いきなりですが、更識簪に転生しました。   作:こよみ

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 一組の情報収集→これまでの模擬戦ビデオの閲覧
 二組の情報収集→練習の覗き見という名の偵察
 三組の情報収集→???
 四組の情報収集→収集済みの情報に基づく模擬『模擬戦』


クラス対抗前哨戦。まさかのハニトラ。

 簪は困惑していた。というのも、目の前に淡くカールした銀髪の、鳶色の瞳の女子生徒が跪いていたからだ。見た目は美形、短髪でイケメン。しかし彼女は男ではない。

(どう見てもロランツィーネ・ローランディフィルネィさんじゃないですかやだーっ)

 簪は内心で絶叫しながら後ずさった。どうしてこんなことになっているのか、理解が出来ていない。なぜ自分の前で彼女が跪いているのかがまず分からないのだから、それ以上のことが分かるわけがない。そもそもぼんやりしながら歩いていたら突然ロランツィーネが跪いたのだ。全くもって意味不明である。

 その硬直した現場を解消したのは、通りがかった本音だった。

「かんちゃん、何やってるの~?」

「わたしは何もしていません。目の前の彼女に聞いてください」

「だって~。何してるの~?」

 本音の問いにロランツィーネは大袈裟な動きで立ち上がった。寸劇でもやっていそうなその動きで、そのまま本音の方に向き直る。それを見た簪はこれ幸いと逃走を開始しようとした。

 しかしロランツィーネからは逃げられなかった。

「どこへ行くんだい? まだ私は返事をもらっていないよ?」

 がしりと腕を掴まれた簪は、それを振りほどいてジト目で返答する。

「まだ何も言われてません」

「ならもう一度。私と付き合ってくれるかい?」

 ロランツィーネの言葉に、簪は遠い目をした。

(そう言えばこの人、百合って設定でしたね……)

 そのままため息をついた簪は、聞かなかったことにしたかった。しかし、そうもいかないことなど分かっていたのでゆっくりとロランツィーネの瞳を見た。冗談ではなさそうだ。むしろ冗談でいてほしかったのだが、そうはいかないらしい。

 簪はそのまま返答する。

「どこかに付き合うという意味であっても、恋人になろうという意味であってもお断りします」

「つれないね……でも、私は諦めないよ」

 ふっ、と薔薇の花でもくわえて言いそうな台詞を吐くロランツィーネだったが、次の簪の言葉でそれは変わる。

「ついでに情報を引き出したいというのであってもおすすめしませんし、わたしにあなたに好かれるだけの何かがあるとも思いません」

 淡々と言う簪に、ロランツィーネは顔色を変えた。目を細め、跪いた体勢から立ち上がる。その瞳に浮かんでいるのは紛うことなき怒りだ。どう考えても簪の発言に怒っている。しかし、簪はその理由がわからなくて困惑するしかなかった。

(何でありそうな想定をしたのに怒ってるんです? この人)

 ロランツィーネはその理由を怒気とともに吐き出した。

「君は、私がそんな人間だと思うのかい? 価値のない人間を見初めるような、そんなどうしようもない人間だと?」

「自分に何人恋人がいるか顧みてみては? あと情報収集でないならタイミングが悪すぎますよ」

 毒舌で返答した簪はそのまま踵を返そうとする。しかし、ロランツィーネはそれを許さなかった。簪の腕を再びつかんだのだ。彼女は純粋な気持ちで簪に愛を囁いていた。それなのに不純な動機があると決めつけられるのは気分が悪い。その感情がロランツィーネの手に力を入れさせる。再び事態は硬直した。

 その硬直した状況を、本音が再び打開する。もっとも、今回は悪い方向にだが。

「お~、かんちゃん、私にも情報をくださいな~」

 その言葉を聞いた瞬間、ロランツィーネの顔がひきつった。勿論簪の顔もひきつった。にも、と表現した時点でロランツィーネにも下心があっただろうと本音が見ていたことが確定したからだ。

 簪は額に手を当てて本音に回答した。

「普通そこでそう言います? 本音。ローランディフィルネィさんが怒ってま痛だだだだ」

 言葉の後半が大変なことになったのは、ロランツィーネが簪の腕を更に握りしめてしまっていたからに他ならない。

 それに気付いたロランツィーネは簪から手を離し、意識的に息を吐いて謝罪した。

「……ああ、済まない。少し頭を冷やしてくるとしようか」

「あ、それなら急いだ方が良いと思いますよ。次、三組は一組と合同でIS実習でしょう?」

 簪の言葉に、ロランツィーネは腕につけていた時計をチラリと見た。途端に顔が青ざめる。どうやら、結構な時間らしい。どうでも良いが、簪の目はその時計が『薔薇の領域』という名のブランドものであることを見てとった。因みに本音はいつの間にか消えている。要領の良い少女である。

 駆けていくロランツィーネを見送り、簪は教室に戻って授業の準備をした。

 

 *

 

 そして、放課後。簪は、乱音との模擬戦のために第四アリーナを借りきった。微々たる簪の権限と四組代表との模擬戦であるという理由をつければ、一時間程度であれば借りきることができる。他の面々には悪いが、最後の片付けまで請け負ったのだから許してほしい、と簪は考えている。

 IS『甲龍・紫煙』をまとった乱音は、簪に告げた。

「今日は本気で来てよね」

「えっ、一組代表の模倣と三組代表の模倣を頑張るんじゃないんですか?」

「……最後に普通に模擬戦をやろうって話よ。勿論台湾には情報を渡さない。阿簪(āzān)も日本にはその情報を渡さない。どう?」

 その問いに簪は考えた。

(いざというときに連携できる相手はいた方が良いですよね。クラス対抗戦って確か何かの襲撃があったような気がしますし。いや、イベントが全部襲撃だったような……)

 それ以上考えてはならないような気がして、簪は思考をやめた。とりあえず返答はイエスである。それ以外はあり得ない。

「受けましょう、阿乱(āluàn)

 なお、先日の件から少々仲良くなった簪と乱音は、愛称で呼び合うことにしている。台湾語といえば語弊があるが、台湾独特の愛称に使われる『阿』をお互いの名前の前につけて『阿簪』『阿乱』と。日本語訳すれば『簪ちゃん』『乱ちゃん』である。

 何故日本語で『簪ちゃん』『乱ちゃん』でないのかは、簡単なことだ。簪側の理由としては、憑依転生している影響であまり自身の名前に馴染めなかったことが挙げられる。乱音側の理由としては、発音としては違うが似た音韻の少女の名を聞いたことがあることが挙げられた。無論未だ出会いすらしていない『五反田蘭』嬢だろうと簪は推測している。

 簪としては発音が難しいのだが、それを代償にただの『阿簪』になれるのなら安いものである。望んで彼女が『更識簪』になったわけではないのだから。他の誰かとして生まれてきたのだとしても、彼女は名前で呼ばれることを好まなかっただろう。そもそも元の名前からして嫌いだったのだから。

 準備を終えた二人は、まず乱音が最初に戦うことになるロランツィーネの対策を始めることにした。用意するのはレイピアとエネルギーライフルである。もっとも、簪はそれを色々と偽装していつもの武装で戦うのだが。

 まずは定位置について、自動で鳴る始まりの合図から二人は試合を始めた。まずは遠距離からの牽制をかけつつ接近戦。それがロランツィーネのパターンだ。簪もそれに倣ってエネルギーライフルに偽装した実弾ライフル《焔備・改》から荷電粒子砲を放った。当たり判定的にはエネルギーライフルの方が遅いが、今は難易度を上げておくべき場所で乱音もそれは承知している。

 故に乱音はそれを掻い潜りながら簪に接近した。

「狙い、甘いんじゃないの!?」

「安心してください。突っ込んできてくれるのならその方がありがたいので」

 簪はライフル《焔備・改》を片手持ちに変え、空いた右手にレイピア代わりの双剣《森羅》を召喚。接近してきた乱音の懐に潜り込んでそれを振るう。しかし、乱音はマチェット《角弐》でそれを受け止め、いつものように切り結んだ。流石にこのあたりの癖を真似られるぐらいならば簪でも国家代表になれるだろう。それだけ自分の太刀筋を変えることは難しい。

 ただし、パターンを変えることはそう難しいことではない。

「……っ!」

「ちょっ……阿簪、それは危ないって!」

「へみゃああああ!?」

 成功するかどうかはまた別の話であるが、簪はスラスターを逆向きに噴射することで乱音のバランスを崩しにかかった。しかし、勢い余って一回転してしまう。その勢いのまま、簪は踵落としを敢行した。

 それを乱音は余裕をもって回避する。

「流石に当たんないってば!」

「でしょうねッ!」

 その自分の体で作った死角にライフル《焔備・改》を隠し持ち、蹴りを入れ終える前に乱音に向けて発射する。乱音は驚愕に目を見開いたものの、ギリギリのところで回避した。

 顔をひきつらせながら乱音は元の体勢に戻ろうとする簪に衝撃砲を放つ。

「曲芸か!」

「させてるのは阿乱の方ですからね!?」

 簪は思わず突っ込みを入れつつ視界の端に見えた銀色に向けてライフル《焔備・改》を投げつけてしまった。

「あ……」

 声を上げたときにはもう遅い。簪の手から離れたライフル《焔備・改》は、乱音が慌てて弾き飛ばした。その人物には当たらなかったようだが、危険なことに変わりはない。

 乱音はため息をついて簪をジト目で見た。

「……阿簪……」

「ごめんなさい、つい……」

 簪は思わず目を逸らしてしまった。無論そこで模擬戦は終了である。何故なら、そこに生身の人間がいたからだ。そもそもアリーナの使用規定で生身のままアリーナ内に侵入してはならないことが定められているのだ。もしいれば全行動を止めなければならない。それほどに危険なことだ。

 故に乱音は思わず怒鳴った。

「何でアリーナ内でISを解除してるのよッ!」

 そう言うと同時に、瞬時加速する。その人間の目前で急停止し、その際に発生する風で威圧した。しかし彼女は怯まない。

 彼女は、やれやれとでもいうかのように肩をすくめて呆れたような声を出した。

「そう言う割りにはかなり危険なことをしていないかい、四組代表さん?」

「アンタに危険性を教えてあげただけよ、三組代表さん。知らないようだから教えてあげるけど、ここは今貸し切りなの。部外者は出ていってくれない?」

 乱音は彼女、ロランツィーネに喧嘩を売るように声をかけた。

 

 そして、事態は再び混迷した。




 ロランツィーネ・ローランディフィルネィ→一人称は勝手に『僕』だと思ってたけど調べた結果一応『私』に。とにかく宝塚っぽく。愛に生きる情熱的で直情的な人。どう考えても代表候補生には向いてない気がするけどそこはそれ。そして一夏に惚れるどころか案外千冬に惚れそうという。

 誰だこれ。
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