いきなりですが、更識簪に転生しました。   作:こよみ

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 イベントは中止されるもの。これ鉄則。


いよいよ本番。しかし始まらないクラス対抗戦。

 結局、ロランツィーネは乱音に喧嘩を売るだけ売ってその場から立ち去っていった。何がしたかったのか簪にも乱音にも分からなかったが、ロランツィーネの立場に立てば簡単な話である。単純に、気になった簪と唯一あだ名で呼び合う乱音に嫉妬しただけのことなのだ。だから邪魔をした。

 そしてその感情を発散する場として選ばれるのがクラス対抗戦である。お互いにクラス代表なので絶好の機会である。無論、それが行われれば、の話であるが。

(ただ、原作では一回戦で終了のお知らせだったんですよねぇ……)

 簪はため息をついた。正直にいって、ムキになった乱音とロランツィーネの対戦が叶わないことを知っているというのは胃が痛い。この後も尾を引く喧嘩になりかねないからだ。しかも簪自身が何故か賞品扱いされているというのも理解できない。

 そもそも、ロランツィーネに好かれるほど評価されるところがあっただろうか、と簪は数日考えて多少は理解した。当然『更識簪』の容姿はライトノベルのヒロインだけあって美少女である。中身の残念さが全てを台無しにしている気もするが、簪は簪であってそれは変えられないことだ。それを論じても全く意味がない。

 それはともかく。クラス代表でない専用機持ち、というのは普通珍しい存在だ。今現在の一年が特殊なだけで、普通は専用機持ち自体が一学年にいて2、3人といったところである。だが、今年の一年生には専用機持ちでありながらもクラス代表でない生徒が複数人いる。

 まずは一組。イギリス代表候補生にして試作BT1号機『ブルー・ティアーズ』を駆るセシリア・オルコット。そして日本代表候補生にして、専用機『九尾ノ魂』を制作中の布仏本音。後者はともかく、前者については織斑一夏の影響によりクラス代表の座を譲る羽目になっている。本音の専用機は未だ完成していないが、入学と同時に『IS学園製IS計画』を発動させたため、少なくとも基本武装のみは出来ている。

 次に、二組には代表以外の専用機持ちはいないので三組。タイ代表候補生にして専用機『ドゥルガー・シン』を駆るヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー。彼女とロランツィーネは代表の座を争ったが、結局のところクラス内での圧倒的な支持によりロランツィーネに決まったらしい。そもそも目立つ気のなかったヴィシュヌが選ばれても辞退しようと思っていたらしいことは本人しか知らない。

 そして、四組。言わずもがな、日本代表候補生にして、ほぼ完成している『打鉄灰式』を駆る更識簪である。ISを用いない対人戦闘力はゴミレベルだが、対ISであればそこそこの実力者である簪をただの生徒扱いは出来なかった。

 これら四名の戦力を、会場の警備として使わない手はない。教員たちの協議の結果、セシリアをAピット付近に、本音を観客席A入口に、ヴィシュヌをBピット付近に、そして簪を観客席B入口に配置した。

 もっとも。

「何でオルコットさんはAピットの中にいるんですかやだー」

 第一試合の都合上、一夏の緊張をほぐすためなのかセシリアは警備の位置にはいなかったのだが。それはそれとして、簪は警戒を緩めなかった。最終的に織斑千冬がこの警備体制を提言したのだと聞く。あの、織斑千冬が。それには当然理由があるのだろうし、その理由について推測できない簪ではなかった。

(多分篠ノ之博士関連なんでしょうね。原作ではそうでしたし)

 そもそも原作通りに行くという保証はどこにもないが、簪はそう思い込んでいた。そう思い込む方が楽だったからだ。基本的に、簪はより面倒でない道を選んで生きてきた。そうやって前世では屑ニート駄目女に成り下がったわけだが、生まれ変わろうが生き方はそうそう変えられないものらしい。このままいけば前世と同じように全てに絶望して人生を終わらせることを選ぶだろう。

 そうこうしているうちに一夏がピットから出てきた。

『Aピットから出ますは、異例中の異例、まさかの男性操縦者織斑一夏! 政府から貸与されている専用機『白式』を纏って危なげなく登場です!』

 わあっ、と歓声が上がり、一夏はひきつった顔で観衆に応える。心なしか緊張しているようだが、それでも緊張しすぎている、などということはないようだ。適度な緊張を保っている彼に何人かが目をつける。

 そして、次に鈴音がピットから出てきた。

『対するBピットからは中国代表候補生、ミニマムボディでもやることはビッグな凰鈴音! 専用機『甲龍』で男性操縦者を阻みます!』

 鈴音への歓声は一夏よりも少なかったが、鈴音は落ち着いて手を上げることで応えた。目は鋭く、鷹のよう。どうやらいまだに一夏に怒っているらしいことが見てとれる。身のこなしからは相当な訓練量が窺われた。

 そして選手のコールを終え、放送席の人物が操作したことにより発生した電子音とともに試合が始まった。無論原作と同じく、一夏は鈴音の衝撃砲《龍砲》に初見であってもすぐに対応してみせる。軽々と避けるさまはまるでボールでも避けているようだ。実際には空気の塊が高速で放たれているため、見えてからでは遅いのだが。

 それを見て簪はため息をついた。

(そもそも主人公補正があろうが『織斑計画』の賜物だろうが、こういうのにすぐに対応できちゃうあたりがもうライトノベルの主人公ですよねぇ。全く、それに無自覚ハーレムキング補正をつければ『貧乳』扱いされても胸がときめくとか笑えて仕方がないです)

 もはや痴話喧嘩レベルの対戦に、簪は笑いしか出てこなかった。特にオープン・チャネルが酷い。彼女らは黙って戦えないのだろうか、と簪は自分のことを棚にあげて疑うことしかできない。

 

 そして、その時はやって来た。

 

 アリーナの天井を突き破って襲来した謎のIS。パニックに陥る周囲の観客たち。そんな中、簪はひきつった笑いを漏らしながら観客席の扉のロックを確認した。当然のことながら開かない。

 それを確認し、簪はプライベート・チャネルで教員に呼び掛けた。

『先生、観客席の扉のロックが開きません。解除か破壊か、どちらにしましょう?』

『破壊したら弁償してくださいね、更識さん』

『解除をメインに考えます。とにかく観客席の安全を先に確保しますね』

 まさかの返答に簪は絶句しかけたが、弁償はあらゆる意味で面倒なので次善策として観客席の安全を確保することにした。具体的には本音と連絡を取ったのだ。

 すぐにプライベート・チャネルは繋がった。

『かんちゃんッ!』

『落ち着きなさい本音。ISのシールドは既に装備していますか?』

 それは二重の意味を含ませていたが、本音はすぐさまその真意を理解した。要するにそれを盾にしろということだ。皆を守るために。

 無論本音の返答はこうだ。

『してるよ!』

『ならよしとしましょう。出口に詰めかけている生徒たちとアリーナのシールドの間に入ります。そちらも……出来ますね』

 簪が声をかけたときには既に本音は移動していた。スラスターを最小限に吹かし、観客たちに被害がでないよう頭上を飛び越える。その動きで観客の目を引き付け、注目させた。

 そしてオープン・チャネルで皆に呼び掛けたのだ。

「生徒会権限~。皆、私の後ろから出ちゃ駄目だよ~!」

「反対側に同じです。死にたくなくば、わたしの後ろから出ないことを推奨しますよ」

 本音は『九尾ノ魂』のシールドを展開し、自身の絶対防御から外れる位置に留めた。生徒達はあからさまに自分達を守ってくれるシールドが現れたことで多少落ち着きを取り戻していく。

 対する簪には、これまでに明かした武装の中にシールドがない。しかし、やりようはある。未だ簪は特殊武装《D3》を誰にも使っていないのだ。これがシールドだと誤認させれば問題ないのである。今後シールドとして使わなければ良いだけだ。

 ただ、誰から見てもシールドには見えないので簪は補足説明として言葉で観客に告げた。

「この正八面体から前に出ればミンチになりますよ」

「そ、そうは言ったって……! それ、シールドには見えないじゃない!」

 反駁してきた生徒に、簪は冷静に答えた。

「シールドに見えなかろうが何だろうが、貴女達がアレが原因で怪我をすれば責任はわたしにあります。責任を取るのは嫌ですから、出来うる限り最高の防御策としてこの正八面体を展開していますし、実際にこの正八面体を中心とした力場によってシールドを張っています」

「で、でも……!」

「信用できないのならせめて座席の陰へどうぞ。それに、教員部隊もそこまで時間をかけずに出動するでしょ……え?」

 なおも反駁した生徒を落ち着かせようとしていた簪は、頭上のスピーカーから発生したノイズに鳥肌が立つのを感じた。IS特有の広い視界で見渡し、放送席を見つけたところで顔面が硬直する。

 内心で叫ぶほどに鳥肌が立った。放送室にポニーテールの女子が仁王立ちしていたのである。

(じょ、冗談ですよねぇっ!?)

 しかし現実は無情である。

 

『一夏ぁっ!』

 

 その位置は、簪の直上だった。セシリアはAピットから別の箇所へ移動したようで、謎のISの背後にいる。本音はその近くにいるので、最大限の警戒をもってセシリアの行動を見守っている。ヴィシュヌはBピット入口付近の貴賓席を守っている。つまり動けるのは簪だけだということ。

(なんでそこが放送席なんですかやだーっ!)

 

『男なら……男なら、その程度の敵を倒さずして何とするッ!』

 

 特殊武装《D3》を観客の守りに残したまま、簪はその場から直上に瞬時加速した。その場所にあるものこそ放送室だ。人影に迫るビーム。硬直して動けない人影。簪が守りに入ったことでその人物の守りは十分だと思ったのか、そのまま謎のISに切りかかる一夏。それに次いで更に放たれるビーム。

 そして。

 

「爆発オチなんてさいてーですぅぅっ!」

 

 ビームに呑まれ、ギャグのごとく簪の周囲の空気は爆発したのだった。




 打鉄灰式→更識簪専用機。『弐式』でなく『灰式』なのは別物だと示すため。ただし『打鉄』の改良版なのは確かなので『打鉄』は外さなかった。簪はたまに『グレイ』と呼んでいるが、他人にはそうは呼ばせない。
 第二世代機
 実弾ライフル《焔備・改》→普通のライフル《焔備》を改造したように見せたもの。荷電粒子砲を発射しているように見せるため、見た目を弄ってある。
 特殊武装《D3》→半透明な正八面体。全部で12基あり、簪はこれをシールド用、攻撃用、迎撃用と三種に分けて使っている。全てをどれかの機能に寄せて使うことも可能。ただし実際はほぼ照準のためにしか使っておらず、今話で初めて防御用に使った模様。
 双剣《森羅》→完全に対人用の武装。とある機能を発動させると、殺人どころか殺戮が可能になる。無論訓練機は瞬殺である。ただし簪がその機能を使うことは基本的にない。
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