抑止兵器マギア   作:マルペレ

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結構詰め込み作業。
布石の話は難しいですね。

後書きのほうは よく読んでおくことをお勧めします。


☮密約潜みて明るみへ

「あ、兄貴! コイツですっ! コイツ間違いなくあっしを撃ちやがった奴ですぜ!」

「うっせぇな、ひき肉になりたくなけりゃその口閉じてろ」

「ひィッ」

「じ、銃…!?」

「…とまぁ、中は散らかってるから通すわけにはいかねーか。そっち行くから待ってろ」

 

 そう言って、千雨は部屋の中に戻っていった。それでも話が出来るならと、外に待機している二人と一匹はハラハラとしながら彼女が戻ってくるのを待っている。それから二分ほどの時間が経つと、剣と三本の稲妻が入った緑のベレー帽と、迷彩柄のポーチを腰に付けた私服の姿で出て来た。

 暖かくなってきたからか、わりとラフな格好で外に出て来た彼女を見た二人は交戦の必要がないだろうと言う事を悟ってほっと息を吐いた。これがエヴァンジェリンなら、腰のポーチを見た時点で警戒心は最高値だったのだろうが。

 

「待ち合せもしてるしな。付いて来い」

「…あ、はい!」

「分かったわ」

 

 ネギ・スプリングフィールド。

 神楽坂明日菜。

 アルベール・カモミール。

 以上の三名を連れ、長谷川千雨は街に繰り出したのだった。

 

 

 

 事の起こりは十分前に至る。

 授業の終了後、昨日の「放送の声」を聞いていたネギはすぐさま明日菜を連れて昨日の声の主―――長谷川千雨の元へと訪れた。電子音で多少の歪みもあっただろうに、正確にその声色を覚えていたネギの脳味噌は流石と言ったところだろう。そんな優秀な頭を使ってなお、ネギは策もなく真正面から千雨を訪ねたのである。

 

 そうして彼女が出た途端、インターフォン口に過ぎないと分かっていても矢継ぎ早に質問を浴びせかけ始めた。曰く、魔法を知っていたのか。曰く、エヴァンジェリンとはどのような交友が在るのか。ずけずけと物怖じしない子供の豪胆さに苦笑しつつも、彼女はそれらを外出時に同時に伝える、と言う事で了承の意を示していた。

 本来ならフォックスがそういった情報隠蔽を管理しており、先日の時点でエヴァンジェリンへの放送伝言を止めているのだろうが、生憎と彼は京都で修行中。そのため、こう言った「千雨バレ」という不測の事態に陥ってしまったのである。

 

 待ち合わせの場所へ移動する道中では秘匿を意識してか、それでも小声ながらも質問を続けてくるネギをエヴァンジェリンとの合流が先だとあしらいながらも歩いて行くと、とある喫茶店で優雅に紅茶を飲んでいる姿が在った。千雨が片手を上げると、茶々丸が礼をして三人分の席を引く。

 そこに順々に座っていくと、エヴァンジェリンが口を開いた。

 

「ばれたか」

「ばれたさ」

 

 だろうな、という言葉は言わずに紅茶をもう一口。カップの中身をからにすると、視線をネギの方へと移動させた。

 

「…相変わらずのアホ面だな」

「あ、あほって…」

「まぁ、コイツの父親が本当に死んでいるなら…こんな顔をする筈もないだろうな」

「…え、生きてるって知ってるんですか!?」

「言ってなかったな。当たり前だが」

 

 事前に電子情報内で調べられるだけの「サウザンドマスター」の資料全てをエヴァンジェリンは記憶している。そこから呪いを解く手掛かり、本人の居場所を知るためにRAYに依頼していたからである。とは言え、所詮は魔法に頼り切る魔法使いたちの電子情報でしかなかった。調べることが出来たのはネギが生きていると吹聴している事と、それの審議で魔法使い側の意見が分かれている程度の事実。

 ただ、何となく思うのが死んだわけではないのだろう。それが元気そうなネギを見たエヴァンジェリンの感想だった。

 

「…まぁ、ここでは秘匿魔法を使うにも場所が悪い。歩きながら話すが…長谷川、貴様の事はそれからでもいいか?」

「こっちとしちゃ、むしろ何も話さなくて結構だけど?」

「フン、いつかはばれるのが早くなっただけだ。……≪掻い摘んで誤解するように≫教えてやれ」

「了解」

 

 おそらく最初からそういうつもりだったのか、途中で送って来た茶々丸の無線の言葉を含めた上で、彼女は綺麗な敬礼で返した。

 

 それからその場を移動し始めると、人通りもまばらになってきた辺りでエヴァンジェリンが話し始める。

 

「ネギ・スプリングフィールド。父親の事が知りたいなら京都に行くと良い。そこならヤツが一時期住んでいた家があっただろうし、向こうの奴と“渡りをつけている”コイツが役に立つだろう」

「長谷川さんが?」

「……私はなんにもしらねぇって。裏でこそこそ動いてんのはフォックスだしな」

「え、狐?」

 

 明日菜が疑問符を上げるが、咄嗟にフォックスというコードネーム≒名前という方程式が成り立つ訳もない。当然のように、三人して頭をかしげて何の事だと疑問符を上げていた。聞かせても問題は無いだろうが、そんな血生臭い存在など今の彼らには早すぎる。

 そう言った判断を付けた千雨は此方だと注目を向かせた。

 

「その辺はまあ大人の裏事情が絡んでくるから踏みいらない方がいい。それより、私の事を知りたいんじゃなかったか?」

「そ、そう言えばそうでした!」

 

 餌を垂らせばネギが簡単に引っ掛かってくれ、彼が賛同した事で少なくともフォックスについての疑問はこの場で霧散しただろう。僅かな表情や声の抑揚の変化からそれをモニターしたRAYは、情報開示が出来る範囲を詳細にまとめて千雨に送信。その送られた「マニュアル」を脳内で閲覧しながら、彼女は質問をどうぞと促した。

 最初に手を上げたのは明日菜だ。

 

「それじゃ、私から。昨日のエヴァンジェリンとは協力関係だったのはアンタ?」

「ああ。私は魔力なんざ初級術一回も使えない位だからな、主にエヴァンジェリンの魔力を抑える結界にハッキングを仕掛けて昨日の夜はずっとモニターしてたよ。途中でアイツが魔力を無くしたのは、こっちの不手際によるOSの処理落ちだ」

「…?」

 

 専門用語が少し飛び出しただけで、再びネギたちが頭をかしげる。魔法使い、ましてや子供がパソコンを携わらない社会は自分にとっては地獄だろうな、と千雨は思った。

 しばらく言葉を吟味するように唸っていたが、次はネギが挙手していた。

 

「じゃ、じゃあ僕からも二つほど。どうしてエヴァンジェリンさんが熱を出した時には嘘をついたんですか? それと、なんでカモ君を撃ったりしたんです?」

「それは……」

 

 どちらも機密には絶対に触れないレベルの質問。

 余りの事に拍子抜けしながらも、一つ一つ丁寧に回答を頭の中で練り上げた。

 

「一つ目は、エヴァンジェリンと協力を取っていたからが答えだ。あの場所で私まで疑われると、そっちの興味が分散してエヴァンジェリンと真正面から戦うという思考から外れやすい。だから全力のぶつかり合いをお気に召していた依頼主の意向に従っただけだ。どちらも全力で戦うために跳ね返した光の十一矢を撃ち落としたのも私。

 二つ目の質問は、ソイツがいくら動物とは言えクラスメイトの水着を盗んでいた性犯罪者であって、本国に送還されれば独房生活を免れないレベルの変態だったからだな。しかもオス。……ついでに言わせて貰うと、撃ったのはあくまで牽制に過ぎないし、中てるつもりは無かった。…ああ、依頼主ってのはエヴァンジェリンの事だ」

 

 流石に証拠は無いんだけどな、と付け加えるとネギたちの瞳から警戒心の色は消えて行った。カモに関しては自業自得としか言いようがなく、茶々丸襲撃時はあれで撃ち落とされなかったら怪我をしていたかもしれない。だから助けてもらっていたのだな、と。

 最終的にネギの中では千雨が影のヒーローとして偶像化されているのだが、逆にそのくらい思ってもらった方がこれからのRAYを含めた動きを怪しまれないで済むため、どうだとと言う目線を投げかける内心ではこんなもんだな、と一息ついた。

 

 これから修学旅行先の京都であの月光を引き連れた犯人と巡り合う可能性が高いのだ。RAYの考察からして「主人公」の特質を持っているであろうネギが、なんのイベントもなく京都の修学旅行を終わらせる筈がない。その証拠に、時折フォックスから行われる定時連絡の内容には、過激派の活発化と、出てきた「織姫」のデータが発掘されている。

 動乱も近く、確実に戦いは避けられないだろうと言うのが麻帆良総意での見解。その地で教師陣は立場上は大きな動きが出来ない為、おそらく千雨にも何かしらの「役割」が回ってくるだろう。

 

 その際、出来ればこの純粋な子供に()を見せたくない。

 結局は千雨も非道であっても非情ではないのだ。今回クラスメイトの事について口を出さなかったのも、エヴァンジェリンであれば殺すことは無いと分かっていたから。だが、……フォックスとの死線、時折行う、「RAYとのVR模擬戦」でも死は十分に理解してきた。だからこそ、思う。

 

 あんなもの、先生には味あわせるわけにはいかないと。

 

「その…疑ってすみません。それから矢を撃ち落としてくれてありがとうございました!」

「ヤメロって。私は仕事をこなしただけだし、結局はもっと危険なエヴァンジェリン戦に追い込んだ張本人だからさ」

「それでも、しっかりと仕事をこなしながら僕たちを気遣ってくれる長谷川さんは凄いです! だから、お礼を受け取ってください!!」

「…神楽坂も、先生もそんなに目を輝かせないでくれ。……わかったよ、素直に受け取らせていただく」

「はい!」

 

 それに続いて、明日菜もカモミールも礼を述べて行く。

 

 そうしてその日は解散となり、去り際にネギの瞳には父親を探す手掛かりを見つけたと言う炎が灯っていた。情熱に燃える彼を見て、自分は随分血に染まったもんだと、千雨は自嘲していた。

 

「関西呪術協会、か」

「どうした? エヴァンジェリン」

「いや、何……」

 

 ネギの背中を見ながら、彼女は告げる。

 

「主人公だな、と思ってさ」

「ああ……確かに、そうかもな」

 

 父親の影を追い求め、ひたに歩き続ける英雄の息子。

 なんとも筋書きには困らない肩書だな、とエヴァンジェリンは笑っていた。

 

 

 

 

「魔法先生は、僕一人…?」

「そういう事になるのう」

 

 ネギは父親の影が在る京都行きが駄目になるかもしれない。そんな話を聞いて学園長室に突貫していた。そして、そこで聞いたのが先方が魔法使いと言う存在に難色を示しているという話。突然入って来た異色の組織というものが、その国に元からある組織にとっては受け入れがたいというのはよくある話だと言う事はネギも理解していた。

 その話を聞いたうえでどうにかならないのか、父親を探したい彼は、自分の我儘だと分かっていてもつい、語調も強めに問いただしてしまう。学園長はそんな彼に若い事はいいことだと言って、一通の封筒をネギに渡した。これは既に流してある「フォックスが持ってきたものよりも重要な親書」という嘘を基にしたフェイクであり、フォックスに渡したものとは違って、何の重要性も持たない。単に、学園長から近衛詠春へフォックスという人材はどのようなものか、と聞いただけの物である。

 

 そうとも知らずに、それでも一応は両長を行き来する大事な任に就いたと自覚したネギは親書を受け取って気持ちを引き締めていた。英雄の息子をフェイクに使う学園長も中々に大胆だが、これは同時に賭けでもある。つまり、危険が「英雄と親書」という地帯に密集しやすくしてしまうのだから。

 リラックスしてもいい、とネギに労わりの言葉を掛けると、思い出したように話し始めた。

 

「そうじゃ、京都と言えばそこに生家のある木乃香にはこの事を話さんでくれんかの?」

「え、このかさんですか?」

「家の方針での、このかには絶対に魔法を知らせては成らんのじゃ」

「…わかりました、必ず秘匿を守って見せます!」

「他言無用を心がけてくれい。……それから」

 

 ネギの胸元に学園長の視線が移動した。

 

「アルベール君も、これを破れば流石に独房行きじゃ。生体改造で喋るオコジョがいると修学旅行同伴の先生方には話してあるので、下手な動きは見せん方が良いぞい」

「へっ、は、はいっ!」

「うむ、それでは修学旅行、任務もあるが楽しんでくるとよい。若いうちは何をしても人生経験じゃからの」

「それでは、失礼しました」

 

 ネギがドアを開いて姿を消すと、学園長室には電話のコールが鳴り響いた。

 彼は三コール目で狙った様に受話器を取る。

 

「もしもし、こちら麻帆良学園学園長じゃ」

『≪お義父さん、詠春です≫』

「おお、婿殿か。ちょうどよかった、修学旅行の件にネギ君が行く事が正式に決定したよ」

『≪彼がですか、それはそれは。~~◆★……では、本題に入りましょう≫』

 

 受話器の向こうから聞こえて来た呪文を境に、近右衛門の向詠唱魔法で学園長室が魔力に覆われた。秘匿や回線傍受も無くなった事を確認すると、学園長は朗らかな声から真剣実を帯びた鋭い声色に切り替わる。

 

「うむ、織姫の件はどうなった?」

『≪資料と、後家の口伝が見つかりました。内容は……≫』

「……それは、また。…うむ、RAY君達には伝えておこう。そうじゃ、そちらには二十メートル…いや、三十メートルの鉄の塊を保管できるスペースはあるか?」

『≪…と、言いますと≫』

「そうじゃ―――そちらに、RAY殿を送る」

 

 受話器の向こうにいる詠春は、は、と息を吐きだして沈黙した。フォックスからメタルギアという存在の恐ろしさ、それを前線に投入する恐ろしさを嫌と言うほどに聞いている。そのうちの自動兵器の「月光」でさえ、伝説の英雄が一人、もしくは一糸乱れぬ動きが出来るSOPシステムを使用した十人が包囲して、4人以上の犠牲を出してようやく止める事の出来る戦力計算だと聞き及んでいる。

 だからこそ、聞き違いであってほしかった。

 

 メタルギアを、RAYを前線に出す(・・・・・・・・・)と言う事態が発生する(・・・・)などと言う事が。

 

 メタルギアの本来の運用は「核搭載」である事が挙げられる。だが、RAYと言う存在はその数あるメタルギアの中でも異色の子と言える存在である。「メタルギアRAY」は、その圧倒的な鉄要塞の塊であるメタルギアに対抗するために作られた、純粋な対策兵器(・・・・)であるという点だ。

 つまり、RAYは核を発射するためだけに作られた物ではなく、更にはオセロットの改造によってその核発射の時間を稼ぐために作りかえられた、純粋に戦う事を望まれている兵器。そのための機能である水中からの奇襲や、多様な兵器などと、その戦闘能力は魔法使いも足の一振りで踏み潰されてしまうであろう規格外。

 あってはならない物が入り込んだと、最初はその存在だけで近右衛門の頭を悩ませていた「殺しの道具」なのだ。

 

「……最終手段、じゃよ。広範囲が消し飛ぶ事は麻帆良の裏の森で実証済みじゃ。下手をすれば、其方の本部が無くなるであろうこともな」

『≪それでも、こちらに送ると言う事は……≫』

「うむ、それほどまでに今回は荒れる(・・・)。占いにも出たが、アレは―――」

 

 

 

 

「月? うわぁ、最悪の結果やね」

「え、えぇぇぇぇ!? 修学旅行、そんな結果が出たんですか!?」

「ややわ~、所詮は占いやし、逆に考えれば大変な事が在るって分かっただけでも対処のしようはいくらでもあるえ? どっちにしろ、気を付けた方がええやろしな」

「うぅぅ、不安だよ~」

 

 タロットカード、その結果でネギは修学旅行はどのようなものかを近衛木乃香に占ってもらっていたのだが、その結果出て来たのは「月」と言うものだった。その事実にネギは項垂れるも、親書を渡された時に困難が付きまとうだろうと学園長に言われた事を思い出し、自分を奮わせたのだった。

 

 ここで、タロットカードの「月」について軽く記しておこう。

 簡潔に言うと、このカードにおけるテーマは、隠れた敵・失敗など負のイメージが強い。

 逆位相での意味は徐々に好転などと前向きなイメージが出ているのだが、木乃香が引きだしたのは正位相の方。つまり、ネギは本当に危険な事を示唆されていたのである。前途多難もまた「主人公」の運命と言う事だろうか。

 

 そんな結果で意気消沈したネギが部屋に戻ろうとすると、丁度時を同じくしていた千雨の姿が目に入った。あちらはネギには気づいていないようで、そのままドアを閉めて中に行ってしまった。

 

「…長谷川さん、何であんな目を?」

 

 その時に彼が見たのは、長谷川千雨の決意に満ちた表情。それは学園長と詠春の会話をRAYからデータとして聞いたからであり、「織姫」の能力に対する緊張からだった。そんな堅い表情の下では幾つもの作戦が渦巻いてもいる。

 ネギは気になったが、それは近づかない方がいいと、頭の片隅で理解したのだろう。少々気が狩りになりながらも、彼女も魔法関係者であり、修学旅行では何かをするのかもしれないと思って、部屋に戻っていくのだった。

 

 

 

 後日、千雨の部屋には一人の来訪者が在った。

 ネギではなく、はたまた明日菜でもない。

 彼女名は――桜咲刹那と言った。

 

「……学園長、それは本当なのですか!?」

『≪……叫ぶ気持ちも分かっておる。じゃが、これは事を深刻に受け止めた結果じゃ。四月二十日午後8時現在を以って近衛木乃香は―――≫』

 

 止めろ、聞きたくない。方針はどうしたんだ。

 そんな言葉が浮かび上がる中、刹那はその言葉を受け止める事になる。

 

『≪関西呪術協会次期党首として任命を決定する≫』

「………そんな」

 

 桜咲刹那は、その時を以って何かを失った。

 昔の記憶、木乃香との繋がり。それらが全て離れたような錯覚に襲われる。これで身分の違いがはっきりしてしまい、木乃香が遥か遠くの存在となったように思われた。

 そんな絶望を千雨が数値として記録している中、学園長が再び口を開いた。

 

『≪そうじゃ、君の役割は変わっておらんぞ。引き続き、おそらくはこれから永続的に木乃香の護衛を続けてもらう事になる≫』

「…は?」

 

 ちょっと待て、私の心境はどこにふっ飛ばしやがったでありますかこの爺は。

 心の中とはいえ、口調が乱れる程に刹那は通信している仔月光の腕を硬く握りしめた。ミシミシと音が鳴り響く中、学園長は大いに笑い飛ばした。

 

『≪何を言っておる! ワシも婿殿も組織の長をやっているが、部下の気持ちを考えないという事は無いよ。今回は木乃香へその旨を話すのも実家に行ってからになるであろうし、君を引き離すつもりもない。何より、“君は必要”じゃからの≫』

「……それは、本当ですか?」

『≪うむ、そうして疑う姿勢は護衛として十分の素養が在る。そういったところも含め、刹那君はその任に付いていても良いのじゃよ。…では、ワシもそろそろ職務が在るので切らせて貰おうかの≫』

「は、はいっ。ありがとうございます」

 

 仔月光からの通信映像が終了し、刹那は涙を流していた。

 その内心を記そうにも的確な表現が無いほど、それは歓喜。それは喜び。

 千雨は彼女が落ちつくまで一人にさせておこうと、その場をゆっくりと離れて行った。

 

 時は過ぎ、3時間後。

 先ほどの事と、場所と時間を取った事に対して謝罪と感謝を述べる刹那の姿がそこにあった。千雨の方はそれをよかったじゃないかと言いつつ受け取り、笑顔を浮かべる。後は本人同士の問題だろうな、という気持ちを抱えて。

 

「そう言えば、千雨さんだからこそ訪ねたい事が在ったんでした。まだお時間よろしいでしょうか?」

「いや、別にいいけど」

「それでは、フォックスさんは最近どこに行かれたのでしょう? 最近は学業と、ネギ先生と近いお嬢様の後方護衛に忙しく、まったく合同修行をしていないのですが、修行の場所に行っても姿が見えなくて」

 

 正気に戻った彼女が次に訪ねたのは、フォックスの所在。

 そう言えば桜咲も一緒に修行している仲だったか、と千雨が思い出した頃には、仔月光を通したRAYが答えていた。

 

『≪フォックスなら京都に行っているわ。此方からの一時的な人材派遣と、彼自身の修行、それから(くだん)の事件の情報保有者としてね≫』

「…七夕伝説事件、ですか」

「ま、そういう事だな。それから正式な気の扱い方をあっちでマスターしに行ったとも言ってたな。見よう見まねで斬岩剣も使ったらしいぞ?」

「成程、斬岩剣でしたらフォックスさんの体質でも習得することはできますからね。…それにしては、見よう見まねとはどういう…?」

「ああ、ホントにあっちの党首の技を見ただけでコピーしたらしい」

「……は?」

 

 自分も使っている流派の奥義がその場でコピーされたと聞いて、流石はフォックスさんだという気持ちと、その有り余る近接の才能に対して刹那は呆れ果てていた。自分の腰にある竹刀袋の刀に意識が移り、その剣に斬岩剣をしみ込ませるにはかなりの時間がかかったものだと昔を思い出した。

 そして先ほどの話と照らし合わせると、深いため息が出てくる。どうにも、千雨やフォックスたちとの関わりが在ってから憂鬱な出来事が増えた様な気がする。

 

「なんというか、流石ですね」

「だよなぁ。あ~あ、私も不思議パワーで自分の身体強化してみてーなぁ。…桜咲」

「はい、なんでしょう?」

「私には気って使えるか?」

「無理です」

 

 刹那の間髪いれない回答でやってらんねー、あの化け物どもめ。そう言って項垂れた彼女を見ると、刹那はどこか心に落ち着きが生まれて来ていた。化け物と言う言葉が一般人から見れば魔法使い全員に当てはまっている、という認識からかもしれないが、それ以前に自分は恵まれている方なのだと捉える事が出来るようになったからだ。

 更に、RAYに属している人たちは隠してきた「秘密」を知っているというのも、刹那の安心のウェイトを多く占めているのだろう。千雨のソリッドアイで刹那を見れば、背中のあたりに魔力の違和感が固まっているのは一目瞭然で在り、同じ機能が備わっているフォックスもそれを知っている。さらに、その全ての情報を持っているRAYは言わずもがなだ。

 それを知られた時には、感想を問いただす間もなく羨ましいと地団太を踏まれて唖然としたのは今となってはいい思い出だ。千雨にとっては黒歴史だが。

 

 しばらくはソファに寝そべってフォックスや刹那を羨ましがっていた千雨だったが、そう言えば、と思い出したように背をエビの様に反らせて立ちあがった。

 

「……あ、そうだ。桜咲、付いてくるか?」

「どこにでしょう?」

「RAYのところにだよ。お前なら、きっとアイツも気にいってくれるかもしれないし」

「RAYさんのところに? …ですが、彼女は」

 

 刹那が言い終わらないうちに千雨はにんまりと頬を吊り始める。眼鏡を外し、ソリッドアイを取りつけ、意地悪げに笑みを浮かべた。そんな笑顔のままに、この先の事を話した。

 

「だって、共闘相手は知っておくべきだろ?」

「……え?」

「つーわけで、後日の朝に家に来い。RAYも歓迎準備整えとけ」

『≪玉露を沸かして待ってるわ。セツナさん、貴方の歓迎の為にね≫』

「え、え…? えぇぇえええええ!?」

 

 その後はあれよあれよという間に歓迎の話が進み、刹那は大歓迎を受けるような事になってしまっていた。昼過ぎになって話がまとまると、お嬢様の護衛が在ると言って千雨の部屋を出る。だが、その横顔は心なしか嬉しそうだと、千雨は思った。

 

「……さてRAY?」

『≪分かってるわ、チサメ……サプライズは当然≫』

「ガチバトル」

『≪パーフェクトね≫』

「感謝の極みってね。さ~て、ちうたんの根性が疼いてきた!」

 

 結局のところ、長谷川千雨と言う少女もお祭り好きの3-Aのクラスの一員と言う事なのだろう。騒ぐ時は思いっきり騒げるように、悪人の様な笑みを浮かべて明日の出来事を思い浮かべているのであった。

 

 

 




これから一万字近くを目標にしていきたいですね。
それでは、お疲れさまでした。

次回からは刹那の歓迎会を飛ばして、一気に京都編に突入することになります。
なぜかというと、そういうスタンスを取った方物語が早く進むからです。

あ、ちゃんと描写はするのでお許しください。
それでは、良いお年を。これで今年の投稿は最期になりますので。

皆さん、お疲れさまでした。
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