣言になると覚悟していた簪は無防備に聞いてしまった。

 げんなりとしながら、それでも気配は殺したままで簪は心の中で吐き捨てる。

(いや、あの、うん、知ってたけど……通じるかはまあ別問題なんだよね)

 ダリルはそれを困惑したような顔で受けた。

「フォルテ、お前それは」

「突き放そうったってそうはいかないっスよ。先輩が何に苦しんでるのかは知らないっス。でも、でも……っ」

 次第にフォルテの声は涙で滲み、周囲を気にする余裕もなくなっているようだ。それを皆に知らしめようとするかのように、フォルテは大声で宣言した。

 

「私はどこまでもついていくっス、だから連れていって!」

 

 そして泣きじゃくるフォルテ。それを見てダリルは毒気を抜かれたようにキョトンとし、次いでため息をついた。

(やれやれ……焼きが回っちまったかね)

「あのなフォルテ――」

「絶対に置いていかせなんかしないっスからね! Θέλω να εισαι στη ζωή μου! (あなたと人生を共にしたいっス)Σ΄ αγαπώ.!(あなたを愛してるっス)

 唐突なギリシャ語にダリルは戸惑ったが、言わんとしていることはわかった。抱きつくその仕草と、体の熱さで。本当はダリルは誰もつれていく気はなかったのだ。

 だが、それでも。

「……It's not too bad with you(オマエと一緒ならまあ、悪くないか)

(一人は寂しい、もんなぁ……)

 その時点でダリルは決めていた。

「えっ……」

「よし決めた。後悔してももう遅いからな、フォルテ。……地獄まで付き合え」

「あ……」

 一拍。後にその言葉の意味を理解したフォルテは花咲くような笑顔を浮かべた。その道は茨の道だ。しかし、それを理解していてなおフォルテは笑ったのだ。

 もっともその笑顔はすぐに崩壊した。

「というわけだから殺すなよ? コルデー」

「こんなところでその呼び方しないで、レイン」

(なっ……Ζωή μου(私の命)に何いってるんっスかこの……!)

 愛するダリルと気安く話すシャルロットに鋭い目を向けるフォルテ。しかしシャルロットはそれを一瞥するだけで興味を抱くことはなかった。

 その代わり、ダリルに進捗状況を伝えた。

「こっちは問題ないよ。単純な子も引き込んだし」

「ひゅう、やるじゃねえか。こっちも準備は万端だぜ。……これが終わればそのISともおさらばだな」

「……そうだね」

 シャルロットは胸元の『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』を握りしめながら呟く。いつかそんな日が来ることくらいは分かっていた。『亡国機業』に取り込まれたデュノア社が開発した第三世代機に乗り換えなくてはならないことくらいは。それでも気が進まないのは確かだ。シャルロットにとって『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』は相棒なのだから。

(さよならは、寂しいけど……一夏のためだもんね)

 シャルロットは微かに震える手を誤魔化すように冷たく言う。

「じゃあ、手筈通りに。くれぐれもそのコイビトさんを裏切らせないようにね」

 そして踵を返し、応援合戦で盛り上がる会場へと戻っていった。そしてそこに残されるのは一組の恋人達。彼女らは邪魔が入らないことを良いことに昼休憩目一杯まで愛し合ったのだった。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

「皆の健闘を讃え――エールを送る!」

 無難に応援合戦を始めた箒チーム。日本人の多いこのチームはかなり有利だ。何せ運動会というものを経験している生徒が多いのだから。運動会経験者の審査員達には至極受けがよかった。堂々の19点である。マイナスは楯無だ。色気を求めていたらしい。

 むしろその隣が酷かったともいう。

「……ダリルのチームは頑張りなさいとリーダーからのお達しです」

 で終わったのだ。読まされたのは虚。そして内容を指示したのはセシリアである。その指示内容は『その時点で一番負けているチームを応援なさい』だ。最早煽っているようにしか見えなかった。そして虚にも勝つ気がなかったのでこうなったのである。よってお情けの5点だ。

 そしてシャルロットのチームはフランス国歌を歌い、ラウラのチームはコメット姉妹を生かしての日本の流行歌の演奏。スズネのチームは彼女が日本に住んでいた経験から無難にチアリーディングを選んだ。それぞれ14点。

 圧巻だったのはロランツィーネのチームだ。彼女はオペラ形式で存分にその魅力を発揮したのである。しかし、数十分にも及ぶ長さだったため、減点されて16点だ。

 なお、フォルテ、ダリル、グリフィンのチームは当人が消えたので実施されなかった。もちろん三者には誤算だっただろうが、『リーダーがチアリーディングで応援する』と本部に通達した以上は本人がいない時点で棄権扱いである。ただしチームメイト達が可哀想だったので各3点が入れられた。

 そしてようやく波乱の昼休憩へと突入したのであった。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 ダリル達への諜報活動から戻ってきた簪の前に現れたのは、万十夏のサンドイッチ系のランチボックスだった。しかも見た目が中々に豪快である。何故かクロワッサンに分厚いベーコンとレタスだけが挟まれたもの。そしてハンバーガーと、ポテトだった。

 それを見て簪は万十夏に問う。

「万十夏? 何かすっごいジャンクな感じなんだけど……」

 その微妙にひきつった顔を見て、自身の予測が当たっていると判断した万十夏は、どや顔でクロワッサンサンドイッチを差し出した。

「どうせお前のことだから昼食は抜く気だっただろう? 喰え。味は保証する……オルコットがな」

「何でそこでオルコット……?」

 それを受け取って落ちないように両手で持ち、齧り付きながら簪は疑問を溢す。万十夏が料理出来ること自体意外だったが、そこにまさかのメシマズ系ヒロインセシリアの名前が出てくるとは思わなかったのだ。

(美味しいけど胃もたれしそう……取り敢えずまあ変な味しないから良いかなぁ)

 などと思いながら簪はもきゅもきゅと食べ進め、一つを食べ終わる。そこに万十夏はすかさずアイスカフェラテを差し出し、それもやはり両手で持ってストローから中身を啜る様子を見守ろうとして簪に返答していないことを思い出した。

 自身もハンバーガーを手に取り、口に運んで返答する。

「いや何、ちょうど横でトムヤムクンを作っていたのでな。興味があったから味見会と洒落こんだわけだ。ククッ……」

「うわぁ、万十夏が悪い顔してるよぉ……」

「ん? 私は辛党だからな。あれを食べる愚弟の反応が楽しみだ」

(せいぜい悶え苦しむがいい!)

 実に悪い笑顔をしている万十夏に、その企みの結果が知れ渡るのはすぐだった。食堂の方から凄まじい悲鳴が聞こえたのだ。

 

「うっぎゃああああああああああああああああああっ!?」

 

 周囲は何事だと騒ぎ始めるが、それがセシリアの仕業だと知れるとすぐに鎮静化した。それほどまでにセシリアのメシマズ度合いは知られていたのである。近くにいた生徒からの報告で一夏の健康には何ら問題がないことが分かったのでなおさら誰も気にかけることはなくなっていく。

 そして簪もまた一夏には興味がなかった。

「それはそれとして、万十夏って料理出来たんだね」

(豪快にこう、肉切って焼いて終わりそうなのに)

 それに対して万十夏は鼻を鳴らす。

「こんなものは料理とも呼ばないと思うが……そうだな、スコールやオータムに比べればマシ程度だろう」

「えっ、オータムはともかくスコールって料理プロ級か一切しないかどっちかだと思ってるけど……」

 簪の答えは、しかし一切的を射てはいなかった。万十夏はかつて亡国機業にいた頃の残念な記憶を想起する。

(いや、あの見た目であれはないな……うん)

 そして遠い目で答えた。

「オータムは油に材料を叩き込めば何とかなると思ってる人種だ。スコールは……レーションか、外食だな」

「……いや待とう万十夏、レーションなの?」

「レーションだ。それも同じものばかり食べているな」

 そのあまりの答えに、簪は遠い目をするしかなかったのだった。




得点表
 第一チーム『紅き大和撫子』:51点
  リーダー:篠ノ之箒
   夜竹さゆか
 第二チーム『ブルー・ノーブル』:30点
  リーダー:セシリア・オルコット
   布仏虚
 第三チーム『コスモス・フルール』:30点
  リーダー:シャルロット・デュノア
 第四チーム『シュヴァルツェ・シュヴェルト』:28点
  リーダー:ラウラ・ボーデヴィッヒ
   オニール・コメット、ファニール・コメット
 第五チーム『ロンフー』:40点
  リーダー:布仏スズネ
   鎬空音
 第六チーム『オーランディ』:37点
  リーダー:ロランツィーネ・ローランディフィルネィ
 第七チーム『グレイシアス』:33点
  リーダー:フォルテ・サファイア
 第八チーム『バーニング・フレイム』:14点
  リーダー:ダリル・ケイシー
   布仏ランネ
 第九チーム『グリ姉と愉快な仲間たち』:28点
  リーダー:グリフィン・レッドラム
   布仏本音
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