抑止兵器マギア   作:マルペレ

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今回短め。戦闘描写もありません。



人は色を持つ。
さて、あなたの色はなんでしょう…?


☮秘めた思いを

「ふぉふぉふぉ…いい塩梅じゃの」

「それは、どういうことでしょうか? 学園長」

 

 その問いに対して、老人の軽快な声が部屋に響いた。

 明るく照らされた学園長室に、学園長・近衛近右衛門と色黒の教師・ガンドルフィーニが対面していた。学園長の机に置かれている水晶玉には、グレイフォックスと死闘を交えて切磋琢磨するタカミチと刹那の姿。結局、三人合同で訓練するという形に落ち着いている様子が見て取れた。

 そう、学園長が使っているのは遠見の魔法。基本的な魔法なのだが、学園長と言うだけはあって、この麻帆良で彼に見えない場所は無いと言われている。…まあ、のぞきで使っていた前科もあって、この魔法の使用時には制限が課されているのだが。

 

「なに、葛葉くんの持って来てくれた甘味じゃ」

「普通こっちではないのですか!?」

「ふぉ、若いもんは落ち着きが無いのう……」

「あなたがそうさせているんでしょう!」

 

 まあ、わざとなのは疑いようもない。そう付け加えてから、学園長は水晶の映像をぶつりと切る。魔法の力がなくなれば、それは手入れがいきとどいた部屋の飾りになる。

 魔力の残り香がガンドルフィーニの頬を掠めると、映されていた場所の周囲の激しい戦闘の後が脳裏へ焼きついた。

 

「…害はない。そう仰りたいのですね?」

「分かってくれたようでなにより。納得しておらんかったのはお主だけじゃったからのう、あれほど仲のいい師弟となった彼を見れば、君も…と思ったまで。

 麻帆良の手が回らない場所をカバーしてくれたという実績もある。それで…どうじゃ?」

「………」

 

 ガンドルフィーニは生粋の魔法使いだ。それゆえに、保守的な面もあって危険分子やイレギュラーには少々過敏な反応を持つことが多い。比較的生徒の自主性(自由性)が大きい麻帆良でも、厳しく取り締まる教員として名を馳せていることから、その性格はうかがい知れる。悪く言えば、人当たりの悪い先生とも受け取られがちだ。だが、そんな彼にはとある一点を持っていた。才能や技術、伸ばせば光る点を正確に見抜く慧眼。それが彼の長所であり、それを生かして麻帆良高等部の進路指導の教員としても有名だった。

 だからこそ、こう言ったイレギュラー要素には弱い。人の本質を知り、そのうえでカリキュラムを組むことはできても、予想外のアクシデントには弱いのである。とはいっても、RAY達のような途轍もなく大きなイレギュラーに限って、ではあるが。

 こう言った人間性ゆえに、麻帆良の裏事情に通じている者で、「RAY・フォックス」という存在を受け入れていないのは彼だけとなった。…もうここまでで分かった人が多いだろう。その彼を説得するために。学園長はこういった機会を与えていたのである。

 

「フォックスくんも己を高めることだけに執着しており、頼まれれば即興の連携もこなし、この学園の“汚れ仕事(あとしまつ)”を率先してこなしてくれる甲斐性もある。そんな人物を派遣してきた謎のRAYというあの機械についても、悪い“物”ではないのじゃろう。

 ……認めてやってくれい。これでは、ワシもガンドルフィーニくんが気を張り詰め過ぎる様を見たくはないのじゃ」

「その言葉、染み入ります。……ですが」

「……まあ、そうじゃろうなあ。分かってはおるよ。“君の過去”を」

 

 ガンドルフィーニは、その言葉に肩を震わせることで反応した。甦るのは、幼いころ。今はそれだけしか、明かすことはできないのだが。

 

「致し方あるまい。やはり、君自身が彼らと接してくるといい。出来れば……フォックス君を叱ってほしかったんじゃがな」

 

 叱る? その名前には不釣り合いな単語を聞き、ガンドルフィーニは顔をあげた。そこには、物憂げな学園長が静かに座っている。どういう意味なのかと、問い返すと分かっていたのだろう。学園長も、誰かに言い聞かせるように言葉を吐きだした。

 

「残念ながら聞いてしまったのじゃが、フォックスくんは現代治療の実験台にされたらしい」

「治療の、実験台…!」

 

 治療と言えば聞こえはいいが、我々に使われる治療法は数々の失敗と思考錯誤を繰り返して成功した「安全な方法」。人間に確実に効く様に同じ哺乳類の小動物や所謂「モルモット」を使って技術を躍進させてきた。だが、治療法の確立には、確実で早期に立証できる方法がある。それが――「人体実験」。

 人間自体へまだまだ未踏の治療法を試し、「人間」のデータを採集して調整していく。当然、実験台となった人は難題の治療をするために、未知の治療法で「失敗」して死んでいく例が多数。いや、実際に行われれば半数は命を費えるだろう。だが、その代償は大きい。人間そのもののデータが取れるのだから、調整や修正点も比較的楽に対応できる。ラットやモルモットから人間用に調整するという手間が省けてしまうのだから。

 だが、これだけは「禁断の領域」。それだけは、誰にでもわかることでもあるし、誰もがしてほしくない、されたくないことだ。皆も、これについては慎重になってくれ。

 

 ―――話を戻そう。こう言った非道の数々の中でも、生命の神秘に介入する「遺伝子治療」、そして諸行無常を体感する「老衰」。この二つに対抗するための治療実験が、フォックスに行われていたのだ。そう学園長が説明すれば、ガンドルフィーニの顔色は真っ青に変わる。

 

「老いとは、恐ろしい物じゃのう。ワシも現役のつもりじゃが、それでも身体の節々にはガタが来ておる。それを補助するべく強化外骨格の発明にも付き合わされたとか。…痛い、では済まされんじゃろうな」

 

 強化外骨格も、理論を詰めた機械の腕。それを人体実験に使うということは、試作品のトライアル。つまり、暴走などと言った危険もある。

 

「周りの人間は止めなかったのじゃろう。そして、嬉々としてフォックスくんを利用し続けた。足を止めぬ者の末路は、いつか落とし穴に落ちて自滅じゃ。

 ……さて、ここまでがワシの説得じゃ。どうか、ほめて伸ばすタカミチでもなく、彼と共に上を目指す刹那くんでもなく、大人の物言いが出来る常識を持った君。ガンドルフィーニくんが本当の“教師”になってやってくれんか」

「学園長も……お人が悪い」

 

 どこまでも、真っ直ぐな老いぼれの目。当然ながら、ガンドルフィーニもRAYたちを嫌悪していたのではなく、疑っていただけ。彼は家庭を持つ一児の父だ。だからこそ、全てを否定などと言う幼稚な考え方は持っていない。ただ、信じるという要素が見つけられなかっただけだ。

 だが、その相手が「教え子」に置き換わってしまってはしょうがない。彼は、ゆったりと息を吐きだした。続けざまにもう一度だけ、深く息を吸う。

 

「引き受けざるを得ない。本当に、追い込むことが好きなお方だ。その、一つの事のためには容赦のない性格。だからこそ、私も守る物をはっきりと区別することが出来るので、ついて行くのですがね」

「ふぉふぉふぉ」

「まだ笑うにはお早いですよ」

「ふぉ!?」

 

 完全に落ちたか、などと雰囲気ブチ壊しなことを考えていた学園長の声が驚愕に染まる。ガンドルフィーニとて、治安へ貢献し続ける聖人君子ではない。むしろ、安寧のために鬼にもなる存在だ。だからこそ、彼はすがすがしく笑っていた。

 

「今度、彼と対戦を組ませて貰いたいのです。見世物として見てもかまいませんが、一度、私自身の目で彼を“見たい”。今のお話では、私はこれくらいしか思い浮かびませんな」

「むぅ、流石に石頭は伊達ではないのう……」

「誰が石頭ですかっ!」

 

 どうしてあなたは締めさせてくれないのだ。と、彼は額に手を当てる。続きざまに溜息を吐いた姿を見て、学園長は高らかに笑った。

 麻帆良学園に教師として就任している限り、こう言った学園長のおふざけに付き合わされて心労が絶えない生活を送るのは、デフォルトになってしまうのだろうか? まあ、西出身の狸なのだから、仕方ないことなのかもしれないが。

 

 

 

 水晶玉に移された景色の向こう、その剣閃が止んだ頃。三人は得物を収めて向かい合っていた。今日の修練はここまで、という学園らしい締め方をしているようだ。

 

「うん。気の扱い方は僕たちよりもすごく上手になったね。飛ばせないのは相変わらずみたいだけど」

「だが、今回で新たな欠点もあった。桜咲のように気を変換することも出来ない」

「…私の見立てですと、フォックスさんは“素のままの気”を扱うことが出来る性質なのでしょう。その他の発展した使い方はできませんが、基礎がそのまま発展を上回るほど強力になる、そういった才能を持っているのかと」

 

 そう言った刹那を見て、そうか、とフォックスは一考する。闘いの基本、基礎、基盤。格闘術に一点特化した「気」を扱えるというのは、自分にとってはこの上なく相性が良い。難点は長距離の相手には効果が薄いことだが……。そこまでで、彼は一旦考えを区切る。その様子を見ていたタカミチは、再び口を開いた。

 

「何だかんだで、二人とも上達していることは確かだよ。僕も出張が続いた分の鈍ったところを矯正してもらっているし、おかげで基本の大切さを思い出したからね。刹那君も、とても強くなったし」

「いえ、フォックスさんに追いつかれる前に、更に腕を磨かなければなりません。お嬢様をお守りするためには、まだ足りないのですから」

「あ、彼の口癖移ってるよ」

「…え」

 

 そのやりとりで、もうここに居ても修行が出来ないと思ったのか、フォックスは二人に背を向けた。どうやら驚異的な脚力で格納庫に向かうつもりらしく、強化外骨格に埋め込まれていない、独立したステルス迷彩に手を駆けたのだが、それを見た刹那が引き留める。

 

「あ、フォックスさん!」

「…なんだ?」

 

 おや、と眉をあげたタカミチは沈黙を守る。横に居る刹那の唇は、次の言葉を繰り出した。

 

「今日も、ありがとうございました!」

「ああ。こちらもな」

 

 そう言って透明になり、地面を叩く音を残して彼は跳躍して行った。地面の影がかろうじて彼の居場所を示すも、それも夕暮れに呑まれてすぐに見えなくなる。

 

「それじゃ、僕らも切り上げようか」

「はい。高畑先生も、ご足労いただきありがとうございます」

 

 そして二人もいなくなる。

 誰もいなくなった森の一角を、世界樹だけが静かに見つめているのだった。

 

 




少し切り詰めてみましたが、どうでしょうか?
これは布石会と思っていただければよろしいかと…。

あ、それからもうばれてると思うので言っておきます。
ガンドルフィーニ先生、「レギュラー入り」確定です。

それでは、ありがとうございました。
夜遅くに呼んでいる人は、そのまま寝るか休息で体を休めるといいです。
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