我々の恐怖を知らず、無邪気に笑って飛ばすのだから。
それを理解したうえでなど、さらに恐ろしい。
上段から斬りかかり避けられた先へ刃を返す。包丁を引く時のようにその刃が少女のやわ肌へと迫った。彼女は己の得物「大太刀」でそれを弾き、横一文字の攻撃を頭上へ受け流す。相手は大きく体勢を崩し隙を見せる。
「斬岩剣!」
神鳴流奥義を発動。生命エネルギーである「気」を存分に纏った太刀は、軽い一撃で岩をも割った。これぞ、神鳴流奥義・斬岩剣。悪く言えば、その名の通りの力業である。
奥義をくらう方の男は、同じく気を纏わせた刀でその奥義を真正面から受け止めた。それも、余りにもあっさりとだ。その事に驚いた彼女は一旦距離をとり、後ろに下がりながら同じく神鳴流奥義の斬空閃…刃の形をした気を飛ばすという剣士としての利点を残したままの遠距離攻撃を行った。空中で撃った反動で距離をとることに成功。斬空閃は相手へと着弾し、大きな砂埃を巻き起こす。
―――やったか?
そう考えても、気を抜くことはしない。すると、予想通り予想外の方向から刃が突如現れ、彼女の首を刈り取ろうと迫った。危うく首の無いマネキンになりかけた少女だったが、寸前に刃の位置を特定してこれを迎撃。下段から上段へ一気に振りぬいた一撃で相手の獲物を手から弾き飛ばした。それでも空手のままに接近線を挑む男には焦りの色は見えない。
「フッ」
「まだ!」
むしろ刀が無くなった分、大いに間合いを詰めることが出来ると笑っているかのように少女との距離を詰め、引き離し、詰め、引き離す。翻弄される少女の首筋に手刀を叩きこもうとしたところで、その部位から手が弾き飛ばされた。――その原因は、先ほどの弾き飛ばされた刀。あちらにばかり気を込めていて、自分自身に施す強化を忘れていたのである。だから、同じく気で強化を施している相手の身体は、石のように固く感じたのだ。そんな油断も一瞬、普段ならそんなミスをしない男だったが、異能が相手では初心者も同然。これまで戦ってきたどんな相手よりも反応のいい反射神経を持つ少女に刀を突き付けられ、勝敗は決した。
そこで突き付けた刀を仕舞い、少女――桜咲刹那は対戦相手のグレイ・フォックスへ視線を投げる。
「流石ですね」
「まだ足りない」
その一言に、彼女は少しずっこけそうになる。
せっかくの称賛の一言。しかも、心から思った事を真正面からまだ届いていないなど。…いや、刹那が現在の師匠である限り、弟子の位置に当たるフォックスが向上心を持っているのは喜ばしいことなのだが、やはり称賛ぐらいは受け取ってほしいものだと思ってもいる。
とはいえ、この戦闘ばかりを追い求める男に、そう言ったコミュニケーション能力を求めるのも酷な話なのだが。
「詰めが甘かった。まだまだ気の修行が足りないな」
「いえ、たったの一ヶ月でここまで扱えるようになっているんですから、必ず私よりも才能はあると思います。それに、フォックスさんもまだまだ本気を出していないのでしょう?」
「気と刀だけ扱えというこの修行。……流石にまだ日の浅い俺には勝てない、か」
「それでも、少し羨ましいことには変わりませんよ。貴方は必ず大成するでしょう」
「……今はまだ、だがな」
その言葉に、今度こそ刹那は溜息をついた。
高畑先生が出張に行ってからというもの、彼の師となって聞くのはこの事ばかり。曰く、まだ足りない。曰く、生きる実感を。時々、その異様なまでの戦闘への執着に恐怖さえ抱く時がある。聞いた話では、精神不安定だった時もあったらしく、今はどうやってか抑え込んでいるが戦いのときにはそのリミッターが外れる時もあるとか。
実際、刹那はその時の光景を見たことがあり、獣のように叫びながら敵を蹂躙していくフォックスに得体のしれない感情を抱いていた。それは、恐怖以外の何かであったが、それが何なのかは刹那自身分かっていない。
それはともかく、フォックスはこの一ヶ月でほとんど気の「使い方」をマスターした。其れは正に上級者向けの気の扱いであったり、神鳴流の奥義を見よう見まねで覚えられたりと、最早無茶苦茶である。奥義の方は彼なりのアレンジが加えられ過ぎて、もう神鳴流を超えた何かになっていたので門外不出の誓いは守られていた(?)のだが。
しかし、そんなフォックスも発展は出来てもどうしても慣れない「異能」には四苦八苦していた。彼ほどの年でそれほど扱えれば上々だというのが刹那の感想だったが、フォックス自身は先ほどのような初歩的なミスをどうにか改善しようと、延々と自己鍛錬などにも取り組んでいる。
だから、その姿を見て刹那は焦っていると言ったのである。
「根を詰め過ぎてもよくありません。いったん休憩にしましょう」
「そうか」
素っ気なくフォックスが呟くと、弁当箱の入った荷物を取り出して早々に食べていた。
今は昼の11時。少々喰うのには早いのではないかと思ったが、彼自身は余り物を食べずとも良い身体をしているらしい。実験だの何だの胸糞の悪い話であったから、そう言う時の刹那は強引に話題を変えて聞かないようにしていたのだが。
そんな彼を見つめていると、フォックスは箸を止めて刹那の方を見ていた。
「……何だ?」
「あ、いえ。……よく鍛えられていらっしゃると」
その言葉の通り、フォックスの体は、本当に実験漬けだったのかという位に美しく鍛えられている。余分な筋肉の無い、最大限に動きを発揮して最低限に動きの阻害を抑えるほどのスリムな肉体。強化外骨格の下には、逞しい腹筋が聳えているのだ。
対する刹那は、どうしても女性である限りそのような筋肉は付きにくい。なので、他の女子中学生同様程度の体つきなのだが、彼女は普通の人間にはもちえない力を二つ持っている。その力で、フォックスや更なる強者と打ち合うことが出来るのだ。当然、一つ目は気。もう一つは、ほとんどの人物が知らないほんの数人だけの秘密…いや、秘匿だ。
だから、こうして力の証を持っているフォックスや他の戦士が羨ましいと、刹那はよくよく考える。そして、闘いの時は彼女もかなりの強者であるのだが、どうしても隠しているその二つ目の秘密で相手を愚弄しているような背徳感もあった。そう言った暗い感情は押し殺す。それが、この少女であるのだが。
「始めるか」
「え、もうですか!?」
「ウォーミングアップ位はしておく。あんたも準備が出来次第、また付き合ってくれ」
「…はい!」
だが、そうして秘密を隠していても、修行相手として本気で打ちこめる相手――フォックスがいることで、最近の刹那はそのような暗い感情も振り払えているような気がしていた。この修行相手の代理を任された時、タカミチの言ったことはあながち間違いではなかったのだろう。
そうして、人の誰もいない森の中では再び剣の打ち合う音が響きだす。
その音も、しんしんと降り積もる雪がかき消してしまい、誰にも知られることは無かった。
「それでは、そろそろ逃げの練習も様になってきたところで“反撃”の練習に入る。当然、まずは実践訓練からはじめるがな」
「ちょっと待てオイ!」
「すみません。マスターが我儘で……」
そこはエヴァンジェリンの別荘の中であり、毎日の日課になってしまった千雨の修行が行われていた。体力作りに始まり、全力疾走による魔法からの退避に続き、茶々丸からの銃撃訓練に終わる。そんな一ヶ月を千雨は味あわされている。当然、彼女のブログの内容には「最近ししょーが厳しくってサイアク~>< おかげで更新も出来ないほど疲れちゃうんだよ! ごめんねみんな。今日のコスはたまもさんだぴょん!」と書かれるほどだ。……後半部分は必要なかったか。
とにかく、そんなハードな修行を一ヶ月。魔法球の実際の時間で換算するならその五倍の量は修行に当てられている千雨は、身も心も疲弊しきっていた。それでもエヴァンジェリンの元に行くのは、単に「異常」から遠ざかりたいだけではなさそうなのだが。
「戯け。では、いつもの空間に行くぞ。目を合わせろ」
「ったく、わーったよ」
渋々ながらもエヴァンジェリンと目を合わせると、千雨の視界は一瞬光に染まる。そして、再び視界が開けた時には全く来たことのない異様な森の中に居た。
ここはエヴァンジェリンの「
その成果は、この「反撃」の練習で描写するとしよう。
「貴様の持っている銃も、ここではある一定の時にしか使えないようになった」
「はぁっ?」
「いいから聞け。…その銃は、私が明らかな隙を示した時にしか引き金が反応せん。だが、その時は銃そのものから合図があるようにしてある。その時に、私に容赦なく撃てばそれでいい。
今日は初日だ。ある程度の成功、それで解放してやろう」
「!」
挑発を含めて行ったエヴァンジェリンに、千雨は闘志を燃やす。一見熱血に見えるがその実はさっさと家に帰ってネットをつなぎたいという欲望の炎だ。そんな俗物的な闘志にエヴァンジェリンは呆れるも、やる気があるのはいいことだと早速詠唱を開始する。
その瞬間、持っていた銃が一度だけ大きく震えた。意図を理解すると同時に、千雨は狙いを定め、照準を固定して引き金を引く。魔力の銃弾が爆発し、鉛玉と魔力の塊がエヴァンジェリンの額をしっかりと捉えた。彼女の額には赤い穴が開き、血を滴らせながら詠唱を中断される。余りに迅速で適切な千雨の行動。普通の魔法使いならここで死んでいただろうが、生憎ここは彼女の支配する空間。傷は一瞬で癒えて無くなっていた。
「そうだ。魔法使いはどうしても詠唱中は無防備になる。動きまわって詠唱をする者もいるが、その時は障壁を張っているか
だから、広範囲殲滅魔法の詠唱に入った者を守る相手がいるときを想定して続けるぞ! いいな?」
「おう」
「む、もう少し乗ってくれば良い物を…まあいい、茶々丸!」
「それでは、失礼します千雨さん」
茶々丸も此方の世界に呼び込み、エヴァンジェリンは再び詠唱に入った。千雨のソリッドアイがはじき出した数値は47%。つまり、中級レベルの広範囲呪文だ。そのため詠唱も早く危険が多い。
急ぎ照準をつけようとしたところに、茶々丸が背中のバーニアを吹かせて此方に向かっていた。手に引っさげた重火器を見るとハンドガンを握り直して急ぎその場から離脱。結局は茶々丸から一発二発ほど足にもらったが、その程度で足を止めるような修行はしていない。だが、その間に詠唱は完成してエヴァンジェリンからは膨大な魔力が感じられる。
――これは、不味い!
「闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)!!」
視界が暗闇で一瞬染められる。そして悪感と実際の寒波が千雨の方向へと行進を始めた。事前に効果範囲を察知していた千雨は、あえて茶々丸の元へ戻って不意を突かれた彼女を掴み上げる。持てる力を十二分に発揮した底力で着弾の瞬間に茶々丸を盾にした。それでも外側を覆う寒気が身体を襲うが、身体を動かしていた時の余熱でなんとか意識を保ち続ける。魔力の放出が終わったその瞬間、大きく震えたハンドガンを魔力反応のある場所へ照準、そしてその場所を見ずに引き金を三度引き絞った。
「ほう…」
弾ける魔力の薬莢が落ちるころにそれらは見事快中。そう狙っていない筈だったが、エヴァンジェリンンの心臓と足のあたりに二発命中させていた。それらの傷もすぐに収まるが、問題は盾にされた茶々丸の方。完全にボディの全面が凍りつき、押し潰された無残な姿になっている。
「マ……スター…こ。ウ動ふノウです…」
「今直してやる。……それにしても長谷川千雨、貴様も随分容赦が無い」
「死ぬ気だ。向こうも死ぬ覚悟くらいあんだろーが」
「どうだかな…今の魔法使い共は口先ばかり。保身に走る連中が多いぞ?」
「けっ」
この一ヶ月、いや、五ヶ月で千雨は随分な性格になっていたらしい。
修復されて元通りの茶々丸が銃器の様子を確認しているところに、先ほどの非礼を詫びる言葉をかけると、茶々丸の方は自分の方が浅はかだったと返した。
しかし、こうなれば次からはこの戦法は通じないだろう。
「なるほど。現実世界だったら今頃貴様は肉塊だったな」
「どっちの意味だか。…私だって、“ここだから”さっきの戦法をとっただけだ。別荘の方じゃ別の避け方をするさ」
「たとえばどうするのだ?」
「あんたに数発ブチ込んで、手を潰す。そしたら魔法の照準もつけらんねーだろ?」
「…ふん、立派なひきょう者の発想だな」
「それを考えざるを得ないほどに鍛えこんだのは、どこのどいつだよ……」
千雨は頭が痛いとばかりに大げさな仕草をする。元々、千雨は兵士としての価値を上げるための劣化SOPシステムを導入されているのだ。むしろ、これほどの腕前の上達は当たり前。彼女の思考形態も、如何に適切な行動をとることが出来るか。それだけに行動の焦点が絞られる。更に、ソリッドアイが未来予知を行うのだ。これほど逃げや隠密、そして奇襲に特化した兵士も千雨以外にはいなかっただろう。……“蛇”のコードネームを持つもの以外は。
「まあいい…今日は合格にしておく」
「よしっ!」
これでやっと家に籠れる。彼女がそう考えているのは、エヴァンジェリンにお見通しだったようで、大きく彼女は溜息を吐いた。どうしてこの俗物な熱意を持つ者がこれほどの戦闘能力を有し、そしてそれを活用したくないのかと。
何だかんだで、エヴァンジェリンも迫害との闘いの日々を送ってきたのだ。そして覚えているのは攻撃的な魔法のみ。このような思考に行きつくのも仕方が無いことだろう。
「明日はチャチャゼロと茶々丸、二人を合わせた状態で同じ事をする。それ以外に前にやっていたカリキュラムもするので、気を抜かんでおけ」
「はいはい」
「…千雨さん、実に勿体ない」
「茶々丸。私は平穏からなるべく遠ざかりたくないんだ」
自分から首を突っ込んでいるのは自覚しているが、と締めくくると周りの空気が微妙なものになる。確かに、訓練と称しているこの会合も最大限平和から遠ざかっている行為だ。平穏無事を得るために傷つき、戦って未来から逃れている。これほどの矛盾行為を千雨は自覚したうえで行っている。
それは、RAYを知ってしまったということもあるが、確実に自分が周りに荷物にならないため。他人に負荷をかけることを嫌っているからこそ、こうした訓練に出ているのだ。それに、いざとなった時のRAY搭乗のシュミレーションも受けている時がある。
理由はどうあれ、千雨は兵士になってしまっている。
「結局、貴様は約束を反故にした事が無いだろうに」
「まあ…な……」
場を和ませるためか、エヴァンジェリンが千雨の義理堅さをほめれば、いくらか恥ずかしそうに彼女は頬をあからませた。結局、どのような兵士や戦闘者でも、彼女は少女でしかないのだ。照れ隠しに、そんなことをも思わせる、彼女の心からの笑みが浮かべられていた。
「さて、あと半年か。始めるとしよう」
そんな背後で、エヴァンジェリンがそう呟いた事を千雨は知らない。
「まだまだ!」
「―――斬る」
一方その頃、フォックスと刹那はまだ打ち合いを続けていた。
先の発言の後に、刹那は雷鳴剣を使って刀身に電気を纏わせる。其れに対して、フォックスは刃の先にのみ気を纏わせて迎え撃った。衝突、そして刹那の剣技は霧散させられる。彼女の大太刀自体に纏われた気が消えたことで、高周波ブレードの微振動が伝わる。このままでは刀を切られうと思った瞬間、身を引いて足元を斬り払いにかかる。其れを見切ったフォックスは、足の裏にとりつけた蹴りの威力を増加させる鉄板で受け流し、刀の上に立った。
「しまった―――」
「いくぞ」
ととと、刀の上をバランスよく駆け抜け、刹那を斬り殺さんと刺突の一撃を眼球へ向けた。とっさのことで彼女は気を腕に集中させると、一旦腰を落とし、膝を折り曲げるとスプリングの要領でフォックスを上空へ投げ飛ばす。そして斬空閃を咄嗟に放つと、二撃目の斬岩剣を自身の背後に振りおろす。予想通り、どうやって空中で方向転換したのか、フォックスが彼女の後ろに控えており、一撃は彼を肩のあたりから引き裂いた。
「グゥッ……」
苦しげな息遣いも一瞬。握りしめた左手で刹那の水月へ拳を叩きこむ。地面と垂直に飛んだ彼女は、直線状に在った気に激突して崩れ落ちたが、再び得物を握り直して周囲を警戒した。追撃に来たフォックスは真正面。なら、全力で―――迎え撃つ!
「神鳴流奥義・斬鉄閃!!」
「突…!」
螺旋状に練りこまれた刹那の一撃と、フォックスの中央を貫通させる一点突破の剣技が衝突しあう。中央を掘り進む強引な一撃と、僅かな合間を確実に破壊する一撃は互いを相殺し、その場に気の反発による爆発を生みだした。その衝撃で両者は吹き飛ばされ、地面に倒れこむ。とっさに投げたフォックスの刀と、倒れ伏しながら放った刹那の斬空閃が再び空中で交差すると、二つの力は完全に霧散した。
荒い息遣い、そして身体に走る痛みを抑え込みながら、刹那は口を開く。
「お見事…!」
最後の一撃、フォックスはまた限界を超えた。
高周波ブレードという物を媒介としていたが、確かに「気を放出する」事が出来ていた。その威力は、神鳴流の奥義をも相殺するほど。元々技の名前などは「気の在り方」を固定するためのものだが、無名のまま、気というものをしっかり固定してフォックスは扱っていたのだ。
新たな可能性を垣間見たこと、そして、フォックスの成長に刹那は喜びを感じていた。
「今のが…」
「それでは、この前から私の奥義を霧散させた技を教えて貰います。ここまで付き合ったんですから」
「ああ……分かった」
しかし、喜びと共に湧き上がってきた探究心。これほど自分は欲が深かったのだろうか、そう思うほどに自然と先の言葉を刹那は口にした。しかし、その疑問も押し殺してフォックスの言葉に耳を傾けることにする。暗がりでよく見えなかったが、彼女は何とも難しい表情をしていた。
「あの技は、高周波ブレードの振動を応用して気を霧散させただけのものだ。あんたの斬魔剣という物を見て思いついただけだがな」
「それは……」
またとんでもない物を。そうして刹那はまた絶句する。
気を扱う物にとって天敵となる技。そんなものを彼はこの短期間で編み出していたのだから、彼のポテンシャルはとんでもない。ふらふらと立ちあがったフォックスは、それだけを言うと刹那の元に手を差し伸べる。その手に捕まって、刹那は同じくふらふらと立ちあがった。
「俺もあんたも、今日はここまでだな」
「そうですね。……本当は、私の言うべきことですが」
結局、大人のフォックスに刹那はリードされてばかりだ。あのような実戦の修行中はともかく、こう言った場面ではいつも彼に手綱を握られてばかりいる。弟子的立場の彼にそうされてばかりで、彼女はあまり面白くは無いと考えていた。本心を出すことは、言外にするくらいはあったが。
「それでは、ありがとうございました。私もいろいろ考えることもありますし、このままここで別れましょう」
「ああ。招集があればこのままだがな」
「今日は無いでしょう。昨日来たばかりですし」
そして、昨日の侵入者も学園長の判断でフォックスに処断された。無表情で男の死を見つめているフォックスは、とても他の人に見せられるようなものではなかったが。
二人はそうして帰路につき、ここではない千雨も同じく女子寮へと戻っていた。一日は、こうして終わりを告げるのである。
さて、人間とは少しの期間で変わるもの。
とくに千雨は、大きな変化をもたらしてしまったようだ。この変化が、半年後の運命にどう影響してくるのか……それは、またのお楽しみ。
結構更新が遅れました。そして、同時に申し訳ありません。
この数日の間、家の隣で祭りをしてたのであまり集中できずに変な文章が多発しています。
まあ、修行風景なので、そう本編にかかわりがあるわけではないのですが(あるとしたらパロメータチェック)。
それでは、また次回にお会いしましょう。
お疲れさまでした。