他人を巻き込む考えは、時に人を傷つけもする。
そう、所詮いくら考えたところで全てを卸すことなど不可能だ。
ならば、私達は前向きに生きよう。
それしかないというのは、詭弁であるのだが……前を向いた方が、可能性はあるだろう。
振り返ることも、忘れてはならない。
「≪チサメ、そろそろ中間テストの日程が迫っているけど大丈夫?≫」
「……なんくるないさー」
「≪その表情で言われても何ともならないわよ。現実を見なさい≫」
「じゃあどうしろって? 理数系以外は全滅だ、私は」
「≪威張って言わない……≫」
そんな事を言いながら、作業服を着て念入りに機器を弄っている千雨の姿に、将来の不安をRAYは感じ取っていた。確かに、元からのパソコンを扱っていた計算技能と、ソリッドアイの製作や今までの魔法を避ける練習で算出速度は並居る中学生のソレをはるかに凌駕しているものの、他の教科に至ってはお世辞にも良いと言える点数を見た事がない。彼女の総合成績自体、同学年全員分の半数を下回っているので、いくらエスカレーター式の学校とはいっても就職などになると響いてくるだろう。(最も、このまま株に走りそうな気配もあるが)
そんなRAYの葛藤を知らずに、鼻歌交じりに新たな機器を製作する姿にどうにも最後の一手が言いだせないRAY。これも、操縦者権限ということだろうか、と通常AIにはあり得ない「感情」に身を任せて天を仰いだ。当然、その動作には金属同士の軋む音が発生し、格納庫に響き渡る。
「…なんの騒ぎだ」
「≪起きたのね、フォックス≫」
そんな中、部屋の影で見え辛い一角からフォックスがのっそりと歩いてくる。
「≪チサメの中間テストが心配で……嗚呼、どうにからならないかしら?≫」
「…俺に聞くな。その話をしても無意味だろうに」
「≪それもそうね。絶対兵士として育てられてきた貴方、勉強とか、学力とか無いに等しいわよね≫」
「……鍛錬に行ってくる」
ぷい、と何かを振り払うように外へ足を向けた彼は、そのまま水道の水を顔に浴びせて外へ。手にはしっかりと高周波ブレードが握られていた。
丸聞こえのその会話に、千雨はあーあなどと声を漏らすと、呆れたようにRAYへくるりと向き直る。
「遠回しに馬鹿って言ってるようなもんだろ。RAYも随分とデリカシーの無い」
「≪……あら、そうだった?≫」
メタルギアRAY。彼女のAIは、まだまだ人への思いやりの心が備わっていないようだ。
それはともかくとして、中間テストは既に来週にまで迫っていた。千雨のクラスでも、件の子供先生が授業の前に脈拍、動悸共にアセアセとさせたままにテストへ関心を向けさせるような発言をしたことから分かる様に、学級のみならず、学校全体に勉強ムードが漂い始めている。いや、一か月前に対策ぐらいしておけと言いたいところだが……「嗚呼、哀しい哉」これが麻帆良が麻帆良たる所以であろう。
そして、せっかくの教師が促した勉強ムードは、どこをどう受け取り間違えたのか「英単語野球拳」というお祭り騒ぎに早変わりし、結局、今日の英語の授業も後半はお遊び満載で2-Aは授業の進行が遅れた、ということになるのだろう。だが、子供先生=ネギ・スプリングフィールドも、そんな中でキチンと進めようとする志を見せている辺り、伊達に先生を請け負ったという訳ではないようだ。授業後半でその雰囲気もグダグダではあるのだが。
そして、その日の夜。浴場ではうわさ好きな中学生らしい「ある噂」が広まっていた。
曰く―――「今度のテスト、最下位のクラスは解散」及びに「図書館島の“
通常ならあり得ない噂だが、それを進撃に受け止めてしまうのが中学生の好奇心、そして麻帆良のどこか常識から外れている思考回路のなせる技であろうか。ソレを鵜呑みにした少女たち、約五名…所謂、成績の悪さから「バカレンジャー」と言う
それを浴場の隅で聞いていたのは我らが主観人物、長谷川千雨。そして、その周囲にはエヴァンジェリンと真名も集まっていた。
「…あいつら、自分でやろうって気はねーのか」
「RAYから聞いたぞ? そう言う貴様も勉強を怠っているのであろうに」
「あ、アイツいつの間に……」
「へぇ? レイさんも中々に情報通の様だけど……」
「……まぁ、な。……聞こえてないよな?」
「安心しろ。雑談魔法をかけてある」
それなら、と千雨は真名の問いにコクリと頷いた。
どうせこれから「裏」で仲良くなっていかざるを得ない程にどっぷりと浸かってしまっているんだ。学園長も、それこそ、千雨に直接の出撃命令はしないだろうが、千雨が情報バンクで、同時に分析者でもあるだろうRAYと常に通信で繋がっていられるというのは、此処麻帆良で未知の敵に遭遇した際には十分なアドバンテージになる。千雨は直接その場に赴かないまでも、この前のように狙撃で援護。ないし、今のところは目立っていないが、得意のハッキングをしながら麻帆良の防衛部隊に情報を流すことも可能だ。
いつか、もしもその時が来るのなら。千雨はそう腹をくくって決意している。「玉抉」を見せろというのなら、いくらでも振って見せようという覚悟はあった。
「長谷川さん? 少し顔が強張っていますよ」
「ん? あぁ、ありがとな桜咲」
「……先ほどの表情、何を考えていたのかは知りませんが、戦闘は此方で引き受けているんですから。長谷川さんは安全な場所にいてもいいんです。逃げる事が、貴方の本来の目的でしょう?」
「……ま、そうだな」
サンキュ、と礼を受け取ったのは、何やら盛り上がっているバカレンジャー組と和気藹々としている近衛木乃香を遠目に見続ける侍、桜咲刹那だった。千雨に的確な言葉を投げかけたのも、彼女自身が経験した薄暗い過去が原因で、そう言った感情には少々気づきやすいようだが、ここでは触れないでおこう。全ては、時が来ればおのずと知ることになるのだから。
「…エヴァンジェリンさん、居たんですか」
「最初からいただろう? ふっ、まぁそう邪険にするな。ジジイから聞いた話もある。近衛に手は出さんさ……桜咲刹那」
「それならば、よろしいのですが」
「おっと、そう言う物騒な話はここまでだ。
「龍宮の言うとおりだっつの。お前らもそう剣呑になるなって」
どうしてこのような場で血が流れるような真似をするだろうか、いや、させない。そう判断した二人が軽く疎めにかかると、それもそうかと聞きわけた二人は千雨と真名を挟んだ両側に座って湯船に浸かる。そんな様子に、どうにも周りが戦いにあふれている気がするなぁ、と嘆きを漏らす千雨に、真名は喉の奥で笑うのであった。
「それで、先ほどの明日菜さんたちの言葉ですが……本当に図書館島へ行くのでしょうか? お嬢様も同行する気の様ですし」
「放っておけ。どうせ学園長が手回ししてあるだろう。奴の先見はそれこそ未来予知クラスだ」
「それならば、良いのですが……」
「……あ~、なんだ。その」
「?」
一応、桜咲刹那という人物は、近衛木乃香の護衛を長から任されている身である。故に、木乃香を案じる心から出た一言であったのだが、それを拾って茶化すエヴァンジェリンと、そして何より千雨の言いにくそうな言葉に引っ掛かりを覚えた。
どうしたんですか、と聞く前に、彼女は言いにくそうに後頭部を掻く。ほんの一瞬悩むようなそぶりをした後、開き直ったように千雨はポツポツと話し始めた。
「いや、実はRAYの方にも近衛の護衛任務が行ってるらしくてな」
「なっ!?」
「これで見ると分かるんだけどよ、アイツの傍にはウチの情報端末機
「……貴様に付いている方はMk.Ⅱ…だったか? それの後継機ということか?」
「そう言う事」
「それで、それがどのように関係してくるんだい?」
真名が聞くと、千雨はつまり、と説明を始める。
「そっちの映像を、こっちのMk.Ⅱの画面にリアルタイムで写せると思う。心配だ、って言うんなら、貸してやるけど……」
「それは、本当ですか!?」
「ま、まぁ……てか近い。寄るな」
あ、すみません。と言いつつ冷静になるため深呼吸する刹那。いくらか落ち着いたところで、お貸し頂けるのならと千雨に頭を下げた。
「RAYも、別にいいよな?」
『≪これは労せずして、自然と情報を手に出来るチャンス。その代償がMk.Ⅲ一つなら安いものよ。いざとなれば自壊機能を使えばいいのだから≫』
「―――だってよ。そんじゃ、上がったら後で部屋に来てくれ」
「長谷川さん、私も御同伴よろしいかな?」
「ま、暇だし別にいいだろ。私は横で勉強させられるだろうけどな……」
そうして刹那と真名の訪問を許可した千雨だったが、実は彼女、部屋に帰ったらフォックスが待ち構えている。それも、RAYと強化外骨格の予備を作っておくという契約をした最高クラスの
「私はやる事がある。遠慮させてもらおうか」
ただ、エヴァンジェリンはそう言ってお湯を滴らせながら立ち上がり、浴場を出て行った。おそらく今夜も行うであろう吸血行為の予定が押しているということだろう。他の三人も、エヴァンジェリンがいなくなったことで魔法も解けてしまっているので、ある程度「表」の会話をつづけた後に湯船から上がって寮へと戻ったのだった。
「待っていたぞ。チサメはこっちだ」
「へーい……」
「「御愁傷様……」」
千雨の部屋に着くや否や、正面に待ち構えていたフォックスが彼女を連行して行った。取り残された二人はあの話は本当だったのかと思いつつ、残されたことにこれからどうやって約束を守るのだろうと疑問を抱く。ソレを見計らってか、ステルス迷彩を解いたMk.Ⅱが出現すると、彼女が勉強している部屋とは別の方に案内していった。
それに従い、Mk.Ⅱを机の上に乗せる。すると、開いたモニター画面に光が灯り、合成音声が流れ始めた。
≪今回のミッションサポートを行います。まずはMk.Ⅱの映像投影を行います。後を追っているMk.Ⅲの映像及びに各箇所に配置された
「! お嬢様……それに、ネギ先生…?」
「こりゃあよく出来てるね。というか、何で先生まであんなところに…」
普通に画面を見るだけで良いのではないかという突っ込みはともかく、映し出された光景は図書館島の本棚の上を歩く一行の姿だった。映像では途中で矢が飛び出てきたり、底なしの下へ容赦なく叩き落とす落下トラップが仕掛けてあったりなど、一般人では最初の罠だけで「死亡」してしまうような危険な物ばかりが映される。
ソレを見ている刹那は木乃香を守るという立場上、知らない方が良いのではないかと思うほどにハラハラしながら見ており、真名が彼女を疎める役として収まっているというのが監視者側の構図。まるでテレビでの野球観戦に盛り上がる人のようだったと、後に真名は語る。
『≪さあ、この上に目的の本がありますよ≫』
いくら安全性があるからとはいえ命綱一本で巨大な本棚を降下、さらには前に進めば進むほど狭くなっていく通路をほふく前進で進む一行は遂に巨大な石像がある場所までたどり着いたところで、「綾瀬夕映」がそう言って立ち止まる。その探究心、執念には恐ろしいものがあるが、残念なことにその様子は画面が切り替わることで刹那たちに見られている。つまり、仔月光が容易く先回りしていたということだ。
さて、そんな感動ブチ壊しの事実を知らない探検者は、ネギの最高クラスの魔法書(こう言っている時点で疑問を抱かなかったのが幸い)という言葉に興奮し、我先にと走り始める。
ところで、探検やアドベンチャー系のダンジョンが主に取り扱われる映画でのお約束事には、「欲を出したものから死んでいく」というある意味当たり前なトラップが仕掛けてあることが多い。それは、調度品を動かすと発動したり、最奥域の場所の手前にあったりと、フィクション好きのみな様なら「死亡フラグ」という名称で有名だろう。だが、流石に生徒が来るであろうと分かっている場所。そんな物を置くわけにもいかない仕掛け側は「試験で悩んでいる」彼女たちに、相応しい試練を用意していた。
全員が明らかに危ない橋に足がついた場所で、それは起動する。
『≪キャー!?≫』
モニター越しで分かるほどにあからさまな位置にあった物体が、轟音を響かせて橋を突き破る。それは、娯楽好きの彼女たちがすぐに理解できる一つの盤だった。
「あれ、ツイスターゲームだねぇ」
「……お嬢様たちが落ちないのは良いが、考える事がいまいちわからん」
「学園長の意図を先読み出来る奴なんているのかい?」
「いない、だろうな」
『≪フォッフォッフォ≫』
はぁ、と溜息をつく彼女たちは、画面から聞こえてくる特徴的な笑い方をする石像を見て、すぐにその正体を看破した。鉄球を持った兵士の
「ああ、そんなはしたない恰好で……というか、狙ってるな」
「趣味も交じってるのかなんだか知らないけど、この映像とってる
そんな疑問もすぐに捨て去るほどに、「英単語ツイスターゲーム」とやらを実施されている彼女たちは、肢体を絡み合わせて何かよくわからないピカソの絵をオブジェにしたような物になっていた。あれでよく関節が外れないものだと感心して見ていた二人だが、次のの光景には目を疑うこととなる。
「DISH」の回答を間違え、お皿ならぬ「おさる」にしてしまったがゆえに回答を間違えてしまった彼女たちに、勢いよく鉄球が振り下ろされたのだ。
『≪ハズレじゃな。フォフォフォ……≫』
『≪いやあああああ……≫』
「「お、落としたぁぁぁああああ!?」」
下はどう見ても奈落の底。其れから守るためにツイスターボードを置いていたと言われれば納得できる配置だったというのに、学園長操るゴーレムはそれを鉄球で大破壊。足場を失ったゲーム参加者及びに応援していた二人を含めて奈落へと落下して行ったのだ。
これには唖然、驚愕、そして刹那は木乃香の無事を願ってふらりと後ろに倒れる。ソファにもたれかかる状態にはなっているが、よほど精神的ショックがあるのだろうか、真名が調べて見ると、完全に気を失っているようだった。とりあえず彼女は運んでおくとして、真名は後を追って壁を這って移動して行く数匹の仔月光を映す画面を見て、まだ奥の方には配置していなかったのか、などと、至極どうでもいい疑問を抱く。所謂現実逃避という奴だろうかと自嘲し、すぐに我を取り戻したのであるが……。
「……いや、どう収拾付ければいいんだい? これ」
気を失った刹那を抱えて、再び画面に目を移せば水飛沫こそ上がったもののおそらく風を応用した浮遊魔法で落下の衝撃を殺して無事な一同の姿を確認。そこで映像が途切れると、後で無事ということぐらいは話しておこうと刹那を見た。
そんな時、突然に入口が開いて千雨が入ってくる。勉強終わったー、と腕を伸ばしている姿からするに、結構な時間が経っていたらしい。時計を確認すると、もう夜の三時を回っていた。
「ん? 終わったのか」
「おかげさまでね。…刹那はショックなことがあってこうなったけどさ」
「それで、どうだった?」
「学園長がね……」
一部始終を話すと、麻帆良で間違った常識を持っていないと曲解するような内容なかりになんつーギリギリセウトだ、と頬をひきつらせた。一応魔法が直接かかわっている要素は最後だけで、ゴーレムなどは技術部の仕業で片付けられるので、彼女の意見はセウトだったわけだが。(つまり、全体的にセーフだが少し目を凝らせばアウトという判定だ)
「そりゃまた、……桜咲も可哀そうにな」
「私らはこれで失礼するよ。そっちも体調管理には気を付けておくといい」
「ナノマシンで何とかなるが…まぁ受け取っとく。それじゃまた学校でな」
それじゃ、と去って行った真名を見送ると、千雨もまた寝室へと足を向けた。見張りとしてそびえ立っていたフォックスの姿は消え去り、代わりに窓が開け放たれカーテンが揺れている。女子寮にフォックスの様な男がいるのは何かと不味いので、こういう帰還方法は存外に効果的な移動手段なのだが、開け放たれた窓からはまだ冬明け程度で寒い風が吹き込み、千雨の肌を撫でる。寒い寒いと早々に窓を閉め、取り残されたMk.Ⅱの充電を始めると、彼女はRAYへ通信を開いた。
「よ、どうだった?」
『≪あの子たちのおかげで最奥部への侵入に成功したわ。どうせばれて壊されるでしょうけど、事が終わるまでには何体かをあの場所で資料を漁らせるつもりよ≫』
「RAYも中々悪ドイもんだ。情報は何よりも価値があるって?」
『≪あら、いざという時の手札はあるに越したことは無いわ。例え私たちに魔法が使えなくても、成り立ちや仕組みを知れば対処法はいくらでも浮かぶもの。……まぁ、精霊の動きを完全に止まらせるジャマーが作れると一番いいのだけれど、学園長の話だと自然法則・神秘法則の成り立ちそのものに触れる行為だから無理なのよね≫』
「それこそ原点に触れるには、魔法を使う必要があるか……私もフォックスも無理だな。魔力がない」
『≪ならばと一番親交が深いエヴァンジェリンはただの師匠。まぁ、その辺りはどうとでもなるわ。そろそろ切るわね、また≫』
「はいはい」
通信を終えると、千雨はパソコンの画面を点けた。これからはネットアイドル・ちうたんの時間が始まるからだ。…実はここ最近、忙しくて画像のアップが出来ていない彼女は、そろそろ限界だった。故に、
「さ~て、今日のアップは遅くなっちゃったけど……
いざ、始 め る ぴ ょ ん !」
こうなってしまうのも、仕方がない事なのだろう。
『≪学園長、映像の一部始終は見させていただいたわ。……大丈夫なの? アレ≫』
「RAYくん、そうカッカするでない。……なぁに、問題ないよ。あの場所自体食料も十分にあり、彼女らのクラスは英語を除いて全教科のテスト範囲分の授業は終わっておる。あとはネギ君の気力と彼女ら次第じゃろうて」
『≪それもあるわ。でも、魔法の秘匿に関してはギリギリのラインだったじゃない≫』
「……生徒を危険にさらすようで残念じゃが、あの者たちは、木乃香も含めて魔法に関わらざるを得ない状況に陥る者ばかりなのじゃよ。木乃香に至っては西の長の娘、という点だけで強硬派や反対派と対面する時も来るであろうし、明日菜君はタカミチ君のお墨付きじゃ。……ほんに、嘆かわしい」
『≪……そう嘆くばかりじゃなく、考えはあるみたいだけど? 台詞と行動を一致させなさい。狸さん≫』
「フォフォフォ……なぁに、本当の危険とは程遠い“魔法”にするつもりじゃよ」
RAYと通信している学園長は、嘆かわしいと言った内容と違い、その表情は穏やかそのもの。老獪な大人の余裕がありありと見て取れた。だからと言って、生徒を危険に立ち会わせるつもりはない。魔法に関わってしまうのはまだ最低ラインとして、最悪は「殺し合い」に発展する場に居合わせる場合だ。まだ、魔法を知るだけなら後戻りはできる。だが、深入りする場合は千雨のように真剣に殺し合いと向き合う体制がないと簡単に逝ってしまうだろう。
だから、学園長はギリギリのところで魔法以外の脅威を見せつけた。ボードを破壊したハンマーの威力しかり、高所からの落下による死への恐怖しかり。どれも受け皿を用意したデモンストレーションであったとしても、それを畏怖と捉え、手を引くならば良し。だが、逆に興味を持ってしまった場合は……その人物の最終判断である。魔法側はそれを受け入れよう、という判断だった。
結局、公的な立場で最高位に立ったとしても、個人の全ては守りきることなど、できはしなかった。ならば、その個人が力をつけてもらうしかないのである。その教えを希うというのならば、それはまた学園長たちの出番。彼らは教師であり、子供を導く「仕事」をしているのだから。
「そうじゃな」
『≪?≫』
「ワシとて、そう簡単に命を散らせるような策は練らんよ。狸と言われるのもそれほどまでの腕があるとほめ言葉として受け取れるものじゃ」
『≪……観測値、喜悦が上昇。不安が減少。思考の分裂、及びに速度上昇。……なるほど、伊達に数百年は生きてはいない、という訳? 策の翁様≫』
「ふぉ、君に“ナノマシンを注射してもらってから”というもの、この上なく調子が良いのでな。そう簡単に破れるような策は作らぬよ。―――それこそ、君のように、人の感情や意志を全て掌握できた、という訳でもないがの。全てはその人間が全てを決める。そこに我々の意志が入り込む余地などないのじゃよ」
『≪こちらも観測や思考の促しはできても、その人の意志そのものは操ることはできないわ。そうね……貴方も私も、どっちもどっち、ということになるかしら。それに、貴方が注射を受け入れたことでチサメの仲介役と言う危険が消えてくれて此方は万々歳なのだけれど≫』
「フォフォフォ」
『≪ふふふ……≫』
どちらも策を用意し、自ずから動くことは少ない者同士で通じるところがあるのだろう。悪の代官と越後屋のように笑い合う姿は、見ていて子供の教育に良い物でもなかった。
ようやく始まりだしたのは、魔法が紡ぐファンタジーストーリー。はたして、神にスポットライトを浴びる「主役」は誰になるのだろうか? それは、貴方の心で判断してくださるとよいでしょう。すわ、物語とは、たった一人で動くものではないのだから。
ここまでお疲れさまでした。
本当ならば今日の零時に投稿する予定だったのですが、ほかの小説のほうに間違えてこの話をやっちゃって……削除と修正加えるいい機会にはなったんですが。
そろそろ、原作の主人公ネギ君側のほうも描写しておきたいですね。
大量のフンコロガシに監視されている状況……いや、2-Aが先に気付くという突っ込み話でお願いします。
少し後書きが長くなりましたが、これにて失礼させていただきます。