いきなりですが、更識簪に転生しました。   作:こよみ

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 最終話。

 原作は12巻なのに本作、文字量的には文庫3冊にも満たないという驚愕の事実をお知らせします。


今更ですが、わたしに転成しました。

 あれから数年が経った。世界は急速にISという存在を忘れたがり、憑き物が落ちたかのように女尊男卑の思想も消えていった。今、世界に普及しているのはEOSというパワードスーツだ。しかしそれは鈍重で空を舞うことなどできなかった。

 しかし、誰もそれを惜しいとは思わない。空を舞う金属の塊など、飛行機やヘリコプターで充分だった。ましてや生身に見えるモノが開発されようと、誰も見向きもしないだろう。それはISを思わせるからだ。そんな恐怖を思い出したくもない彼らがそんなものを生み出すわけも、ましてや使うわけもなかった。

 そんな中、各国の軍事力だけが倍増していることに気付いたものはいない。皆同じように発展し、ISなどなくとも機材さえあれば荷電粒子砲が撃てるようになった。エネルギー効率の問題などもかなり前進しているといっても良いだろう。

 とはいえ、セレストには最早それらは関係のない話だ。何故なら、彼女は既に『更識簪』でもなければ対暗部用暗部などというものでもない。単なる個人『セレスト』として生きることを許されたのだ。性格的にも向いておらず、日本政府も行方知れずのままの当主を戴く『更識』など信頼しろという方がおかしい。『布仏』も同時に解体され、セレストは最早誰にも生き方を縛られることはなかった。

 しかし、どこを拠点にするかは選ばねばならなかった。彼女が選んだのは勿論日本である。ISのお陰で日本語がかなり通じるようになっているとはいえ、外国語は彼女にとってハードルの高すぎるものであるからだ。それに恐らく日本政府はセレストに監視をつけたがる。それが分かっていたがゆえにその意思を尊重したのである。

 更に彼女はその監視のために用意された家に自ら入った。どうやって叩き込もうか考えていた公安から見れば反応に困る行動だ。しかし、セレストはセレストなりに考えがあったのである。

 だらしなく机にもたれ掛かりながら家の中に用意された黒豆茶を飲み、一息ついてセレストはぼやいた。

「平和だなー……」

「そうですね、お母様」

 そう返すのは、セレストとは対照的にきちんと正座をしているクロエだった。彼女もまた監視対象であり、セレストに続いてこの監視の檻に入った少女でもある。

 そこに思い切り突っ込みが入った。

「監視されて平和も何もあるかーっ!」

「落ち着いてください万十夏ババア様」

(少なくとも誰も襲撃してこないではないですか)

 唐突に現れた万十夏にクロエが冷たくそう告げる。それに対して万十夏は頭を抱えた。

「……お前、本っ当に良い性格になったな……」

 以前はもっとお堅い性格だったのだが、憐れクロエは突っ込みどころ満載なセレストとその他の人間と関わったことで変わっていた。その中で毒舌になっていったのも致し方ないことであろう。

「まあ良い、セレスト、良い知らせと悪い知らせ、どっちから聞きたい?」

 そう改まって問う万十夏に、セレストは躊躇いなく答えた。

「当然悪い方から」

「知ってた……おほん。まず、刀奈がお前を名指しで娘を養育してほしいと言ってきているぞ」

「嫌だ。そんな無責任な姉を持った覚えはないもん。というかそんな理性が戻ってきたんなら自分で育ててほしいなぁ」

 ぷいっと横を向いて答えたセレストは、ため息をついた。まさか愛しい男との娘を養育してほしいと頼んでくるなど思いもしなかったのだ。確かにあの惨状は見るに耐えないものであったのだが。

 セレストが楯無の位置を特定し、許可をとってからルクーゼンブルク公国の黄昏公宮に突入したとき、そこは既に手遅れだった。生々しい桃色空間。響く嬌声に、隅っこで泣きじゃくる赤ん坊。何とも言えない背徳の光景にセレストは唖然とした。しかし、流石に赤ん坊は放置できなかったので一緒に突入したメンバーと共に保護したのである。

 そこで何人もひっぱたいて正気に戻していく真実はある意味最強だった。そうやって皆を正気に戻した上で、赤ん坊について聞いた真実はまともな答えを返した女性にのみ子育てに携わるよう命じた。勿論彼女にそんな権限はないが、『気付いたら出来てたけど一夏と愛し合うには邪魔だから』等と言い張る女に子供を任せたくはないのは明白だ。

 そうやって享楽に耽る女と子育てをする女とに分かれさせて国家元首に報告する。いきなり増えた人口にルクーゼンブルク大公がひきつった顔をしていたが、どこの国でも受け入れようがない。かつてISに関わった特大の特異点(織斑一夏)の子供など、忌み嫌われるだけだ。故に大公は子供達を受け入れたのである。

 それはさておき、万十夏はやれやれとため息をついてもう一つの用件を告げた。

「あと、やっと許可が取れたらしい。あちらも彼女の扱いには困っていたのだろうな」

「え、じゃあ」

「ああ、レティも自由だ」

 もっとも、監視付きの自由であることには変わりない。しかしそれでも、ただ『死ね』と命じられるよりは幸せになれるだろう。人間、生きていさえすれば大体のことはどうにかなるのだから。心さえ無事であるのなら、いつかまた歩き出せる。

 セレストはそれに対して笑みを見せた。

「良かった」

「一応言うがな、セレスト? 監視付きの自由は別に幸せではないぞ?」

 万十夏は冷静に突っ込むが、セレストはそれでもその答えは認めなかった。当然だ。今セレストが幸せなのだから、その論理は成り立たない。万十夏がいて、クロエがいて、時々布仏の姉妹が来て。ランネもたまには顔を出して、本当にごく稀にロランツィーネが公演に呼んでくれて。これからはレティも一緒に暮らせるのだ。こんな今が幸せでないなど嘘でしかない。

 それに、セレストは今生きていたいのだ。

「そんなことないよ、万十夏。だって、うまく言えないけど……ここにいて良いよって、言われてるみたいじゃない?」

 その言葉にクロエまでもが頭を抱えた。

「お母様、流石にそれはポジティブ思考に過ぎるかと……」

 それに同調するようにスパーン、と襖が開けられた。どうやらこの勢いからしてランネが来たらしい。

「クロエのいう通りよセレスト! アンタそんなこと言ってたら、いつまでたっても監視付きで過ごさなくちゃいけなくなるわよ?」

 いつもの通り元気なランネはそう言うが、監視が厳しいのはむしろ彼女の方なのだ。布仏家の一員として迎え入れられた彼女は、イズノとミーノに激しく懐かれてしまったので二人への影響力を警戒されてしまっているのだから。

 とはいえ彼女は監視を護衛だと聞いているのでそこまで気にはしていないのだが。

「いつまでも部屋のなかでのんべんだらりしてるんじゃないわよ! ほら、ぱーっと遊びにいくわよぱーっと!」

 机をバンバン叩きながら主張するランネに、セレストは溢れそうになった黒豆茶を救出してのんびりと問う。

「どうしたの、ランネ。何か嫌なことでもあった?」

 その言葉にランネは頭を抱えた。

(何をどう解釈したらそうなるっていうのよ!)

「……あのね、そのぶっ飛んだ回答の前に解説が欲しいんだけど」

 必死に苛立ちを押さえてランネは問うた。流石に脈絡がなさすぎて意味が分からない。しかし、今度は万十夏までもくつろぎ始めたので何となく彼女らには分かっているようだ。

 セレストが何かを答える前に、クロエが煽るように言う。

「何を言っているのですか。貴女が羽目を外しに行こうと言うときは、大体ストレスが溜まっているときでしょう?」

「むしろそれ以外の理由でぱーっと、なんて聞いたことがないな」

 頷きながら万十夏もそう付け加えるあたり、この会話が少なくない回数繰り返された証左でもあるだろう。その度にセレストはランネの遊びに付き合い、大体がぐったりして帰ってくるのである。

「むぐ、むぐぐぅ……」

 ぐうの音も出ない様子のランネに、セレストが止めを指した。

「ほら、吐き出した方が楽になるよ? 一気にゲロッと」

「だーっ、もう! 表現が汚すぎるわよ!?」

 バンバンと机が軋むレベルで叩き始めたので、そろそろ危険だと判断したのかストップが入った。

「ほらほら~、ランネ、ダメだよぉ~。机だって~、無料じゃないんだから~」

「アンっタが子育てに参加しないからでしょうが! あの二人、でっかい図体しておきながら今反抗期なのよ!?」

 ついに雷を落としたランネは、そこに現れた本音に吠えかかった。それも仕方がないだろう。記憶が消去され、ほとんど全てが未知の状態から始まったのだ。下手に肉体の方に今まで生きてきた記憶が残っているようで、やらかすことが普通ではないのである。

 それでもランネは決して二人を見捨てない。真実が二人を家族だと言うのなら、ランネにとっても彼女らは家族なのだから。

「だから逃げてるんだよ~」

「手伝ってよ、もう……! 空音に任せたらどうなるか分かってて言ってる!?」

「えへへ~」

「本音ェェ!」

 鬼の形相のランネが本音を追い回し始める。それをセレストは微笑ましく見ていて、止めることもしない。こんな幸せな日常があり得るとは、セレストは思ってもみなかった。もっとも、本人達にとっては文字通り命がけの育児なのだが。

 笑顔の絶えないセレストに、ぽつりと万十夏が問うた。

「……セレスト、お前……今、幸せか?」

「うん、多分。これが幸せなんだなぁ、とは思うよ。何て言うのかな……こういう光景に囲まれたかったのかもしれない。他愛もない会話とか、じゃれ合いとか。こんなの、今までにも本当はあったんだろうけど……心持ちが違うとやっぱり違うのかもね」

「心持ち、か……」

 そう呟いたきり、万十夏は黙りこんだ。その沈黙は穏やかで、確かに悪いものではない。思えば、ここまで生き急いできた気もする。ならばこの穏やかな時間も、幸せと呼べるのかもしれない。

 喧騒を聞きながら、セレストはゆっくりと息を吐いた。

(――そう、だね。もう何も偽る必要はないんだもんね……だから、わたしは、わたしに成れたって思って良いんだよね?)

 そう、心のなかで呟いて。彼女は誰にも聞かれていないがゆえに答えのないその言葉を、静かに受け入れた。




 はい、というわけで終了です。
 途中からの急展開は何じゃいと思われそうですが、ペラい原作から類推できる道筋ってあのくらい派手な感じなのかなーと。とはいえ一夏の理性が吹っ飛ぶようなことはないんでしょうが。せいぜいISが消えて終わりでしょう。
 それはそうと、一番重要で、一番忘れ去られてるかもしれないのですが。

 一話からして誤爆だよ!!!!!!

 適当なところで終わらせる気満々でしたし、むしろ完結させられるとも当時思ってもみなかったはずです。何しろいろんなことが手一杯だったらしい記憶が朧気にありますからね。確か誤爆した辺りで引っ越したんですよ。でわちゃわちゃしつつ日々のストレスを本作で解消し……ええ、思いっきりセレスト(当時は簪、以下セレスト)には胸糞悪い目に遭ってもらっていました。
 とはいえ最終的には(こよみ基準で)ハッピーエンドです。頭はハッピーセットになったやつらはたくさんいますが。疑われるかもしれませんけど、生存者は一応誰も不幸にはなってな……いたわ一番かわいそうなの。ルクーゼンブルクの大公。妹を奪われた上に山ほど公にできない子供を押し付けられたかわいそうな人。まあでも、奴以外は皆幸せになりましたよ。
 なお、一夏のハーレムは百人を優に越えていたりします。人外だしそのくらいよゆーよゆー。繁殖の種馬ですから奴の子供は促成栽培(うまい表現が見つからない)で早く成長します。精神的には未熟なままですが。
 原作最終巻がどうなるかは知りませんし、そもそも出るのかどうかも怪しいですが、こよみなりの結論はこういう形ということで。
 途中からの怒濤の投稿は感想に返信するのが疲れたからです。とはいえ全部一気に投稿するのもどうかと思ったので毎時投稿。あとはガンガンネタバレしながら感想に返信できますからね。……まさか170を越える感想に返信することになろうとは。簡単に返せるものからゆっくり返させてください。

 また別の作品で会えることを願っております。書くかはまた別の話ですけどね。多分ISはもう書かないです。原作ががばがば過ぎて考えることがありすぎるんで。
 今度は誤爆しないようにしとこう。

 こよみ

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