抑止兵器マギア   作:マルペレ

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狐の一生涯は波乱万丈。


☮狐軍奮闘

―――中東では狐の代わりにジャッカルを狩る。FOXHOUNDならぬロイヤルハリヒア…

―――愚かな男だ。死を懇願した時勝敗は決まる

 

―――フォックス!!!

―――スネーク…さらばだ

 

 グレイ・フォックス。

 

 かつての若かりし蛇と闘い、始まりの地「シャドーモセス島」ではアメリカで有名な「ディープ・スロート」という過去の情報提供者を名乗った陰の功労者である。その散り様はこのRAYにも登場していた蛇、「リキッド」の駆るREXを打ち倒すきっかけとなり、スネークに最後を伝えて圧死した。

 シャドーモセス以前、死の淵から生還させられ、闘いを取り上げられて六年を「無意味な生」として生きていた。その後スネークを追い、ようやく闘いを手にした彼の戦闘装束は「強化外骨格」。アームズ・テック社の実験材料とされたことで手に入れた力だったが、彼の基本である「格闘」を十全に発揮し、スネークと満足に渡り合うことができた。

 彼の基本戦闘は近距離での高周波ブレードと格闘術によるショートレンジ。だが時によってはチャージングが可能なレールガンのような機銃で大型兵器に損傷を与えるなど、事実オールマイティな戦闘能力を有している。

 

 ここまで聞くならば戦闘超人ということも出来るが、彼には重大な欠点があった。

 それは彼がジーンセラピー(遺伝子治療)の実験体となったこと。そのせいで薬漬にされ、彼自身の人格が非常に不安定であることだ。頭を打ち付けるなどの自傷行為で元の人格を保とうとする時もあれば、その戦闘力を余すことなく発揮し、見境なく周囲を破壊して回るということもある。

 

「だから俺はいつまでもここに居るわけにはいかないんだ。元より死の囚人、俺に必要なのは闘いだけ。お前の言う千雨とやらを傷つけるだけだ」

 

 申し訳なさそうに、そしてどうしようもないと首を振ると、彼はそう締めくくった。

 更には、今度はいつ「波」が襲ってくるかもわからない、と。

 

 そう言ってたたずむ彼に、RAYは一考する。彼が死んだのは発展したナノマシン技術が普及していない頃。2010年以降ならSOP基盤も出来ているほどにナノマシンの技術も格段に上昇しており、「感情の抑制」による精神制御も可能だったであろうが、今の彼はそれを知る由もない。それどころか、たった4年であろうと過去に来たという点でも驚いているだろう。

 ナノマシン。RAY自身に搭載されているのは、敵兵がナノマシン注射を行っていたことが前提の戦略兵器だったが、其れ単体でもある程度の効果があることは千雨で実証済みだ。言い方が悪かったが、実際にそういった実験のような形になっていることは否めないだろう。実際、千雨にこう言った時は仕方ない、の一言で済まされていたのだが。

 

 話を戻そう。

 とにかくにも、ナノマシンを打ちこむことで、ある程度の戦闘能力の上昇。体内管理のサポート。情報共有による作戦実行の成功率が上がる。それだけは、どの戦闘区域でも実証されてきた事実。そうしてRAYはナノマシンの提案をフォックスに持ちかけていた。

 

「成程。それなら俺は俺になるだろうが、雇う利点はあるのか? 俺自身の死に場所はどうなる?」

「≪あなたには闘いの最前線に出て貰う。これも、良い時期なのかもしれない。学園側との交流を持つために≫」

「……最前線、か。―――どういう意味だ?」

 

 麻帆良の地。そこに存在する「裏事情」について、RAYは順を追って話し始めた。

 魔法というファンタジーが現実となって存在すること。この地には狙われるだけの要素が多々存在し、それを退けるために魔法を扱う者が迎撃に出ていること。

 そして――グレイ・フォックスを通じ、学園側とのラインを作ることがたった今思いついた策だということを。

 すべてを聞いた後に、フォックスは目を閉じた。思い返すのは闘いの日々。闘いを取り上げられた、実験体としての毎日。網膜にRAYの姿が映し出される頃には、彼の心は決まっていた。

 

「いいだろう。この地で永住の契約を呑む…それも悪くない」

 

 やはり、己は闘いにのみ生きる意味を見出すことしかできない。フォックスは、ビッグボスに届くことが無くなったこの世界でも、己は闘いの中に生きようと決意する。そして何よりも……「魔法」という未知の存在に己の力を試してみたい。

 よくいえば、生粋の戦人。悪く言えば戦闘狂の思考であることは、彼も自覚していた。だが、それゆえにその選択肢をとったフォックスにRAYは笑いかける。

 

「≪それでこそ、FOXの称号を持つ男。……では、首を≫」

 

 彼には、それが契約のサイン代わりだと。言葉にせずとも理解は出来ていた。強化外骨格のバイザーを広げ、ほとんど一体化しているようにも見えたメットを外す。露わになった首筋には、RAYのコクピットから伸びている一本の注射器が突き刺さった。

 

「ッ」

 

 ずるずる、とナノマシンが入ってくる感覚がフォックスを襲う。異物が入る感覚は、クラーク博士の実験台にされていたころを彷彿とさせる。そして、その記憶がまた、己の精神を蝕み喰らう。そのままいつものように視界が赤く染まり―――

 

「………成程」

 

 急速に体の熱が引いて行く。どうしようもなかった破壊衝動、殺人衝動、自傷衝動。それら全てが、己の手の内に有るかのごとく頭の中が澄み渡って行った。血がこびり付いた思考回路がナノマシンという掃除機(クリーナー)で洗浄され、荒れ狂う海面が穏やかな水面へと移り変わる過程を、己の脳内で経験する。

 何もかもが己の思うがまま。(フォックス)は実に6年ぶりに、己の体を取り返すことが出来たのだ。

 

「凄まじい物だな。これを、作った奴は」

 

 再びヘルメットを着用し、確認するように握りこぶしを作る。ナノマシンという檻の中で抑圧された解放。籠の中の鳥であることは否めないが、これまでと同じ事だ。フォックスにはそれで十分だった。

 そして、ずっと沈黙していたRAYが思考(データ)の海から帰還すると、彼の質問に答えるため、外部スピーカーを声の波長に揺らした。

 

「≪たった今、あなたの正体が分かった。そして、これも天啓というものなのだろうか≫」

「?」

「≪そのナノマシン技術の第一人者に、“ナオミ・ハンター”という名前が記されている。聞き覚えはあるでしょう?≫」

 

 息をのむ音。その出所は当然、グレイ・フォックスだった。

 

「≪彼女がナノマシン技術へ本格的に取り組みだしたのはあなたが“本当に”死んだ後。そして、全世界の兵士にナノマシンは普及し、戦争経済へと移行した。

 その中で使われていた技術が“感情の制御”。元々が人を殺すことへの嫌悪感、戦場の恐怖を押さえつけるためのものだったのだけれど……私の物は劣化しているとはいえ、このような形で“兄”に再会するとはね≫」

「ナオミが……この、ナノマシンを………」

 

 彼は胸のあたりに手を当てる。体に打ち込まれたナノマシン、体内を巡る分子サイズの群体にほのかな温かみを感じた。それが、ナオミの物であるか、ナノマシンによる身体制御の発熱によるものかは、判断のしようがなかったが。

 

 閃光が坐する格納庫には、鉄の擦れる音が鳴り響く。

 それが無機物の音であったか、人間の叫びであったかは―――知る人ぞ知ることだ。

 

 

 

 

 氷結した氷の世界。白に染まった世界の中、その惨状を作りだした生命体が上機嫌な声を響かせる。氷山の登頂にて山彦が響くと同じく、その氷結世界には彼女の鈴のような声が鳴り響いた。

 その光景を圧巻と見つめるは力を持たぬ一人の少女。「非常識」と確立される力によって引き起こされた眼前の光景に、もし自分があの中に居たら…と最悪のイメージを思い描く。高らかに笑う少女に対して、殺戮人形はふわりと、一歩歩み出た。

 

「御主人、ソレクライニシネートコイツガ放置ニナッテルゼ」

「む、久しぶりの大魔法だったのでどうにも気が昂ぶっていたか。…さて、長谷川千雨、“これ”をどう避けるつもりだ?」

 

 悪魔の頬笑みとはこのことか。

 吊りあがった笑みは千雨の恐怖心をあおり、より一層、先の惨状を引き起こした人物がエヴァンジェリンだということを思い知らされる。これまでの半年。自分がいかほどにエヴァンジェリンという存在そのものを過小評価していたかを千雨は思い知った。

 知らずに下唇を噛みしめ、彼女から噴き出る圧力につぶされそうになるのをこらえる体制になっていた。頭とは違い、体は抵抗するつもりがある。ナノマシンによる恐怖の抑制は、体にだけ適用されていると? …とんだ、お笑い草だ。

 

「避けようが、ねえだろうが…!」

 

 絞り出したのはそれだけ。「絶対」を冠する力の差を前に、彼女の言葉は少なかった。対し、満足そうに頷いたのはエヴァンジェリン。己が絶対強者であるというのに、その千雨を見る目は自分自身が味わったと言わんばかりの懐かしみの眼差し。そこに秘められた思いに気づいたと同時、千雨の震えも止まっていた。

 彼女もまた、理不尽の前に屈服させられたことのある同士なのだと。

 

 恐怖は薄れる。次第に、捕食者を見る目は(しるべ)を見るかのごとく、自分がエヴァンジェリンをそう認識して行くのが分かった。まるで、操られたような錯覚。それもまた、己の意志であるということに気づき、今度こそ、千雨はエヴァンジェリンと対等になる。

 

「気づいたようだな。圧倒的な力の差。其れから逃れるためには、一度はその恐怖を味わい、そのうえで己に出来ることを探すのが良い。

 まあ、人生なぞ経験と積み重ねでしかないのだからな」

「御主人ハ失敗バッカダケドナ、ケケッ」

 

 受け取れ。そう言って足元の殺戮人形を小突くと、エヴァンジェリンは千雨に何かを放り投げる。絶妙なコントロールで手に収まったそれの、予想外の重さに千雨は落としかけるが、しっかりとその手に収まった代物を見た。

 

「これって……」

「どうせ何時か必要になると思ってな。貴様の訓練専用に改造しておいた。弾は周囲の魔力素をかき集める仕組みにしてある。すなわち、リロードは不要だ」

 

 リロードいらずのハンドガン。その正体は、以前にエヴァンジェリンがRAYのところから拝借したオペレーターだった。

 拳銃そのものの重さは変わらないが、弾が入ってない分だけは軽い。ふと気になってマガジンを取り出してみれば、空の弾層には何やら奇怪な模様が描かれていた。いわゆる魔法陣という奴なのだろうと千雨は納得し、再びマガジンを入れ直す。ガチッ、と嵌った音を聞いて顔を上げると、エヴァンジェリンが待っていた。

 

「では、一つ質問だ。確か“それ”は超のところで最終調整を行ったと言ったな?」

「ああ。おかげでどうしてか機能が通常使用できるように……」

「先ほどの大魔法。放つ直前に何か情報表示が出ていなかったか?」

「? ちょっと待ってろ。今は……あ」

「やはり、あったようだな。“魔力の情報”が」

 

 今の千雨のソリッドアイ。其れに表示されている情報をよく見てみると、凍った一面の周囲には「remained_MP_16%」の表記。直訳すれば「残留魔力16%」である。

 これの意味するところは、つまり魔力集約の濃度を測ることが出来るということ。魔法使いが呪文を唱えている間にこの数値は上昇し、ある程度の数値で止まればその数値通りの威力の魔法が来る、ということだろう。

 ちなみに、今の彼女らが知るところではないが、先ほどのエヴァンジェリンが放った大魔法「えいえんのひょうが(ハイオーニエ・クリュスタレ)」の発生時にはエヴァンジェリン周囲の魔力素濃度が89%、効果範囲には64%を示していた。大魔法でもこれほどであったのに、100%は一体どれほどになるのか。

 

「超の奴、やはり知った上か」

「私のとる行動を予測して、こんな機能が拡張されてたってことか?」

「全てを見通す、に近いかもしれん。……まあ、それはいい」

 

 これで分かっただろう? 一息間をおくと、エヴァンジェリンはまっすぐに千雨を見据える。

 

「貴様は魔法の発動前に、その内容を知らずとも“それ”でおおよその効果範囲をしることが出来る。常に起動させて入れば、事情を知らん相手には未来予知の類に見えるだろう。そうなれば、相手には必ず焦りが生じる」

「例え詳細を知られても、魔法じゃないから当てない限りは同じまま……ってことか」

「そうだ。その時の焦りに、お前はつけ込むなり、あの機械人形(RAY)を呼ぶなりしてその場を脱すればいい。幸いにもお前自身の身体能力は叩けば光りそうだからな」

「ふ~ん。……えっ」

 

 叩けば光る。その意味を理解した千雨は、迷わず自分が入ってきた方向に足を向ける。しかし無情かな。エヴァンジェリンの開放された身体能力がそれを阻害した。

 

「は、放せっ! 私はそんな動くなんて嫌だ!!」

「ええいっ、大人しくせんか! せっかくの同類に指導をしてやろうというのだぞ!」

「問答無用かよ!」

「強制連行だ!!」

 

 先ほどまでの空気はどこに行ったのやら。

 魔法で凍らせた地域を解除すると、エヴァンジェリンは千雨をひっつかんでトレーニングのプランを立て始めた。時折彼女の口から洩れる思考に、千雨の顔は真っ青になる。それほどのトレーニングメニューなのかどうかは知る由もないが、それを見つめていた殺戮人形、チャチャゼロは大きく溜息をついた。

 砂浜を見つめ、一人ぽつんと取り残される。

 

「アーア、アイツモ無茶シヤガッテ……」

 

 そんな言葉とは裏腹に彼女の顔はエヴァンジェリンよりも深い笑みを浮かべていたが。

 ケケケケケ……

 

 

 

 

「≪作戦概要を説明する。こちらからのモニタリングで今夜の麻帆良襲撃予想地区へ武力介入を図った後、麻帆良側の魔法使い、及びに協力者への支援を開始。相手となる東洋呪術士はこれまでの経緯・情報より、“召喚術”による物量作戦を好む模様。

 鬼や烏天狗といった東洋の異形が多数出現すると予測されるので、それらの討伐をしながら術者の捕縛を決行すること。戦闘終了後はこちらからの武力支援を行う機会を作る旨を伝えること。麻帆良協力者はナノマシン媒介で顔写真と音声データを送るので本ブリーフィング終了時に確認するように。

 ―――以下、質問は?≫」

「敵方の術者は何故生かす?」

「≪麻帆良側にはまだ年齢の幼い生徒も駆り出されている。その目の前で相手を殺してしまっては、此方側の印象が落ちる可能性がある。そのために術者は気絶か昏睡で捕縛。それ以外の東洋の異形に関しては、死ぬという概念は“還る”になるようなので、加減はいらないわ≫」

 

 他に質問が無ければ、武力介入後のシュミレーションをして置く様に。

 闘いばかりのグレイ・フォックスにそれは少し酷な気もしたが、数秒の間をおいた後に彼は「了解」と返した。闘いを前に気が荒ぶっているのか、昂ぶっているのか。其れは定かではないが、アドレナリンの分泌量が上がってきている。士気を高めるに越したことは無いのでそれでいいのだが、余りに過ぎると会話が「肉体言語」になりそうなので、RAYは呆れながらフォックスの脳内麻薬の調整を開始するのであった。

 

 反面、フォックスの体内はともかく、彼自身は透き通るような思考を行っていた。

 それは、このまったく違う世界に来た事に対してである。自分自身でも、有り得ないが連続する生涯だったと自覚しているが、まさか死後にまで…あまつさえ、敵対していたメタルギアに雇用される運命を辿るとは思いもしなかった。あの時切り落とされた腕と、潰れた目。失った筈の高周波ブレードと強化外骨格の胴回り。

 メタルギアに破壊された己の武装、己の体、己の魂。それら全てが再び手中に収まっているという奇跡が起きているのだ。流石のグレイ・フォックスといえど、その動揺を覚えずにはいられなかった。

 

(だが……)

 

 ナオミ。

 たった一人の妹になった存在。元の世界では両者ともに死してなお、こちらで全てが繋がっていると言わんばかりの精神安定(ナノマシン治療)。これほどの偶然に、閉じたバイザーの中でフォックスは涙を流していた。そして、気づく。

 自分が涙を流せるものなのか、と。

 

 改造(サイボーグ)人間となった体に、元の体であった部分は少ない。だが、それでも涙線というものが存在することに、フォックスは感動していた。感動し、それすらも忘れていた感情だったということに涙する。

 

 決行の時はこれより3時間後。無くした物を取り戻してくれたRAYに感謝をささげるために、己の戦闘欲を満たすために、彼はひたすらに己を研磨する。送られてきた麻帆良側の戦闘者の情報。それらを頭の中で統合し、ファーストコンタクトを成功させるためのシュミレーションを開始したのであった。

 




次回、大、戦闘、祭り!

兵器なのにRAYが動かないのはデフォルトとして、フォックスと千雨の雄姿をご覧ください!


「貴様は―――? ッ、敵か!?」
「なに……君たちのファンの一人だよ。サムライガール」
「何をふざけたことを!」


「おいおい、私はどんだけ巻き込まれやすいんだっての」
「私もそばにいる。貴様は逃げていればよいではないか」
「それが! 面倒だって言ってるだろ!」


乞うご期待!!(笑)
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