いきなりですが、更識簪に転生しました。   作:こよみ

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 ヒロインズは歯抜け状態になったので一番強化されたら不味い人を強化しました。


貴方のために。必ず助け出す。

 連れ去られた一夏を追わなければならない千冬達だったが、またしても体勢を整えなければならなくなっていた。その理由は簡単だ。皆の連携が機能していない現状で追っても一夏を取り戻せないから。故に千冬達は一日だけ連携を強化するためにアリーナに籠ることにしたのだ。

 やることは至極簡単だ。模擬戦を通じて味方の動きの特徴を叩き込むのである。そうすれば何となく次はこう動くだろうという予測がたてられるので動きやすくなるのだ。少なくとも千冬はそう判断していた。

 そして千冬もまた準備を整えなければならなかった。一夏を取り戻すためにIS『暮桜』の封印を解いたのである。メンテナンスと最適化の補助を簪に頼み、感覚を研ぎ澄ませていく。

 

 それが間違いだったと、気付くことなく。

 

 長年の封印で動きのぎこちない『暮桜』と勘が錆び付いた千冬とは、微妙なところで噛み合ってしまった。それを悪意をもって調整した簪はそのシンクロの位置をわざと低く設定する。()()()()()()()()()()()()にとって、千冬など邪魔でしかないのだから。

 千冬の調整を終えた簪は、自身の調整に移る。いつもよりも少しだけ念入りに。振動ブレード《胡蝶之夢》にも、荷電粒子砲《雷霆万鈞(らいていばんきん)》にも、マルチロックオン・システム搭載のミサイルポッド《砲煙弾雨》にも。倉持から拝借してきたシールドパッケージ《確乎不動(かっこふどう)》の調整まで終えれば完璧だ。

 それが終われば、次は楯無の『ミステリアス・レイディ』の調整へうつる。『ミステリアス・レイディ』の調整も完璧に行った簪は、一息入れてから次はセシリアの『ブルー・ティアーズ』に移った。ある意味ではほとんど戦力にならないその機体も、簪は改善したように見せかけながら改悪を施す。連射速度をあげた代わりに一定回数撃つとオーバーヒートして壊れるよう細工したのだ。

 次は本音の、と思った簪だったが、元々整備科志望の彼女の機体には触らせてもらえず、ランネのものもまた調整を必要としていないことから断られた。ならば万十夏のものはというと、残念ながらそちらも調整するだけの武装がない。

 簪は周囲をぐるりと見回し、少々リスキーではあるが箒の武装に手を出すことにした。束にバレれば面倒なことになるかもしれないが、それでも一夏を取り戻されては困るのだ。一夏にはこれからルクーゼンブルクでハーレムキングになってもらわなければ困るのだから。

 箒の『紅椿』は中々に愉快なことになっていた。レーザー射出型刀剣《雨月》とエネルギー放出型刀剣《空裂》はまだ良い。しかし、その他の武装がいろんな意味で惨劇だった。出力可変型ブラスターライフル《穿千》や謎の『コード・レッド』に管制AI『赤月』、更には対多数制圧用ビット《朱蜂》といった、実に多彩な武装が増えていたのだ。

 勿論整備についてはそこまで詳しいわけではない箒は簪が近づいてくるのを見て救世主を見たような顔になる。

「済まない、簪、その……手伝ってくれるか?」

「勿論。任せて……」

 本人のお墨付きを得て武装をチェックし、エネルギー射出系の装備はその出力を一定に固定する。そして《朱蜂》に関してはそれぞれ細かい整備をすると見せかけて微妙に違う箇所を破損させる。

 そして全員分の整備が終わると、学園に残していた専用機持ち達との模擬戦だ。

「やれやれ、私達は蚊帳の外ですか? 織斑先生」

「ローランディフィルネィ、お前は分かっているだろう? 本来であれば篠ノ之もオルコットも連れては行けないんだがな……」

 そうロランツィーネに返答する千冬の顔には苦い色が浮かんでいる。

「……そうですか」

(ごねると分かっているから止めないわけか……)

 それに対して何ら追及することなく、ロランツィーネはその無言の拒否を受け入れた。もっとも、頼まれてもロランツィーネには行く気などないのだが。行ったところで何の意味もないのなら、ロランツィーネは大人しくしておくだけだ。

 そもそもロランツィーネはオランダ政府から『あまり無理をするな』と言われている。国民に絶大な人気のある彼女に、もし傷でもつけばデモは必至だろう。一度は『『更識簪』を懐柔もしくは暗殺せよ』という命令が下されていたものの、それも撤回されている。嘘をついていた彼女を無理に追う必要もなければ、今ここにいる彼女に付いていくだけの理由もなかった。

 『彼女』が嘘をついていたとわかった時点で、ロランツィーネの興味は失せてしまったのだ。興が削がれたというのもあるが、付き合うことにリスクのありすぎる友人関係を続けようとは思えなかった。

 それに対してファニールとオニールが非難の声をあげる。

「えーっ、何でダメなの? お兄ちゃんを助けに行くなら人数がいるんじゃないの?」

「私達も一夏を助けに行きたい……!」

 その少女の無邪気で真摯な懇願を千冬は一刀両断した。

「ダメだ。そもそもお前達のISは特殊すぎる。それに危険が伴う任務には就かせないようカナダから要請されているからな。諦めろコメット」

「ぶー……」

 それを聞いて不貞腐れるオニールをファニールが宥めにかかる。コメット姉妹とて一夏に淡い恋心を抱いているのだ。そんな彼を助けにいきたくないはずがない。

 もっとも、助けにいきたくなくとも声をあげる人物はいるのだが。

「あの、織斑先生……」

(それならば私はどうなんでしょうか)

 おずおずと切り出したヴィシュヌを、千冬は射殺せそうなほど強く睨み付ける。

「貴様には前科があるだろうが。絶対に許可せんぞギャラクシー」

「う……はい」

 逆にヴィシュヌは一夏の命を狙い続けているので連れていけない。戦力としては申し分ないのだが。彼女がまだIS学園にいられるのは学園の生徒を守るよう強要され、それを受け入れているからだ。今は猫の手でも借りたい状態なのだ。でなければとうの昔にタイ政府が揉み消しまくった証拠など即座に掘り返してヴィシュヌを本国送りにしている。

 そしてこの場にいないグリフィンに関しては、学園長と全力で交渉し続けているので動くことすらままならない。事実上の全夏会の優勝者という名目を盾に、楯無が用意した『好きな人と同室になれる権利』を行使するためだ。これまでは話も聞いてもらえず撥ね付けられるだけだったが、その代償を支払うことでようやく幸せを手に入れられそうなのだ。出張ってくるだけの余裕があるはずもなかった。

 そして――

「……ここでルククシェフカに脱走されたのは痛いな」

(あれなら多少無理をさせても問題はなかったのだが)

 呟く千冬の言葉通り、残るクーリェは立て籠っていた部屋から忽然と姿を消していた。抵抗した痕跡も残されていないことから、自分から姿を消したものと見られている。どこに行ったのかすら皆目見当もつかないが、今は彼女を探している場合ではないのだ。放置するしかなかった。

 そして全員の準備が整った頃。残される代表候補生たちとの模擬戦が始まった。千冬達の布陣は前衛が千冬、万十夏、ランネ。中衛が箒と本音で、後衛がセシリアと真耶。そして遊撃が楯無と簪である。

 対する代表候補生たちには教員が加わった。流石に人数差が酷いからだ。その布陣はヴィシュヌと二年四組担任アーデルハイト・ハルフォーフが前衛、ロランツィーネと二年二組担任フェリーシャ・ジョセスターフが中衛、コメット姉妹と三年三組担任鎬音無が後衛である。遊撃には篝火カワルノとエドワーズ・フランシィが当てられる。

 そしてそれらを評価するのにノトナと布仏真実が呼ばれ、模擬戦が始まった。

「まず飛び出したのは箒ちゃんか……」

「中衛ではありませんね、どう見ても。あれならランネ嬢の方が大人ではありませんか」

 速攻で飛び出した(実妹)に対して呆れた声を出すノトナに、真実が応える。因みに真実は布仏家当主の妻でもあり、ランネの保護者でもある。楯無とは違って学園の内情を包み隠さず日本政府へと報告しており、時に楯無の決定を日本よりになるよう誘導していたりもする。

 そんな彼女が目をつけるのは、無駄な動きをしているように見える実の娘だ。

「にしても、本音は……いえ、選ぶのは本音ですね」

 本音は無駄な動きで本来相手すべきでない相手を翻弄しているように見えて、実は意味のある行動を起こしている。巧みに狙いを外していることで、本音の攻撃がフェリーシャ(アリーシャの従妹)カワルノ(篝火ヒカルノの実妹)に集中していることに気付くものはいない。射撃が苦手だと言われている本音は、実は実力を隠しているだけなのだ。

 それを見ながらノトナは問うた。

「……本音ちゃんはあの子を選ぶと思う?」

「貴女もそれは分かっているのでは? むしろ私も選べるのならばあの子を選びますよ。当主の妻ですから、夫に従いますけれど」

 冷たく吐き捨てるその視線の先には、仕えるべき『更識』の姉妹がいる。その視線すら凍てついていて、良い感情を持っていないことを窺わせた。彼女達『布仏』は他人の内面を見抜くことに優れているのだ。当然、『更識』の姉妹が何を考えているのか分かっている。

 微妙に劣勢に陥ったフェリーシャをランネが落とし、深追いすることなく彼女に釣られて飛び出してきたヴィシュヌの攻撃を防ぐ。そこに危なげな様子はない。鈴が裏切ったことで全てを守らなくてはならなくなった彼女は万が一にも死ねないのだ。自身の死は家族の死に繋がるのだから。

 それに続いて楯無がカワルノを落とし、簪がエドワーズを落とした。こうなればほぼ勝負は決まったといっても良い。そもそもこの模擬戦自体が彼女らに自信をつけるための茶番だったのだからこのまま何事もなく終わるのが一番良いのだ。

 そうして模擬戦を終え、最終的な布陣を決めて彼女らは飛び立った。その先に裏切りがあることなど、つゆほども知らずに。

 

 向かう先は最終決戦の地――ルクーゼンブルク。そこで待ち受けているものは、彼女らにとって最悪の答えだった。

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