「ちっ、待てって」
「~~~~!!!?」
一発。リロードを行ってもう一発。良く弾が散らばるタイプのものではないとはいえ、ショットガンの雨の中を潜り抜ける小動物に千雨は嫌気がさしていた。
そもそも、何故こんな事をしているのかと言われれば、少し前まで遡る必要があった。
それは、「ネギ先生を元気づける会」という名目で行われた、ネギ・スプリングフィールドのパートナーという言葉につられた者たちの立候補会議が行われていた時の事。「パートナー」とは魔法使いのパートナーになるという意味が分かっている千雨は、当然ながらその会議から人知れず遠ざかって行った。
お約束と言うべきか、直後に浴場から千雨の耳に聞こえてきたのはクラスメイトの黄色い悲鳴と、ネギが慌てて肉食系女子に詰め寄られるマジモンの悲鳴。ある程度しか年齢が離れていないと言う認識か、はたまた千雨が達観しすぎているだけなのかは分からないが、とにもかくにも彼女にとってその場所はお世辞にも居心地が良いと言う訳ではなかった。
しばらくは日の光を浴びてぼうっとしていたものの、その場から立ち去り、暇つぶしにトレーニングでも始めようかと思ったその時、彼女を振り向かせる出来事が発生したのである。
『いやーん! エロネズミー!!』
「…はぁ?」
反響して聞こえてきたのは、どう考えてもその「ネズミ」とやらがクラスメイトの水着を脱がしにかかっているという意味合いを持った悲鳴。そして明日菜が乱入したのであろうと分かるネギの声に反応した時、それは自身に向かって飛び込んできたのである。しかも、クラスメイトの水着をその小さな前足と口に持ったまま。
そうしてその動物を女の敵と判断した千雨は、即座に武装を展開。セーラー服に機関銃(もっとも、現在持っているのはM870というショットガン)とはよく言ったもので、服装も何も違うが、学生の身分である彼女が重火器を何処からともなく取り出してくるのはその小動物も予想外だったのか、こうして千雨から逃げ回っている現在に至る、といういきさつがあったのだ。
「…くぅ、やっぱリロードっていいな。とくにポンプアクションは銃の命を感じやすい」
「~~~!!!?」
その小動物もかなり知能が高いのか、不気味に機械の左目を光らせる女子中学生に最大限の恐怖を抱いた模様。故に先ほどから逃走を試みようとするが、それらはすべて失敗に終わっている。
なぜかと問われれば、それは千雨の「撃ち方」に問題が在った。
彼女は現在、M870を二丁使用しており、片方を撃ったら空に投げ、もう片方をキャッチして即リロード、そして引き金を引くという神掛かったガンアクションを行っているのである。つまり、撃った後の反動と言う隙が存在しないデスサークル。ナノマシンの精密な補助とソリッドアイの瞬間把握能力が積み重なっているとはいえ、それを行う千雨の技量も相当のものだ。
だが、ここで事態は急転する。確かにリロードに事欠かないとはいえ、ショットガンの片方が弾切れを起こしたのだ。空撃ちだと分かった瞬間、その小動物は脱兎のごとく逃げ出し、千雨の近接射程範囲内から―――中距離範囲内に移行した。
「……さて、こんなもんか」
だが、それを追撃することは無く、千雨は銃を下ろして武装品をいつものポーチに仕舞いこんだ。そのまま耳に指をあてると、いつものようにコールをかける。
報告するのもくせになって来たな、と彼女が思ったころに通話先から声が聞こえてきた。
≪…千雨さん? どうなされましたか≫
「侵入者と思しきオコジョ発見。威嚇射撃に留めて直撃は避けておいたけど、意味にも気付かず中等部の女子寮側へ逃亡した。エヴァンジェリンに伝えておいてくれねーか」
≪了解しました。いつもながら敵の分析お疲れ様です。本日はゆっくりお休みください≫
「言われずとも、そうさせてもらうさ。それじゃ、ネギ狩り頑張れよ~」
電話のルールは掛けた側から切る。そんなノリで通信を切った彼女は、ふと足を止めた。
「……そういや、あのオコジョがいるんじゃ?」
通行人もいる場所での彼女の足取りは、非常に重かったのだとか。
「ふむ、それはオコジョ妖精だな」
≪オコジョ妖精? 私にはただのエロ動物にしか見えなかったが≫
翌日、登校時間の3時間も前に叩き起こされたエヴァンジェリンは、千雨の疑問に答えるために仔月光と向かい合って座っていた。だが、そこで先日の侵入者の顔割れが出来たことで彼女は思いのほかネギの生き血を啜るのが難しくなるかもしれないと、寝ぼけた頭の片隅で考えていた。
あくびを噛み殺し、千雨に対して言葉を続ける。
「魔法使いの“パートナー”決めに尽力する奴らの事だ。その中にはオコジョにされた魔法使いもいて、釈放のために動く輩もいるそうだが……話しを聞く限り、ソイツは純正だが最も性質の悪いタイプの様だな」
≪それは、一般人にとってか?≫
「それもある。だが、最大の問題は……それによって、オマエの様な者が続出しているという事態だな」
≪…巻き込まれるってわけか≫
「そうなる」
直後、仔月光の向こう側から、机か何かを叩いた音が聞こえてきた。
「落ちつけ。…まぁ、貴様の煩悩全快な様子だっとという言葉から察するに、愉快犯ではなく、契約履行時に支払われるそれなり以上の報酬が目当ての俗物だろう。放っておけば次々と契約陣が敷かれてクラスは残らず契約させられるのだろうが……まぁ、ネギの坊やにその気が無ければ不可能だろうよ」
≪両人同士の受諾が無ければ契約は為されないって事か≫
「怒りながらも冷静か。そう言ったところは貴様らしく、そして話が進んで助かるよ。まぁ、私を叩き起こした代価ぐらいは払ってもらうがな」
≪……分かったよ。破片か閃光、それとも焼夷か?≫
「閃光を四つ、焼夷を十個だ」
≪へいへい、商談成立ですよっと。…それじゃ、また学校で≫
「……ふぅ、あの小娘も大概なものだ」
役目を終えた仔月光はどこかに転がると、ステルスで姿を消して息をひそめた。発達しすぎたその技術に新たな溜息をつくと、彼女はゆっくりと立ち上がる。
「茶々丸、朝食は眠気覚ましと少しばかり豪華でオーダーだ」
「イエス、マスター。それまでお寛ぎ下さい」
従者が一階に下りていく様子を見届けると、制服に袖を通し始めるのであった。
『≪それで、絡繰茶々丸のストーカー…もといゴルゴを引き受けたと≫』
「言い直した方が物騒じゃねぇか。否定はしないけどな」
再び時間は流れ、正午に差し掛かった辺り。
いつぞやの様にスコープを除いている千雨は、学園長がエヴァンジェリンにネギに関しての呼び出しをしたと言う事で、一人残される茶々丸を頼むと依頼されていた。茶々丸自身もネギの横に付いていたオコジョを確認してあるので、助言者と言う事でそれなりに気にはしているようだが、彼女自身は人助けやネコ助けでそれどころではないようだ。
(ふぅん? ロボにも心は芽生えましたってやつか。感動ものなのは分かるけど……超の奴、何を考えているんだか)
総は言いながらも見守り続けていると、エヴァンジェリンの言いつけ通り決して人目のつかない場所にはいかなかった筈の彼女が、教会先の広場にある人気のない場所に歩いて行くのを見て、千雨はスコープをフルオート射撃可能なスナイパーライフル「M14EBR」に持ち替えた。姿は見失っていないが、少し目を離したすきにネギ、そして明日菜が彼女とエンカウントしている。
「ぼ・く・を・ね・ら・う・の・は…………成程、“将を射んと欲すればまず馬を射よ”。典型的だが、存外に堅実な思考も持っていたってわけか。…ま、将の額を射ればいい私は卑怯かもしれねーけど」
ラス・テル・マ・スキル・マギステル。ネギの口が固有詠唱を唱えた瞬間、明日菜が爆発的なスピードで茶々丸に走りだした。
『≪前衛による撹乱、術の詠唱をその間に済ませて強力な呪文でトドメを差す。どこまでも基礎・基本的なやり方だけど、その分成功した場合はその分の対価を得る事が出来る。…こうまで彼らが上手くいってるのを見ると、私たちの戦場はどうだったのかと思うわね≫』
「戦況分析お疲れ様。っと、詠唱完了か」
白い11本の光の矢が茶々丸目掛けて飛んでいくのを見て、あれなら「無機物で構成されている」茶々丸は塵も残らないかもしれないと楽観的にその光景を見守った。
そしてエヴァンジェリンに魔力で強化しもらった「実弾」が仕込まれている弾丸を、何の迷いもなくネギの方へと照準通りに撃ち始めた。
「1、2、3、4、5、6―――」
照準をずらさず、己の身はただの固定砲台だと自己暗示。目に映る魔法の矢はターゲットであり、銃を撃つと言う事はすなわち的に当てる事。否、当てるのではなく「中る」のだ。
「7、8、9、10……外したッ、まだガンドルフィーニ先生には及ばないか……」
予想通り、「ネギに向かって進路を変えた光矢」に向かって弾丸を放つが、最後の一発は空中で中ることなく掠って弾き飛ばすに終わった。途中で誰が援護しているのかを悟ったのか、茶々丸は既にその場から離脱済み。最後の光矢はネギに向かったが、進路を逸らされていたおかげでギリギリ足元に着弾して
「RAY、視界人物の損傷具合は?」
『≪絡繰茶々丸、額部位にマイクロレベルの軽度損傷。神楽坂明日菜、慣れない身体強化により一部の毛細血管極軽度損傷。ネギ・スプリングフィールド、自身の術が足元に落下した際、足首に軽度の損傷。算出結果、全員無事―――と言えるわね≫』
「
銃口を上に向け、ゆっくりと鼻歌交じりに解体作業をしている千雨の横に、先ほど離脱した茶々丸が降り立った。人型が飛ぶだけの推力はそれなり以上にあるらしく彼女が着地する際には結構な風圧が千雨を襲っていたが、彼女は涼しい顔をして茶々丸に近づいていった。
「……千雨さん、援護射撃お見事でした」
「ホントはあの場にフォックスが乱入してたら手っ取り早いんだけど……学園長も人が悪いよなあ」
「…………ネギ先生は、なぜ」
「おっと」
話そうとした茶々丸の口を押さえ、彼女はその続きを語らせまいと行動を起こした。
「…さて、ね? 自問自答も自立思考ロボにはお決まり事のパターンだろ」
「パターンですか?」
「お決まり、お約束とも言うけど……まぁ、どうしてもって言うんなら、主様に聞いておくんだな。じゃ、私は仕事も終わったし帰るわ。それから、これ渡しといてくれ」
押しつけるように手榴弾セットを茶々丸に渡すと、彼女はその場から飛び降りて姿を消した。呆然と立つ茶々丸だけがその場に残され、次に視線をその手に在るセットに移す。
「……これは、レーション? なぜ、こんがりと焼けて…?」
レーションの丸焼きを見て、いつもの彼女らしいな、と。
彼女は笑った。
今回、ほとんど原作をなぞるだけでしたね。
この部分はどうにも絡ませづらくて…でも、ネギ達には印象を与えやすい回でもあるんですよね。
後書きばっかり長くなってもあれなので、このあたりで切らせていただきます。
それでは、お疲れさまでした。次回は長めに書きたいと思います。目指せ一万オーバー。