いきなりですが、更識簪に転生しました。   作:こよみ

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 モテる男は辛いね。


本物とその周囲。割れる一夏の世界。

 簪は姉の提案に従い、専用機持ち達と修学旅行の下見に来ていた。ツーマンセルで動くことになるのだが、組み合わせが中々に愉快だったのだ。

(うまく当てたなぁ、お姉ちゃん。でも……これじゃあ止められないよ?)

 ほくそ笑む簪のペアはラウラだ。性格的には面倒だが、とある事情さえ明かせば味方になるしかない。そしてセシリアはスズネ、ランネは本音、ダリルはフォルテ、シャルロットは箒とペアだ。一夏と万十夏は自由行動である。なお、その他のヴィシュヌを筆頭とする面々はは引きこもったクーリェと学園の守護のために残されている。

 この状況で簪がすることは簡単だ。

「ラウラ。行きたいところ……あるの。付き合って」

「構わないが、その代わりあとで新撰組とやらのグッズを選ぶのを手伝ってくれ。クラリッサに頼まれたのでな」

 そう言ってふんすと鼻息を荒くするラウラはまるで小動物だ。髪の色もあいまって、簪とは姉妹のようにも見える。もっとも、武骨な眼帯がそれらをすべて台無しにしているのだが。

 そんなラウラを見て、簪はかすかに笑みを浮かべながら返答した。

「構わない……おすすめも教えてあげる」

(まあ、その頃には……そんな気になんて、なれないだろうけどね)

 内心の笑みがラウラに見えなかったのは、幸いなことだったのか。訪れた先で告げられた残酷な真実に、ラウラは堕ちるしかなかった。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 その頃、セシリアは何度試しても繋がらない電話に苛立っていた。修学旅行の下見に行く前からずっと自らのメイド、チェルシー・ブランケットと連絡が取れないのである。爪を噛みそうになり、自らの淑女らしからぬ行動に苦い顔をする。

(ああもうっ……どうしてですの!?)

 そんなセシリアに、すっかり元に戻った布仏スズネ――否、『布仏鈴』が声をかける。

「ちょっとセシリア、そんなイライラしなくて良いじゃん。折角の旅行よ?」

「鈴さん……それは、そうなのですが」

(やはりチェルシーと連絡がとれないというのは不安ですわ……)

 なんとも歯切れのよくない返事に、鈴は首をかしげる。ただセシリアはその理由を鈴に説明することができない。何故なら国レベルでの問題が起きているからだ。

 かつては万十夏の専用機だったBT二号機『サイレント・ゼフィルス』の後継機『ダイヴ・トゥ・ブルー』の強奪。代表候補生サラ・ウェルキンの逃亡。これらを誰かに知られては、イギリスにとって大ダメージとなる。それについてチェルシーとも話し合いたかったのだが、肝心のチェルシーとも連絡が取れなかったのだ。

 その事に歯噛みしつつの修学旅行の下見など、とても楽しめるものではなかったのだ。本国から早く『偏向制御射撃』を実現しろとせっつかれてもいる。プライドを捨てて万十夏に『偏向制御射撃』が出来るかどうかを問えばまだコツを教えてもらえる可能性はあった。しかし、セシリアの前で万十夏は『偏向制御射撃』を見せていないのだ。可能性があるというだけでは、セシリアは頭を下げられなかった。

 それに対し、自身のごたごたをほとんど片付けた――具体的に言えば『亡国機業』に息子を拐わせて安全確保をした鈴は気楽だった。最早『更識』の庇護下にある必要もなく、また自身のことを考えず離婚したように見える両親になど最早情はない。晴れて身軽になった鈴は、このまま一夏を連れ去ってIS学園から去るつもりだ。

(さ、仕上げしなくちゃね)

 そんなこととは知らないセシリアと別れ、鈴は打ち合わせのためにシャルロットと合流した。

「首尾は?」

「上々だよ。ねえ、鈴……本当に、良いんだね?」

 そう問うたシャルロットの顔には、鈴への気遣いが現れ出ていた。当然だ。シャルロットや他の専用機持ち達とは違い、鈴だけが一夏と肉体的に結ばれているのだから。

 しかし鈴ははっきりと言い切った。

「当たり前よ。あたしは一夏が好き。アンタも一夏が好き。あの姉妹もね。なら、先に一夏と結ばれたあたしが譲らなくちゃ、皆幸せになんかなれないじゃない」

(あたしだって後ろから刺されるのは嫌だしね。皆の気持ちが叶うんなら……そこは、あたしが譲らなきゃ)

 それは一夏をただ一人の男性として見ないという宣言ではない。一夏に自分達を受け入れてもらうための宣言だ。序列の話し合いも既に済んでいる。あとは、誰の邪魔も入らない場所へと一夏を連れ去るだけなのだから。

 そうやって打ち合わせを終わらせ、二人は別れて配置につく。千冬にばれていないとは思わないが、それでも自身の我を通すために。一夏が好きだという、乙女の恋を叶えるために。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 カメラを持ち、皆の写真を撮って回っていた一夏は、ふと立ち止まった。何故か理由はわからないが、そうしなければならない気がしたのだ。そしてそれは当たっていたのである。

 次の瞬間――乾いた音が、一夏を襲った。

「なっ……なな、え? 今の……」

「おお、危ないサ。モテる男は辛いサね」

(ま、いつか刺されそうだとは思うけどサ)

 それを間一髪で避けさせたのは、千冬に呼ばれてその場に居合わせた独特な和装の女性――二代目『ブリュンヒルデ』アリーシャ・ジョセスターフ。人呼んで『ラッキー・ブリュンヒルデ』が彼を誘拐の憂き目から救い出したのである。もちろんそれは普通の銃弾ではなく、麻酔を中に仕込んであった特殊な弾丸だ。

 そして瞬時加速し、アリーシャは銃弾を放ったダリルに――否、レイン・ミューゼルに迫った。しかしそれは難なく止められてしまう。

「させるわけないっスよ!」

(先輩は……私が守るっス!)

 それを氷の盾で防いだフォルテの影から、ライフルを捨てて『ヘル・ハウンド』を纏ったレインが飛び出してアリーシャに巨大な炎を叩きつける。そしてそのまま反転し、フォルテと共にその場を脱した。

 その後ろ姿に向けてフォルテが呟く。

「レイン……先輩」

「呼び捨てろって言ったろ、フォルテ。そんなに恥ずかしいか?」

「恥ずかしいっス……でも、あなたがそうしろって言うなら、頑張るっス」

 そこに流れる甘い空気。しかし、それを引き裂くようにアリーシャが追いすがる。

「ときめき禁止なのサ!」

「あーはいはい。相手日照りのババアは黙ってろ」

「この、華の二十代に何て言い種なのサ……!」

 実力的には無論アリーシャの方が上。故にレインは彼女の冷静さを欠く方向で動いている。もちろんアリーシャもそれは分かっているのだが、いちいち神経を逆撫でしてくるレインの発言に翻弄されつつあった。いくら二代目『ブリュンヒルデ』とはいえ、人間的に熟成しているとは言えないのである。

 そして、冷静さを欠いたアリーシャに襲いかかる別の人物たち。

「おいおい……流石にこれはないサ……騙したナ、千冬!」

 その人物たちを見て、アリーシャは怒号をあげた。そこには彼女を無力化すべくシャルロットとラウラが駆け付けていたからだ。更に遅れて鈴も参加している。端から見ればIS学園がアリーシャを抹殺しようとしているように見える光景だ。

 それに追い縋るように一夏が『白式・雪羅』を纏って現れる。

「何なんだよ……何なんだよっ、この状況は!」

(何で皆が俺に武器を向けてるんだ!?)

 しかし一夏は混乱していて使い物にならない。その代わり動けるのは二人――セシリアと箒だけだ。その二人もまた見覚えのありすぎるISを纏った鈴によって止められる。既に彼女が持っているISは『打鉄カスタム』などではなくなっていた。

 それに対してセシリアが言及する。

「鈴さん、そのISは……っ!」

「何だって良いでしょ? セシリア……アンタは今から散々憐れんできたあたしに倒されるんだから」

(残念だったわね。それなりに確固足る地位のあるアンタを引き入れるわけにはいかないのよ)

 瞬時加速。後に衝撃。それだけでセシリアと箒は吹き飛ばされた。面白いように飛んでいく彼女らを見て、鈴は笑う。やはり自分にはこれが合うのだ。

 呆然とした一夏の言葉が、そんな鈴に突き刺さった。

「何……してるんだよ、鈴……何で……」

(何で鈴がセシリアと箒を攻撃してるんだ……)

「何でって……駄目よ、一夏。もっとちゃんと、自分のことくらいは自覚しなくちゃ」

 クスクスと笑う鈴に、一夏の気持ちは届かない。裏切られたと思っている一夏の言葉は。鈴には届くことなどあり得ないのだ。彼が唐変木なのは分かっている。だからこそ、思い知らせるために動くのだから。

 そのために鈴は一人、犠牲にした。

「行くわよ、『暴龍』」

(ついてきなさい、最後まで!)

 自分の都合で中国代表候補生に仕立てあげ、鈴を裏切った少女。ティナ・ハミルトンは最早この世には存在しない。先日の作戦行動で殺されISを奪われた彼女は、今や救国の英雄ではなく卑劣な魔女だ。

 そして、鈴は逆らう者全てを地に沈めた。そこには一夏も含まれる。彼女らの目的を果たすためには、むしろ一夏に意識を保っていられては困るのだ。強烈な衝撃砲で脳震盪を起こした一夏は、そのまま倒れ伏した。

 彼を小脇に抱え、鈴は飛翔する。それを守るようにシャルロットとラウラが飛び立ち、更にダリルとフォルテが殿をつとめてその場から飛び去ったのだ。

 知らせを受けてランネと本音が駆けつけたときにはすべてが遅かった。IS学園側の成果は、万十夏がオータムを捕らえたこととアリーシャと合流できたことのみとなった。

 もちろん弟を奪われた千冬は即座に一夏奪還作戦を立てようとしたが、出来なかった。残された戦力では、抜けた戦力を押さえるのには少々足りない。

 故に、戦力が整うまで歯が砕けそうなほど食い縛りながら、千冬は待つことしか出来なかったのだ。その戦力が整ったのは数時間後――真耶が申請していた元自身の専用機『幕は上げられた(ショウ・マスト・ゴー・オン)』が届けられてからとなったのであった。




『暴龍』:名前が変わっただけの『甲龍』。特になにか追加されたわけでもない。
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