抑止兵器マギア   作:マルペレ

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濁流が駆け抜けて、その場には何も残らなかった。
それでも、拾い上げた手は暖かい。

嗚呼…。こんな私でも繋がる手が―――


☮I will…

 もし今此処で論文を書けるような余裕があったとしたら、ナノマシン万能説を唱えたい。それほどまでに彼女の動悸は激しく脈を打ちそうで、絶え間なく分泌されるドーパミンで強制的に自分の体を冷静に落ちつかせてくれている。

 そっと息を吐いて耳を澄ませると、少しずつこの先にある人物たちの小さな声もはっきりと聞こえるようになってきた。

 

「色々やられとるけど、こんどこそお嬢様はウチらが頂きや」

「姉ちゃん、せやけどあの剣士はどないするん?」

「あれは僕が抑えよう。だからまずは―――」

 

 聞こえてくる内容は作戦内容の様だが、何故か嫌な予感がする。

 千雨が息を殺してゆっくりとハンドガンを手に取ると、音が出ないように近くの壁にC4を設置してから会話が成されている方へ少しずつ歩み寄っていく。今は白髪の少年が何かを言おうとしているみたいだが、なんだろうか、まるで此方に注意が向けられて(・・・・・・・・)いる……? 不味いッ!

 

「そこの鼠を見つけようか」

「そう言う事や、そこのねーちゃん。俺の鼻は誤魔化せへんで?」

「……ッ」

 

 もしやとは思っていたが、最初からばれていたとはお手上げだ。現在はフォックスを増援として呼ぶ事も難しい状況。時間を稼ぐのが一番だが、おそらく未だ一言も発していない、彦星らしき人物の視線が見えていないはずの自分に、ねっとりと絡みついてきているようで吐き気がする。超特製の光学迷彩が一切通用しない事でこの状況に危機感を沸き立たせるが、それ以上に脱出手段を講じる事が先であると彼女は判断を下した。

 情報より命。その言葉をたった今作戦として決めた千雨は、少しずつ移動しようと光学迷彩を起動させたまま立ちあがったのだが、それも少年の無駄や、という一言で硬直させるられる事になった。

 

「隠れるんは上手いけど、匂いがのこっとるでぇ。くっさい硝煙のが、な」

「……そうかよ」

「あら~、声はすれども姿は見えずー」

 

 この際だ。どうせならと思ってステルス迷彩を外すことなく彼女らの方に向き直って銃を構え、ゆっくりとトリガーに指を掛けた。いくら敵の少年が匂いに優れていると言っても、細かい動作までもを感じ取れる訳でもないと判断したが故の行動。流石の相手も空気の僅かな乱れを感じ取ることはできなかったようで、その狙いはおおよそ成功したと言える。相手はまだ碌な構えも取っていない事に対して千雨は武器を取った。

 これからは初動の差によって勝負がつく。そんな僅かな希望を胸に、卑怯を承知でステルス迷彩を解くことなく彼らに睨みを利かせた。

 

「おぉ怖。殺気がこっち向いたっちゅう事は、やってもええんやな?」

「やってみやがれ、その瞬間、私がこの辺にしかけた爆弾で道連れだ」

「なんやて?」

「爆弾やと…!」

「……はったりだね。未だ姿を消したままの君にそこまでの度胸があるとは思えない」

 

 前者二人は疑いを持ったようだが、口から出て来た嘘はすぐに白髪の少年に見破られてしまった。そして彦星と思しき大男と刹那が戦っていた女の子は未だ口を閉ざしたままという不気味さ。これは下手に喋っているあの三人より、確かな殺気のみをぶつけて来ているあいつらの方が危険じゃないのかと、ナノマシンでも抑えきれないような冷や汗が吹き出してきた。

 

「爆弾がハッタリ、か。なら実感してみやがれ」

 

 そして仕掛けたたった一つのC4。本来は逃げる時のためと取っておいた遠隔爆弾を惜しげもなく爆破させた。瞬間、人避けも成されていない路地裏の一角に爆音が鳴り響く。そこにいる者たちにとってはかなりの轟音だったが、意外と密閉した個所に取りつけていたので表通りにまでは音は響いていないだろう。火薬量もそう多くないものが使われていたようで、爆破された地点の壁には、それなりのクレーターが出来ているだけだった。だが、それで目の前の彼らは顔をこわばらせる。ハッタリに真実味を持たせるには十分な役割を果たしてくれたらしい。

 

「今度はこれを敷き詰めたところを爆破する。実質人傷被害は出るだろうが…まぁ少数の切り捨てだ。悪人を捕えるっていう、大義名分のもとにな」

 

 見えもしない悪人面をしながらそんなことを言ったが、当然これは嘘だ。自分が助かるためには手段は選ばないつもりではあるが、心から外道になるつもりは毛頭ない。

 だが、現に爆弾と言う殺傷手段を用いたところを目の前で見せられた相手には剣呑な空気と極度の緊張が張り詰めて来ている事が分かった。自分のペースに乗ってきた事を実感し、見えていないと言う油断が生じ、思わず笑みが漏れそうになる。

 

「随分と身勝手な思想だね。爆弾は確かにあるみたいだけど、声で分かる。この修学旅行中で君を見て来たけど、君は本当に人を殺す判断を下せるのかい?」

「…ストーカーかよ。まぁしょうがないと割り切って抑制するさ」

 

 嘘を断言。ナノマシンの補助で一切の震えなく言い切った事に向こうの一人は感心したのか、突然声を上げて笑い始めた。

 

「――ハ、ハハハハハハッ! 姉ちゃんコイツ大物(おおもん)や。俺にやらしてくれへんか? いや、やらせてくれんでも勝手にやったる!」

「しゃーないな」

「……天ヶ崎」

 

 千草の肩に手を掛けながら、彦星のドスの利いた重苦しい声がその場に響き渡るが、一度は刹那の手にかかって死の瀬戸際を見た千草はその程度では動じなくなったのか、逆に睨みを返して手を払った。

 

「彦星はん、織姫はんをやられた気持ちは分かる。せやけどコイツは小太郎だけで十分でっしゃろ。フェイトはんも不満そうやけど、雇い主はウチなんや。従ってもらわな」

「…ふん。まぁよい」

 

 ようやく喋った彦星は、印を組むとその場から天ヶ崎、月詠、そして白髪の少年を引き連れて転移して行った。残ったのは小太郎と呼ばれた帽子の下が不自然に膨らんだ少年のみ。ここで舐めて掛かるような真似をする彼女ではないが、敵が減った事に対してほっと息をついた。

 その意気の音を聞かれたのか、千雨の目の前にいる小太郎は眉間にしわを寄せる。

 

「なんや、安心でもしたんかい? 俺も舐められたもんやな」

「そうだな。……これで心おきなく―――」

 

 そう、相手は一人。ならば心おきなく逃げる(・・・)事が出来る。

 銃口をを相手の足もとに向けてトリガーに手を掛けると、行動のきっかけにするように呟いて、足に力を入れた。

 

「さよならっ!」

「あ、ちょい待たんかぁぁぁいっ!!」

 

 相手の動きを牽制するため、連続でハンドガンのマガジン一つ分を打ち切って空の薬莢ごと相手の方に蹴り飛ばす。ザラザラと足元に転がせた薬莢で転びそうになった小太郎が大きな隙を見せたら、すぐにポーチから特製スモークグレネードを取りだして、一気にピンを引き抜いた。そのまま、あわわ、とバランスを持ち直している少年にぶん投げる。コロコロと目の前に転がってきた物体が爆弾の一種と気付いた彼はまずい、と直感してその場から飛び退こうとしたがその瞬間にグレネードは起爆を起こしていた。

 千雨(ちうたん)特製のそれが撒き散らしたのは人が咽るような白い煙だけではなく、動物が寄らない為のこやしに使う、鼻がひん剥かれる匂いが充満するタイプ。鼻が利くと言っていた相手に関する千雨の読みが当たったのか、少年は嗅覚に優れた鼻を押さえると、

 

「くっさぁあああああ!?」

 

 と避けんでその場にもんどり打った。

 隙を見て千雨は逃げ出すと、壁をよじ登ってその場を後にする。一時は捕獲を考えたものの、自分の技量では尋問も不可能だと判断した彼女は一直線にその場から立ち退くことにする。そしてあわれな少年だけがその場に取り残されるのだった。

 

 それからしばらくして、大文字山の一角に辿り着いた千雨はRAYの元へと向かっていた。敵の戦力を伝えた際にRAYに呼ばれたからというのもあったが、彼女自身がさっさとRAYと合流してもっとも安全な位置(・・・・・)に行きたかったという願望が強い。正直言って命のやり取りなど千雨にとってはしたくもない苦行と同義なのである。

 

「準備できてるか?」

『≪あと数時間。それまでは―――≫』

「分かってる」

 

 千雨がRAYに笑いかけると、跪くようにRAYは頭を垂れた。

 

 

 

 

 突如、フォックスの外骨格のシステムを伝ってコールがかけられる。千雨がと在る理由からRAYの元へと離脱していたのは知っているが、だからといってそうしたという旨を伝えるために彼女がかけてくるとも思えない。一体誰が、そんな事を思いながら周波数を見ると、刹那からの要請である事に気付いた。

 

「…桜咲、この番号を何処から?」

≪長谷川さんから教えてもらいました。それより、私達の位置は分かりますか!?≫

「…ああ」

≪すぐ来てください。襲撃にまでは至ってませんが、確実に複数人からの殺気が向けられています。数は…おそらく三人以上≫

「分かった。なるべく現状維持だ」

 

 フォックスは方向転換すると、刹那のいる方向をナノマシンの図表で割り出して其方に走り始める。通信回線を開いたままに緊迫した空気を張り巡らせると、右腕の退魔剣が少しばかり、振動したようにも感じる。

 

「…この際だ。護衛対象に真実を話して隔離はできないのか?」

≪いえ、一般人のクラスメイトが沢山いますので、この場でそれを言う事は難しいかと≫

「厄介な…学園長も何故この時期を選んだのか……」

≪捕まえることさえできれば、ある意味一石三鳥ですからね。効率的と言う事もありますが、私達の事を信頼してくれているのでしょう≫

「話は魔法を話すかであって、それで犠牲者が出てしまえば元も子もないだろう…。まぁいい。人ごみに紛れこめ。魔法秘匿のルールを利用してみろ」

 

 一般人を巻き込みかねない提案にしばらく彼女は唸っていたが、自分の目的の優先順位を痛感したのか、仕方がありません、と聞こえて来た。

 

≪分かりました。私はお嬢様をこの場所から連れ出してシネマ村に向かいます。フォックスさんもその場所なら、あの姿を見ても違和感は……あまり、無いと思われます≫

「いや、流石に無理があるだろう」

 

 珍しくツッコミを入れたフォックスは、いつの間に彼女は笑えない冗談を言うようになったのだと痛む頭を押さえながら刹那のいる場所へと向かって行く。新たな瓦屋根の一つを蹴ると、更に高く跳躍するのだった。

 

 

 

 景色が駆け抜けて行き、クラスメイトの疲労困憊による悲鳴が聞こえる。

 その音を縫うように後方から迫る殺気を感じ、左手で難なく相手から飛来してきた飛び針を掴み取った。そして針を懐に仕舞うと、シネマ村の入り口で足を止めて木乃香をお姫様だっこの形に抱え込む。お嬢様は突然の事で目を白黒させていたが、急ぐためにこのような手段を取ることしかできない。息を切らして膝に手をつくクラスメイトの方へと向き直ると、これ以上は巻き込めないと言う意味で頭を下げた。

 

「す、すみません。お嬢様と二人きりになりたいので…しからば御免!」

 

 慌て過ぎて古風な言葉遣いになりながらも、木乃香を抱えて刹那はシネマ村に入って行った。途端に溢れる人の群れは、賑わいの熱気を刹那へと伝えて来た。

 

≪フォックスさん、フォックスさん―――≫

「せっちゃ~ん! せっちゃんも着替えよ、ウチが選んだげるから」

「お、お嬢様その格好は一体!?」

 

 連絡を取ろうとしたところを遮られ、刹那は着物に身を包んだ木乃香の姿に仰天する。普段とは違った美しさを兼ね備えた美少女に動悸が激しくなり、何かを言おうと反論しかけたところで彼女は強制的に口を閉ざされることになった。そのまま木乃香に引っ張られ、近くにあった衣装を貸す店に連れ込まれてしまったからだ。一応は通信を取ろうとしたのだから返事が返ってくるとは思ったが、残念ながら一度もコール音が鳴る事は無かった。

 

「せっちゃん、コレなんて似合うんとちゃう?」

 

 いつまでもへこんでいる訳にはいかないと決意を固め直した瞬間、木乃香から差し出された衣装が目に入った。

 

「し、新撰組の衣装ですか……」

「お店の人に“そこに居る女の子に何がに会いそうですか?”って聞いたら、これを進めてくれたんよ!」

「店員が…?」

 

 視線を移すと、にっこにこの笑顔で此方に手を振る女性店員の姿が。刹那と木乃香を交互に見ながらうっとりとした溜息を吐いているところをみると、どうやら「百合好き(そういう)」趣味の持ち主である事も伺える。つまり、刹那が木乃香の誘惑に負けて着替えてしまったら更なる妄想の種を与えることになるのだろうが、残念ながら最愛の護衛対象である近衛木乃香のお願いを跳ね除ける事が出来る程、刹那は押しが強くない性分だった。

 

 あれよあれよという間に更衣室に引っ張り込まれると、元の私服を店に預けて彼女達は外に出る羽目になった。衆目の視線は少年剣士と言っても差支えない凛々しい雰囲気を発するようになった刹那に向けられ、敵に見つけて下さいと言わんばかりに悪目立ちしてしまう。

 それでも襲撃に対応するために普段は長い竹刀袋にいれている愛刀「夕凪」を武士の様に腰に差して見たが、神鳴流特有の長刀はどこかアンバランスさを醸し出している。

 

「夕凪が死ぬほどそぐわない…」

「似合とるで。ほな、次こっちにいこか!」

「あ、お嬢様っ」

 

 いつもの剣士としての力はどこに行ったのか、木乃香に触れられるとまるでクリプトン鉱石が近くにあるスーパーマンのように軽々と彼女に連れ回されてしまう。本来なら振り払う事も出来るだろう木乃香の小さな手も、彼女にとっては鉄枷よりも振り払う事は難しかった。

 

 その後は写真をねだられたり、クラスメイトの物であろう好奇に満ちた視線に晒されたりはしたものの、何故か敵側からのアクションはほとんどなかった。これで何とか一難は去ったか、そう考えた時だった。

 満を持してとはこういう事を言うのだろう。ガラガラとやかましい馬車の走行音を立てながら、確実に殺気を纏った一人の貴婦人を模した少女が遮るようにして目の前へと現れたのだ。

 

「どうもー、神鳴流…じゃなかったです。…そこの東の洋館のお金持ちの貴婦人にございます~~。そこな剣士はん、今日こそ借金のカタにお姫様を貰い受けに来ましたえ~」

「…せっちゃん、コレ劇や。お客巻き込んでシネマ村でやってるらしいで」

 

 成程、ならば月詠…と言ったか。彼女の劇に見せかけた台詞の内容はおあつらえむきだ。刹那はそう考えて、敵もそれなりに頭を使ったものだと感心した。白昼堂々試合の宣言をするには丁度いい設定で在るし、刹那が負ければ言葉通りに お嬢様(木乃香)は連れて行かれる。続きを期待する観客が囃したて、無意識で去っていく反逆者たちの壁になる事も予想できる。

 ならば、ここいらで本心を込めた劇をして、相手の思惑に乗った方がいいかもしれない。フォックスが来るまでの時間稼ぎに使えると思った刹那は、一歩踏み出すと月詠へと刀に手を掛けて叫んだ。

 

「そうはさせんッ! このかお嬢様は私が守る!」

 

 少しやり過ぎたか。冷静な頭で辺りの声を聞けば、観客となった一般人が沸き立っているようだ。当の事態を理解できていない木乃香は顔を赤くして先の発言にもだえている有様である。

 

「そーですかー。なら……えぇ~い!」

「むっ」

 

 反射的に受け取ったのは彼女の投げた手袋。英国ではコレは決闘のサインだった筈だ。

 

「このか様をかけて決闘を申し込ませて頂きますー…30分後、場所は正門横“日本橋”にて。御迷惑と思いますけど…前のセンパイの剣技に惚れましたんですー…今度こそ本気でやらせて貰いますえ―――刹那センパイ♡」

 

 黒白の配色が反転した眼球。狂気に染まったそれが刹那を見据える。そして、彼女は自分が習っている流儀の教えを思い出した。闇に落ちた神鳴流は、興奮すると瞳が反転する現象が起きる、それが堕ちた者の見分け方であると。

 大抵、こう言った堕ち者は闇の強大な力に魅せられた者が多い。彼女もやはり、そのたぐいである事は予想がついた。そして、最後に言い捨てて行った「本気」という言葉、それはあながち間違いではないのだろうと言う事も。

 

 しかし、彼女の思考はそこで区切りをつけられる事になる。

 

「ちょっと桜咲さん、どーゆーことよー!?」

 

 クラスメイトがこんなにも面白そうなイベントを見逃すはずがないと、そう言わんばかりに刹那たちの近くに集まってきたのである。それによって困ったことになったと普段のコミュ障が災いして、しどろもどろになる羽目になってしまった。このままでは一般人の彼女たちも「あの月詠」との戦いに巻き込んでしまう事になるかもしれない。そうして心配と状況を打破する力を持たない刹那に、一本の蜘蛛の糸が垂らされることになった。

 

「ちょっと、いいかな?」

「どしたの朝倉ー?」

「……朝倉さん?」

 

 待ったをかけたのは朝倉和美。ふだんは麻帆良のパパラッチと言われている彼女が声をかけた事で、クラスメイトは従うようにしてざわめきを無くした。そして話を聞く体勢を整えたのだと見回してから腕を組むと、これは任せた方がいいんじゃないかな、との提案を下す。

 

「桜咲さんも大変なんだよねー。剣道じゃなくてほら、実戦に秀でた剣術習ってるから、実は修学旅行前にシネマ村からさっきの劇の要請が掛かってたんだよね?」

「え、…あ、そうでして――」

 

 そして和美と刹那のナノマシンが一瞬で更新を終了し、彼女の意図()を刹那が手繰り寄せる。一旦は切った言葉を繋げると、刹那はクラスの皆にこう言った。

 

「このかお嬢様にも、サプライズで参加してもらいたいのですよ。そのためには他の方たちは流石に参加させる事は出来なくて…」

「そ、そうやったん!? せっちゃん、ウチめっちゃ嬉しいわ~!」

「むー……そういう事情なら仕方ないかな。で、朝倉は何で知って―――ああ、そっか。麻帆良のパパラッチだったっけ」

「そーいうこと! それに使う刃物のは緊張感持たせる為に真剣(ホンモノ)っぽいし? そんじゃ私達は大人しく観客側で見守ろうよ」

「「「「はーい」」」」

 

 本来なら真剣を使うこと自体が疑問者だが、いい具合に麻帆良の常識でゆるまったクラスメイト達の意見をまとめたところで、和美は刹那にウィンクを送った。

 

≪…繋がってますか? 朝倉さん、助かりました≫

≪繋がってるよー。それにいいって。それにフォックスさんも既に門の一部で潜んでるっぽいし? 戦いやすい場を提供したり、クラスメイトを危険から遠ざけるように千雨ちゃんから言われてるからねー。……うん、流石に自分の命は惜しい≫

 

 通信の向こうから苦笑いが聞こえて来た事に、あの人たちに捕まって相当苦労してきたんだなと彼女を思う。刹那はその一部に自業自得が混ざっている事を知らないのではあるが。

 

≪引き際を心得ているだけ、私は善良な記者だと思いますよ≫

≪うぅ…その優しさが身に染みるよ桜咲さん≫

 

 月詠に睨まれた事で身を竦めていた木乃香を立ち直らせながら、刹那は通信の中でそんな事を言っていた。そのまま一時解散し、木乃香以外のクラスメイトを引き連れて行った和美に再度のお礼を言ってから、刹那は夕凪を握る手に力を加えた。手汗は剣士にとっての最大の敵であると言うのに、衆目の環境で戦うと言う事が初めてであるので酷く緊張を覚えてしまう。

 カタカタと鯉口を鳴らしている刹那を心配に思ったのか、木乃香は彼女の手にそっと自分の手を重ね合わせた。

 

「せっちゃん、お芝居はちょっと怖いあの人が相手なんは分かるよ? でも、もっとリラックスしていかな。張り詰め過ぎるといざって時に変な失敗してまうから」

「お嬢様……今まで避けていた事は申し訳ありません。ですが、そんな私にもそのようなお言葉を頂けるとは恐縮です」

「あはは、せっちゃんお固いな~。ウチにそんな畏まらんでもええのに。…でも、嬉しいな。昔に戻ったみたいや」

「……お嬢様」

 

 こんなに優しい少女が危険の飛び交う魔法の世界に足を踏み入れる。自衛のためには仕方がないとは言え、世界の理不尽さに刹那は心の中で大きく悪態をついた。決して表にそんな感情を出す事はしないが、たまには何かに恨みをぶつけてもいいだろうと、尚更この世界の条理に嫌気がさす。

 そんな時だった。あの冷徹な、それでいて全てを見通してきたかのような声が頭の中に響き渡ったのは。

 

≪……桜咲、こちらFOX2。日本橋の橋下にスニーキング中だ。……いざとなったら俺も加勢するが、お前ならできる。お前は、自分の意志でそこにいるのだろう?≫

「…フォックスさん?」

「え、せっちゃん狐さんがどしたん?」

「あ、いえ…昔、私の師匠の様な方があちらに見えたもので……」

 

 全てを明かすには、なるべく知人の多い所の方が彼女のショックも小さいだろう。だから今は「何でもありません、見間違いだったようです」そう言ってごまかすしかない。

 

 それでも、彼女の胸の中にはフォックスの言葉が絶えず反響していた。

 ―――自分の意志で此処にいる。

 そうだ。私は――――

 




キリがいいのでここで区切ります。
今回はこれだけお待たせして八千字程度でしたが、今度は一万を大きく超えるとても濃密な戦闘にしたいと思います。原作の短い描写ではなく、本当の「劇」を目指してみようかと。
たぶん、その間は敵さんも手は出さないと思いますから。……たぶん。

とある感想で千雨が盛り上がりに欠けると言った方がいましたが、私達はこんな感じを目指してます。
フォックス→冷静ながらもアクロバティックでスタイリッシュ無双&転機戦。
千雨→冷静で落ち着いた戦闘&狙撃や物を使った頭脳戦(笑)。
RAY→麻雀で言うと国士無双が四段積み。よくある格ゲーで常に必殺ゲージMAX
刹那→佐々木小次郎(苦戦しやすい)
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