茶々丸がネギ・スプリングフィールドに襲撃の翌日。
別段何が在ると言う訳でもなく、RAYも千雨もフォックスも、平穏無事な毎日を享受していた。…いや、フォックスだけは平穏とは程遠いと言えるだろう。なぜかと言われれば、彼が今いる場所は関西呪術協会、その長である「近衛詠春」の前で頭を垂れているのだからと答えるべきだろう。
「…なるほど、それでお義父さんは京都にネギ君を招こうとしていると言う事ですか」
「ああ。そちらの部屋に在る英雄の足がかりを探させ、父を求めるための魔法の探究心に火をつけよとの命も受けている。…それで、これが
「見せてください。…ふむ、此処に関西呪術協会は関東魔法協会の親書を受け取りました」
「リストを見てみると良い。その後で、親書を開けろと言っていたな」
「分かりました」
フォックスの態度は仮にも相手方の責任者に対する物言いではない。だが、それは彼が真の意味で頭を垂れるのは
フォックスから二通の入った封筒を受け取った詠春がリストの方を開くと、「魔法」を嫌って麻帆良を攻め、あっけなく捕縛された強硬派。その名前が数十名に渡って連なっている事を確認すると、思わずため息が出る。それらに目を通した後に特に強行の気が強い派閥に党首との対談の場を設けよと部下に命を出すと、次に親書の方に目を通した。
紙の擦り合う音が響く中、数十秒後にそれらがパタンと閉じられる。
「…なるほど、修学旅行の段取りですか。一応、期日までに30人分の受け入れ準備はしておきましょう。それから、この最後の七夕の犯人は――」
「七夕だと!?」
「あいつがまだ生きていたと言うのか!! 東の使者、何を知っている!?」
「七夕」のネームバリューは此方でも有名、いや此方が本家だからこそ多くの者に知れ渡っているらしく、何人かは東西交流の場と言う事も忘れて叫び始めていた。
「…静まりなさい。それらも此方に書いてありました」
そうして一時騒然となった場が収まったのを確認すると、詠春は麻帆良が襲撃された事、その際に率いていた牛の鳴き声をまねた兵器が此方に侵攻する可能性もあると言う事を伝えた。当然と言うべきか、ざわざわと「七夕」の事を知る重鎮たちが場を再び沸かし始める。
それらについては後で会議をすることにして、詠春はフォックスに視線を戻した。
「君についても書いてあったみたいですが、それなら此方の修行場をお貸ししましょう。この報告が本当だとすると、私も鍛えなければなりませんから」
「…つまり、師を申し出ると?」
「そう言う事ですね。随分特異な体質を持っているようですが、技を究めると言う訳でもなく、互いを高め合うには十分でしょうし」
「成程、感謝する。命令には修学旅行終了まで此処で助力をするとあったのでな。寝泊まりする場所を用意できるか? 寝れるなら倉庫でも十分だ」
「そんな場所で寝ずとも部屋は用意させますよ。……では改めてようこそ、グレイ・フォックス君。関西呪術協会の協力者として君を受け入れましょう」
無言で頭を下げると、彼はその場を引いた。
月光を率いていた七夕の彦星はそれなりに有名だったようで、これから話をまとめると先ほど詠春が言っていた。報告書にフォックスの見聞きした事も全て記されていたので、その会議をの邪魔をしないように彼はふらりとその場を離れたのである。
部屋を出た時に話を託された侍女がフォックスを案内し、後に呪術協会は新たな波紋で再び会談の場を湧かせるのであった。
そんな事をしているともつゆ知らず、千雨は退屈そうにRAYの格納庫で駄弁っていた。その相手はいつものエヴァンジェリンであり、内容は昨日の茶々丸単騎を狙った強襲に関するものだった。それを終始見つめていた千雨に、ネギの動向を逐一報告させていたのだ。
「―――ってことで、結局は良心が疼いて光の11矢を焦って自分に照準変更。あん時の魔力濃度はバカ魔力もいいところで周辺濃度が34%だったから、そのまま自爆して
報告を聞き終えると、その内容を吟味するようにエヴァンジェリンは目を光らせた。優しさを持ち合せる英雄志願者、という夢見がちな年齢のネギに興味を持った瞬間である。
「やはり、坊やも年相応でしかないと言う事か。あの年にしてはねじ曲がっていたので面白いと思ったのだが…やはり年月と言うものは重要だな」
「お前が時間語ると説得力あり過ぎて怖いからヤメロ。ったく、学園長もお前も人使い粗すぎだっつうの。昨日はペンタゼミンの注射打ってまで狙いをつけたんだぞ? 私がシャブ中になったらどうしてくれる」
冗談でもないと彼女が言うと、それこそまさかだと彼女は返された。
エヴァンジェリンも一応は薬に落ちた彼女をイメージしたのだが、逆に依存症をものともしない女傑の姿が垣間見えたからである。
「それは貴様の技量不足だろうに。というか、なぜ単発式の狙撃銃で撃ち抜いた? 連射系の物でもお前が使えば百発百中だろう」
「技量不足と言っておいて何だその矛盾。ああ、それはいいけどさ」
「なんだ?」
ネギに関してはどう思っているのか、と千雨は話題を元に戻した。
質問を受けた方は少し考え込むそぶりを見せたものの、駄目だな、と首を振った。
「“血を吸ってもいいから経験を積ませろ”、とジジイに言われているが、もっと奴の心そのものを成長させねば、英雄として持ちあげて功績を啜ろうとする輩に呑み込まれるのがオチだろうな。まぁ、奇しくも3-A連中の相手をしていれば自然と図太い性格にはなりそうだが」
「でもさ、ああ言う特殊な立場の奴は……」
「強い因果に惹かれて困難と言う名の抑止力が働く。…だったか? RAYが言う事も分からんでもないが、心配し過ぎだろう。此方に被害が来ると言う訳でもあるまい」
『≪それこそ甘い考えよ、エヴァンジェリン≫』
「RAY?」
メンテナンスの機械で装甲を磨いていたRAYだったが、今の発言に対して今日初めて彼女たちの会話に参加した。一体の仔月光がいつものテーブルの上に陣取ると、そこから彼女の声が発せられた。
『≪此方の世界で“蛇”と呼ばれた男は何故か必要以上に困難に遭遇していたわ。それこそ物語の主人公のように≫』
「馬鹿馬鹿しい。それはその蛇にそれだけの価値が在り、ソイツ自身が踊ったに過ぎないのだろう? 主人公などと、そんなものが存在してたまるか!」
もしも主人公が存在しているとするなら、彼女は吸血鬼にはならずに550年前に寿命を全うしていたかもしれない。だが、そんな事はまったくなく、こうして千雨と時を同じくするほどに吸血鬼として悠久の時を生きているのだ。
彼女は、認めたくないとばかりに叫び散らしていた。
『≪だけど、ネギ・スプリングフィールドには“蛇”と同じく世界にとって高位の価値を有している。そこに存在すると言うだけでね。それに、
「……だとしてもだ。奴が騒動を引き起こし、引き起こされたからと言ってどうなる?」
『≪どうにもならないわね。私たちもその巻き込まれる以上の一つだと言うなら、役目を全うして自分なりに行動するだけ。別段、いつもと変わらないでしょう≫』
「まったく持ってその通りだな。そりゃ、私も前は巻き込みやがってとは思ってたけど、結局自分で何もせずに憎み、わめいてるだけじゃ何もできない。その証拠として、エヴァンジェリン、あんたにも弟子入りしただろ?」
「……なるほど、確かにそうだ。―――まったく、貴様らは強いものだ」
この麻帆良に来る前、いや、彼がネギの父親「ナギ・スプリングフィールド」と出会うまではただ流されるがままに生きて来た。昔は吸血鬼と恐れられたから身を守るために行動し、賞金首となっていた。だが、彼と出会ってから自主的に動くようになり、ようやく機会が訪れたと思ったらこの学園にぶち込まれた。
……何だ、自分が行動を起こすのに数百年かかっていると言うのに、こいつらはほんの数ヶ月で立志しているじゃないか。
「……吸血鬼というのは、精神の成長も数十分の一になるのか? まったく、とうに長生きしたと思っていたが、私もまだまだガキじゃないか」
「おーい、結論出したのは良いが独り言は止めとけ」
「む、それもそうだな。流石の私も、妄想を垂れ流す痛い女にはなりたく無い」
『≪それにしても、やっぱり話はずれるものね。それから時がたつのも早い≫』
「「え」」
二人が格納庫の天窓を見ると、空は一部が真っ暗になって西側が赤く染まっていた。まだ四月とはいえ冬の気が抜けていないからか太陽が沈むのもそれなりに早いようだ。
「茶々丸を待たせるわけにもいかないな。……そういえば、あの狐はどうした?」
思い出したように彼女が問えば、千雨もその動向を知らずに何処に言ったんだとRAYに尋ねた。すると、今度の修学旅行の下見訳、それから関西呪術協会への使者として選ばれたのだとRAYは言った。
「ああ、桜咲と近衛の本拠地だったか」
「あそこは大戦時代の英雄、近衛詠春が長を務めているらしいな。西も東も同じ姓の者が治めているのか……まったく、とんだ因果だな。坊やの主人公説も有力になってきたか」
「じゃ、最初の洞窟で経験値積みの
「そうだな、勇者の血を吸って真の力を……って、何を言わせるか。最近ノリツッコミばかりさせるんじゃない!」
「そっちがノリいいのが悪いんだって。そんなんじゃ誰かから弄られるぞ?」
「……止めろ、それこそ心当たりが在り過ぎる」
何処か疲れたように彼女が言うと、そのままカードを照らして彼女は格納庫から家に戻って言った。
「そうだな、RAYの兵装作っておきたいし、私は此処に寝るよ」
『≪仔月光に寝床を作らせておくわ。無理はしないように≫』
「ありがと、っし、そんじゃ一丁頑張るか」
腕の裾をまくりあげ、ナノマシンを不眠不休でも働けるように調整する。気合を入れた彼女は、スタンドを点灯させテーブルの設計図を照らしたのだった。
「で? 私に協力しろと。って、ほら水」
「んっ。んぐんぐ……上手くいけば、貴様の所のRAYも英雄の息子の成長をデータにとれるだろう? それに、どうせ学園長からの許可も出ているんだ」
「…いや、そうだけどそうした場合一定期間しか情報取れねぇんだよ」
「なに? どういう―――げほっ」
「あ~もう、無理するなって」
翌日、季節外れの寒風に煽られたエヴァンジェリンはそのまま風邪をひいてしまい、学校に休暇届けを出した千雨に看病されていた。一応付き合いはそれなりに長い中で在り、前にも同じ事をしているので手際よく完治へと向かうだろうと思ったからだ。
自分の腕をナイフで刺し、コップ一杯に血を満たしてからナノマシンで止血した千雨は、それを飲ませて説明を始めた。
「落ちついたか? まあ率直に言うと、身体の中を循環するナノマシンは汗、糞尿、涙、出血とかで排出されるんだ。だから定期的に打たなきゃならないし、古くなったナノマシンは身体に害を及ぼさないように新しいナノマシンにまとめて排出させられる。だから“主人公説”が強いガキンチョに投与しても、自己増殖機能が無いナノマシンは排出されて失われるから、定期的に投与する必要性が出てくるんだよ」
「…ふむ、言っている事はあまり分からんが、早い話がたった一度では向かないと?」
「そうだけどこっちが丁寧に説明してやったってのに勝手にまとめんなよチクショー」
「怖い、怖いからその死んだ目を止めろ」
そんな風に目が死んでいても、ちゃんとエヴァンジェリンの汗を拭ったり新たな血を提供したりして来るので尚更怖い。そして彼女がそろそろ自分の血をこれ以上与えたら不味いと言う当たりになって、完全にナイフで創った傷を埋めにかかった。
「っし、私の血は後で増血剤と肉食った後にナノマシンで回復させるから、それ飲んでさっさと寝ろ」
「いや、それは嬉しいのだが……」
「あ、そっちには入れてないから安心して飲め。ある程度の操作はRAYを通じて出来るからな」
「それならいいのだが……んぐっ……魔力が足りん」
「一般人で悪かったな」
渋い顔をしてしょうがないと笑った彼女が席を立った瞬間、この家のインターホンが鳴らされた。RAYと関わりだしてから試験的に置いたものだが、意外とこの音をエヴァンジェリンは気に入っていたりする。
それはともかく、千雨は寝ていろと彼女に伝えた。
「申し訳ありません、マスターの御世話を任せてしまって。私が出てきますので、ベッドから出ないように見ていてください」
「分かった」
ずっと傍で何かできる事は無いかと待っていた茶々丸に任せると、一体誰が来たのだろうと二人は疑問符を頭に出現させた。
しばらくして茶々丸が戻って来たが、その後ろにいたのは千雨にとってはあまり嬉しくは無い人物だった。
「え、エヴァンジェリンさんは風邪だって聞いてたんですけど、本当だなんて……」
「神楽坂明日菜から聞いていないのか? 満月が遠い日、ましてや日中はただの人と変わらないと言っておいただろうが。封じられた吸血鬼に期待を抱くな」
「す、すいません……あれ? 長谷川さん?」
「こんにちはネギ先生。彼女とは付き合いがありますので、今日はお休みさせていただきました」
舌打ちしたい気持ちを抑え、彼女は作り上げた笑顔でネギに向かって微笑みかけた。
その精巧な偽物の笑顔にネギは絆され、人を助けることは立派ですと何の疑いもなく褒め称えた。会話を聞かれていたら危なかった、という彼女が抱いた本当の感情にも気付かずに。
「あの、風邪が良くなってからでいいのでこれを受け取ってもらえますか?」
「果たし状? また古風だな」
「それから、出来ればお願いしたいんですが」
「?」
どこか聞きにくそうにしていたが、意を決して彼は告げる。
「学園長先生から聞いたんですが、サウザンドマスター…父さんの事を知っているって本当ですか!? もし知っていたら教えてください!」
「ああ、サウザンドマスターか。…長谷川千雨、少しばかりお前にはつまらん話になる。茶々丸と一緒に下がっていろ」
「わかった。…それじゃ、サウザンドマスターが何か知りませんが、ネギ先生の知りたい事が分かればいいですね」
「え? あ」
そう言い残した千雨が退室すると、ネギはしまったといわんばかりの表情になった。一般人に魔法の秘匿は絶対条件。サウザンドマスターと言うあざ名だけでは魔法と特定できないが、自分は一般人の前で魔法に関係のある話を
二人きりになると、彼は話を聞くより先に千雨の事にエヴァンジェリンに訪ねた。
「あの、長谷川さんって一般人だったんですか? エヴァンジェリンさんと一緒にいるからてっきり……」
「いくら私が600万ドルの賞金首だと言っても、一般人との交流が無いわけではないさ。まったく、秘匿を気にしない英雄の息子とは言われたくないだろう? まぁ、今はそれを置いておくとしよう。聞かせてやるから、もう少し寄れ。大声で喋ると疲れるからな」
「はい…気をつけます」
悪と言われていた筈のエヴァンジェリンに諭され、ネギは意気消沈としたまま自分の父親のありのままを語られていった。そして、話が続くとともに訪れるネギの表情の変化に、どこかエヴァンジェリンは可笑しさを感じていたようだ。
そんな過去話が語られている中、千雨は下の階で茶々丸が作っておいてくれた料理を食していた。エヴァンジェリンを回復させるために大量の血を流したあたりで彼女は一度下に入ってこれを創っていたらしく、まだそんなに時間もたっていないので鉄分溢れた美味な料理を千雨は味わえていたのだった。
「お、美味いな。こんがりレーションより」
「そう言えば、何故アレを私に? 私に食事は必要ないので、マスターに新手のお菓子と称して差し上げてしまいましたが」
なかなか好評でしたとは言ったが、アレは千雨らしいとはいっても、普通の感性の持ち主には意味が分からない行動。
別に彼女としてはネギとの交戦で疲れただろうから、慰労の気持としてお菓子をあげた感覚に近かったのだが、その渡したものが軍事栄養食というだけあって、いらぬ誤解を与えてしまいそうになっていた。
茶々丸がそう言うと、千雨はその真意を説明した。
「なるほど、そう言う事でしたか」
「流石に私も軍事色に染まり過ぎたか……まぁ、結構自然になってるしなぁ」
「自覚していらっしゃるのですか。あ、こちらが増血作用のある栄養が詰まった一品です」
「お、サンキュー」
決して下品ではない食べ方で次々と食事を平らげていく千雨だったが、その数分で全てを射に収めてしまった。彼女の体内では、絶賛ナノマシンフル稼働中である。
ごちそうさまでしたと手を合わせて食事を終えると、ちょうど話を聞き終わったのかネギが2階から降りて来た。自分の親の事実を知って、その顔は蒼白に染まっていたが。
「お送りしましょうか?」
「い、いえ……大丈夫です~…」
そのままエヴァンジェリン宅を出て行ったので、千雨はよほど話がショックだったのかと行き先を窓から見送っていた。
あ、こけてる。
「長谷川……話は終わったぞ……」
「マスター、また熱がぶり返したのですか?」
「昔を思い出すと脳を使うらしいな…」
「あれま。難儀だなぁ」
千雨はそのまま呼ばれたので、茶々丸に冷たいタオルを代えられながらベッドに戻る彼女に付いて行くと横たわった状態で最初の話の返答を聞かれた。言わずもがな、ネギとの戦いに手を組むか組まないかである。
「私はパスだ。RAYに関してやる事もあるし、この後は
「超さんに?」
「設計図ができたから作ってほしいのが在って」
「ほぉ? 詳しくは聞かんが、貴様の事だ。よほど面白いものでも作るつもりか?」
「残念だが、RAYサイズなだけでそう珍しいもんでもないさ」
「そうか。期待しておくとしよう」
そんな彼女の返答に、仕方の無い奴だと言わんばかりに顔が引き攣った。どうにもおもちゃ認定していたつもりだが、逆に行動そのものがエヴァンジェリンの興味対象となっている事に気付き、今更ながら後悔する。
「とにかく私も帰るよ。茶々丸も飯ありがとな」
「血は生成されると言えど、人体はそこまで万能ではありません。お気をつけて」
「はいはい」
茶々丸に見送られてエヴァンジェリン宅を出ると、近くに生える原生林の程良い空気を吸うために大きく深呼吸する。日光が気持ちいいと思う日が来た辺り、桜さく春の季節なのだなぁと実感を抱いた。その後の夏には、辟易するだろうが。
「さて、と。行くか」
それなりの時間がたったころ。超のラボに千雨が訪れると、随分久しぶりだと彼女は歓迎されていた。どう見ても青色にしか見えず、さらに煙を吹いている粗茶と言われた栄養ドリンクを一気に飲み干すと、本題の「設計図」を超と葉加瀬の前に広げて見せた。
その図を見ていた二人は興味深そうに目を光らせると、にんまりと笑って千雨を見上げる。
「…千雨サン、ソリッドアイの回路に追加された極性チップを解析したんだネ?」
「流石にお見通しか。ま、それをコンピュータで書き起こして、耐久度ありで巨大化させたのがコレって事だよ」
「ふむふむ、超さんの技術を図面上とはいえコピーできるとは……やりますね。こちらで助手に加わるつもりはありませんか? 待遇はそれなりですが」
「いらないって。それより、これ作れるか? 完成したら深夜辺りに取りに来るけど」
フム、と図面をもう一度見渡した。
空中に指で何かを並び指すような動作をした後、自信満々に、それでいて悪そうな笑みを携えて超は告げる。
「3日もあれば出来るヨ。でも、そちらに対価はあるのカ?」
「あるさ。それは……」
聞かれたらまずい、とでも言うように二人の耳にごにょごにょとその言葉を告げる。最初は対価に無理難題を吹っ掛けるつもりで笑っていた超たちだったが、千雨が言った言葉を聞くと、大いに目を開いて驚愕を顕わにした。
葉加瀬にいたっては、蒼白な表情でこの世の終わりを見たかのような衝撃を受けている。
「そ、それは本当なのカ……?」
「私も嘘はつかないさ。それで、対価はこれで足りるのかよ?」
「い、いヤ! 最高だヨ千雨サン!! 次に作ってほしいものが在るなら、存分に依頼を受けるヨ!!」
「商談成立だな。じゃぁ、そっちで勝手に手直し加えてもいいから頼んだ」
「は、はははははいっ! 超さんともども、全力で事に当たらせて頂きます!!」
大はしゃぎしているラボから彼女が退出すると、防音壁が在る筈なのに全力で雄たけびを上げる二人の声が漏れて来ていた。それを聞いて、本当にアレで良かったのかよと頭を抱える。
「一応私が知ってたことだけど、RAYの言う事聞いてみたら案外なんとかなるもんだなぁ」
あれでまかり通った彼女の方が心底びっくりしている。
ちなみに、RAYが言うには超たちは理系でありながら文系も成績優秀なのだから、文系の神秘を教えてやれば動くかも知れないとのことだった。その中でもそれなりにレアかもしれない情報を超に言ってみれば……あの通り。
「いやぁ、誰でも知ってるとは思ったんだけど…違うのか?」
人知れず、彼女は自身が知った「ソレ」の名を口にする。
「“クラムボン”の正体って」
彼女は、アカシックレコードでも覗き見たと言うのだろうか。
告げたソレの名は、フェルマーの最終定理よりも奥深い謎の正体だった。
勝手に千雨はクラムボンを知っているということになりましたが、どうでしょうか。
その真実はあの三人だけが知っています。
そして、次回は塩沢…げふんげふん、フォックスの視点で物語を進行する予定です。
結構長かったと思いますが、ここまでお疲れさまでした。
予定通り10003字で前回の後書きでの目標は達成できましたから。