抑止兵器マギア   作:マルペレ

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今回は短め。
次回はしっかりと描き上げますので、またお待ちください。


☮春原の先駆け

「期末に向けて勉強しておきましょう!」

 

 図書館島の最下層……と言うらしい場所に落とされて、脱出の手掛かりもある筈も無いのだが、学生の本分、更には教師の役目である勉学への興味関心を呼び起こさなければ、脱出できようと出来まいと必ず控えている期末テストは散々な結果で返ってくるだろう。

 彼女たちの学校はエスカレーター式でも、こう言った小さな積み重ねや成績が後に響いてくる事は理解している。だから、クビ……はこの際怖くても抜きにして、本分を全うさせなくてはならないと思った。

 提案には笑われてしまったが、勉強への意欲は出してくれたらしい。「腹が減っては戦も出来ぬ」という諺を実行するためか、食料探して走り去って行った彼女たちを見て、少し安心の息を着く。腕からほどけるように抜けて行った黒い模様も、魔法が使えない代わりに時計代わりには役に立ちそうだ。

 

「もう一日経ったんだ……あと、二日かあ」

 

 それまでの間、未熟な身ながらも彼女たちにしっかり教えないといけない。先ほどの「頼りになる」。そう言ってくれた生徒の信頼を無碍にしないためにも、しっかりとやっていこう。

 

 

 

 同時刻。まだHRも始まっていない教室はどよめきに満ちていた。

 成績が最下位だった時、新任教師のネギ先生は解任。更には、そのネギ先生と、成績が学年ワースト5に入る五人組…通称・バカレンジャー(+1)がもろとも行方不明になったという衝撃の情報が飛び交っていたからだ。最近になって無難に成績を上げてきている千雨はそう強くいわれることはなかったが、このような喧騒の中では彼女らが落ち着くまでに時間もかかるだろう。そう判断して、すっと立ち上がった。

 すると、普段はほとんど輪の中に入らないうちの一人が教卓側に歩いてきたからか、教室は徐々に静まり始めた。今回ぐらいは大目に見るか、という気持ちで彼女は脚色した真実を語り始める。

 

「いいか、ネギ先生(あのガキ)は例の五人と臨時教師に近衛連れて強化合宿に入ったって高畑先生から聞いた。ウチらがまた馬鹿騒ぎすると他のクラスにも迷惑がかかる。さっさといつもどおりに戻ってテスト対策しとけ。……以上」

「「「「「…………」」」」」

 

 顔の紅潮も無く、まるでそれらが本当に聞いた事の様に千雨の口から語られた事によって、再び雪広あやかの手でクラスの勉強スケジュールが整えられていった。千雨と言う珍しい人がクラスをまとめた事に興味を持った人物もいたようだが、今はネギ先生の為とクラス全体が喧騒の声から相談の声に包まれていく。

 面倒だった。そう思って席に着くと、エヴァンジェリンが意地悪げな笑みを浮かべて此方を見ているのが目に入った。

 

「……んだよ」

「いや、思いのほか貴様も思い切りがあるものだ、と思ってな」

「うっせ。私だって普通はやらねーよ。あんな事」

「ほう、では普通ではなかったということか…?」

 

 あげあし取りやがる。と辛辣な視線で射抜いていたのだが、そこは600年を生きる吸血鬼。なんなく受け止めてにやにやと此方を見つめるばかり。急遽、HRは代理としてしずな先生が来た事によってクラスはまとまったが、その後もエヴァンジェリンから常時見られている錯覚を受けながら千雨は授業に臨むのであった。

 

 そして、昼休み。屋上に出た彼女は刹那に迫られていた。

 

「予定調和とは、本当ですか!?」

「学園長の考えなんか知らねえって。私はクラスの耳をつんざく嬌声聞くのが嫌だっただけだっての」

「いえ…お嬢様の無事は確認したのですが……しかしあれでは秘匿が……」

「それ、結界とやらが発動してんだろ? あの忌々しい認識阻害とやらがさ。だから近衛もそんな深い疑問には陥らなかったし、落ちた後もあの不思議空間を先生の元で勉強補佐してるらしいぞ」

「…それなら、よろしいのですが」

 

 うむむ、と難しい顔で唸る彼女を見て、ふっきれる前の自分のようだと千雨は思う。

 先日エヴァンジェリンから教えてもらった、「麻帆良大結界」の存在。自分が孤独や意見の食い違いを延々と経験させられ、RAYと出会うことになった全ての原因。今となっては、常識を持った仲間同士に飢えていたのではなく、「同じ意見を共有できる友達」がいなかったから捻くれていたのだ、と悟ることが出来たのだが、今や同じ認識阻害が効きにくいごく少数派の同類には合唱せざるを得ない。

 ともあれ、その大結界があるからこそ魔法の秘匿は行われ、目の前で魔法を見ても「麻帆良領域内で起こった事全て」マジックと誤認させる事が出来るのである。近衛はそう言った耐性があったわけでもないので、大丈夫だろうという希望的観測だ。ネギが直接ばらしていなければ何も問題は無い。

 

「お嬢様の元に行きたいのですが…ああ、何たる不覚…!」

 

 まあ、こうして目の前で悩んでいる過去を抜け出してきた武士も、どこか馴染み辛そうな雰囲気を放っていると思ったに過ぎない。千雨の興味が引かれたのはそこまで。実際、その先に深入りするというのは、当人同士の問題に横入りする無粋な真似と分かっている。

 だからこそ、ちょっとした一般人の視点でアドバイスをするだけだ。

 

「そう心配するなって。例によって、あの学園長が計画してことに危険は無いだろ」

「……そう、ですよね。御自分の孫に対して、そんなに危険が……足場破壊……」

「…………」

 

 助言しても、自分で負のスパイラルに入りだした刹那に対して、千雨は匙を投げた。

 

「そういえば長谷川、最近フォックスを見ないが、奴は何をしている?」

 

 口元の引き攣った彼女に、エヴァンジェリンからそんな声が掛る。確かに、最近こちらでも見る機会が減っているので、少しRAYに問い合わせてみるという事で、話に一旦の区切りがついた。それから無線通信でしばらくの時間が無言で過ぎ去り、とぼとぼと刹那が屋上から出て行ったころに、ようやく千雨はエヴァンジェリンに向き直る。それなりに長い話であった事は間違いないだろう。

 

「特務、だと」

「……それだけか?」

「麻帆良圏内でやってるらしい。ガンドルフィーニと高畑との三人作業……までは教えてくれたんだが、それ以上がどうにも聞き出せなくて。最近仲良くなり始めた大人陣だけど、それも関係してんのか?」

「……また、珍しい組み合わせだな」

 

 とくにガンドルフィーニ辺りが。と彼女は強調する。危険な異物排除の思想を持っている人物がまだまだ道にあふれるRAY陣営と何かしている事に対して思うところもあるのだろう。

 

「私も、射撃訓練しておこうかな」

「突然どうした?」

「いや、少し気になってよ。近々最大級の面倒が起りそうな気が」

「予知能力者気取りか?」

「いんや、女のカン」

 

 は? と心底不思議そうにぽかんと口をあけているエヴァンジェリンに、少し頭に血が上った彼女がゆらりと立ち上がる。右手は例のポーチに忍ばせており、しっかりと何かを手に掴むと、重量感のある光を反射する鉄の物体を取り出した。

 かくして、麻帆良の温かみが出てきた空に、一つの悲鳴が響くのであったとさ。

 

 

 

「むぅ~……えっと、こことここが掛け算で……」

「数学は式さえ覚えてしまえば応用が利きます。ですので……」

 

 意外と順調だ、というのが正直な感想。バカレンジャーと呼ばれていた五人も、直接手ほどきを受けてもらえばそんなに酷いということも無く、確実にその実力を伸ばして来ていた。既に2回ほど実施した小テストの点数もぐんぐんと伸びてきている現状であり、やればできる、というのが生徒に対して抱いた好感触の感情。ただ、惜しむべきは常日頃の集中力の無さか。

 

「…50分経ちましたので、また休憩にしましょう」

「「「やったー!!」」」

「ですが、10分後に再開します。次は英語をしっかりやっていきますね」

「「「「はーい!」」」」

 

 集中力の続く時間と、適度な休憩とを交互にやっていくと、勉強の効率が良い。事実こうしてきたことで力をつけているし、一度はちゃんと授業で聞いている内容を復習しているのだから、既にある知識を引き出すだけでそんな苦労も無いように見える。そんな教え子たちの姿を見て、ほっと息をついた。脱出の手掛かりはまだ得られていないが、この調子だと期末テストもいい結果が出せそうだと思ったからである。

 しかし、不意に開けた視界の先に黒い物体を見つけた。ギリギリで目視できる範囲で目に留まったものだが、このような幻想的な空間には余りに不釣り合いな…金属の光沢。

 

「なんだろ、あれ……」

 

 好奇心は猫をも殺す。また日本の諺が頭によぎったが、ここにきて子供の好奇心が理性を上回る。気付かれないよう、そーっと後ろに近づくと、真っ黒な球体に三本の腕が映えた物体がしきりに本を読んでいる姿が確認できた。

 知性はある、という事なのだろうか? 此方に気づいていない事で自分の警戒心も下がってしまったのだろう。つい、声をかける。

 

「こんにちは。何してるんですか?」

「≪…!! ……あら、あなたは?≫」

 

 一瞬動揺したようなノイズの乱れ。その後には、少し硬そうな印象を受ける女性の声が響いてきた。普通に会話をするのと同じ程の音量だったため、本棚の向こうに居る生徒たちはまったく気づいていないらしい。

 まあ、自分の息抜きにもちょうどいいかもしれない。そう考えて、ネギは質問に答えることにした。

 

「あ、ネギ・スプリングフィールドと言います。ここには伝説の本……じゃなくて、生徒の勉強をしに来たんです。そっちは、どうして此処に? 管理者の人ですか?」

「≪私はただの閲覧者よ。……それにしても、伝説の本ってあの石像が守ってた奴かしら?≫」

「知ってるんですか?」

「≪まあ、職業柄ね。……そうそう、私が此処に居ることは秘密にしてほしいの。……ああ、やましい事があるわけじゃないわ≫」

 

 疑問に満ちたネギの視線をカメラが捉えたのか、すぐさま怪しい訳ではないと否定する。

 

「≪ここの文献って、貸出禁止ばかりなの。しかも危険なところにあるからこうした端末を通して閲覧してるんだけど……工学部の人には此処の知識を使って新しい発明で驚かせようと思ってね。あまり広められたくは無いの≫」

「そうなんですか……発明、頑張ってくださいね」

「≪ありがとう、ネギ先生。…あ、呼んでるみたいよ?≫」

「え? ほ、本当だ! ありがとうございます! それじゃまた!!」

 

 いつの間にか十分も過ぎている。急いで生徒たちの元に戻ろうとするが、ふと、疑問に思った事があった。あの工学部と言っていた人から、名前を聞くのを忘れていたな、と。

 

「ま、いっか」

 

 そう言うのは流してすぐに忘れた方が良い。あの人も言いふらさないでと言っていたし、自分が忘れてしまえばふとした拍子に言うことも無いだろう。

 そんなことより、すぐに勉強を始めなくては。そうして走り去って行った少年の背中を、黒き機械のカメラがしっかりと焼きつけていた。その機械の名は仔月光(フンコロガシ)。不思議の独立兵器、RAYの小型ユニットである。先ほどまで読んでいた本を棚に戻すと、同じ機体がコロコロと集まって来た。

 

「≪~~~≫」

 

 次の指令を出すと、それらは全て濃い影の中に潜んでいく。RAYの図書館漁りは、まだまだ続く様であった。

 

 





ネギ君視点を増やしてみました。
RAYとの初接触がまさかのフンコロガシ。
千雨もRAYも、息を吐くように嘘を吐きおるわ。

一応空白の日だったので、ちょっとだけオリジナル展開?

それでは、お疲れさまでした。
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