いきなりですが、更識簪に転生しました。 作:こよみ
あと数話で本編終了です。
その異変に気づいたのは、レティが最初だった。彼女に繋がれた機器で
(何故いきなり、しかも連鎖的に消えるだなんて……一体何があったというのです?)
それに気づいた二人はレティの方を向いた。
「どうしたの?」
「いえ……
セレストは、それを聞いて即座にグレイにコンタクトを取った。いくらコア・ネットワークを切っているとはいえ、コア間の情報が完全に遮断できているわけではないのだ。それをIS化してセレストは初めて知った。
「グレイ」
『うわぁ……酷いよぉこの現状……これ、会いに行くまでもなく皆消えちゃうんじゃないかな……?』
脈絡もなくグレイがそう漏らした声に、最早サラもレティも驚くことはない。既に彼女がどういう存在なのか理解しているからだ。声をかけない限り声を出さないのは、エネルギー節約のためでもある。
そんな貴重なエネルギーを使い、グレイがしたことは単純だ。一瞬だけコア・ネットワークに接続し、その総数を数えるだけ。そしてそこででた結果は中々に悲惨だった。訓練機が四、『ドゥルガー・シン』、『ヘル・アンド・ヘヴン』、『
それに対してレティが反応する。
「それは、一体何があってそういうことになっておりますの?」
『皆がね、願いを叶えたんだ。それも割と笑える願いをね。ほとんどが『織斑一夏に会いたい』だったから、それで彼の場所に飛ばされたみたい』
サラはその返答に顔をしかめる。まさかそんなことのために一生を賭けた願いを使うなど、考えられなかったからだ。人に会いたいだけで願いを叶えてもらうなど愚の骨頂だとすら思っている。
と、そこで気づいた。
「あれ? 皆って……結構いるみたいな言い方だったけど、訓練機じゃ願いを叶えられないんじゃなかった?」
(まあ、私の『メイルシュトローム』は例外みたいだけど)
『それは母がやらかしたみたい。『全てのISの交感度を上げる裏コード』を発動したみたいだから』
困惑するサラにグレイはそう返答する。本来であれば訓練機は複数の人間の願いを溜め込んでしまっていて、それを選別できないはずだったのだ。しかし、その願いを受けとる感度を引き上げることで短時間の搭乗だけでも願いを叶えられるようにした。それこそが『コード・ヴァイオレット』の正体だ。
そうなってしまえば後は早い。『織斑一夏が行方不明だ』という情報を発信し、見つけたくなるよう仕向ければ良いのだ。まあ、その中には『織斑千冬に会いたい』と願ったものも少なからずいたようだが。
この状況で、何もしないなどという選択肢はセレストにはあり得なかった。
「んじゃ、行こうかな」
「だーからあんたは唐突すぎるのよ! 何でどこに行こうとするのか説明しなさい」
サラはそんなセレストにそう問う。サラからしてみれば、ISが減ったという状況を聞いただけで飛び出そうとしているように見えるのだ。勿論それが理由ではあるのだが、それ以外にもセレストには何か理由があるようだった。それをサラは聞きたいのだ。
それに対してセレストはこう答えた。
「んー、ISが減ったってことは学園にも戦力がほとんどないってことじゃないかなーと。これまでの傾向をみるにコアを奪いにどっかの国が乗り込んでいっててもおかしくないし」
「もう一声よ。今のあんたにそんな義理ないでしょう」
「……姉さん達は別に気にならないけど、虚さんとかの無事はちょっと確かめたいかな」
気まずげにそう答えたセレストに、サラは頭を押さえて立ち上がった。彼女にも懸念があったのだ。イギリスにも、IS学園にも未練はない。しなし、そこにいる人間達が何をやらかすかによってはどうにかしたいと思っているのだ。具体的には、誰かが動くことでブランケット姉妹に危害が及ぶような場合である。せっかく幸せに暮らせるようになったのにそれに水を差されるのでは後味が悪すぎる。
それにレティが声をかけた。
「どうかご無事で。わたくしはここから動けませんが……それでも、何かありましたら微力ながらお力になりますわ」
「気持ちだけで十分だよ、レティ」
セレストはそうレティに返答し、サラには聞こえないようプライベート・チャネルで彼女に言葉を残す。
『それと、もしわたしが最後のISになったらいつ終わりにしたいか考えておいてね』
それに息を呑んだが、サラには気付かれずに済んだようだった。そのままセレストとサラは飛び立ち、一気にIS学園へと向かって――
「何あの砂糖に群がるありんこみたいな集団」
ミサイルの群れと特殊部隊の群れ、そしてそれに紛れている無人機の群れを目の当たりにした。どうやら盛大に襲撃されているらしい。
「例えが微妙に可愛くて反応に困るんだけど……とにかく、無生物だけでも消しておくわ。そうすれば下にいる人たちも楽だろうしね」
そうサラがしれっと言う。しかし、セレストはそれに慌てた。要するに無生物を消すということは生きている生物だけが残るということで。要するに生きていない物体は全て消滅するということだ。
セレストの制止の声は、遅かった。
「えっ、ちょ、まっ――」
パチン、と音がして。サラの指が鳴った。彼女のIS『ヴァーミリオン・ナイト』のワンオフ・アビリティ『
そして眼下は地獄絵図と化した。
「……あれ? あっ……待って、今のナシで!」
「もう遅いよ……ねえサラ? 下の状況どうするつもりなの?」
慌てるサラの目に映るのは、武装も服も全てが消滅した状態で唖然と立ち尽くす集団だ。要するに全裸である。彼らは羞恥心を捨てて襲いかかるかと思いきや、その範囲外からカッ飛んできた虚達にぐるぐる巻きにされていた。
ちなみにあまりの状況にも関わらず動き始めた人間もいないではないが、それはセレストが攻撃を仕掛けることで動きを止めた。勿論どう動いても当たらない位置に撃っているので、本来ならば威嚇にすらならないのだが、今回はそれでも問題なかったのである。
ため息を吐き、セレストはそこから急降下した。それに続いてサラも降下する。手助けをするため、というよりは虚の無事を確認するためだ。
その姿を見て、虚は怒鳴った。
「簪様ッ!」
「セレストだよ。前見て虚さん襲ってきてるか、らっ!」
地上に降り立ったセレストは、細心の注意を払って虚と空音を取り囲もうとしていた全裸の集団を風圧で飛ばした。ここで武装を抜くわけにはいかない。そんなことをすれば一気に死体の山を量産できてしまうのだから。
それをサラも理解していて、今度はターゲットを虚達以外の人間の前に設定して『破砕の領域』を展開した。
そしてサラも虚に声をかける。
「大丈夫? 虚先輩」
「ええ……ミス・ウェルキン? そのISは……?」
「色々あったのよ。詳しくは全部終わってからね。他の専用機持ち達は?」
サラは性急にそう問うた。今のこの状況を脱するためには、もう少し戦力が必要だと分かっていたからだ。いくらこちらがISをまとっているとはいえ、どこから沸いてきたんだとばかりに撃ち込まれ続けるミサイルに晒され続けるのは危険だ。
それに対して虚は早口で告げた。
「誰も二度と帰ってきません。恐らくは……本音達も」
それを聞いただけで何となくサラには状況が掴めた。女尊男卑の思想が蔓延っていたIS学園においてあれほどの人心掌握ができるのならば、いなくなれば彼を求めるようになるのは容易に想像ができた。そして、彼に会うために願いが叶えられたのだろうと。
サラは指をならし続けながら毒づいた。
「状況は最悪ね」
そして、セレストに向けて静かに宣言した。
「セレスト、地上は任せたわよ。空は……私が何とかするわ」
「苦手なんだけどなぁ、対人戦闘……でもまあ、誰も死なせないように頑張るしかないか」
苦笑して、それでもセレストは前を向いた。吹き飛ばしていくだけで良いのならば、いくらでもやりようはある。こちらは撃たれても何ら問題はなく、相手同士が誤射し合わないのならば吹き飛ばすだけで良い。そうでなくとも、彼女には選択肢があった。
そのカードを切るために、セレストは虚に問う。
「ここにいる味方って虚さんと空音だけ?」
「いえ、ノトナ先生と母が……呼びましょうか?」
「うん。ここまで全員呼び戻して。そうすれば何とかする」
それを聞いた虚はすぐさま行動に移った。プライベート・チャネルで真実に連絡を取り、生身で戦っていたノトナを引きずってここまで撤退させる。ついでに空音も回収すれば準備はOKだ。
セレストは、今まで出してこなかった『D3』を全機展開した。それは最早12個などという生易しいものではなく、無数に展開されている。それを見て生身の人間達は身構えたがもう遅い。その『D3』が光り輝き――その場からセレストと共に消滅した。
その行き先は日本国外。アメリカの街中である。そこに全裸の集団が現れればどうなるか。もちろん混乱が巻き起こるのだ。その隙にセレストは急速離脱し、IS学園へと戻る。
そこにグレイから声がかけられた。
『何やってんの、セレスト?』
「アメリカならそういうのにも寛容かなーって。まあ、邪魔だったから追い出したっていうのが近いよね」
それに呆れるグレイ。最初から、戦いになどなりはしなかったのだ。それを理解していた人間はいなかった。