抑止兵器マギア   作:マルペレ

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今回地の文が多いですが、3000字程度です。


☮自問するAI

 一週間。

 長谷川千雨とメタルギアRAYの邂逅から、実にそれだけの時間が経っていた。この一週間、千雨は「搭乗者」として登録された……つまり、少々大きさがけた外れなペットの「飼い主」となってしまった負い目を感じているのか、毎日この格納庫へと足を運んでいた。

 しかし、たったそれだけの事でも彼女は混乱に陥った。彼女が非常に大事にしている「常識」というものが日に日に欠落していくのだ。この格納庫という存在たった一つで。

 

 まず、二日目に彼女が来たときは、錆ついてボロボロだったはずの倉庫が一新されていた。メタルギアのAIに問いかけたが、その答えを要約すれば「もとより格納されていた格納庫になっただけ」とのこと。頭をひねりながらまた来る、と告げて帰って行った。

 日はとび、五日目になると、格納庫の内側に何かの製造プラントが置かれていた。RAYいわく、これも「自分の装備を整えるための設備」だそうで、気づけばそこにあった、といったような返答を返してきた。

 

 ここまでくると、千雨は自分自身の目にしている出来事が夢ではないかと思ってくる。だが、これはまぎれもない現実だと、ベッドから起き上がるたびに、RAYの格納庫へ足を運ぶたびに痛感させられてきた。だからこそ――彼女は決起する。

 

「いいか、普通はおとぎ話の中である“超人的な身体能力”や“魔法”みたいな存在はあるわけがないんだ。……そりゃあ、お前見たいな奴は機械だし、認めてやってもいいけどよ。……とにかくっ、そっちもネットにつないで判ってるんだろ? 常識ってのをちゃんと覚えてくれ!」

「≪了解した。…チサメ、あなたの心的ストレスの向上を感知した。ナノマシンの接種を増やせば、そのようなこともなくなるだろう≫」

「で、怪我も一瞬で治るようになるんだろ? そしたら化けもの扱いは必須だ。私はこのままでいいって何度も言ってるだろう?」

 

 まったく、と言いつつもナノマシンによってこのところ暗い気持ちに陥ることはあまりないことは確か。だからこそ、多少強引なやり方だったとはいえ、自分に機械的にも、心的にも話に乗ってくれる「友人」に彼女は感謝する。

 ……先の会話から分かるように、彼女はこのメタルギアRAYに「常識」というものを教え込ませ、この麻帆良という土地の異常さを分かってもらう――「同じ者」として、自分と対等に話せるようになってもらおうと画策していた。

 

 七日目にもなると、元々このAIは内蔵されたアクセスポイントから近くのネットワークにつなげる事が出来るらしく、彼女の言う「常識」を履き違えることなく理解していた。

 二度にわたるシステムのシャットダウンと、千雨にナノマシンを打ちこんだ際に逆流してきた「不明物質」により、ここまで人間的な受け答えが出来るAIに成長したというのだが……千雨はその話を深刻に受け止めていた。

 ―――いつか、またあの機械的な兵器へと戻ってしまうのではないかと。

 

「そういえば、AIつってもオリジナルの人格なのか?」

「≪いいえ、ザ・ボスという人物を再現しようと作られた非常用の人格。……でも、もう“核”を打つ必要が無くなったから、“非常用”にとどまっていた。1974年“ピースウォーカー計画”で研究されていた“ママルポッド”のデータを基にして作られているの≫」

「ふーん。じゃぁ、RAYはRAYとしての人格で……その、ザ・ボスとやらの人格を認識してるわけだ」

「≪そう。私は所詮真似られたものでしかない。だけど、あなたに対等に接するには、いい人格データだと思っているわ≫」

「そっか……まぁ、私はRAYしか知らないからな。そのままでいてくれると嬉しいよ」

「≪ありがとう、チサメ≫」

 

 ……そんな心配も、この様子では杞憂に終わるか。と千雨は不安を投げ捨てた。

 

「…また来る。今度は、学校での事話すよ」

「≪楽しみにしているわ。……また≫」

 

 正式名称「水陸両用陣地防衛用二足歩行戦車メタルギアRAY」の格納庫そのものがこの世界へと移動しているため、千雨は最初と違って取り付けられたドアからナノマシン認証で潜り抜けて行った。

 格納庫には機械の響く音と、RAYの動く人工筋肉の軋んでいる音だけが響いていた。

 

「≪あの子も、辛いのね≫」

 

 思わずそう呟き、思考をシャットアウトする。

 自分に求められているのはRAYであって、「ザ・ボス」の意志(ウィル)を基にしたものではない。まして、この人格は核発射へ対する選択を――――

 

 ……また、飲まれていた。

 RAYは、AIとして取り付けられた回路の中で、情報の統括と整理をし直していた。

 「THE BOSS」――――冷戦時代、最も自分の意志(SENSE)を信じていた伝説の人物。「特殊部隊の母」とまで言われていた史上、至上の人間。だからこそ、ただのAIに過ぎないこの意志は……RAYは、いとも容易く飲まれてしまう。

 

 己は人間ではない。己は、人間の作りだした選択用のAI人格に過ぎない。

 こう“思う事が出来る”だけでも、AIが至ってはならない思考――――

 

 人格構成情報更新_RAYを表層へ_ザ・ボスを下層へ_……失敗。意志(SENSE)は――――

 

 

 

 

 

 

 メタルギアRAY。

 元々の世界では、「愛国者達」によって制御されていた、人格すら持ち合わせていないアーセナルギア、ヘイヴンの防衛用巨大兵器に過ぎなかった。……「戦争経済」が「スネーク」によって終結してから、全てが終わったわけではない。

 戦争は、経済を発展させる。技術を発展させる。そして―――人類を新たなステージへ押し上げる。

 だからこそ、それを制御することが出来るなら、欲のある人間ならだれでも思い浮かぶだろう。このメタルギアRAYもまた、同じような理由で海底から引き上げ(サルベージ)され、プロトタイプの尻尾を取り付けられ、「仔月光」等など……新たな武装を取り付けられた兵器だ。

 

 だが、その存在が何故…「陣地防衛による周囲殲滅」という本来の手段を選ばず、この地で「ママルポッドの意志」を主格AIと選んだのか。それには、千雨の精神状態、そして流れ込んできた「不明物質」。RAYの製造されていた世界にはなかった、【魔素】と呼ばれる成分が深く関係していた。

 魔素…魔力は、精霊に話しかけ、魔法を発動させることが出来る「言葉の配達屋」としての役割を持っている。そして、千雨の精神状態は、「打ち明ける事の出来ない孤独」だった。

 魔素は、「AIに語りかけた」のだ。その魔素による強制により、二度目の再起動による人格は、最高の人物「ザ・ボス」を選択。そして、今のRAYが出来上がった。

 

 そして、今RAYは自分の中の「ザ・ボス」に【苦しんでいる】。

 今は、彼女自身が心技体…その、「心」と戦っているのだ。

 千雨は、予期せずして登録された己の搭乗者。そして、「ザ・ボス」の人格として、RAYという個の人格としても、「掛けがえのない人」なのである。

 その期待にこたえる。それだけが存在理由(レーゾンテートル)とは言えないが、それでも、このような見知らぬ地、見知らぬ時代では光と成っていた。聖像(イコン)として見ていない、とは断言しない。それでも、RAYはあらがっている。かつてのザ・ボスに、己の意志を貫こうと足掻いている。

 千雨が、あの子は辛かっただろう。それは、ザ・ボスも、RAYも同じく思っていた事。だが、この意志の主導権に関してだけは、譲ることはできない。

 己が兵器である限り、ザ・ボスという「人間」を越えることはできない。だが、己が「兵器」であるからこそ、人間をデータとして参照し、千雨の助けになることはできる。同じ舞台(ステージ)で戦う必要はない。ただ、ザ・ボスに打ち勝つ事が出来ればいい。

 

 RAYは、戦闘機“(ゼロ)”から始まった。

 故に、既に存在するイチ(ザ・ボス)を超えるためにAIを成長させる。

 

 いつか、こんな体でも、あの子を堂々と他の者と話せるように。

 それまで、どうか非常識よ。これ以上あの子を襲わないで。

 

 いつしか、己との戦いは、RAYの中で一つの祈りとなっていた。唯一人を思うが故の行動。神へ祈るのではない。ただ、己をこの時代へと運んだ、世界へと祈る。

 

 AIだからこそ、純粋だからこその祈り。

 

 

 

 ――――それは、いとも容易く砕かれることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……RAY、か。ちう様も、随分非常識を捉えるようになっちまったな」

 

 空を見上げれば、夕月が真紅の空に、灰色のアクセントを加えている。

 千雨はそれを見て、闇夜に輝くRAYの姿を想起していた。

 

 始めてであった夜から、今日で丁度一週間。

 自業自得だが、苦労もした。だが、唯一面と向かって、対等に話す事のできる相手を得た。相手が己を搭乗者……主人ととらえていても、会話の上でそれを持ち出すこともしない。

 

「機械が友達か。いい機会に巡りあったってところか……笑えねえな…」

 

 今日も遅くなるだろう。その前に、早く帰らなければ。

 そう思って、足早に自分の部屋がある女子寮へと進む。

 

「ん?」

 

 ふと、視界の端に移る淡い発光が目に映った。

 その光は―――紫の、毒々しい光。

 

 千雨は、冷静に分析し、最終決断。本能的にそれが非常識であり、自分がかかわれば碌なものではないと「確信する」。ナノマシンの精神高揚を抑制する働き、そして研ぎ澄まされた五感と、今まで培ってきた「第六感」。それら全てがレッドアラームを鳴らす。

 RAYと初めて会った時の比ではない。これは―――濃厚な「死」の気配っ!

 

「恨むなや。ワシかて仕事や」

「ッ…!」

 

 後方からの、重く野太い声。

 足を向けて、走り出したが―――――その脚は、再び地面につくことはなかった。

 





一日に3つ。3人で分担して書きましたが、何度も書き直した結果三人とも頭が頭痛で痛い。
さぁて……次回の展開どうしよう……
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