抑止兵器マギア   作:マルペレ

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人を人形などと言っていた彼らもまた、悲しい運命を背負っている。

―――などと考えがちであるが、そんなことは断じてない。
外道の輩は必ずいる。それだけは、人間の変わることの無い真理であるのだから。


☮嫌な約束は振り払え

 ―――では、ゲーム開始!!

「うわっ、な、なんだぁ!?」

 

 風呂に入ってからすぐ床に付き、きっと明日も巻き込まれるのだろうなと体力を戻す為に布団の温かさに包まれていた彼女であったが、聞き覚えのある声がテレビから聞こえて来たので何事かと目を覚ます。どうやったのか旅館の電波をジャックした朝倉和美が先ほど言った「ゲーム」の主催を務めているらしく、画面の隅には見た事のあるオコジョが跳ねているのを発見した。

 

「長谷川さん、目が覚めましたの?」

「どーいう事だこりゃ…また何でこんな……」

「貴女は早々に寝てしまったので知らないでしょうが、ネギ先生の唇争奪戦が行われますのよ! 各班の代表選手は二名ですから、本当なら貴女を応援としてお呼びしたかったの…お疲れのようですし、部屋で寝ます?」

「……ここで様子見させてもらうわ。どうせお前らの喧騒で寝れないだろうし」

「そうですか。それでは、私はネギ先生を死守しなければなりませんので、また後で!」

 

 しゅたっ、と手を上げて部屋から出ていく彼女を見送って、残ったあやか以外のメンバーを見回す。全員が千雨と違って暴走するあやかの近くに寄りたくないのか、部屋の暗がりの中へ退避しているようだった。

 それよりも、朝倉がこんな事をしているのはどうせ、あの画面の端に映っていたオコジョの仕業だろう。エヴァンジェリンとの戦いでも見たように、ネギの使い魔として現在はなりを潜めているらしいが、あの真祖の吸血鬼から聞いた話ではオコジョ妖精という仮契約を行うための仲介役にもなれると言うではないか。しかも下着泥棒と言う最悪の汚名付き。

 となると、これは「魔法騒動」という括りの筈。その恐ろしさを身を以って知った朝倉が何故こんな事をしでかしているのか。彼女の体内にも念のためと言う事で打ち込まれたナノマシンと同じ周波数に合わせると、千雨はコールを行った。

 

≪朝倉! あまり魔法に関わり過ぎないんじゃなかったのかよ!≫

≪あれ、ちうちゃんどしたの≫

≪その名前はやめろっての! じゃなくて、今の状況忘れてねーだろうな。今ここで“関係者”を作ったら、真っ先に狙われてもおかしくないってのにっ≫

≪「……え」≫

 

 無線越しに聞こえて来たのは、おそらく肉声でも発したのだろう茫然自失とした声色。派手に喋るわけにもいかないからか、画面の端に映っているオコジョが不思議そうに朝倉を見上げているが、流石にこの通信には気付かれていないようだ。

 

≪くそっ、やっぱり生死に関わる問題と思ってなかったか…とりあえず、お前お得意の情報操作で仮契約でもスカカードしか出ないように手配しとけ。もし、仮にもしもの話だが……!≫

 

 語尾を荒げて千雨は通信に叫ぶ。

 

≪本物の契約カードが出来た場合、ソイツの支援やネギへの責任を徹底的にしておけ。お前はあくまで間接接触(サブポジション)に留まったと思ってるかも知れねーが、本当にこれ以上魔法の世界の奥深くまで行くんだったら、RAYに頼んで戦闘データを開示しときやがれ。私からは以上だ。…まぁ、それでもやっぱり深くまで来るんだったら、最大限こっちからの援護はする。最終的にお前を巻き込んだのは私らだからな≫

≪え、あっ。…分かっ―――≫

 

 ツッッ! 最後まで彼女が言い終わらないうちに、千雨は無線を切った。

 浴衣の帯を巻き直し、外れないようにしっかりと固定してからその上にいつものポーチを巻き付ける。本当なら此処で浴衣の下に軽めの家庭装甲(厚い紙など)を入れる所だが、クラスメイトが他にもいる中でそんな派手な真似は出来ない。

 

(ちょっと油断し過ぎたな…)

 

 ホームページの更新は深夜に行って、それまでの間は屋上にでもよじ登ろう。そんな考えを抱いて外へ足を向けた時、背後からあれ、という声が上がった。どうやら村上が千雨の様子に気づいたらしい。

 

「長谷川さん何処か行くの?」

「ちょっと新田に見つからないように外で空気吸ってくる。帰りは遅くなるけど心配すんな」

「結構大人しいと思っていたんだけど……意外と悪い子なのかしら?」

「那波、まぁ見逃してくれると助かる」

 

 まぁ一人になりたい時もあるわよね、と彼女達はすんなり千雨の外出を見過ごした。最後の三班にねじ込みになったザジは何も言わずに彼女の背中を見つめているだけだったが、あのポーチから銃を取り出すところを見ていたので、何か危険な事をしに行くのかと、無表情ながらにハラハラとした感情を発露させている。

 

「……いってらっしゃい」

 

 だが出来る事もないだろうと。小さく手を振って見送るのだった。

 

 

 

「………」

 

 どうにも、不思議なものだ。気絶した織姫を背負いながら、フォックスはそんな事を考えていた。仮にも遂行型とは言え、地対空ミサイルを生身で喰らっておいてまったく傷が無い。千雨が最初に結界を撃ち抜いたという戦闘データを移動中に閲覧しておいたが、その時にもただ「縫っただけ」で傷を塞いでしまうと言うありえない回復方法を取っている。BIGBOSSもスネークイーター作戦の折には負傷個所をメディックの言葉に従って銃創や骨折を応急手当てしていたようだが、それとはまた違う回復方法なのだ。人体の法則を無視している辺り―――

 

「やはり、“魔法”と言う事か」

「……う、………ん」

 

 背中の織姫がそんな気絶状態でも己を誇示するかのように唸る。まだまだ目が覚めるようなフェイズには至っていないので安心ではあるが、少しばかり場所が遠いのが難点か。フォックスの現在地は奈良県。だというのに、呪術協会本部が京都の人通りの多い場所に在るのだから、中々たどり着けない。

 そんなこんなで走っているとようやく県境を越えたらしい。一応道に沿って走っているので、この先の行き先案内が描かれている看板を見る事ができた。あまりに急ぎ過ぎれば彼女のステルス迷彩が追いつかない、かと言って、それ以下のスピードでもオクトカムに当たった電灯の光などが反射してしまうので、余計な目撃情報や噂を広めかねないのだ。

 

 未だ生身である事がどうにも恨めしい。織姫がもし協力的で、それでいて普通サイズの白鳥や他の鳥に変身する。その上で自分も怪しまれないよう他の鳥になる事が出来れば効率がいい……ふと、フォックスは現在の己の思考形態が、すっかり魔法を前提にした考え方になっている事に気付く。それでいて、普段ならこう言った理想論は考える筈もないのに、こうなってしまったと言う事は、自分も随分と平和に慣れ切って余裕が出来る生活を送っていたのか、とこの世界に来てからの己の行動を振りかえっていた。

 

「……ナオミ」

 

 振りかえると言えば、真っ先に思いつくのがこの女性の名前。そして、後悔してもしきれない最期を遂げたナオミ・ハンターという己の義妹の存在だった。

 彼女に何も伝えることなく、むしろ恨んでいるかもしれないソリッド・スネークにしか伝言を遺す事が出来ず、無謀にも巨大兵器に挑んで行って…散った最後の光景が瞼の裏に蘇ってくる。前にも言ったように最後の意思は伝えられたので、後悔は無いのだが。

 

 そんな義妹の研究を進めたナノマシンが体の中にあり、己達以外の悲劇の全てをも仕組んでいた「愛国者達(自己進化AI)」によって握られていたSOPシステムの一部を使っている自分が、これまた歪な存在に思えてくるものだ。死してなお収まらなかった闘争の心も、この体を無理やり動かしているのではないかと疑問が広がって行く。そんな時だった。

 

「どうやら、迷っているようですね」

「……回復の早いことだ」

 

 突如、背後から何もかもを見透かしたような声が聞こえてくる。それは言わずもがな先ほどまで戦闘を行っていた、忘れようともこびり付く声。織姫の声に他ならなかった。

 途中で獲物が起きていたのに気付かなかった失態を犯し、そうとうに鈍っていると己の未熟さを認識したところで強化外骨格を動かす電流を一時的に外部に放出してスタンガンのように気絶させようとプログラムを選択していたところで、また彼女の声に引き留められる。

 

「そう急く物でもありません。私にはこうして口を動かす程しか余力はありませんので」

「……呪術を使われん限り、首を絞めるなどは効かんがな」

「それは、それは。頑丈な(外骨格)を着ておりますものね」

 

 目の覚ました織姫は特に騒ぐ事もなく、最初に千雨と出会った時のようなゆったりとした声でフォックスに語りかける。彼女を背負った彼の視界では、後ろへ抜けていく景色にもならぬ風景が続いていた。

 

「どうやら、その右腕のどこかに珍しい物をお持ちのご様子。少しばかり、(わたくし)と話をしてみませんこと?」

「…言霊、とやらで操る気もないと?」

「元より、そのような力等、持ち合わせてはおりませぬ故」

 

 しばらくの無言が続き、二人の耳を打つ風の斬る音が少しばかり緩やかになる。

 

≪コールサイン、こちらFOX2。織姫を確保したので本部に輸送する。事情聴取として少しは聞いておくが、有力なものが出るかは分からん≫

≪………ッ……ザ……ゃ、った。繋がりました、詠春です。其方の判断にお任せしますので、いったんは一任してもよろしいでしょうか≫

≪情報を引っ張り出すことに関してはあまり当てにはするなよ。専門の尋問官でもないからな。オーバー≫

≪了解しました。来るのでしたら、迎えを用意しておきます≫

 

 詠春と定時連絡を取ると、仕方ないという風にフォックスはいいだろうと彼女に応えた。

 

「では、お一つ昔話を語りとうございます……」

 

 

 

 

「こちらFOX1。嵐山ホテル周辺に今のところ敵影は無し。…っつうか子供先生が見回ってるから、私要らなかったんじゃね?」

≪果たしてそうかしらね。こちらRAY、ようやく京都到着よ≫

 

 ようやく主力というか、最終兵器が到着したんだと分かると、千雨はほっと息をついた。

 

「やっとか。今はどの辺にいるんだ?」

≪大文字山で身を隠しているわ。オクトカムは正常に働いているし、コースから外れた場所に潜んでいるから見つかる心配もない≫

「地滑りとか起こさないようにな。戦闘データは参照したか?」

≪ええ。解析加えてみるけど、しばらく内容について学園長と話し合ってみるわ。指示が在るまで動くかどうかも分からないもの≫

「分かったよ。オーバー」

≪オーバー≫

 

 もう一度深く息を吐き、手に持った双眼鏡と屋根に取り付けたスナイパーライフル「VSSヴィントレス」を傍らに置く。この銃の最大の特徴はその消音機能の高さにあり、いつ耳聡い逸般人が銃声を聞きつけて屋根の上に昇ってくるかもわからない以上、狙撃銃でも気付かれない事を最大限考慮した銃を選ばなくてはならないからだ。

 弾速はギリギリで音の壁を超えないので、ソニックブームによる音が発生しない。そして、サプレッサーや二十発マガジンを持つとあって、戦闘能力の高さや補助能力にも信頼が置ける。こんなものを撃つ事なんて起きてほしくはないが、それでも控えておかければならないのが熟練の傭兵の辛いところ。って…

 

「いつから私は傭兵になったよ……」

 

 すっかり一流の一匹狼気分になるとは、自分も随分と妄想が酷くなったもんだ。

 それだけSOPの影響が強いのか、または先の戦闘の名残が消え去っていない事を強く実感する。そうして誰か来た際に備えた鎮圧用のMk.2を手の中で弄ぶと、くるくるとガンアクションを繰り広げた。

 もう一丁取り出したマグナム系の拳銃と組み合わせ、放り投げては背中で受け止め、回しながらに前に持ってくると、両手で回している銃を別同士に持ち替える。そして高く放り投げてポーチを開いて指を一本立てると、ポーチにはマグナムが、指にはMk.2が元の鞘にすっぽりと収まった。

 

「SOPの空間把握って、こんな事にも使えんのな」

 

 そんなシステムの汎用性の高さ(無駄遣い)を一通り楽しんでから双眼鏡をのぞき直すと、ちょうど此方に戻ってくるネギの姿が見えた。下の喧騒も「ネギ先生がいっぱい!?」「き、きききキスなんて……」などと随分と愉快な事になっているようだが、生憎今の自分はクラスの護衛が目的であって、クラスが巻き起こした事件を解決する事ではない。

 朝倉から何も連絡がないところをみると仮契約はスカカードも出来ていないらしいが、この有様ではそう遠くない未来に契約(不完全であっても)成立することは確かだろう。

 

 ちょっとだけ、その辺りが憂鬱だ。

 

「……はぁ」

 

 CALL! CALL!

 

≪……ち、ちうちゃん≫

「だからその呼び方ヤメロって……朝倉?」

≪ど、どうしよ…ネギ君が五人になったと思ったら一人で友達から始まったなって思ったら事故っぽく契約成立してそのえっとあの!≫

 

 要領を得ない言葉。その後はあうあぅ、どーしよぅなどうろたえている事が分かる言葉を連ねて行ったが、キーワードを抽出して千雨なりに会話を整理していった。とりあえずは朝倉に長めの深呼吸でしっかりと落ちつけてから、詳細を聞くことにした。

 

「それで、契約成立しちまったのは分かったけど、そりゃまたどういう?」

≪本屋ちゃんが、こけた拍子にキスしちゃって…そしたら仮契約(パクティオー)カードが……それで今私達は騒いでたからフロントで正座中……≫

「とりあえず頭冷やしやがれ。…しかし、宮崎か」

 

 あの戦闘とは無縁そうな少女が契約。確かにネギと良い雰囲気になっていたのは千雨とて気付いていたが、まさかこんなに早くフラグ成立してしまうとは予想外にも程がある。というか何故そんな状況下になった。もっと何か出来る事とか、咄嗟に宮崎を抱きかかえるとかいろいろ方法が在ったんじゃないかと、先ほどの朝倉と同じく半分混乱状態に陥ってしまっている彼女だったが、ナノマシンが興奮作用を感じ取って冷静になる様に体内で鎮静を促す。

 RAYのナノマシンは個体への注入量によって効果が左右される辺りが元来のSOPから劣化している部分ではあるが、普通の人間にはこの程度の遅延性で十分であろう。

 

≪……ねぇ、どうしたらいいかな≫

「バカレンジャーみたいな奴なら説明だけで十分だが、まさか宮崎なんて予想外だっつうのに……とにかく私からの指示としては隠し通す方向で。ネギや魔法使用者が情報開示を促すようなら普通に喋っとけ。判断は任せた」

≪…うん。頑張ってみる≫

「じゃ、夜通しでの索敵があるから通信切る」

 

 あまりお喋りで体力を使う訳にもいかない。来るかもわからない敵を待つのはつらいし、あの織姫を生け捕った事で、つがいだと思われる彦星にどんな影響を与えるかも分かったもんじゃない。だから、警戒しておくことしかできないと言う、曖昧かつ合理的な判断しか出せない陳腐な発想が恨めしいが、自分は三国志演義での諸葛亮のような先読みができる訳でもない。凡人らしく、道具に頼って最大限発揮すればいいだけだ。

 

「……寒っ」

 

 それにしても、吹きすさぶこの風何とかならないのか。

 千雨の恨めしさは、夜空の中に消えていくのだった。

 

 

 

 

 京都の関西呪術協会本部。今にも噛みそうな名前の本部にようやく到着…する前に、彼は詠春に遅れると言う断りを入れた後、大文字山に訪れていた。先ほどの千雨との通信ログを閲覧した事もあるが、RAY自身からフォックスに到着の旨を連絡してあったのだ。

 そしてこの場に織姫を連れて来たのは、千雨が持つロケットランチャーなどを大きく上回る強大な破壊力を持ち、更にはフォックスなどの様なものではなく、索敵専用に積まれたレーダーを搭載するRAYがいる事で、逃げ出す気さえも無くさせると言う目的があったから。

 下手をすれば敵に手札を晒すような行為に直結するのは確かだが、RAY自体が最終手段と言う事もあって、ばれたところで個の殲滅力を前にしては対策の取りようもないだろうと思っての事だった。

 

「さて、昔話とやらの続きは此処で聞こう」

「これはまた…大きな鉄の塊でありますね」

『≪その鉄塊のRAYよ。此処ら一帯には仔月光がいるから、逃げた瞬間ハチの巣か、纏わりつかれて黒団子になって圧死の二択。賢明な判断をお願いするわ≫』

「ふふふ、それは怖い怖い。では、この(おのこ)に語りました昔話、新顔もおるようですから、改めて語って聞かせましょうか―――」

 

 彼女、織姫がフォックスに話していたのは導入部分だったが、よほど話す事が楽しいのか、織姫は捕虜らしく口を閉ざす事もなく、つらつらと語りを始めるのだった。

 

 時の彼女が彦星と出会ったのは、ほんの6年前(・・・)の事。関西呪術協会にも属さない、フリーの呪術師の生まれであると、彼女は身の上話をはじめた。

 今の「織姫」となったのは、彼女には彦星が織姫として認めるべき技能…魔力糸の運用技術があったから、見染められて連れて行かれ、こうした肉体関係を無理やり持たされたらしい。だが、彼女は確かに「御伽噺」をベースとした呪術を扱っていたけども、それは決して七夕伝説の織姫を意識していたのではなかったという。

 

『≪興味深い話しね。それじゃ、どうして織姫として収まっているのかしら≫』

「それを今からお話するのですよ。やはり所詮は作られた物に過ぎないと言う事でしょうか、先も読めぬとは随分とお粗末な頭をお持ちのようで」

『≪それはどうも。別に言われても何も感じない欠陥仕様だけれども≫』

 

 女(片方は?)の戦いが勃発しそうになって、フォックスが何ともいたたまれない感じになりそうだったので、気付いた二人は場を持ちなおした。そして織姫は続きを語る。

 

 そんな織姫は、元々は「鶴の恩返し」という童話を基にした呪術を扱い、美しい衣を織っては呪術協会やオーダーメイドでひっそりと研究費を稼ぎ、その作業を見られたものからは逃げ出して安住の地で再び作業を再開する事を続けていた。

 だが、彼女は変身したのは「鶴」ではなく「白鳥」。この辺りに、フォックスは違和感を感じる。

 

「……史実とはかみ合わないどころか、白鳥等どちらにも――」

「どうやら外国のお人の様で、日の国の童話も詳しくは知らないご様子。簡単に言いますと、白鳥は彦星と織姫を断つ天の川の橋の代わりを務めた鳥に御座います」

「成程、続けてくれ」

 

 そうした時に連れ去られ、「俺の織姫になるが良い」と言われる。そんな訳も分からぬままに彦星と語る男の呪術に書き換えられたのだとか。その方法は前述したとおり、である。性の交わりは生命の誕生もつかさどると言う事で、最も魔力伝導率が高い。そのまま彼の魔力に染められ、鶴の恩返しと言う一族の術式は歪められ、その中に「織姫」という概念を打ち込まれた。

 

「その時から、私も真の名は忘れ去られ“織姫”という肩書を持ち、こうして口調や容姿も変えられる事へ至ったのでございます。口調に関しては今のように古今入り混じる不安定なものではありますけど。…ホンにしてもあの男、随分と身勝手なものであります故、いかに温厚な私であろうと嫌気が差して参りました」

「その怒りはどうでもいい。……それで、結局は何が言いたいんだ?」

 

 フォックスが単刀直入に聞くと、それ故に貴方()にお話しなさったのですよ。と織姫は微笑む。相変わらずの大和撫子顔負けの美しさを携えた微笑が、輝きを持ってフォックスに直撃させられた。

 無論、彼が何の反応も示さないのを見ていけずなお人と呟いていたが。

 

「…まぁ、詰まるところはあの男に撃ちこまれた術式が貴方様の剣を受けた折に解け、私の自由意識だけは戻る事が出来たのでございますよ。本来なら有り得ない出来事なのですが、貴方様のその右腕、少しばかり拝見させていただくことは……」

「…御党首の退魔の刀か。待っていろ」

 

 カシュン、と収納スペースが開く音がしたかと思うと、彼の右腕からあの青い小刀が現れる。ただ、フォックスが前に見た時と違っているのは、その鞘が淡い発光を携えていた事。その不思議な現象に訝しみながらも織姫に手渡そうとするが、彼女が触れようとした途端に織姫の手がバチッと弾かれてしまった。

 

「ああ、やはり」

『≪何か分かったのかしら≫』

「強大な退魔の力が施されておりますなぁ。これならば、解放されておらずとも感情が揺り動かす余波のみであっても、あの男の欲望に歪んだ式も砕け散るのは道理。いや、それともあの場では我が真実をお話になっておらぬからこそ、あの場で私の自我のみが解放されたのでありましょうか……」

「……?」

 

 ぶつぶつと着物の裾を口に持っていき、一人ごとを繰り広げ始めた彼女に視線が集まる。フォックスの視線も当然ながらそこに行く訳だが、そうした視線に気付いた織姫はああ、と何でもないように手を振って下ろした。

 

「いえいえ、お気になさらずとも此方の虚ろ言に過ぎませぬ。……この刀は、しかるべき時が来れば抜けるでありましょう。持っておられても損は無いと存じます」

「…そうか」

 

 再び収納スペースに仕舞うと、RAYに目配せしてコクピットからロープを取り出した。それを見た織姫は抵抗する事もなく大人しくお縄につくと、最後まで油断はできそうにないとフォックスに判断を下され、その片方の手をフォックスの強化外骨格を纏ったままの手と繋がれる。それを見て、まるで運命の糸の様でございますなぁ。と笑っていたが。

 

「そうそう、言い遅れましたが、(わたくし)の知りうる限りならお答えしとう思います」

『≪つまり、味方になると?≫』

「全ての魔法使いを根絶やしにするなど、アホらしいことを成し遂げようとも思えませんので。無理やり六年間を奪われた傷心を癒すには、実に男前なお方もいらっしゃること故に」

「まるで娼婦だな」

「何とでもいいなさって下さい。真実は私の内にある物で十分でありますよ」

 

 だが、この事は少なからずフォックスに衝撃を与えることになる。千雨にはスカウトの訓練を受けている、だから織姫も仲間にしてしまえたら良いなどと虚言にも近い事をいっていたが、よもやそれが実現してしまうなど誰が思えるだろうか。どうせこの事が千雨に伝わってしまえば、こうした事をネタにしてからかわれる回数が増えるに違いないとフォックスは心の中でだけ肩を落としていた。

 

 だが、有力な情報源が現れたのは願ってもない吉報になるだろう。現在の派遣先の上司である詠春に伝えておくことができたな、と無線ではなく土産話に持って行けそうな彼女へと再び視線を移す。彼に気付いた織姫は、微笑で返すのみであった。

 

「…このまま、上手くいけばいい物なのだがな……」

 

 思わず役に立ったかもしれない、薬師寺家党首から受け取った青い小刀を取り出し、月の光にかざした。柄の金属部分に跳ね返った月光が瞬いたかと思うと、その輝きは一瞬で消えさる。

 

 そう言えば、月の満ち欠けは妖怪の活動を知らす役割もあると言っていたか。魔法というものに関わる上で、麻帆良を襲撃する敵の強さを知るために得た知識が思わぬところで記憶から絞り出される。そうした異形とは対をなす退魔。その力が本当に己の手に在ると分かって――――彼は小刀を再び仕舞い込むのだった。

 

 

 

 

 

「……やぁREX。実に…うん、一年ぶりになるのかな」

 

 雪が降りしきる造られた沿岸。元々はタンクや鉄塔が建っていたのであろう立派な港の一角に、場違いな巨人の下半身だけの様なものが膝をついて坐していた。その傍らには、眼鏡を掛けた見る限りは平凡そうな男。その実は、一年前に最大の親友を失ったこの鉄塊の開発者が立ち尽くしていた。

 彼の名は言わずとも分かるだろうが、敢えて乗せておく事にしよう。メタルギアREXの開発者、そしてこの始まりの地シャドーモセス島に訪れていた男の名は――

 

 ―――ハル・エメリッヒ。通称「オタコン」と呼ばれる男だった。

 

「あれから君を乗り回したリキッドや、せっかくの再開も忙しくて不躾になったスネークも自分の役目と意志(will)を胸に逝ってしまってね。残されたのは君と…僕だけさ」

「…ハル兄さん」

「ああ、すまないねサニー。君を勘定に入れるのを忘れていた」

 

 ハル―――いや、ここでは敬意を込めてオタコンと呼ぶ事にするが、彼の背後にはサニーと呼ばれる一人の少女が立っていた。一年前の騒動があった時までは外にすら出る事が出来なかった内気な彼女であるが、今となっては外の世界を恐れる事もなく、自分の足で地球と言う星を踏みしめている。

 その彼女も、伝説と呼ばれた男…ソリッド・スネークの関係者の一人である。

 

「…本当に、いいの?」

「そうだよ。じゃないと、僕らの…()家族、なんて冗談にも出来ない一族の罪が消えないからさ」

「Mk.Ⅱみたいに、頑張って作ったって聞いたよ」

「それでもだ。それに、コイツも一人で此処に居続けるより、あの戦いで使われた仲間(兵器)と同じ場所にいった方が寂しくないかもしれないからね」

「…そっか」

 

 そう言ったオタコンの手には、一個の小さな機械が握られていた。彼の手にある機械は、押すべきボタンが一つだけ存在している。

 

「それじゃ、君に会えてよかった。君を造れてよかった……だから、さよならだREX」

「……ばいばい」

 

 二人の足音が遠ざかり、ヘリの翼が風を切る音が響いた。

 そこでは雪が降っているものの、まるで騒乱が収まったから自分も、と言わんばかりに落ちついたシャドーモセスの雪は、彼らを邪魔することなく別れを演出するかのようにゆっくりと地面に付き、そして消えていく。

 

 ヘリの音が遠ざかった先。

 ボタンが押され、

 

 シャドーモセス島は大爆発を起こした。

 

「……これで終わったよ。スネーク」

 

 眼鏡の下では、流れる滴が一筋。

 




今回は結構はやめに書いてしまいました。
残念ながら戦闘描写は無かったものの、風呂敷広げすぎた感じもあります。

それから、織姫の話はけっこうこじ付けになってしまって申し訳ありません。
白鳥に変身する理由などを真面目に考えていた方もおりましたが、拍子抜け、となってしまったのではないでしょうか。
それでもこの設定だけは譲れないので、なにとぞ今後の展開でご容赦ください。
皆様が楽しめるようなものを作っていきたい所存であります。

長々と言い訳失礼しました。
ここまでお疲れ様です。
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