抑止兵器マギア   作:マルペレ

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散りばめられたビーズは、宝石のようなもの
散りばめられた宝石は、財宝のようなもの
では、人工的な宝石は何と見ればよいのだろうか

ビーズと同じ価値の人工物?
宝石であるから同等の宝物?

答えは、その偽物の宝石だけが知っている。


☮世界見降ろす先で

「よく来たな。待っていたぞ…グレイ・フォックス」

 

 正義を謳う褐色の教師がサブマシンガン片手に広場の中心に立つ。相対するは、技術の毛皮に身を纏った人工の狐。閉ざされたバイザーの奥には、無表情の男が教師を見据えていた。

 その周りを囲っているのが麻帆良の「関係者」。魔法を扱うシスター見習いから御年600を超える大魔法使いまで、この馬鹿馬鹿しくも華々しい「見世物」を見守っていた。とはいえ、今はステージの二人が主役の世界。沈黙が場を覆っている。

 黒人教師――ガンドルフィーニが、動く。

 

「このような機会を下さった学園長に感謝を。そして、今から君と闘えることを楽しみにしていたよ。フォックス」

「……なるほど、そう言うことか」

 

 その呟きは、外骨格の中で反響して消えるに終わる。はたから見れば、フォックスは無言で構えを作ったようにも見えるだろう。そんな彼は、ここに呼ばれるまでの経緯を思い出していた。

 この地へと再三に渡り連れ出された第一声は、格納庫へいつものように訪れたエヴァンジェリンと千雨から。元々はエヴァンジェリンから千雨経由だったのを、直接来ることで学園長(クライアント)からのお達しと言うことを伝えたのである。ゆえに、断るわけにもいかずに、このような深夜に集合をかけられたのであった。その際にはRAYも呼ばれていたのだが、それは千雨の肩に乗っている――

 

「RAY、こんくらいか?」

『≪ええ、丁度いいわ≫』

 

 仔月光がライブを請け負って参加することになった。当然、仔月光のカメラ越しであるために、直接姿を現さない限りはRAYの姿は教師・生徒陣には見ることはできない。手の込んだ事をするものだ、そう感心して、フォックスは眼前の「相手」に向き直った。

 彼の見立てでは、闘気は十分にある。ただの一度もまともに共闘をしたことが無い相手であるため、その実力は未知数だというもの。知る限りにタカミチ以外の「魔法使い」は後衛に徹する戦闘スタイルを好み、近接にはある程度の距離をとって対応するというのが主なスタイルであった筈。

 だが、それも今回だけは通用しそうにないらしい。ガンドルフィーニの手にはナイフとサブマシンガン。これだけ見れば科学が浮き立って見えるが、彼には魔法という手段も存在する。彼の闘い方の詳細は、これだけでは読み取ることが出来ないわけだ。

 

「珍しいな。(プロジェクト)90…ベルギーのPDW(個人防衛火器)か」

「周りに跳弾を当てるわけにはいかないからな」

「いや…」

「…………」

 

 おもむろに言葉を発し、静かに、視線をガンドルフィーニの銃に向ける。手入れが行きとどいており、どれだけ丁寧に扱われてきたかが分かる。

 

「魔法使いが銃を使うとは、ということだよ…」

「…そうか。では、御託はここまでにしよう」

 

 ガンドルフィーニが視線を学園長に投げると、小さく頷いて観客との間に薄い魔法障壁が張られる。だが、その濃度は――

 

「どうだ? 長谷川千雨」

「これは…流石は学園長ってことか」

 

 魔力濃度89%。外側の一枚だけでこの表記が出ているということは、内側の魔力濃度は有り得ない濃さ。すなわち、100%に達しているということだろう。それだけの障壁にも関わらず視界がぼやけるなどと言った興の覚めることも無い完璧な仕様は、学園長の真の実力を伺わせ―――

 

「ぜえ…ぜえ……すまぬの、早めに終わらせてくれい……」

 

 ることなく、単に寄る年端には勝てないらしい。

 学園長の様子から、短期決戦を決め込んだガンドルフィーニと、久方ぶりの真正面から銃を扱ってくる相手に高揚し長期戦を望むフォックスとが、それぞれの得物を構える。フォックスは腰を落とし、高周波ブレードを水平に。ガンドルフィーニはナイフを後ろ手に、正面には銃を持った手を。混じり合うは視線と視線。交差し――地を蹴り地面が弾け飛ぶ。

 

「ッ」

 

 踏み込んだのはフォックス。初手は様子見ということらしく、安直に袈裟に振りおろした。が、水面の木の葉のようにかわし、バックステップの慣性を利用して刺突を繰り出す。ブレードの微振動でガンドルフィーニの左手ごと弾き上げたフォックスは、ハイキックで間を詰めた。しかし、それも予期していたかの如く事前に動かれ、かわされる。手ごたえのない、ふわふわとした雲を相手取っているようだと、フォックスは内心ごちた。

 その瞬間、

 

「ヴォル・テル シン・ク イクバール……」

 

 静かに告げられる始動キー。それは、このような高機動戦闘の中では隙を自ら見せに行くようなもの。あれほど大口を叩いたというのに、素人? フォックスはそう考えながらも、注意を怠ることを忘れない。そう、少し考えると思い当たる。戦闘中に呪文を唱えるということは、すなわち―――

 

「氷の精霊 11柱 集い来りて 敵を切り裂け」

「させんっ」

 

 高まる魔力は千雨のソリッドアイで24%。決して高くは無いものの、一般人相手に脅威であることは間違いない。そんなものを受けてしまえばフォックスとて無傷にはいかないことは自明の理。頭部の残光を棚引きながら刀を振りおろせば、左手のナイフにガチリと「柄」を阻まれる。フォックスの眼前には、ピタリと銃口が据えられた。

 

魔法の射手(サギタ・マギカ)!! 連弾(セリエス)氷の12矢(グラキアリース)!!」

 

 同時に火を吹くP90。その弾丸に……いや、その「魔法」に添加された銃弾の物理衝撃と回転運動。そして魔法の冷気がフォックスを襲う。急ぎ身を翻し、横方向へ脚力を集中、一気に音速を超えて距離をとる。だが、氷の弾丸()はフォックスを追撃、誘導弾と化していた。隊列をなし、弾幕として襲いかかる魔法の矢を、フォックスは「気」を張ることで肉体と装備を強化。ブレードで7本を薙ぎ払うと、残りを外骨格にグレイズさせて地面へ誘導。全てを捌ききった後には、再びフォックスを狙うガンドルフィーニの姿を目にする。

 

換装(リロード)連弾(セリエス)炎の5矢(イグニス)

「消す!」

 

 続きざまに魔法の矢を装填したガンドルフィーニは、ゆっくりと歩いて距離を詰めてきた。対して、走りながら気を奔らせた高速微振動の刃で「魔法の構成」を崩壊させていくフォックス。再び両者の距離がゼロになった時、同時に技を放つ。

 

紅き焔(フルグランティア・ルビカンス)!!」

崩力(ほうりき)

 

 無詠唱ながら放たれた凶悪な爆炎がフォックスを包むと、彼は格納していた高周波ナイフで周囲を横薙ぎに一閃。魔素がかき消されてガンドルフィーニの魔法は根本から定義を崩される。その勢いのままにナイフを振りおろすと、またもや正確に柄の部分にナイフを当てられ防がれる。ガンドルフィーニは一瞬早く手を返すと、詠唱も何もない「実弾」をフォックスへと叩きこんだ。P90が舞う薬莢と破壊音の交響曲を奏でれば、その代わりにフォックスの身体が宙に浮く。それでも、外骨格を貫くには至らなかった。

 お返しだ。そう言わんばかりに空へ浮いたフォックスは3次元駆動で回し蹴りをガンドルフィーニへ叩きこむ。強化体の容赦ない一撃がクリーンヒットを反動としてフォックスに伝えると、褐色の教師は学園長の張った障壁まで吹き飛ばされた。一度壁にバウンドして、地面に叩きつけられる前に受け身をとる。

 

「まだだ! 風花(フランス)武装解除(エクサルマティオー)

 

 呪文を唱えながらにサブマシンガンが轟音を放てば、フォックスへ向かう風と銃弾の雨。ある程度距離をとったことで銃弾を全て切り裂いたが、その後の武装解除の魔法にフォックスは両手のナイフとブレードを弾かれてしまう。瞬時に腕をレールガンへと移行すると、チャージを行いながら脚部に気を集中。驚異的な脚力を手にしたフォックスは、縦横無尽に障壁内部を飛び回って撹乱を行った。

 

「ガンドルフィーニ先生って、こんなに魔法の属性を使えるのか…?」

「努力の賜物、だけどね」

「……タカミチか」

 

 千雨の呟きを拾ったのはタカミチ。彼の登場に面白くなさそうに鼻を鳴らしたエヴァンジェリンをさておくと、タカミチは試合の状況へと目を向けた。

 

「ガンドルフィーニ先生は、闇と光属性以外の魔法を中級までなら独自で自在に扱うことが出来るんだ。さっきみたいに弾丸として打ち出したり、一度詠唱すると同じ魔法は無詠唱で同じ威力のを使ったり、射手の属性を混合させることもあったかな」

「高畑先生、それって……」

「うん。普通は不可能だよ」

 

 あっけらかんと言ったタカミチ。障壁内では、撃ちこまれたレールガンを武装解除と氷楯で相殺しているガンドルフィーニの姿があった。更に闘いは熾烈になっていき、学園長の疲労は最高潮である。

 

「でも、彼はそれが出来るようになった経緯があるって話だ。…僕は、知らないけど」

「へえ……お、魔力65%。中級威力が来るな」

「千雨君の、便利だね」

「特注品ですよ」

雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)!!!』

 

 そう言って目を戻した先には、詠唱を終えて強力な旋風と稲妻を繰り出すガンドルフィーニ。フォックスは取り落としていたブレードを拾って防御(ほうりき)を繰り出したが、一歩間に合わずに足の一部と右手の先を魔法がかすめた。その跡はくっきりと焦げ跡として残っている。だが、ガンドルフィーニも先ほどの蹴りのダメージが残っているらしく、口元には血がにじんでいるようだった。

 

「そ、そろそろワシも危ないのじゃが……」

 

 そんな中、外野で呟いた学園長の声は、冷めやらぬ興奮した場にかき消される。

 

 再びブレードを手にしたフォックスは、切っ先に気を集中させると、それをライフリングをかけて高速射出。魔法の余波の中を突っ切った刀は、見事ガンドルフィーニの肩に突き刺さる。その直後に微振動による熱で肉の焼ける匂いと煙が上がったが、彼は即座の判断で刀を抜き取って放り捨てた。だが、焼けて傷がふさがっているとはいえ、左手は碌に動かせない状況に陥っていた。戦闘開始から既に5分。開始後初めて、両者は沈黙と共に向き合うこととなる。

 

「やれやれ……君も非道なものだ。模擬試合だということを忘れてはいないかな?」

「そう言うあんたは威力の高い魔法を使い過ぎだ。あの狸の障壁が無ければ、巻き込んでいただろうに」

「なに、私も魔法使い。加減はしてあるさ」

「どうだろうな……」

 

 そう言ったフォックスも、先の雷の暴風の影響で外骨格が一部ショートを起こしていた。機能そのものに問題は無いが、若干分のパワーダウンは否めない。対峙するように向き合っていた二人だが、やがてガンドルフィーニが銃口を下ろした。そして一度大きく血を吐くと、フォックスに笑いかける。

 

「―――やるじゃないか。だが、君には配慮が足りていないようだ。装備を見てみろ、随分と酷使してきたようだな」

「俺は一瞬の命の果たし合いを望んでいる。闘いの中で死ねるなら本望だ」

「……なるほど、学園長の言いたいことが分かった気がするな」

 

 フォックスも矛を収めると、学園長が汗にまみれて障壁を解除した。

 様子見程度の試合ではなかったのかと観客は静まり返り、一部の魔法生徒はガンドルフィーニの出血量に目を回している。そんな中、フォックスがバイザーを開き、強化外骨格の起動を休止させれば、皮膚の収縮で防がれていた内部の断裂した個所からの血液が隙間を縫って血の池を足元につくる。其れを見て、遂に生徒の一人がダウンした。

 両者、満身創痍の引き分け。それでガンドルフィーニがだした提案試合は締結したようである。

 

「フォックス、今度の仕事を手伝ってもらう。終わったら、私の知っている屋台で奢るよ」

「…そうか」

 

 血濡れのガンドルフィーニは、それだけ伝えると教師人から簡単な回復魔法をかけて貰っていた。対するフォックスの出血は既に止まっており、失った血液だけが彼の残存するダメージになる。格納庫でしっかり鉄分をとろうとしたところに、千雨から栄養ドリンクを手渡された。

 

「お疲れさん。早くしないと死ぬぞ?」

 

 一度音速を超え、その後も超機動で体を酷使し続けたからだろう。千雨には、フォックスが表情とは裏腹にどれだけ危機的状況なのかを理解していた。ちなみに、先ほどのドリンクにはナノマシンもたっぷり詰まっている。栄養も同時に摂取出来て、応急措置として手渡したのだ。

 

『≪未確認の魔法データも良質。フォックス、良い仕事よ。だから早くこちらにいらっしゃい。救護の設備を整えておくわ≫』

「RAY…もう少し気の利いた言葉はねーのかよ」

『≪先決問題なのは彼の治療。エヴァンジェリン、お願いできるかしら≫』

「チッ、仕方ない……茶々丸」

「はい。それではフォックス様、しばしの我慢を」

 

 死に体のフォックスは、これまで「気力」で立っていたのだろう。抵抗することも無く茶々丸に抱えあげられ、RAYの格納庫へと向かうことになるのだった。その光景を見送った千雨は、明日も早いと寮へ向かおうとしたが、声をかけられる事になった。

 

「…千雨くん、少しいいかね」

「学園長…どうしました?」

「少し、彼女と話をさせて貰いたい」

 

 そう言った学園長の視線の先には、RAYを中継する仔月光。千雨が頷く前に仔月光そのものが学園長の隣に移動したことから、了承の意を示しているのだろう。学園長がそのまま「地のゲート」を通って帰還する姿を驚愕しながらも見送ると、千雨は今度こそ寮へと歩みを向ける。

 その道中、見覚えのある二人の後姿があった。

 

(桜咲に、龍宮か…)

 

 あちらも背後の気配に気づいたのか、千雨の方を振り向く。どうやら刹那は放したいことがあるそうで、真名を先に行かせると千雨のペースに合わせて歩き出した。

 

「こうして面と向かって話すのは初めてですね。桜咲刹那です」

「長谷川千雨だ。……で、なにか用か?」

「実は…フォックスさんなのですが」

 

 どうやら、フォックスの練習相手が刹那だったと、千雨は彼女から聞いた。そして刹那が聞きたいのは先ほどの試合で重傷を負ったフォックスの事であり、ガンドルフィーニ先生と違って治療を施されなかった彼はどうなるのか、らしい。

 別段、そう隠すことでもない千雨は、RAYの元で治療を行うだろうと言うと、刹那の方はRAY、ですか……と表情に陰りがさした。

 

「その、RAYという方はどのような…?」

「ええっと…まあ、一言で言うなら兵器だよ。“水陸両用人工知能搭載型二足歩行戦車メタルギアRAY”ってのが正式名称だな」

「水陸りょう…って、兵器…ですか!?」

 

 驚愕する刹那に、そりゃそうだな。と千雨は苦笑する。

 まさか人工知能を持っている兵器そのものが千雨たちのバックについたスポンサーと言うのは想像にもしなかったのだろう。その様子は、ありありと表情に表れている。

 

「まあ、良い奴だよ。私の“これ”もアイツがいなかったら治らないままだったろうし」

 

 とんとん、と叩いたのは左目につけられたソリッドアイ。そう言えば、千雨は一年ほど前に左目を失った、という話題が持ち上がっていたが、いつの間にか眼球そのものがはめ込まれていた。さらには、何か機械の組み立てに没頭している姿も見られたことから、同じ機械同士で詳しいのだろう、とRAYに対するイメージを刹那は組み立てる。

 そのうちにイメージ内では未曾有の機械の化け物になっていたのだが、当然ながら千雨はそんな想像を知ることはできない。間違った方向に刹那の想像が加速したところで、千雨の置いて行くぞー、という声に現実に引き戻される。

 その後二人の少女は寮につき、自室で明日を夢見る眠りに就くのだった。

 

 

 

 学園長室の床が揺れたかと思うと、そこから学園長が変わった三本脚の機械を隣にして浮かび上がってきた。地面の波が収まると、学園長はいつもの椅子に座り、仔月光を机に置く。大切な資料や書類仕事に使う書類の数々は、彼が指を振るだけで、空を飛んで一定の場所に片付けられた。

 

「さて、これで場は整ったかの」

『≪面と向かって話をするのは初になるわ。私はRAY。麻帆良学園学園長近衛近右衛門、よろしくお願いね≫』

「自己紹介はせんでも良いようじゃな。まあ、あれだけ電子精霊の防壁をも貫いておるなら、ワシら事は知っておるじゃろうて」

 

 ふぉっふぉっふぉ。そう快活に笑うと、真剣な瞳へと彼は切り替わる。

 

「さて、率直に効くとしようかの。お主は学園に害をなすのか?」

『≪NO。私の望みは、ただあの子を守るだけ。

 こちらからも言いたいことがある。フォックスをそちらの戦力として提供した。そしてその戦果は貴方の知っている通り。……そこで、取引を持ちかけるわ≫』

「ほっほう…?」

 

 面白そうだと、学園長の目が怪しく光る。

 ……こうして、夜の対談は続いて行くのであった。

 




苦しかった。
いろんな意味で。

では、ここまでお疲れ様です。
ありがとうございました。
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