抑止兵器マギア   作:マルペレ

26 / 47
いつまでも真剣な顔は続かない。
だから、息抜きがあってもいいのだろう。

先に据える未来のために、今はゆるりと憩うとしよう。
それが何に繋がるか判らずとも。


☮喝裁浴びて

「フォックスさん!」

「…あんたか」

 

 それは、まったくの偶然だった。

 この春休みには居る以前から、最近は学園長からの特務もあったことで、めっきり相手をすることは無くなっていた刹那、高畑、フォックスの三人合同訓練。長期休暇の間にようやく温かくなり始めた夜の世界樹広場に鍛錬にやって来たフォックスは、一人熱心に剣をふるっている桜咲と出会ったのである。

 彼女は剣を降ろし、フォックスに向かって走った。

 

「お久しぶりです。あれから、どうなされたのですか?」

「学園長からの任務の後、RAYの元でチサメと模擬戦を。とはいえ、どちらも真剣を使った死合になったがな」

「その時、技は?」

「……お見通しか。確かに使ってはいない」

 

 フォックスが持つ技には、幾つかの対特殊能力者の技がある。それは、遠距離攻撃が単調な物しかないフォックスが「気」を習い始めてから身につけた対抗策であり、いざという時はそれが主力とさえ成り得るものであった。

 一つ目に、「崩力(ほうりき)」。高周波ブレードの振動焼断という特性を気によって強化し、相手の魔法・気を扱う技の構成を接触個所から崩壊させる代物だ。あえて言い換えるなら、防ぐ盾ごと切り裂くものと言い換えることが出来るだろう。

 二つ目は、「剛力(ごうりき)」。気を飛ばすことが出来ないが、内気功の扱いには光るものが在るという高畑の言を受け、ここ最近で形になった、身体の一定個所の過剰強化である。ただ、それは強化外骨格と違って、自分自身の限界を超えさせる無理な強化になるので使用時には必ず筋肉や神経の断裂という副作用が発生する。普段使っている身体能力向上と違って、ここぞという場面にのみ使う技だ。ちなみに、彼はこれを一度も人目のある場所では使っていない。

 そんなシンプルだが、とても強大な力の一端をチサメに使うことは無かった。彼女はあくまで一般の人間を最大限強化しただけであり、フォックスやエヴァンジェリンの様に特殊な力で肉体強化がなされているわけではなかった事もある。……とまぁ、此処までいったのではあるが、なによりもフォックス自身が純粋な技術で戦いたかった、というのも大きく関係しているだろう。

 

「あの」

 

 自分の「技」を思い出している中、刹那はおずおずと言わんばかりにフォックスに語りかける。彼は思考の海から抜け出すと、彼女の言わんとすることを口にした。

 

「……修行、するか?」

「――はいっ!」

 

 そして、その夜の広場には、久しく聞こえなかった鉄の打ち合う音が鳴り響くことになる。数時間後には、月の光が世界樹に背中を預ける血濡れの男女が言葉を交わす姿を照らし出していたとか。

 まぁ、あくまで噂に過ぎないのだが。

 

 

 

 桜通りは、桜の満開の時間が長く、その景色の圧倒感たるものや凄まじいものが在ると言うことで麻帆良の名所になっている土地の一つである。春休みもまだ中盤のこの時期はまだまだ若い蕾がしっかりとその口を閉じているにすぎないものの、枝しかなかった箇所に色づき始めている光景は、見る人が見れば先が楽しみ、はたまた蕾に込められた命の息吹を感じる、と言った高評価を受けることになるだろう。

 そんな蕾だが、最近流れ始めた「噂」が多いに関係し、もうひとつ含んだ意味を持っていると考えることもできる。その噂の内容は桜通りを帰り道にしていると、この日の様に満月が光り輝いているときに、「吸血鬼」が出ると言うものだ。このご時世、馬鹿馬鹿しいと吐き捨てることも出来るだろうが、この場所で倒れていた最初の犠牲者である有沢奏の首筋には、確かに二つの出血穴が空いていたのだ。

 それからだ。この噂が流れ始めたのは。

 

「……とはいっても、こうも人が来なくては犠牲者も出るに出ない、か。元凶の私が言うのも―――何だがな」

 

 そして現在、その吸血鬼騒動の中心人物、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルは途方に暮れていた。噂は広まり、最初の犠牲者が出てからしばらくの間は麻帆良特有の浮かれた気分の生徒が訪れていたものの、彼女が無差別に犠牲者たちを増やしていったお陰で噂には恐怖が付きまとうようになってしまった。

 学園側も学園長からの御達しでエヴァンジェリンを好きにさせているものの、彼女も元は死んだことになっている600万ドルという大金をかけられた賞金首。女子供は殺さないが、その昔から追ってとなった魔法使いやその従者は悉く殺されてきた、というとても履歴書には書けそうにもない経歴を持っている。それゆえに、魔法関係者の非難の目が更に強まったという現状が出来てしまっていたのだ。

 そして、教師側もそんな犠牲者を出したくは無いわけで、生徒たちは騒動が終わるまでは桜通りにホイホイと近づかないように言われていた。

 

「はぁ、今日は帰るか。誰も来る気配が無い」

 

 実を隠していたマントを翻し、桜の枝の一角からその姿を見せる。流れるような金紗の髪が、月の光を受けて輝く様は見た目の年齢を大きく超える妖艶さを持ち合せていた。

 

「噂の怪物さんが溜息吐くなよ」

「戯け、噂に尾ひれがつきすぎてチュパカブラとか言うものになり果てて……って、長谷川? 何だ、犠牲になりに来たのか?」

 

 突然、声がした後方に振り向くと、笑いながら千雨が桜の木に寄りかかって、その上にいるエヴァンジェリンへと片手をあげて笑っていた。

 そんな彼女にエヴァンジェリンなりの冗談を返すと、千雨は目を細めてそれを否定する。

 

「ちげーよドアホ。フォックスと戦ってから姿を見せなくなった奴の面を拝みに来ただけだっつの」

「なんだ、そう言うことか」

 

 確かにそうだったな、と思い出すように呟きながらエヴァンジェリンは木の上から飛び降りる。彼女がほとんど無理もなく衝撃を拡散して着地すると、千雨はやるぅ、という称賛の言葉と口笛を投げかけた。その事に対し、他愛のない、と言った風に澄まし顔。

 

「今宵は満月。もっとも吸血鬼の力が強いからな」

「そういやそうだったか。で、最近は何してたんだよ? こちとら碌な修行も出来ないし、フォックスとRAYの政治的な話に巻き込まれてばかりで飽き飽きしてたんだ」

「それはまた……というか、貴様はほとんど修行のカリキュラムを終えているぞ?」

「…はぁ!? いや、早すぎるだろ」

「言っていなかったか? まぁ、かいつまんで言うとだな」

 

 驚く千雨に彼女が説明したのは、何とも単純な答えだった。長谷川千雨は魔力もなく、気が眠っていることもない何処までも平凡な「一般人の才能」を有している。代わりにあるのは幻惑などに対抗する程度の対魔力なのだが…これは置いておくとしよう。

 そんな彼女は、一般人の限界程度にしか鍛え上げることが出来ず、現状の茶々丸との撃ち合いやエヴァンジェリンの魔法からの回避で基礎は修められており、残りを教える場合はやはり魔力などの特別な才が必要なのだとか。

 

「じゃあ……」

 

 それを聞いた千雨は自分の限界を噛みしめ、同時に自身を見直した。そして、一言彼女に礼を告げる。ただ一つ―――ありがとう、と。

 

「なんだ、軽口ばかりの貴様にしては妙に殊勝だな」

「流石に恩師相手に締めはきっちりするさ。私はここまでやってもらった側なんだからな」

「ふふん。しかし、それにしてもだぞ? いくら先読みの能力が在るとはいえ、私の“えいえんのひょうが(ハイオーニエ・クリュスタレ)”を貴様は避けきる事が出来るんだ。免許皆伝と言っても過言ではないだろうさ」

 

 彼女が免許皆伝、などと高評価を与えるだけの理由が千雨には存在している。150フィート四方に届く広範囲高等呪文(ハイ・エンシェント)を先見できるとはいえ生身で避け切るとは、一体どのような事をすればいいのか皆目見当もつかないが、それを成し遂げた彼女は相当なものだ。

 

「まぁ、最初の目標である“逃げ切る”は達成できたけど……」

「ならば、それを誇れ。貴様は確かに、私の本気を前にして命を長らえさせたのだから」

「……っはは、確かにそれもそうか。高望みしすぎたな」

 

 これからも交友関係は続くだろうが、今この場所で千雨とエヴァンジェリンの師弟関係は終わりを告げたらしい。視線を交わし合う二人の間で、千雨は一本の結びつきがちぎれるような感覚を感じ取っていた。

 もちろん、ソリッドアイ無しで、の話である。

 

「さて、言うべきことも終わったな。貴様の修行をしたいという要求には答えられんが、龍宮や桜咲を訪ねてみたらどうだ? 龍宮なら同じ銃を撃ち、桜咲ならフォックスもいて、修行にもなるだろう?」

「それも、そうだな」

 

 しばしの喪失感に身を預けていた千雨だったが、彼女の言葉にふと我に返って苦笑するように頷いた。師弟、という関係が消えたことは寂しさもあるが、それで関係が途切れると言う訳でもない。なにより、エヴァンジェリンとてこうして忙しいのだから、と。

 人に関わっていたい、誰かのもとにいたい。その姿は、歴戦の兵士に立ち並ぶ実力を手に入れた長谷川千雨ではなく、年相応の中学生の少女のようだったぞ、と。後にエヴァンジェリンは語る。

 

「夜も遅いし、私は戻る。またな、エヴァンジェリン」

「私はもう少し待つことにする。貴様と話したことで、少しばかり温まった」

 

 言って、再び木の上に潜むように姿を消した彼女を見送り、千雨もまた帰路についた。桜通りを歩いたものの中で、唯一の被害者とならずに済んだ少女は、どこか楽しげな様子だったとか。

 

 

 

 そして月日は流れ、新学期の始まる日。

 エヴァンジェリンの企み通りというべきだろうか、2-A教室にも「桜通りの吸血鬼」の噂が流れ始めた。……とはいったものの、その真実は千雨を通して朝倉に伝えたエヴァンジェリンが、タイミングを計っただけなのだが。

 

「神楽坂明日菜、吸血鬼はオマエの様な奴が好みらしいぞ? まぁ、気をつけることだな」

「え…? あ、はあ……」

 

 そして教室。ネギ・スプリングフィールドをおびき出す最後の布石を置いたところで、先日襲ったクラスメイト、「佐々木まき絵」が倒れていたという情報が入り、ネギ他数人のクラスの人間が保健室に向かった。騒然とする中、エヴァンジェリンとのすれ違いざまに、千雨はお疲れさんとばかりに手を振って通り過ぎて行った。

 

(まったく、本当に情け無用の奴だ。犯行予告を見逃すとは)

 

 そのまま何事もなかったかのように座り、伊達眼鏡と言うカモフラージュをかぶった少女へと、彼女は内心毒づいた。それと同時に、このような秘密を共有する中がいると言う事実に少しばかりの充足感と、例年では手に入らなかった喜悦が湧き上がる。どこまでも見た目相応な自身の感情に、エヴァンジェリンは苦笑するばかりである。

 

 それからしばらく。

 今日一日分の授業を終えるころには、2-Aでは吸血鬼の話題について持ちきりになっていた。噂好きな面を除いたとしても、やはり彼女たちはいろんな事に興味のある女子中学生。まだまだ若く、会話のネタにできるような話題をそう簡単に切り捨てて行くという発想は無かったらしい。

 

「で、吸血鬼なんて本当にいるのかしらね?」

「あんなのデマに決まってるです」

「だよねー」

 

 千雨とエヴァンジェリンが話していたころの一部が欠けた様な満月とは違い、その日の月は真円(まんまる)を真っ黒なキャンパスに描いていた。そして、桜はそれこそが己の誇りだと言わんばかりに満開。散らすハートの形を連想させるピンクの花弁がふわりふわりと宙を舞っている。

 そんな、幻想的な光景も背景音楽が風の吹く音、木々のざわめきとなっては美しさに潜む恐怖、と言った捉え方も出来るだろう。そんな夜道を、クラスメイトたちから一人離れた「宮崎のどか」は怖くないと、自分を鼓舞する歌を口ずさみながら歩いていた。

 だが……

 

「ひっ」

「27番、宮崎のどか。悪いけど、その血を分けてもらうよ」

 

 暗闇は、形となって襲いかかる。

 

 

 

「ひゅぅ、やってるやってる」

『≪チサメ? どうにもこう言うのは疎くて何とも言えないが……趣味が悪いわよ?≫』

「わーってるって。だからバレない様にスコープ越しに覗いてるだろ?」

『≪……まぁ、搭乗者(あなた)がそれでいいのなら、私はこれ以上は言わないわ≫』

 

 そう言って、千雨の足元にいたMk.Ⅱの通信がぶつりと切れた。何も映さなくなった画面を閉じ、Mk.Ⅱは自動行動に切り替えてステルスを張る。だが、それに気を止めることもせず、彼女はスコープの向こう側に映る景色を見て楽しんでいた。

 

「何か悪役みたいだな、私……」

 

 すっかり愛用品になったモシンナガンのスコープを覗きながら、苦笑する。今日、その引き金が引かれることは無いだろうが、現在戦い始めたエヴァンジェリンとネギの対決に、「もしも」があるかもしれない。とはいえ、千雨もエヴァンジェリンを信用している。そうそう変なことは起こりそうにないだろう、と。

 そんな事を彼女が考えている間に、何処かの校舎の屋根の上に二人は移動していた。しばらく問答とコントを続けていたようだが、突然現れた茶々丸によって茶番は終了。エヴァンジェリンは言葉数も少なく、その首に食らいついた。

 

「……アイツ、あんな顔出来るんだ」

 

 スコープがアップで写したエヴァンジェリンの表情は、待ちわびたこの瞬間に対しての喜悦と愉悦。まじりけのない、心の底から浮かべた「笑み」に千雨はしばし見とれていたが、そのせいで彼女らに近づく影の存在を一瞬見落としていた。エヴァンジェリンの顔に蹴りを入れた瞬間、外敵かと思って引き金に指をかけ直すが、その見慣れた顔を見て人差し指を寸でのところで硬直させる。

 それは、クラスメイトの神楽坂明日菜だったからだ。それにしても、一体どこから嗅ぎつけてきたのだろうか。

 

「ってか、障壁ブチ抜きやがったな……どう言うことだ?」

『≪その答え、言伝で残せばいいのにデータバンクにしっかりと在ったわ≫』

「…RAY」

 

 今度は直接頭から響いてきたナノマシン通信。RAYの機械音声の入り混じった肉声が千雨の耳に届けられた。して、そのことは如何なものかと彼女が訪ねれば、勿体ぶることもなく命令のままにRAYは情報を開示する。

 

『≪正式名称は“魔法無効化(マジックキャンセル)能力”彼女自身に肉体的危険のある魔法が迫った、もしくは予期されている場合に自動的に魔力そのものを霧散させる物のよう。無意識で常時展開されているから、フォックスの“崩力”の上位互換、と言ったところかしら≫』

「……えげつな。とんだ魔法使い泣かせだな、オイ」

『≪まぁ、武装解除や物理的な衝撃は消せないから、欠点はいくらでもある。完璧なんて、そう簡単には見つからないわ≫』

 

 RAYの言葉に、そりゃそうだと千雨は肯定する。本当に秘匿が完璧だというのなら、このようなスコープと同等のズームを行えるこんな機械の左目にしなくて済んだのだから。それとは別に結果的に便利なのは、まぁ否定はしないのだが。

 

「あっ、エヴァンジェリンも撤退か」

『≪事を荒立ててはどうしようもないもの。賢明な判断だとは思うけど……明日、彼は彼女との対面にどんな反応を取るかしら?≫』

「今は泣いてるし、半泣きでビクつくんじゃないか? 私は別にかまわないけど」

『≪……本当、容赦ないわ。最近の貴女≫』

「それで結構。私にゃ関係のない事だし、今はただの観客(オーディエンス)だ」

 

 ソリッドアイとのスコープ直結を解除し、モシンナガンの銃身を持ちあげると銃口にサプレッサーを取りつけた。同時にとりだしていたペンタゼミンを飲み下すと、酸素を脳に送って照準をつけ直す。狙いは先ほどの場所から43度ずれた位置に潜んでいる魔力反応。再度スコープと直結させたソリッドアイを望遠と感知モードとを「併用」し、今度こそ人差し指を折り曲げる。

 パスッ、と最大限にまで小さくなった発砲音と共に、目標に向かって麻酔弾が目標に向かって行く。2秒もすれば目標の首筋にそれは打ち込まれ、怪しいフードの女性は森の一角に身を倒れ伏した。二発目を装填すると、もう一度その方向に向かって発砲。撃たれたそれが標的のいた辺りに着弾すると、薄緑色の液体が撒き散らかされた。

 彼女は何処までも無表情にそれらの動作を終えると、銃を仕舞ってソリッドアイを取り外した。耳に手を当て、コール。

 

「学園長先生。いつもの森の方角、ペイント弾でマークした場所に侵入者を眠らせておきました」

≪おお、千雨君……あい分かった。すぐに回収の者を向かわせよう。しかし、こうして直接通信を取るとは意外じゃの。前の呼び出し以来、嫌われておるものと思っておったが≫

 

 まくしたてるように口早に、せっかくの話の繋がりを逃すまいとした学園長の意図に気付き、千雨は苦笑する。

 

「それに関しては、こちらも意地悪が過ぎました。今となってはそんなに考えていませんし、学園長先生がナノマシンを打った事の方が驚きですね」

≪ふぉっ、何故分かったのかの?≫

「周波数、しっかりと出てますし、この通信がほぼノータイムで繋がったことが何よりの証明ですね」

≪それはそれは……何、機械には疎いのが一本取られたということか≫

 

 楽しげに笑う学園長。通信越しでも分かる満足気な気持ちに、まだ風に運ばれる残寒で震えていた彼女も少し温まった。それでは、と当たり障りのないように通信を切ると、彼女自身も学校の屋上から姿を消したのだった。

 

 

 

「…ハーックション!!」

「マスター、もう少しで戻れます。それまで辛抱を」

「分かっている……うん? 何故明かりが……」

 

 エヴァンジェリン組が我が家に帰ると、しっかり切っておいた筈なのに点灯の明かりが窓から漏れていた。まさか、と思いながらノブを回すと、案の定、鍵に引っ掛かることもなくドアは開け放たれた。

 予想通りか、とエヴァンジェリンが呟いて少女趣味なリビングを見れば、我が家の様にくつろいで紅茶を淹れて千雨が待っていた。春休み中にであった時の様に、気軽に片手をあげて話しかけてくる。

 

「ほら、パジャマ」

「……いや、ありがたいのだが…何故ここに入れる?」

「フォックス協力で魔力のカギを崩壊させて、後は私がピッキングだ。ザルだな」

「ザルなのは貴様の頭の中だろうが!? 常識と言う言葉がすり抜けているではないか!」

「あ、こんばんは茶々丸」

「はい、こんばんは」

「~~~~~ッッ!!」

「あ、やべ」

 

 そろそろ悪鬼(オーガ)が降臨しそうなので、千雨は強引にエヴァンジェリンを座らせると、別人格(ネットアイドル)の瞳がきらりと光ったと思うと、瞬時にパジャマを着せて温かい紅茶を差しだした。たとえ満月で吸血鬼の身体に近づいていたとしても、ベースが人間の少女のままであるのは変わりがない。彼女はそれを渋々ながらに飲み下すと、腹の底から温まったような気がして、ほぅと思わず息をつく。

 カップを置くと、それで? と話を促す。

 

「……何故ウチに来たのだ?」

「いやまぁ、小さいながらも恩を返すチャンスだと思ってさ。先回りさせて貰った」

「恩、か……」

「そーいうこと。で、茶々丸」

 

 千雨が一拍置くと、はい、と茶々丸は頷いた。

 

「録画済みです。ごちそうさまでした」

「後日にまた交換頼む。RAYにも直でデータリンクしておくから」

「はい」

「…………まさか」

 

 眼前で繰り広げられる会話に、エヴァンジェリンは寒気とは違う悪寒が走る。急いで鏡のある方を見ると、猫耳フードをかぶった可愛らしい少女が映しだされている。その顔は引き攣っていたので可愛らしさは半減ではあるが。

 

「貴様ぁ……」

「いやぁ、学園長からミドルネームが(アタナシア)(キティ)って聞いてな。これはもう……と思って」

「お似合いですよ。マスター」

 

 まったく悪びれる様子がない千雨に、先ほどまでネギとの戦闘中は味方をしていた茶々丸のあっさりとした鞍替え。そのどちらもが微笑みの裏に愉悦と言う感情を隠そうともせずにぎらつかせているのを見て、エヴァンジェリンは今日の分の全てを、言葉に乗せる。

 

「貴様ら、そこに直れぇぇぇえええ!!!」

 

 確か、彼女は雷属性はそう得意ではなかった筈だが、確かにその家にはカミナリが落ちていたと、外に待機していたフォックスはRAYに語ったのだとか。

 




最後にオチを入れることで精神の安定を図り始めた幻想の投影物です。
そろそろ、福音編をガチシリアスに持っていきたいと思います。

RAYとかかわったことで変わった千雨。
その千雨に関わったことで変えられたエヴァンジェリン。
だから、原作通りに台詞が進行するはずがないんですよ!(言い訳)

ともかく、お疲れさまでした。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。