グレイフォックスの格好でやったらなんとなくシュール。
そういうわけで、丁度設定もいい感じなので取り入れていきたいと思います。
「近衛木乃香は生まれて今に至るまで呪術、もしくは魔法と言う存在に触れる事さえありませんでした。私達の総意として隠してきた事実ですが、それらを説明する場所から始めたいと思います。そのために、最も裏の世界があると言う事実を証明するための人員としてネギ・スプリングフィールド君を招いております。突然で申し訳ありませんが、魔法らしい魔法を使っていただけないでしょうか」
開会の宣言からしばらく、一つの間を入れた詠春は次の瞬間にはそう言いきっていた。何も聞かされていなかったネギは突如として指名された事に驚きを覚えたが、これも立派な魔法使いとしての威厳を見せる時、そして東西の友好の為になると信じて一言「失礼します」と勢いよく立ちあがった。
詠春の部下に促されるままにネギが中央にまで歩いてきたところを見て、詠春が周りの術者達に結界の創造を命ずる。そうして張られた魔法や衝撃のみをシャットアウトする十数メートル四方の物理的な防護結界に包まれたネギへ詠春は目配せする。彼は頷きと共に背中に背負った杖の包帯を解くと、杖を前に構え、呪文を唱え始めた。
「光の精霊11柱、集いて来りて敵を討て!
杖の先より生まれ出でた11の光は結界に接触すると、轟音と激しい光を撒き散らして消滅。結界の強度はそれなり以上にあるのか、はたまたデモンストレーションと言う事でネギが魔力を抑えたのかは分からないが、傷一つ無く
彼女は眼前に迫った光の矢に最初は見惚れていたが、それが自分の身を狙っていると知って悲鳴と共に身をすくめた。そして、接触の瞬間に生じた衝撃を目の当たりにして、その威力がどれほど一般的と信じ続けた現実を揺るがしたのかと理解する。多少の興味と多大な恐怖。詠春が負に呑み込まれそうな木乃香を優しく諌めると、次なる言葉を吐きだそうと大きく息を吸った。
「このように、私の娘は此処で魔法と言う存在を知りました。それがどれだけ恐ろしく、有用で、人の心をくすぐるものかも理解しているようです。反応を見れば、自ずと理解できるでしょう。……それゆえに、この非現実を真正面から受け止めた彼女へ関西呪術協会長の次期襲名を此処に宣言したいと思います。彼女が長となるには数年の時間が必要でしょうが、他の御家で私こそはと推薦したい方がいらしましたら、今此処で挙手と共に名を挙げる事をお願いします」
誰も上がらない。彼女、近衛木乃香は近衛詠春の娘である。そう理解しているからこその信任であり、同時に掛ける期待と部下として自分達を活かし切れるかどうかを実戦的に見極めて行きたいからこその沈黙であった。
ただ、本来なら多数の家が我が家こそ長たる座に相応しいと上げる所であるのだが、そうならないのには少々の理由が存在する。確かに、今までは詠春という戦う者がこの協会を治めて来たことで生じる意見の食い違い、そして政務の未熟さが目立っていた。だが、それは最近になって有り得ない程急速に解消しているのである。そのきっかけを知る人物は少ない、だが、それを成したのが近衛詠春であると言うのは誰もが知る真実。故に、その血筋に間違いはないと判断したが故の結果である。
そして、もし不可能であったとしてもそれは一人の人間としての限界が存在するから。昔から血を受け継ぎ、人間というものをよく理解している名を連ねる家の生まれで在るからこそ、長と言う存在にかける信用は何よりも正しい。少なくとも、今まではそれで通ってきた、ならばこのままでいいではないか。
「それでは、この会議は次へと移らせて頂きます。桜咲刹那君、このかを会議室の外へ、お連れしてあげなさい」
「分かりました、それでは失礼して」
足早に木乃香の元へ寄ると、肩を持ちながら未だ身を震わせる木乃香を外へと連れ出していく刹那。彼女達が完全に外に出て行くと、扉はひとりでに閉じられるのだった。
「…お嬢様、大丈夫ですか」
「大丈夫。…ちょっと、びっくりしただけやから」
会議室を出てから彼女達はそのまま縁側に向かい、沈みゆく夕日を眺めていた。
心の拠り所でもある刹那を放さないよう、しっかりとその腕にしがみついたまま木乃香はゆっくりと深呼吸を重ねる。その息が吐き出される度に木乃香の体の震えは収まり、彼女が息を吸い込む度に驚愕と恐怖によって青ざめていた顔色は健康な色を取り戻していった。
「びっくりやわ、ホントに魔法とか、そんなファンタジーが存在するなんて。夢にも思わんっちゅうのは、この事を言うかもしれへんなぁ」
「仕方ない事例とは言え、人を傷つける物を目の前にしてここまで回復なされるとは…お嬢様はやはり流石ですね」
「そんなことあらへん。ウチ、ネギ君信じとったけど魔法が自分に向けられたと思った瞬間、ちょっぴり憎んでもうた。ウチも皆から優しい言われとるけど、結局ウチもこんなんやなぁって思い直す事が出来たんかな? そしたら、やっと心が落ち着いてきただけや」
「誰もかもが本当の優しさを持ち合わせている訳ではありません。負の感情を持っているのが本当の人間。優しさばかりに逃げて悲しみも何も感じない人がいれば、それは人間ではありませんよ。…ですからお嬢様、そうご自分を卑下なさらないでください。貴女の感情は、人としてとても正しい」
「…ありがとな。やっぱりせっちゃんと話しとると、一番幸せになれそうな気がするわ。決して嫌なことから逃げるんやない、ちゃんと前を向いて向き合おうとさせてくれる」
にっこりしたその笑顔を向ける木乃香。刹那は沈みゆく太陽を遥かに超える明るいその顔を見て、夕焼け交じりに顔を赤らめていた。そうして見惚れていたからか、刹那の従者としての心は少しずつ解け始めていて――
「……このちゃん」
「あ」
「…っ! い、今のは忘れてください!」
昔の呼び名。その頃の楽しい記憶と、たったひとつの後悔の記憶が流れ込んでくる。だが、その後悔をも押し潰すような激しい感情の奔流が胸の内から流れ込んできた。平静を装おうとしてナノマシンに鎮静物質を分泌させようとするが、それよりもずっと、胸脳裏から込み上げてくる…いや、押し留め続けていた感情が心のダムを突き破ってきた。
今更言い逃れはできない。既に口に出してしまったのだ。ならば、こんな私と自分を蔑むのではなく、本当の自分のように羽ばたく時が来たのではないだろうか? ならば、それが正しいと言うのなら、私は、私は。
「……この、ちゃん」
「…うんっ」
「ウチと―――」
ナノマシン、感情の方はもう良い。だから、私の激しい動機を収めてくれ。
今言わなければ、私は…!
「また―――
『二人とも何してんの~~!』
……あ」
「……ふっ、ぷくく……あははははははははっ!」
突如のクラスメイトの乱入。どこから嗅ぎつけて来たのか、最悪のジャストタイミングで現れたせいで刹那の言葉は掻き消されてしまった。だが、その事が本当にこの3-Aらしいと思った木乃香は溜め続けていた真剣な空気に耐えきれずに決壊したかのように大笑いを上げる。
おろおろとし始めた刹那と、何が何だか分からないクラスメイト。そして笑い続ける自分。もっとちゃんとしたところで話が出来ればいいなぁと、木乃香は軽くなった自分自身にありがとう、と告げた。
場所は会議室に戻り、続く会談は御家の報告会となっていた。あいうえお順に続く報告の最後、薬師寺家が閉めを飾ったときである、詠春は会議の終了の代わりに、こんな事を言い始めた。
「それでは、今回の友好の証として来てもらった関東魔法協会代表のネギ・スプリングフィールド君及びに現代技術代表、…コードネームがグレイ・フォックスの彼らにも言葉をいただきたいと思います。まずはフォックス、君からお願いしたい」
「ああ」
ずっと沈黙を貫いていたフォックスが立ち上がると、機械音声を通さぬよう顔面装甲を開いてその顔をのぞかせた。ネギは初めて目にした力強い意志の籠った灰色の瞳に圧倒されるが、其れを気にせずフォックスは口を開く。
「本来なら此方に来ているRAYという巨大な人工知能搭載の兵器が言葉を言うべきだが、此処は俺が代弁させて貰おう。…この数週間にわたる戦力の貸し出しとして関東、そして現代技術陣営の代表となったこの身に、実に多彩な恩恵を関西呪術協会から提供してもらった事へ感謝を。そして、今回の過激派…いや、現反逆者が企む計画の阻止に尽くす事を改めて誓わせていただく。……他に質問などがあればまた後日に。今宵はそう時間も無いと思われるからな。以上だ」
会議としては本来ありえない口調だが、彼の顔立ちからして外国人。日本語もこれ以上は無理があるのだろうと納得した会議の人間は、彼の無礼ともとれる態度を指摘することはなかった。
そして、次は元々仇敵と言っても過言では無かった西洋魔法使い、ネギへと視線が移される。多数の人間の前で堂々とする事に慣れている彼は、多少の怯みはあったものの、先ほどのデモンストレーションと同じく胸を張って言葉を紡ぎ始めた。
「今回の友好の書状を受け取ってくださり、まずは感謝を受け取ってほしいと思います。皆さまのおかげでこれからも長き友好が続く事を願わせて頂きます。僕もフォックスさんと同じく過激派の件では当事者として最善の結果を出せるよう、尽くしていく所存です。まだ幼い身ながらに不安はあるかもしれませんが、
幼い身ながら、確かにその通りではあるが、最近の若者には足りない意志を込めたその言葉に、とある家が拍手を送った。立て続けに彼に対する惜しみない拍手が鳴り響き、予想外の出来事にネギは赤面しつつ、その拍手を謙遜せずに胸を張って受け取っていた。
両人の宣言が終わり、拍手の収まり時を見計らった詠春は大きく声を張り上げる。
「それでは、これにて会議は終了。夜も近いこの本家は過激派の標的になるかもしれませんので、我が神鳴流の熟練の剣士を護衛に付けさせていただきます。では、解散!」
その言葉と共に会場内は党首や護衛の話でざわめき始める。重苦しい空気の流れる会議が終わったことでほっと息をついたネギの隣で、フォックスは無言で顔面装甲を閉め直した。そのカシュッという小さな音が近くにいたために聞こえたらしく、どこかへ去ろうとするフォックスへネギはあの、と声をかける。
「…何だ?」
「はじめまして、になりますよね。僕はネギ・スプリングフィールドです。今回の騒動を一緒に当たる方だと分かったので、自己紹介をしておきたくて」
「…ああ、グレイ・フォックスだ。よろしく頼む」
右手を差し出し、ネギとしっかりと握手を交わす。ネギにはバイザーにおさめられた彼の顔を見る事はできなかったが、声からでも分かる力強さに憧れの父親とどこか似た雰囲気を抱いていた。だからこそ、父の面影を何処かに感じさせる人物――素顔は見たので本人ではないと分かっていても、興味を抱くには十分な要素だった。
「え…と、それってコードネームでしたよね、本名の方は――」
「語る必要もない。俺はボスに預けた、それだけでいいだろう」
「そ、そうですよね! 僕、ちょっと気になっただけなので…。あ、そう言えば長谷川さんが言ってたフォックスさんって、貴方の事なんですか?」
「そうなるな」
そうして会話を交わしていると、詠春が彼らに近づいてきていた。辺りを見ると既に御党首達の姿は無く、会議室にはその三人しか残っていないようだ。
「そろそろ夕食の準備もできたころでしょう。席に案内しますよ」
「ホントですか!?」
「はい、お腹も空いたころでしょう? フォックス、貴方はどうします?」
「…同伴させて貰おう。刹那に少し伝えておくことがある」
「おや、分かりました。それでは席を用意しておきます。それと、せっかくの席、強化外骨格は脱いできたらどうです?」
「まだ此処は戦場だ。無礼は承知だが、付けるのにも時間はかかる。遊んでばかりもいられないさ」
そうして詠春は二人を連れて会議室を出た。
後に広がるのは、暗闇と静寂。宴の騒がしい部屋を目指して、三人は闇を背に歩いて行くのだった。
巨大な鉄の塊が、脈動するような音を立てて山に響き渡らせる。白銀の穢れ無き装甲は顔を出し始めた月光を反射し、野生の獣を近寄らせることはない。そんな命の宿ったような機械の中で、少女は赤く点滅する目の前の画面を眺めながら、休めることなくその指を躍らせていた。
カタカタ…と続く短音は外に漏れる事は無く、銀の巨人の頭の中に収められる。彼女の失われた左目の代わりを果たす機械はこの巨人の頭と直結し、外の景色と同調させるだけではなく、数式や特殊な配列となった記号の雪崩を振らせていた。
「……87%。案外時間がかかると思ってたが―――想像以上だな、こりゃ」
『≪ごめんなさい、私のメンテナンスに時間をかける事になってしまって≫』
「そう言うなよ、RAY。私だってメンテしてないもんは不安なんだ。だが、どうせ挑むにも万全の状態が一番だろ?」
『≪そう言ってくれるとありがたいわ≫』
「しっかし……」
千雨は目の前の緑色の投影モニターを凝視する。そこには、今の白銀を纏うRAYにはおおよそ不釣り合いなひし形に髑髏の影が入った黒と赤が混ざり合うエンブレム。斜めに描かれた赤文字を読み解けば、それには「
それほど高度なセキュリティは一体どこで作られたのかと疑ってみれば、彼女はRAYという存在が「異世界の異なる未来の時間軸」から訪れた存在である事を思い出す。2015年の、しかも戦争が経済として成り立っていた技術力が鰻登りに上昇して行く世界。彼女如きの腕が通用する筈もないのだ。
「…RAY、これに関して何か―――」
≪この情報を閲覧する権限はありません≫
「――分かってるよ…!」
RAYの人工知能ではなく、感情さえ感じられない機械音声が千雨の耳を突いた。頭の中にまで直接響かされた事で頭を手で押さえるが、ぐわんぐわんと景色が歪んだように見えて一旦キーボードを打つ手は止められる。すぐさまナノマシンが意識を正常化したのだが、彼女の頭に掛かった靄が晴れる事は無かった。
―――その時だ。
「……う~ん、にしてもDESPERADO社か」
『≪どうしたの?≫』
「ならず者、無法者って名前を何で会社に付けようとするのかが、とうにもソイツのセンスを疑うんだよなぁ……ん、ならず者…? ……ならず者…暴力……」
『≪チサメ、脳内の過熱が激しいわ。一旦は冷却を推奨するけど―――≫』
「待ってくれ。もう少しで何か…そうだ!」
千雨は思うがままにセキュリティに対するパスワードを打ち込んで行く。その度にエラーが出たが、何度アクセスしても元となったサーバーが此処に存在しないためかアクセスが断絶されるような事はなかった。だからこそ、ここぞとばかりにメンテナンスはいったん中断してパスワードになるような言葉を暗号化したものを含めて打っていく。その脳の回転は普段の人間が使わない残り80%の領域を使うまでに至っていた。
まずは
認められたい「
我が意のまま「
国への不満で「
「なら……後は―――」
『≪チサメ! 脳に負担が掛かり過ぎてる!≫
パスワードの記号配列と暗号化、そして新たな単語や候補を挙げては消していくという負荷に耐えきれず、千雨の目は充血し、熱で鼻血を垂らしていた。だが、それらを全て統合した結果としてある単語が彼女の頭の中に閃光を走らせる。
それは、RAYが幸運の鳥となってくれたように脳内を浄化し―――
「p・o・w・e・r!」
先ほどの言葉は、全てがこの一言から生まれ、付随してくる意味に過ぎない。ならば、圧倒的なRAYの殲滅力を体現するような力があればどうなる? その答えは目の前のモニターが示してくれた。
―――Login__System_check___
緑色のゲージが左から右へ。
その中身が全て埋められる事によって、答えは顕現する。
―――Welcome_DESPERADO_ENFORCEMENT.LLC!!
様々な文字がモニターを覆い尽し、空間投影スクリーンは千雨のソリッドアイを通じて距離を感じさせない程に広がって行った。そして、検索を掛けない限りは途切れる事の無いデスぺラード社の極秘事項と思しき計画やメタルギアRAYの「本来の改造計画書」。
その他フォックスが使う強化外骨格の設計図を時代から覆すような全身サイボーグ化による新たな経済の回し方、その裏手から糸を手繰る為のお題目の設定。決して一般人が見てはならないような機密事項の全てが彼女とRAYの目の前で展開されていたのだ。
「…RAY、お前の造られてた会社…なんて名前だ?」
『≪DESPERADO管理者用パスワードによるログインを確認しました。これより全情報の権限を解放、搭乗者“千雨”に全ての権利の委譲を行います。ナノマシンによる情報更新を開始、管理者は情報の確認を行ってください≫』
そして現れる一つの投影モニター。青く、よくアニメなどの近未来を思わせる半透明のモニターは上から下へ波を起こしながら文字列を千雨の目の前に映しだしていた。デスぺラード社のエンブレムと、その他重要な情報、そして管理者としての全ての権限を握っていたのだろう黒髪にスーツを着た逞しい男の姿が掻き消され、その枠には千雨の姿が映し出される。これではっきりと、千雨がこの世界に訪れた機械の全てを握ったのだと理解させられた。
RAYは、新たな産声を上げる。大文字山を越えて届く遠吠えを。
―――オオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
一人が耳をぴくりと動かし、どこか近くの山から聞こえる声を聞き取っていた。
「ねえ、今何か遠吠え見たいなの聞こえなかった~?」
「もしかして、狼!? ニホンオオカミってもしかしてまだいるの!?」
「それはありえないでしょう。それだったら日本政府が絶滅なんて記さないですよ」
そうして盛り上がっている中にちびちびとジュースを飲んでいたのどかが巻き込まれ、夕食と歓迎を兼ねた喧騒は更なる騒音に包まれる。そうして場酔いしている皆を遠目に苦笑して、ネギは楽しそうで良かった、と息をついた。
「刹那君」
「はっ、何でしょうか」
「よくぞここまで彼女を守ってくれました。多少の危険はあったようですが、彼女に傷一つ無い事を見ると君の頑張りは伝えずとも分かります。…一人の父親としてもお礼を言わせて下さい」
「いえ、私がお嬢様を守るのは当然の事。任務以前に、私達は―――友達、ですから」
頬を赤らめつつも言いきった刹那を、詠春は優しげな瞳で見つめていた。
「せ、せっちゃん…なんや照れるわぁ~……」
その言葉に反応した木乃香も紅潮していたが、今となっては二人は此れが当たり前らしい。まるで付き合い始めたばかりの初心なカップルに見えなくもないが、彼女達は切れぬ友情で繋がれた健全な関係。決して百合の花が咲き誇る事はない。
とにもかくにも、刹那への慰労をこれ以上続けて娘から話をする機会を奪うのも悪いだろうと視線を移した彼は、次にフォックスの方に寄って行った。一時的に分解する作用が高めのナノマシンを入れてもらっているので酔うつもりはないが、同じく酔わないフォックスと酒を下地に話をしようと思ったからだ。酒瓶を掲げて彼の目を見れば、意図が理解できたのか何も言わずにコップを差しだしてくる。
トットットッ、という水音が流れ、彼のコップに酒が流し込まれた。それを注ぎ返してもらった詠春はそれぞれの器を近づけ合い、カン、と鳴らしてゆっくりとのどに流し込む。
「…ほう、美味い」
「とある御党首から、娘の祝いとして貰いました。自家製の様ですよ」
「それはまた、思い切った事をする」
くっくっと笑って酒を飲み干すと、フォックスは真顔のまま尋ねた。
「…今の動き、お前はどう見る?」
「そうですね。……おそらく、彼らも一般人を巻き込むという選択はないのかもしれません。裏の世界がバレるような事態は今日のシネマ村での一件を見ればそうですが、それも劇として主張する事で違和感を無くしていたようですし。…それに、シネマ村全体に暗示にかかっているようでした。麻帆良の大結界と似たような働きを持っているもののようです」
「…そうか、14%程の薄い魔力が流れているからもしやとは思ったが」
「一般人は魔力や暗示に耐性はありませんからね。それこそ、お聞きした長谷川千雨という少女ぐらいの特異体質で無い限りは」
「チサメ、か」
また一杯を煽り、フォックスは次の酒を注ぐ。
「彼女も今回の協力者として聞き及んでいますが…今はどちらに?」
「RAYと共に大文字山でメンテナンス中らしい」
「らしい?」
「ナノマシン通信も途切れる何かをしているようだな。まだRAYには解析不能のデータもあると言っていた、おそらくそのブラックボックスを空けるためのパスでも打っているのだろう。アイツには俺には無い機械についてのセンスがある。人斬りの剣を持つ俺達より、現代に活かせる天の才……いいセンスだ」
「いい、センス。貴方が言うほど、重い言葉に感じられるので不思議ですね」
「いや、これを言ったのは俺じゃない。そう―――
「「BIGBOSS」」
詠春が声を揃えると、驚いたようにフォックスは向き合って愉快そうに声をあげて笑った。突如として笑い始めた二人を周りの人間が見れば、それは背中をばしばしと叩きあって笑い続ける二人は昔から親交の深い友人のようにも思える。
木乃香は自分にとっての刹那のように、心の許せる友人が昔だけでなく今の父親にも出来たのだと思うと、自然と晴れやかな気持ちになっていた。数年後、高校を卒業してから待っているのだろう関西呪術協会の党首になるための修行は厳しいだろうが、心許せる仲間が出来るのかと思うと寧ろわくわくしてくる。
楽しげな空気が広がった食事場で、そんな笑顔が自分も嬉しいのか、ネギは自ずと顔を綻ばせていた。すぐ先に控えているかもしれない脅威も気になるが、今はこの平穏な空気を味わっていたい。そう思っても、罰は当たらないだろうと。
それからしばらくの時間が過ぎて、食事に出していた料理は全て食べ尽くされていた。花も恥じらう女子中学生の皆さま方は体重がどうのお腹がヤバいだの言っているようだが、それは食べた者の自己責任だろうとフォックスは心の中で言葉を投げる。
それからは自由時間が始まり、風呂に入るもよし、そのまま寝室に行くも良しの時間が訪れた。外にはすっかり月が昇っており、その明るい光は桜の舞う夜景をより美しく見せる役割を担っている。彼女達はしばらくこの夜景を楽しむ事に決めたようで、それを了解したネギは個人的な話があると詠春に連れられて行った。
明日菜と刹那は風呂に向かったようで、刹那を除いて深いつながりもないフォックスだけが一人その場に取り残される。彼も屋上辺りにでも行って見張りをしようかと窓に手を掛けた時、後方から声を掛けられた。
「フォックスさん」
「…詠春の娘か」
「このか。ウチはこのかって言う名前がちゃんとあるえ」
「それはすまなかった。それで、何だ」
「うん、せっちゃん…じゃなくて、桜咲刹那って子についてちょっと話してほしいなって」
それは、彼女が知らない裏の顔。桜咲刹那という少女が魔法の渦巻く世界で一体どのようにして生きて来たかという事を聞きたいがための言葉だった。彼女から直接聞くと言う方法もとれたが、主観ではなく、客観的な意見で自分の親友がどのように見えていたのかが気になったのだ。勿論、このようないでたちをしているフォックスに話しかけるには相応の勇気を発揮する必要があったのだが。
フォックスは答えるべきか迷ったが、今のところ魔力探知にも敵の反応が引っ掛かっていない所から時間はあると判断し、応じることにした。
「いいだろう。それで、アイツを俺がどう思うか、位でいいのか?」
「うん、それでお願いします」
腰を落ち着け、フォックスは近くの柱にもたれかかって言う。
「桜咲は頑固な奴だった。それで、時々猪突猛進ばかりの危なっかしい印象があったな。初めて会った時、力量も分からずに唯剣を向けて来たようにも見えた。…今となっては、昔話だが」
「せっちゃん、必死やったん?」
「そうだな、あの頃は何が目的か知らなかったが必死だったさ。力を追い求め続けていた。それから麻帆良で裏の顔合わせをして……同じ修行をする身になった。その時のアイツは努力家だ。それでいて、気――魔法と同じファンタジーな力だが、人間の力を引き出す力。それを扱う俺の最初の修行から付き合ってくれた物好きでもあったな」
「修行は…やっぱり危なかったり?」
「真剣を使った実戦形式がほとんどだ。技の確認、気の扱い、瞬発力、状況判断。これらは全て実戦で扱った方が何処で使うかを体で覚えやすい。下手に型にはめるよりも、血を飛ばし合いながら斬り合う方が上達も早かった。俺だけでなく、桜咲にも言える事だったが」
木乃香の懸念した事もあっさりと人傷沙汰の修行だと答えると、木乃香はやはりという感情と、怪我してほしくないと言う感情の混ざり合った暗い顔になる。
「……実は、うっすらと思い出したんですけど」
「何をだ?」
「修学旅行の一日目、ウチ、多分おさるさんに浚われてたみたいで、そんときに女の人を…せっちゃんが、斬ってたようにも…」
「……修学旅行前ならともかく、あれは最早お前を守るためなら人を斬る事を躊躇わんだろうな。その意志の強さは、奴の目を見れば分かる」
「…だから、その決意のままにウチとお話ししてくれたんやね、せっちゃん」
人を斬る決意。それは即ち人を殺す事を躊躇わない決意と同義。
刹那は必要以上の殺生をしないだろうが、それでも失われる命があると思うと木乃香は悲しくなった。そして、その原因は自分を守るため、つまり自分と言う存在がいるからこそ生じる事実である事にも気が付き、親友の硬すぎる決意に涙する。
目元を隠すように手で覆う彼女を見て、フォックスは木乃香がどれほど心優しく、自分たちとは程遠い世界に生きているのかを思い知った。だららこそ伝えたい事がある。
「だが悲観に暮れる事もない」
「え…?」
「お前を狙う輩はお前を殺す、もしくは意識さえも失くさせて道具として扱う者、またはお前を人質として非道な取引を持ちかける者ぐらいだろう。そんな外道共にも事情はあるかも知れんが、その手段に踏み切った時点で容赦はいらない。一つ間違えば取り返しのつかない事態になる。そんな感情に訴えかける全てを振り切って支えて、守ってくれるのが桜咲だ。……これ以上ない、最高の友人だな」
「……そう、なんかな」
「その友人である事を誇れ。お前の誇りは、アイツ自身の誇りにも繋がる」
「誇り?」
「そうだ、何かと天秤にかける必要もない、自分が主張できる最高のものだ」
己がねじ曲がっても、決してぶれない最後の芯。
木乃香の誇りが桜咲刹那という少女に集約されるなら、相手もそれほど嬉しい事はないだろう。刹那の誇りは、木乃香を守る事なのだから。
「……なんか、人生相談みたいになってもうたね」
「気にするな。任務で張り詰め過ぎた自分をほぐす、丁度いい材料になった」
「そう言ってくれると助かるわ。…ありがと、フォックスさん。お仕事がんばって」
「激励感謝する。…ではな」
窓から飛び移っていく彼を見届けて、木乃香は改めて友人の事を思った。
ずっと小さいころから裏の恐ろしい世界から守り続けてくれていた。その事が何よりも嬉しくて、何よりも申し訳ない。もっと友人として接する事で彼女が救われると言うのなら、自分は何にでもなろう。
波乱を前に、一人の少女は決心した。
思うがままに書きなぐったので、多少おかしい点があるかもしれません。
こんな簡単に人の心が変わってたらおかしいですが、その辺はまぁ創作の世界ですから。
ですが、作者達はこれで恥などなく書き終えたというつもりなので、ご了承を。
とにかく最近更新が遅くて申し訳ありません。
これから設定とか風呂敷とかドンドン広げてちゃんとたたみなおす予定です。
そのためにはま時間がかかるかもしれませんし、皆様にとって想像以下の話が上がるかもしれませんが、これはあくまで作者達が楽しんで書いている二次創作です。その中で少しでも、楽しんでいただければと。
お疲れさまでした。一応見直しましたが、誤字などあったら申し訳ありません。