いきなりですが、更識簪に転生しました。   作:こよみ

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 セシリアの両親ってすごく自分達の世界が中心だと思ってるという設定。


運命の赤毛。翻弄されるサラ。

 それは十三年前のことだ。まだチェルシー・ブランケットがオルコット家に仕える前の話である。その頃の彼女はただ『チェル』と呼ばれていて、体の弱い妹は『エクス』と呼ばれていた。姓は覚えていない。何故ならば彼女はストリートチルドレンだったからだ。そんな下らないことを覚えているくらいならば、他のことを覚えるのに脳の容量を使うだろう。

 そして、当時五歳だったチェルは必死に日銭を稼ぐ生活を送っていた。両親は薬物中毒のアルコール中毒で、エクスの病院代を出せるような暮らしをしていなかったのだ。チェルはエクスのために何でもやった。家があってもストリートチルドレンとなるのはそういう理由からだ。

 ある日、チェルは薄い空色のカメオを拾った。売ればいい金にはなる、と判断してほくほく顔で通りがかった少女に売り付けようとした。その少女の身なりが良さそうなものに見えたからだ。もっとも、彼女は労働階級の娘でその日はたまたまいい服を着せられていただけなのだが。

 もちろん表情は媚びるような笑顔で、チェルは問うた。

「お姉さん、カメオはいりませんか?」

「……いくら?」

 黒髪の少女は瞠目したが、すぐにそう問い返した。チェルは多少吹っ掛けて値段を告げたが、少女はそれをあっさりと承諾する。しかもチップまで弾んでくれたのだ。それを見てチェルはまだいけたかな、などと考えながら帰路についた。そのカメオの本来の価値など、チェルには知るよしもなかったのだ。

 彼女に運が回ってきたのはそれからだ。それから数日もしないうちに、彼女の目の前に一人の男性が現れた。身なりもよく、物腰も柔らかいその男は、チェルの境遇を知るや否や彼女とエクスを自身の経営する孤児院に引き取ってくれたのである。

 その男性は、チェルには名乗らなかった。しかしそこでいつもよりはマシな衣食住を手にいれた彼女本来の魅力を彼は見落とすことはなかったのだ。よく機転が利き、器用。そして何よりも将来性を感じさせるほどの整った顔立ち。

 それに目をつけた彼は、チェルに提案した。

「娘の話し相手になってくれるかい、チェル。その代わり、エクスにはもっと良い病院に移れるよう取り計らおう」

 チェルは一も二もなく飛び付いた。両親のことなど嫌っているチェルにとって、エクスはたった一人の家族なのだ。彼女が守ってやらなければ生きられないほどの虚弱なエクスを、彼の庇護下に置いてもらうことほど嬉しいことはなかったのである。

 そしてチェルは『チェルシー・ブランケット』となった。ただのチェルでは彼の娘の話し相手には出来なかったからだ。腐っても貴族の末裔である。その娘に対してただの孤児を宛がうわけにはいかなかった。チェルが実は不遇な境遇にあった元騎士の末裔である、ぐらいは吹っ掛けなければ、対外的にも美談にはならない。

 チェルシーがそうして彼の娘――セシリアの話し相手兼メイドになったとき、たくさんの令嬢がセシリアと縁付こうと詰めかけてきていた。チェルシーはそれらを独自の嗅覚でかぎ分け、オルコット家にとって有益となる令嬢のみを残した。その時は気に入られようと必死だったので、その中にあのカメオを売り付けた少女が混ざっていたことなど気付く由もなかったのである。

 そうしてチェルシーは自らの価値を示し続け、地位を確立した。エクス――『エクシア・ブランケット』となった妹のために、自身の全てを犠牲にしながら。オルコット家のために全てを捧げ、その見返りにエクシアを救ってもらっていると思うからこそ――彼女は忠実なメイドでいられたのだ。

 

 故に、真実を知った彼女には最早オルコット家への忠誠など一欠片も残されてはいなかった。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 産まれたとき、彼女はエクスと名付けられた。しかし、本名は『エクシア・ブランケット』なのだと偉い人から教えられた。ずっと守っていてくれた姉は自分のために働いているのだから、たとえ心臓が悪くともエクシアも働かなくてはならない、と教えられてきた。

 そもそもエクシアはチェルシーの足手まといでしかなかった。少なくとも彼女自身がそう認識している。ずっと守っていてくれた。自分のことなど全て後回しにしてまで。それが嬉しくもあり、心苦しくもあったのだ。

 だからこそ、姉とは違ってオルコット家にとっても足手まといでしかなかったエクシアは、その提案に一も二もなく飛び付いた。オルコット家を守るための最後の剣となることを。たとえそれで真っ当な人間でなくなるのだとしても、彼女はチェルシーのために生きたかったのだ。

 生体融合措置を受け、IS『エクスカリバー』に搭乗する。それが、エクシアに課せられた使命だった。そのことを知らされず、ただ姉のためにと言い聞かされて何度か研究所に通わされた。その時に彼女は一人の少女と出会う。

 姉チェルシーと同じくらいの年齢の少女は、エクシアに向けて告げた。

「貴女がエクシア? ……負けないわよ」

「? 負けないってどういうこと?」

 少女の言葉の意味が分からなかったエクシアは首をかしげる。それを見て舌打ちをした少女はその特徴的なヘーゼルの瞳でエクシアを睨み付けて離れていった。エクシアはその少女が何に対して負けないと言っていたのか、最後まで知ることはできなかった。

 その直後に行われたIS適正検査で見事Sを叩き出したエクシアは、そのまま姉に会うことも出来ず監禁されることとなる。イギリス政府――主に貴族院を牛耳っていたオルコット家当主の意向でISコアとの生体融合措置を施されたエクシアを、他から分かる形で動かすわけにはいかなかったのだ。少なくともコア・ネットワークを切ってからでなければ動かせない。コアの動きからスパイに探られ、他国に生体融合型ISを見せる可能性がある以上はそうするしかなかった。故にエクシアは監禁されたのだ。

 そして、コア・ネットワークを切った上で彼女が『エクスカリバー』と共に宇宙へと撃ち出される時が来た。それが三年前のことだ。列車に乗せられ、目的地まで輸送されている最中で襲撃され、エクシアは亡国機業の手によって再調整された。そして宇宙空間へと放り出されたのである。

 彼女の話し相手になってくれたのは、似たような境遇にあるただ一人の女性だけだった。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 イギリスのあるところに、ウェルキンという会社員がいた。その会社員は、オルコット家の経営する会社に勤めていた。そしてその会社員にはサラという名の一人の娘がいた。

 ごく普通の会社員だったウェルキンの運命を変えたのは、娘のサラだった。オルコット家で開かれた慰労会兼セシリアのお披露目会で、娘が持ってきたカメオがその運命をがらりと変えたのである。

 そのカメオがオルコット家の当主の目に触れると、彼の顔色が一変したのだ。

「ミスター、これはどこで入手されたんですの……!?」

「そ、そのう、娘が……」

 そしてサラは当主に激しく詰問された。その勢いはまだ少女というよりも幼女のサラにとっては恐怖でしかなかった。大人でも気の弱い人ならば泣き出すレベルの勢いだったのだ。泣きじゃくりながら、そのカメオを手に入れた場所と経緯を説明する。すると、彼女は近くにいた執事に何事かを申し付けた。

 そしてその数日後、ウェルキンの役職が一気に引き上げられた。その理由は、当主の大切なカメオを取り戻したからだと伝えられた。昇進はウェルキンも嬉しかったのだが、それを周知されたのが不味かった。

 そんなことで、という嫉妬は全てウェルキンに向けられた。その頃から流行り始めた女尊男卑の思想も相まってすぐに不祥事をでっち上げられ、辞職に追い込まれたのである。その事に対してサラは父の無実を訴えるべくオルコット邸を訪れたが、見覚えのある赤い髪の少女に追い返されて当主に会うことすらできなかった。

 そこからは、岩が坂を転がり落ちるようだった。父は心が折れて首を括り、父を支えていた母もまた後を追うように床に臥せったのだ。サラにできたのは、岩にかじりついてでも生き延びることだけだ。生きるためならば何でもやった。

 その一貫で、自身にIS適正があることを知ったサラは代表候補生になるべく研鑽を積んだ。その過程で専用機持ちになれるかもしれないチャンスが巡ってきた。それが大型IS『エクスカリバー』の専属搭乗者の選抜だった。その最終選考まで残ったサラは、またあの赤毛を見てしまう。そう、自らの運命を狂わせたあの赤毛だ。

 それを見てサラは近くにいた職員に問う。

「彼女は……?」

「ああ、エクシア? 心臓病を患っているらしいけど、適正は高いよ」

 その言葉にサラは奮起した。今度こそ、あの忌々しい赤毛を乗り越えるのだと心に誓って研鑽を積むサラ。

 

 しかし、その研鑽が理由でサラは『エクスカリバー』の専属搭乗者にはなれなかったのだ。

 

 その当時から使いづらいと言われ続けていた『メイルシュトローム』にしつこく乗り続けたサラは他の追随を許さないほどの腕前となった。そんな希少な人材として代表候補生に選抜されたのである。純イギリス製IS『メイルシュトローム』の技術伝承者として。

 その結果に怒り心頭になったサラは、エクシアにやり場のない怒りをぶつけたくなって彼女を探した。しかし見つからない。当然だ、そのときには既にエクシアは宇宙に打ち上げられたあとなのだから。サラは意地になって戸籍まで浚ったが、どこにも『エクシア』なる少女が存在した痕跡は残されていなかったのだ。その徹底ぶりは、かなりの金銭をばらまいて成されたものだと感じられた。

 そのことがずっと心残りで、だからこそ見覚えのある赤毛が目の前に現れたとき思ったのだ。

 

 今度こそ、この赤毛(運命)を乗り越える、と。

 

 もっとも、サラがついていないのは確かなので赤毛――チェルシーとエクシアの事情に巻き込まれてしまうのだが。それでも、今回は自分で選んだ行動なので納得するしかないのであった。

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