いきなりですが、更識簪に転生しました。   作:こよみ

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 動揺した。思わず声でた。高評価ありがとうございます(焼き土下座)。
 ちなみに低評価もありがとうございます。ただ、ひとつ言わせてもらうと、簪はただの『簪』ではなく、『更識簪』なのです。常に彼女の評価には『楯無(刀奈)の妹』というレッテルが貼られています。故に普通であれば称賛されるだろうことも貶される対象となります。常に姉の影が簪の評価を下げるわけですね。簪を守ろうと『完璧な姉』を演じた刀奈の副作用とも言えるでしょう。
 たとえ簪が『楯無(刀奈)の妹なら出来て当然』なことを出来たからといって、果たして良い評価する人間がいるでしょうか? 全てのレッテルをひっぺがして物事を評価してくれる人などいるでしょうか?
 そんな人間は滅多にいません。いるわけないんです。そんな奇特な人間がたくさんいるのなら、もっと救われる人間はいるはずですから。
 というわけで周囲からの簪へのアンチは続きます。恐らくどこまでも。救済措置的な意味で理解者は増えるんですけどね。
 まあ、無理そうならブラウザバックを推奨します。

 追記:簪は自分がどう評価されようが受け止めません。自身にふさわしい評価は『評価される価値もない』ことです。

 今回の原作との変更点→アーキタイプ・ブレイカーキャラ登場による組代表の差異。


クラス対抗戦の準備。犬も食わない痴情の縺れ。

 電光掲示板に表示される試合内容。それを見て、簪は遠い目をした。これに参加しなくてよかったと半ば本気で思ったのだ。三組じゃなくてよかったとまで思った。あまりに三組代表が可哀想な組み合わせだったのだ。

 その驚愕の内容とは。

 

*

 

 初日

 第一戦

 一組代表 男性操縦者 織斑一夏

       V.S.

 二組代表 中国代表候補生 凰鈴音

 

 第二戦

 三組代表 オランダ代表候補生 ロランツィーネ・ローランディフィルネィ

       V.S.

 四組代表 台湾代表候補生 凰乱音

 

 昼食休憩

 

 第三戦

 一組代表 織斑一夏

       V.S.

 三組代表 ロランツィーネ・ローランディフィルネィ

 

 第四戦

 二組代表 凰鈴音

       V.S.

 四組代表 凰乱音

 

 二日目

 第一戦

 一組代表 織斑一夏

       V.S.

 四組代表 凰乱音

 

 第二戦

 二組代表 凰鈴音

       V.S.

 三組代表 ロランツィーネ・ローランディフィルネィ

 

 昼食休憩

 

 (第三戦以降は3勝選手がいない場合に行われる)

 第三戦

 各2勝選手同士

 

 *

 

 これである。一日二戦はそもそも辛いだろうし、何よりも初日のロランツィーネは不憫すぎる。連戦というキツい役目は誰かが引き受けなければならない役目ではあるのだが、ここでそれを引き当てる辺りロランツィーネはツイていない。

(まあ、どういう人でも関わってこなければどうでも良いですけどね)

 もっとも、四組代表ではなくなった簪にはほとんど関係のないもののはずだった。ただ情報収集のために見るか、と考える程度のものだったのだ。

 乱音と、本音がいなければ。

「かんちゃ~ん!」

「更識さん!」

「「アタシを鍛えて! /らんらんの情報が欲しいんだよ~」」

 二人して同時に簪に詰め寄ってくる様はまるで姉妹だ。それも性格が真反対の。いつの間にか本音は原作通りの話し方になっていることに、簪は現実逃避しつつ今更ながら気付いた。

 簪はため息をつきながら一人ずつ答える。

「まず本音。わたしは聖徳太子でも姉でもありません。聞き取れると思わないでください。ついでに凰乱音さんの情報も教えません」

「え~……かんちゃんのケチ」

「だから誰がかんちゃん呼びを赦したんです? 少なくともわたしは赦していませんよ」

 本音はまるでアニメのようにぷくり、と頬を膨らませるとその場を立ち去ったかにみえた。無論簪には本音の行動をある程度ならば読めるので、まだ近くで気配を消しているのだとわかっている。多少情報をむしり取っていく気なのだろう。

 そんな中で簪は乱音に返答しようとした。

「それと凰乱音さん」

「乱って呼んでくれて良いわよ」

 返答の邪魔をした乱音に、敢えて釘を指すように簪は返す。

「……凰乱音さん。噂を聞いていないようですから教えておきます。今のわたしに関われば、あなたまで代表候補生の面汚しになりますよ」

 簪の返答に、乱音は物凄い顔をした。まさかそこを自分で言うとは思っていなかった。勿論乱音は簪の噂を知っていたが、代表の座から引きずり下ろしたのは乱音本人なのだ。それを言われると困る。一応、多少の罪悪感はあるのだ。自身の都合で代わって貰ったことに。

 だが、乱音にも諦められない理由がある。

「勝ちたいの。どんな手を使っても、鈴おねえちゃんに……それに、あの男に!」

 鈴音に詰め寄り、もとに戻ってほしいと懇願した。しかしそれが受け入れられることはなかったのだ。当然のことながら鈴音に一夏と関わらないと言う選択肢はなかったのだから。

 しかし乱音の決意を打ち崩すように簪は冷たく返答した。

「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死ねば良いです」

 その返答は、闘志を燃やす乱音に叩き切られた。

「そんなんじゃないもん! ……そんなんじゃ……ないもん……ないんだもん……」

 もっとも、途中で失速したのだが。涙を浮かべ始めた乱音に簪は困惑するしか出来ない。

(えぇ……そこで泣いちゃいます? 普通……)

 困惑する簪は、仕方なく場所を変えることにした。今は一応放課後。そして誰も来ないような場所に心当たりがある。整備室だ。視線で本音についてこないよう牽制すると、簪は乱音の手を引いて移動を始めた。

 簪は乱音を空いている整備室に押し込むと、勝手知ったる様子で自販機から暖かい飲み物を二つ買った。片方を乱音に差し出し、自分はもう片方を手にして開封し。

 そして差し出した。

「事情を話したくないなら別に構いませんけど、話したいのなら聞きますよ」

「更識さん……ぐすっ」

「世間一般的には話した方が楽になるとも言うそうですし。あと冷めちゃうんでその前に飲んでくれるとココアが喜びます」

 恐らく慰め方はそうではないのだろうが、簪にはそう言うことしか出来なかった。それを察してしまった乱音は幸か不幸か。

 涙を拭きながらココアを受け取った乱音は、タブを引いて口にココアを含んだ。瞬く間に広がるほろ苦いチョコレートの味。乱音的にはもう少し甘くても良いのだが、買って貰った以上は文句を言うのも筋違いだろう。

 それにつられて、乱音は話し始めた。

「……楽音叔叔(おじさん)と日本に行く前は、鈴姐姐(おねえちゃん)も普通だったのよ。元気で、活発で、かっこよくて……」

「それで、日本に来て帰ってきたら変わってしまっていた、ということですか」

 簪の言葉に乱音は首肯した。恐らくその原因が織斑一夏だと言うのだろう、と推測できた簪は遠い目になった。いつからであっても織斑は無自覚な女誑しであったらしい。

(むしろ刺されてないのが不思議すぎません? むしろ刺されれば良いです)

 そこからの言葉はもう聞くに耐えないものだった。

「帰ってきたらずっと『一夏ぁ、一夏ぁ』って! ずっと泣いてて、元気もなくて! 理由を聞いても教えてくれないし、急にしおらしくなって鈴姐姐っぽくなくなって! 何をしてても『一夏』って奴をちらつかせないと気が済まないみたいで……!」

「典型的な恋煩いですね、理解はしませんが納得はできます」

 簪は呆れたように乱音の言葉を聞いた。確かに分からなくはない。たった一人に変えられた大切な人を、元に戻したいと願うのは。かつて簪でなかった彼女も渇望したことだ。そのたった一人を殺してでも元に戻したいと願ったのに、そいつがいなくなっても彼女は元には戻らなかったのだから。

 簪でなかった彼女が経験したことがあるから分かる。人は変わってしまうもので、決して元には戻らないのだ。たとえそのたった一人に手酷く裏切られようとも、そいつを愛した事実は変えられない。

 その経験故に言える。

「でも、凰乱音さん。これだけは言えます。あなたがいくら努力し、鈴音さんに元に戻って欲しいと願って何か行動に移したのだとしても、それは全くのお門違いだということです」

「……え?」

「あなたの望む鈴音さんは、あなたの中にしかいません。変わってしまった鈴音さんを元に戻すことは不可能です。たとえ何があって鈴音さんが『一夏』さんに手酷く裏切られようと、それまでに『一夏』さんに向けられていた感情が消滅してしまうことなんて有り得ませんから」

 乱音は息を呑んだ。簪の言葉は、それほどまでに乱音の心に刺さって痛かった。もう元の鈴音には戻らないのだと、信じたくなかったのだ。それと、自分の身勝手さをも思い知った。

 そんな乱音に、簪は追い討ちをかける。

「鈴音さんだって人間です。初期化すれば全てが元に戻るコンピューターじゃないんですよ。だから元に戻ってほしい、と望むのはお門違いなんだとわたしは思うんですよ」

「……それは……でも……」

 完全に乱音は沈黙した。確かに簪の言葉には一理あって、自分の願いはお門違いなものなのだと思い込んでしまったのだ。確かに人間は関わった他人の影響を受ける。しかし、それ以上に成長できるはずなのだ。その成長が、良い方向であればあるほど良い。もっとも、簪は悪い方にしか成長しなかったのだが。

 簪は頭をかきながら乱音に謝罪した。

「……済みませんね。わたし、他人を慰めるのって苦手なんですよ。言えるのはわたしの知っていることだけで、だから多分相談相手としては最悪に近いんですよね……」

「……そう、なんでしょうね……」

「この空間、門限ギリギリまで借りきってあります。よければ落ち着くまでここにいてくれて大丈夫ですよ」

 そう言って簪は立ち上がった。これ以上ここにいても逆効果だろうと思ってのことだ。しかし、乱音はその簪の腕をつかんだ。

 そして乱音は簪に告げた。

「も、もうちょっと……いなさいよ」

「へ?」

「だから! ……いるだけで良いのよ。アタシがちゃんと、気持ちを整理できるまで、いて」

 簪は目をぱちくりと瞬かせて元の位置に戻り、座った。ただいるだけで良いというのなら、別にいても構わないからだ。脳内で乱音との戦闘になったときの対抗策をシミュレートしながら左手を乱音に貸したままにする。

 当の乱音は、ゆっくりとぎこちない呼吸を繰り返しながら呟いていく。

「……人類改變了一切(人は変わってしまうもの)……我的姐姐是一樣的(おねえちゃんもそれは一緒)……」

 勿論簪には中国語が分からないので何を言っているのかは『打鉄灰式』を通じてでないと分からない。しれっと『打鉄灰式』を起動させていることに乱音が気付いていないので簪はそのままにしていた。

 そのあとも何かしら呟いていた乱音は、何かを決意したように顔をあげた。

「決めた。うだうだ悩んでるのは性に合わないもん。とりあえず頭を冷やしてもらうのに全員ぶっ飛ばす!」

 拳を握りしめて立ち上がった乱音に簪は引いた目を向ける。

「それ、ローランディフィルネィさんもぶっ飛ばしちゃうんじゃ……」

「オランダ代表候補生には悪いけど、とっとと退場して貰うわ!」

 拳を握り、目の中に炎を灯した乱音はそう自分に誓った。そして、思う存分簪と模擬戦をするべく簪と交渉し、その権利をもぎ取ったのだった。




 ロランツィーネは可哀想だが、原作の日程がわからない以上はこんな感じにならざるを得ない。御愁傷様。
 なお簪×乱音にはならない予定。逆もしかり。

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