いきなりですが、更識簪に転生しました。   作:こよみ

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 間違いなく普通の学校に通ってなかった楯無のせいだよ。


運動会。どこが間違ってそうなった。

 昼休憩も終わり、次は玉入れの時間だ。とはいえ一般生徒達に出来るのは一つでも多く玉を投げ入れることのみで。しかも点数が五分の一になるこの競技に熱を入れるものはいなかった。おかげで玉は宙を舞うものの殆ど入らず、各1点から3点しか入らないという振るわない成績に終わった。

 それとは打って変わって玉撃ちは盛大に点数が入ったと言えよう。何せ極小の的は20点。一番大きい的でも5点なのだ。専用機持ち達が張り切ったのは言うまでもない。

 そして。

「はい箒ちゃん失格ー」

「な、何故だ!?」

「巻き込んじゃダメって言ったでしょ、もう……そこで競技終了、降りてきなさい」

 張り切りすぎて周囲に被害を及ぼすのもまた様式美というべきか。失格にならなかったのは、最後まで着実に点数を稼いだダリルだった。そして一気にトップに躍り出たのである。ちなみに最下位は同点でセシリアのチームとロランツィーネのチームだ。

 当然、殆ど諦めかけていたダリルのチームは思わぬ奮闘に色めき立ち、次の綱引きでも気合いを入れすぎて圧勝。その他のチームを突き放していく。

 最下位と一位との差は40点ほど。それを埋めるのにちょうどいい競技が次の訓練機バトルロワイヤルである。参加人数はチームから3人の全27人。学園に所属している訓練機のうち、どの機体がどのチームに当たるかはくじで決まる。そして、そのくじのなかには外れも当然混ざっているのである。

 訓練機の内訳は『打鉄』9機、『ラファール・リヴァイヴ』6機、『テンペスタ』5機、『メイルシュトローム』2機。勿論外れとは『メイルシュトローム』である。サラのように『メイルシュトローム』で第三世代機を圧倒できる人材もいないわけではないが、その人物に『メイルシュトローム』が当たるかどうかはまた別の話だ。

 そしてそのバトルロワイヤルは、今まで殆ど目立たなかった生徒が勝利した。

「あれ? こんなつもりじゃなかったんだけどな……」

 全員が倒れ伏すなか、味方を囮に使うという中々に外道な戦法をとった生徒だ。当たった訓練機は『メイルシュトローム』。そして彼女が一番慣れている訓練機は『打鉄』である。慣れない機体に当たってしまったからこそ、彼女は闇討ち戦法を敢行した。

 『ラファール・リヴァイヴ』に撃たれる『打鉄』を追撃して戦闘不能に追い込む。『テンペスタ』にボコられる『ラファール・リヴァイヴ』を囮に、漁夫の利を狙う『打鉄』を射撃で仕留める。『打鉄』で『テンペスタ』を間合いから外して一方的に攻撃しているところを追撃して『テンペスタ』を沈める。そんなことを繰り返したのだ。なお、その女子生徒の搭乗していないもう一機の『メイルシュトローム』は開始一分で全員から蜂の巣にされた。

 勿論それを見た感想が個々人で違うのは当然のことで。

「あいつ……何か、釈然としないですね、楯無さん」

(もっとこう、正々堂々とやったやつが最後に立ってれば分かるんだけどな……)

 一夏がその戦法に眉を寄せるのは当然のことだった。彼も確かに卑怯な手を使わないわけではない。ただ、熱くなると相手から搦め手を使われるのは好みではないというだけだ。生来の単純さも合わさってそれが嫌悪に見えるのである。

 それに対し、その女子生徒の身内にあたる楯無はこう答えた。

「あら、空音ちゃんは確かに漁夫の利狙いだけど、『メイルシュトローム』に当たったことを考えればむしろ当然の戦法よ」

「そう……なんですか?」

(というか『メイルシュトローム』って……ゲームじゃ確かに使い辛かったけどそこまでか?)

 釈然としない様子でそう返答した一夏は覚えていなかったのだ。彼女こそ一夏の『姉』の一人。元『織斑マドカ』の一人で、今では『更識』に忠誠を誓う『鎬空音』を名乗る生徒だ。当然のことながら、ポテンシャルから違いすぎた。

 さらっと『メイルシュトローム』をディスった楯無はそれに猫のような笑みを浮かべて返答する。

「まあ、空音ちゃんに持たせちゃいけないのは『テンペスタ』だけどね。……まさか『メイルシュトローム』でも勝っちゃうなんて……」

「そんなに強いんですか、あいつ」

「……強いわよ? 織斑先生よりは弱いかもしれないけど」

 その言葉の中に『千冬にも勝てるかもしれない』という色を感じ取った一夏は眉を寄せた。一夏の中では千冬が絶対であり、一番の強者なのだ。そんな彼女があの陰湿な手を使う少女に負けるとは思いたくなかった。なお、千冬はごり押しだけで『世界最強』になったわけではない。

 その不満を感じ取って楯無は困ったように笑みを溢した。

(あれでも一応一夏君のお姉さんってことになってるんだけどなぁ……ままならないわね、ほんと)

「ま、それはそれとして、よ。次の競技はえーっと……」

「障害物&借り物競争って書いてますね。これ、何がどうなってるんですか?」

 一夏の不思議そうな顔を見て楯無はニヤリと笑った。その時点で一夏は嫌な予感しかしていない。勿論のことながら、楯無が羽目を外した結果である。他のものに紛れ込ませたおかげで実施にまでこぎ着けたこの競技は、一夏にとってどう影響を与えるのかを考えるだけで楽しかった。

 そしてチームのリーダーがスタートラインに並び、楯無は開始の声を放つ。

「はいじゃあ、よーいどん!」

 その声と同時に飛び出す一同。その先に置かれている箱の中から紙を一枚選び取り、その衣装名を宣言する。そしてそれに着替えての競争だ。勿論着替えスペースは設けてあり、その中で着替えるのである。楯無が準備したものは外れも含めて全てがコスプレ衣装であった。

 そしてまず一番にたどり着いたのはラウラだ。

「……? 何だこれは? 和風ロリータ(ミニ)?」

 その次が箒。

「執事だ」

 更に続いてダリルとフォルテ。

「スクール水着(S)? どういうことだ……?」

「楯無……っ、ロリータ(クラシック)っス!」

 それを追うようにグリフィンがたどり着き。

「メイドなんだ……」

 必死な顔でスズネが追い付いて。

「ちょっ、冗談じゃないわよ! 浴衣って、浴衣ってえええっ!」

 それに対するようにロランツィーネが優雅に紙を引く。

「……まあ、着るからには全力だけれどもね、生徒会長。ウエディングドレス(ミニ)だ」

 その宣言をしたロランツィーネを押し退け、セシリアとシャルロットが引いた。

「ば、バニーガール、ですの?」

「ま、魔法少女(黒い方)……?」

 そしてそれぞれが着替えスペースに入り、四苦八苦しながら着替える。一応は一人で着られるものだと楯無が判断したもののみがそこにあるのだが、それでも無理だというときのために配置されているのが簪である。彼女が外に出ても大丈夫だと判断しなければここで足止めを食うことになっていた。

 そして、一番に着替え終わったのはロランツィーネだった。何せファスナーを上げるだけだ。

「良いかい?」

「はいこのブーケ持ってね、花を一つでも落としたら拾うまで動けないし、持てなくなったらその場で30秒待機してからのスタートになるから」

「分かったよ」

(誉めてはくれないのか……)

 そして簪からブーケを持たされたロランツィーネは走り出す。ベールも短いので羞恥心を別にすれば走りやすいことは確かだ。

 もっとも、それはダリルにも言えることだ。何せスクール水着である。着るのは一瞬だった。

「で、オレも良いよな?」

「はい浮き輪ね」

(は?)

 空気抵抗の大きい浮き輪を持たされ、絶句するダリル。その横をスズネがすり抜けるように姿を見せた。

「着たわよ!」

 そんな気合い十分のスズネに簪が差し出すのは――

「はい金魚」

「ばっかじゃないの!?」

(動物愛護団体に訴えられなさいよ!)

 ビニール袋に入った金魚だった。しかしつべこべ言おうが聞き入れられないことを察した彼女は再起動したダリルと共に走り去る。

 そして次に滑り込んできたのは箒とシャルロットだ。

「はい、篠ノ之さんには紅茶ポットのせトレー。デュノアさんには魔法の杖ね」

「くっ……外れかっ……!」

「当たりだね、じゃ、お先」

(ちょっと邪魔だけど紅茶ポットよりはましだね!)

 歯噛みしながら両手でトレーを持ち、バランスを崩さないよう慎重に進む箒。それを横目に喜色満面で進もうとするシャルロットに簪はストップをかける。

「あ、デュノアさん、まだ着替え終わってないよ。そのリボンでツインテールしないと進めないからね」

「……あーもうっ!」

(そういうのは先に言ってよ!)

 苛立ちを抑えきれないままにヤケクソでツインテールを作ったシャルロットはようやく走り出した。それを見送って、振り返ればそこには団子状態でラウラ、フォルテ、グリフィンがやってくる。

「はいラウラさん番傘で、フォルテはフリル付の日傘。開いたまま走ってねー。で、グリフィンさんはモップで」

(くっ、空気抵抗が……っ!)

 差し出す簪に複雑な顔を向けながらそれを受け取り、その三者も走り出す。そして一人ぽつんと残されるセシリア。流石にバニーガールはセシリアにはキツかったようだ。

 顔を紅潮させ、震えながら簪を睨み付ける。

「……っ、チェンジを要求しますわ! こんな、こんな破廉恥な衣装……っ!」

 それに対して簪は楯無に合図を送る。衣装を着るのを渋ったときの緊急マニュアルだ。

 それを受けて楯無は一夏に声をかける。

『……ところで一夏君、セシリアちゃんにバニーガールって似合うと思う?』

『えっ、それは……その、に、似合うとは思いますけど……って何言わせるんですか楯無さん!』

 そしてこれがまた効果的なのである。声だけでも分かりやすいほど狼狽する一夏に、セシリアは自身を叱咤した。

(しっかりなさいまし、セシリア・オルコット! こ、こここここでバニーガールになれば一夏さんを喜ばせられるのですわ!)

 そしてその衣装を身に付け、トレーにカクテルグラスを乗せられてレースを再開する。そこには既に羞恥心など見受けられなかったのだった。




得点表
 第一チーム『紅き大和撫子』:77点
  リーダー:篠ノ之箒
   夜竹さゆか
 第二チーム『ブルー・ノーブル』:67点
  リーダー:セシリア・オルコット
   布仏虚
 第三チーム『コスモス・フルール』:81点
  リーダー:シャルロット・デュノア
 第四チーム『シュヴァルツェ・シュヴェルト』:75点
  リーダー:ラウラ・ボーデヴィッヒ
   オニール・コメット、ファニール・コメット
 第五チーム『ロンフー』:98点
  リーダー:布仏スズネ
   鎬空音
 第六チーム『オーランディ』:67点
  リーダー:ロランツィーネ・ローランディフィルネィ
 第七チーム『グレイシアス』:75点
  リーダー:フォルテ・サファイア
 第八チーム『バーニング・フレイム』:112点
  リーダー:ダリル・ケイシー
   布仏ランネ
 第九チーム『グリ姉と愉快な仲間たち』:80点
  リーダー:グリフィン・レッドラム
   布仏本音
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