いきなりですが、更識簪に転生しました。   作:こよみ

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ホンモノとニセモノ。消える記憶。

 本音とランネは急いでいた。倒れた本音を介抱してくれたブランケット姉妹は、彼女らの求める情報そのものを持っていたのである。

(かんちゃん……っ!)

 本音の選んだ主――今はセレストと名乗る女が生きていることを聞かされたから。それ以上を彼女は求めてしまうのだ。セレストが生きているというのなら、会いたいと。

(待ってて、これを終わらせたら、すぐに会いに行くから……!)

 しかしそれでも本音は優先順位を間違えたりはしない。瞬時加速で空を駆ける本音の目的地はIS学園だ。ISが消滅する事件が起きていることを聞かされ、その中に学園にいたはずの人間が含まれていたからだ。故に彼女は母と姉の消息を知るためにひた走った。セレストも探したかったが、それよりもまずは今自分の助けが必要なところへ向かうべきだと判断したのだ。

 そこにランネがプライベート・チャネルで声をかける。

『本音! ヤバいわよ、ミサイルが各国からわんさか撃たれてる……!』

(こんなの、『白騎士事件』よりも酷いわよっ!?)

 ランネが観測した数は、実に三千を下らなかった。これを撃ち尽くしたあとはしばらく軍事的な攻撃が出来ないのではないかと思えるほどの量。それが、ただIS学園を燃やし尽くすためだけに放たれているのだ。

 それが生み出す光景を幻視し、本音は震えた。

『何でッ……! ダメ、止めるよランネ!』

『了解!』

 そうして二人は更に加速し、IS学園上空へとたどり着く。そして背中合わせになってそのミサイルや荷電粒子砲を迎撃しようとして――

 

『ダメ、急上昇して!』

 

 誰かの声が聞こえ、反射的に二人は上方に瞬時加速してしまっていた。

(しまっ――)

 行動を終えてから慌てて眼下に目をやれば、そこにはミサイルなどどこにもない。まるで手品のように、そこからは消え去っていたのだ。その代わり、地上を拡大してみてみれば何故か全裸の集団がいる。

 その一連の事実が意味することがわからなさすぎて、二人は困惑する。

『本音、今のって』

『分かんない……でも、解析した結果は『振動で分解した』ってなってる……っ!』

(誰っ、この、『ヴァーミリオン・ナイト』って!? こんな名前のISなんて聞いたことないよ!?)

 プライベート・チャネルで会話し合う二人は、突如あるはずのないISの反応に身構えた。しかし、そのISはすぐに仕掛けてこないようだ。その理由はすぐに知れた。当の本人からコンタクトがあったからだ。

 その声は、聞き覚えのある響きを含みながらも焦った声で告げる。

『上空のお二人さん、降りてきて。巻き込んじゃうから』

『その声……サリーちゃん先輩!?』

 それは『サリーちゃん先輩』ことサラの声だ。ということは、『ヴァーミリオン・ナイト』はサラのISだということになる。

 その機影を拡大してみれば、サラが頭を抱えていた。

『……その呼び方は止めなさい。ってことは虚の妹ね。早く来なさい、じゃないとセレストに会えないわよ』

(えっ……あっ!)

 その言葉の威力は絶大だ。本音とランネはすぐさま急降下する。しかし、降りきる直前でそこにいたはずの影が消滅した。セレストは転移しただけなのだが、この時点ではそのことを二人が知ることはできない。彼女らの認識では、『ISがセレストを消滅させた』ようにしか見えないのである。

 故に二人の脳内を占めるのは絶望だ。

「……そんな」

「かんちゃん……」

(もう、会えないの……?)

 本音の頬に一筋、涙が流れた。そんなのは嫌だった。もう二度と、本音は主を失いたくないのだ。それは今までとは違い、純粋に織り上げられた願い。

 それ故に――

「どわっ!? はい!? な、何で!?」

 光の粒子が舞い散り、そこに人型を形成する。流れ落ちるようなくすんだ銀色の髪に、血のような赤い瞳。実はお手入れなどほぼしていないことを知っている真っ白い肌。本音が夢にまで見た主がそこにいた。

 本音の身体から『九尾ノ魂』が消えていく。その現象に虚達は慌てたが、本音本人が消えることはなかった。その理由すらわからず、それでも目の前に現れた探し人に向けて本音は飛び付く。

(かんちゃんっ……! もう、絶対に絶対に離さないんだから……っ!)

 強い意思を込めて抱き締めれば、セレストは本音を抱き返してくれた。それが嬉しくてぎゅうぎゅうと締め付けるが、セレストは堪えた様子がない。

 むしろ、珍しくもその顔をだらしなく歪ませて微笑んだ。

「何だろうなぁ、嬉しいのかも。それが一番の願いなんだね、本音」

「かんちゃんっ……かんちゃぁん……」

「今はセレストなんだけど……ま、いっか。今だけはね……」

 いつまでも『かんちゃん』と呼び続ける本音に、セレストは苦笑を浮かべることしか出来ない。今や彼女はセレストなのだ。元から簪ではなかったし、あの『簪』がクローンだとわかっていても、セレストは『簪』を譲る気でいたのだ。もっとも、本人はある意味では願いを叶えたようだが。

 本音とセレストが一通り感動の再会を終わらせると、次はランネの番だ。彼女はセレストに抱き付かず頬を張った。その気になれば避けられたが、セレストは敢えて受ける。それだけ心配をかけたのだろうと、今ならば素直に思えるからだ。

 だから、セレストはランネに言葉をかけた。

「……ごめん」

 その言葉は、ランネの涙腺を緩ませた。

「あやっ、謝るくらいなら……っ、最初から誤解を生むような言い方、しないのっ!」

(ばか……!)

 次は拳だった。しかしそれはセレストの胸を軽く叩くだけで、ダメージにもならないほどのものだ。それでもセレストにはそれが重く感じた。それこそがランネの言葉だと分かったのだ。

 顔を歪めて泣きじゃくるランネは、セレストに言う。

「……なぐり、なさい……」

「は?」

 思わず聞き返すセレストに、ランネは激情のまま叫んだ。

「殴りなさい! アタシを……アンタを信じられなかったアタシをっ!」

(少年漫画か何かじゃないんだからさ……まあ、それでランネの気がすむならやるけど)

 それに応えて、セレストは手を振り抜いた。思っていたよりも強く頬を張ってしまったのは、セレスト自身の意思も込められてのことだ。信じていてほしかった。説明不足な自分が悪いのだと分かっていても、それでも信じていてほしかったのだ。

 だから、セレストはそれでけじめをつけたことにする。

「……これで最初からにしよう。よろしく、ランネ」

「……っ、よろ、しくぅ……セレ、スト」

 ぎゅ、と握手をして二人は向き合った。一度壊した関係はもう二度と戻らない。だからこそ、新たに築くことを選んだのだ。その友情を真実とノトナは微笑ましく見て――ノトナだけが顔をしかめた。見えてしまったのだ。セレストの背後から湧いてくる無数の黒い影が。

 その正体はISに探知してもらわなくとも分かる。無人機の群れだ。

「……来たね、私」

(じゃあ、私も終わらせなくちゃ、ね)

 そう呟き、ノトナは最後の最後まで残していた手段を手にした。それは自身で精製したコアを搭載した、ノトナにとっての『ファースト・インフィニット・ストラトス』。名を『燐儚(りんぼう)』という。

 プライベート・チャネルで真実に何事かを告げたノトナは一気に上昇し、目の前に立つ束を睨み付けた。目線が絡み合い、火花が散る様が幻視できた。今やノトナは束にとって殺すべき敵でしかなくなっていたのだ。

 いっそ静謐とすら呼べるような表情を浮かべるノトナに、束は言い放つ。

「生意気すぎるよ、お前。だから消すことにした。この願いは――叶えられるはずだから」

「無理だと思うよ。だって、私も願うから。もうISなんて世界にはいらない。だから――」

 ノトナはその覚悟をコアに叩き込んだ。

 

 そう――それは、ノトナと束にとってはある意味致命的な願いだった。

 

 最初の変化は小さかった。束の周りの無人機が理由もなく墜ちていくだけで、本人には何ら影響がなかったからだ。故に束は間を詰めてノトナを殺しにかかる。狙うは胸元、一撃で殺せる心臓を取る。その意気で刀を振りかぶって。

 それが、ノトナの胸の前で止まった。

「!? 何で……これ、はっ!」

 腕が動かなかった。まるで何かを忘れてしまったかのような喪失感と焦燥。ありったけの力を込めても、刀はびくともしなかった。

 ノトナは透明な笑みを浮かべ、束の刀を受け入れるように両手を広げた。

「大丈夫。私も一緒だから。貴女が生まれてこなければ、貴女の周りの無人機達は動けもしなかった」

 二人はゆっくりと地上へと降りていく。光の粒子はそんな二人を取り巻き、無人機をも巻き込みながら確かにその効果を発揮する。無人機からもコアが消え、残されるのはただISスーツをまとった二人だけ。

 

 そうして地上に降り立ったとき、そこには『篠ノ之束』も『ノトナ』も存在しなかった。

 

 まるで漂白されたように物理的に真っ白になった二人は、同時に口にした。

「「貴女、誰? 私も誰?」」

 その光景に、二人を見守っていた一同は息を呑んだ。それがどういう意味を持つのか分からなかったからだ。確かに人間を消す光の粒子に包まれていたはずなのに、消えたのは記憶だけだったということなのだろうか。

 それすらも考えられない皆を差し置いて、いち早く現実に戻ってきた真実が声をかけた。

「貴女はミーノ。そして貴女はイズノ、よ。」

(貴女は自分を否定し、ノトナはISを否定した。なら、それこそが彼女らにふさわしい名前よね)

 自分の生まれを否定し、世界を葬り去ろうとした方を『ミーノ(Me No)』と。そして、ISを否定し、記憶ごとコアの精製技術を葬り去った方に『イズノ(IS No)』と名付けた。勿論意味を聞かれれば誤魔化すしかないが、それが彼女らを示す適切な名前だと真実は思っていた。勿論ネーミングセンスは無さすぎるのでその意味に気づいた人間は呆れていたのだが。

 それはさておき、これでコアの精製技術は葬り去られたこととなる。そして残るISは『黒龍』『ヴァーミリオン・ナイト』『グレイ・アーキタイプ』『黒鍵』『トワイライト・イリュージョン』『デイジー』『ヘル・アンド・ヘヴン』のみだ。これ以上増えることはない。なお真実達がまとっていた訓練機は無人機と共に消滅している。

 そして、最後に――『デイジー』を除く全てのISが一堂に会したのであった。




 ノトナのIS『燐儚』
 後方支援特化、というよりもそれしか出来ないIS。武装は荷電粒子砲とソードビットのみ。あとの容量は全て演算能力に持っていかれている。
 因みに名前の由来はリンボウギクから。紫色の花。何でこの花かって? 花言葉をどうぞ。
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