抑止兵器マギア   作:マルペレ

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蛇は獲物を丸呑みにする。
相手の思惑も、恐怖も、命も。

そこにはただ、腹を膨らませた蛇だけが残る。

その膨らんだ腹は私腹を肥やすだけとなるのか、それとも―――――


☮蛇は蛇の道を歩む

「オタコン、どうしたんだ」

「スネーク…ちょっと見てくれないか」

「……これは!」

「メタルギア、だよ。しかもママルポッドの技術まで使われている」

「“ママルポッド”?」

「ビッグボスの師匠、“ザ・ボス”を再現しようとして……僕の母さんが作ったものさ。ピースウォーカー計画の要になっていたようだね」

「ピースウォーカー……」

「“平和を歩む”とは程遠い、核抑止を機械の手にゆだねようというとんでもない計画さ。その核を打つ決定にザ・ボスの判断を仰ごうとしたんだろうね……例え、それが人格AIでも。しかも兵器がより取り見取りだなんて、ここの連中は本気だったみたいだ」

「……オタコン、俺は――」

「スネーク」

 

 ウィンドウに向けられていた目がスネークの顔を見据える。

 視線で語っていた。戦う必要はない、と。

 

「これは、すでに格納庫ごとロストしているらしい。まるで“魔法”のように、ね」

「馬鹿を言っちゃいけない。魔法なんてものは……存在しない」

「はは、あくまで例えという奴だよ。でも、これがどこに行ったのか、研究所の連中も、パワードスーツを開発している連中も、誰も知らないんだ。いきなり無くなった、というのは監視カメラでも実証されている」

「もし、こんなものが本当に移動していたとしたら、その地はゾッとしないな」

「そうだね。RAY……メタルギアは、時代の歯車になってしまうから。だから全てを僕たちで破棄してきた。でも、これが本当の最後の一つだったみたいだ」

「オタコン、それは―――」

「ああ」

 

 眼鏡を押し上げ、博士は笑った。

 

「メタルギアは、もう過去の遺物になってしまった。ということだよ」

「……そうだな」

 

 蛇は、苦笑した。

 

 

 

 

「―――はっ」

 

 なにか、夢を見ていたようだ。

 年老いた男と、眼鏡の男が最初は鬼気迫るような雰囲気で、その後は穏やかな会話になっていった。そして、メタルギアという単語。時代の歯車なら、別の呼称ではないか?

 

「って、体痛え……」

 

 千雨が自分の体を見てみれば、しっかり机の木目の跡が肌に残っていた。昨日は作業を夜遅くまでしながら寝てしまったらしく、結構完成に近づけた、と思っていたソリッドアイは見るも無残な「はんだ」まみれの惨状を晒している。RAYの助言があってようやく十分の一は完成していたというのに、また最初からになるとは……ここまでぐちゃぐちゃになると、流石に修正もできないだろう。

 とにもかくにも、使えなくなったのならば仕方がない。残骸をジャンク置き場に放り込むと、千雨は体を伸ばして眠気を飛ばす。半分だけになった視界はなんとも頼りないが、不謹慎にもこういうときは親がいなくてよかった。小言も言われずに済む、と思ってしまう。

 

「≪おはよう、チサメ≫」

「おはよう…RAY」

 

 少し上を見れば、RAYの頭部がこちらを見つめていた。

 結局は格納庫で一晩過ごしたことを考えると、自分は焦りすぎている節がある、と自覚する。心の中では仕方ないと折り合いをつけてはいるものの、体の方は正直らしい。早く片方分の視界を取り戻せ、と脳からの信号を待つだけの肉体が、急かしているように思えて、自分自身に嘲笑を向ける。そのまま黙っていればいい、自分のしたい事は、自分のペースで上手くやればいいのだから、と。

 

「≪朝食は作れないが、材料はそちらのテーブルに置いた。早く寮に戻ったほうがいい≫」

「そうか…悪いな」

「≪あなたを放っておくことはできない。ナノマシンの体調管理にも限界はあるのだから≫」

 

 ついでに、今の傾向をみると極限まで腹が減っているんだな。とRAYに言われれば、千雨が直接答えたように腹がなる。くぅ、と可愛らしい腹の音が格納庫に響けば、たちまち笑い声が続くのであった。

 

 

 

 登校時間となり、千雨は3つの「ソリッドアイ」の組み立て部品を手に学校へと行く準備を整えた。こうなったら、クラスメートの邪魔や妨害は仕方ない物として、少しでもこのソリッドアイ完成にこぎつけてやろう、という気持ちがあったからだ。実際のところ、周りの喧騒をいかに無視して集中できるようになるか。という自分自身の精神面の特訓も兼ねた方がいい、などとRAYから言い渡されたからであるのだが。

 RAYのもと居たところでは、全ての兵士がナノマシンの制御によって一流の戦士になっていたという話を聞いたことがある。だが、その時のような効果はSOPというシステムが無いこの世界では期待できないと言われた。自分の体に流れるナノマシンは、精々がある程度の痛覚の遮断、ある程度の感情の抑制など、どうしても元々の性能の一歩及ばない領域にしかならないらしい。

 

「だけど、私的にはそれで十分だしな」

 

 心機一転。

 そうして、千雨は学校へ軽い足取りで向かった。

 

 

 

「おはようございまーす」

 

 周囲の混じり合った音の中で、学校ではこの言葉が毎日の初めに聞く他人の声になるだろう。心から挨拶を言う者、社交辞令で言う者、気さくに友達への呼びかけとして言う者。言葉はそうして、十人十色の人間に使用される。千雨もまた、小さく隣の席にいる者へおはようと声をかけた。

 

「おはようございます長谷川さん。ここのところ登校早いですね」

「まあ、ちょっとした気分だよ、気分」

 

 千雨は廊下側の端の席、その隣にいたのは葉加瀬聡美。1-Aクラスきっての才児であり、前に千雨が私服姿の聡美を発見した時は白衣を着ていたことから、ごっこの範疇を逸脱したレベルの科学者であることが伺える。

 だが、千雨は内心頭を抱えていた。千雨が作ろうとしているのは、生粋の現代技術の塊とはいえ、機械であることは間違いない。釘をさしておくべきか、と渋々声をかけることにした。

 

「葉加瀬、私も工作キット程度の機械作ってるんだが、手を出さないでくれるか?」

「…機械、ですか?」

「私の左目治すために使う医療具なんだ。自分でやりたいと思ってるしさ」

「別に最新技術という程度でもなさそうですし、いいですよ。名称は決めているんですか?」

 

 左目の代用技術を「程度」と呼称するあたり、この科学者の技術力は既に天元突破しているらしい。心配が杞憂に終わったと安心した千雨は、名前ぐらいなら問題ないだろうと、軽くその名を告げた。

 

「ソリッドアイ」

「固体の目ですか。また意味深ですねえ」

「つっても、設計図通りだけどな」

 

 設計図、といわれると本当に既存の技術の産物でしかないと悟ったのか、葉加瀬はそれ以上この話題に手を伸ばそうとはしなかった。彼女の興味から完全に外れたらしく、千雨にとっては好都合だと携帯はんだごてを起動させる。クラスの全員がなだれ込むぎりぎりの時間帯まで、千雨は作業を続けるのだった。

 

「それじゃあ、今日のHR始めるよ」

 

 

 

 

「精が出ているな」

「ん、マクダウェルか」

 

 放課後になっても、昨日のような呼び出しの放送が鳴ることはなかった。ある程度は順調にソリッドアイの製造をしていると、エヴァンジェリンが千雨に声をかける。最近は彼女も暇らしく、今日もRAYのところで時間をつぶしに行くらしい。

 

「それから、名前で構わん」

「ふぅん。じゃあエヴァンジェリン、カード持っているなら先に行っとけ。私はここだけ配線繋げたら向かうから」

「相変わらず、貴様も面倒な作業をしている。……コツコツと取り組むその姿勢、魔法使い向きかもしれんな、それは」

 

 教室に残っているのはほんの数人。最後の言葉は小声で言ったらしく、千雨以外の人間には聞こえていないようだった。

 

「じゃあ、エヴァンジェリンも魔法使いなのか」

「力を封じられてはいるがな」

「マスター、そろそろお時間です」

「む、そうか」

 

 そう言えば用があった。と教室を出て行くエヴァンジェリンを見送って、千雨たった一人が教室に残る。それからしばらくすれば昨日の失敗したところまでの再現となり、そこで千雨は作業を切り上げることにした。

 もらった予備パーツのうち見事に二つは駄目になり、現在作っているのが最後の一つだ。完成すれば爆風で飛ばされようとも壊れない頑丈なものになるが、製造過程のはそうはいかない。慎重にケースに入れると、彼女は席を立った。さあ格納庫に向かおう。そう思った矢先、彼女の前には一つの影が待ち受けていた。

 

「千雨君」

「…なんだ、あんたか」

「“あんた”って、ちょっと参ったなぁ。仕方ないのは分かるけどね」

 

 擬音をつけるとしたら、アルファベットで表記されそうな笑い声をあげるタカミチ。気まずそうに金の髪を撫でる手は、彼の本心に違いないだろう。

 

「それで、何の用ですか?」

 

 呆れたように瞼を閉じて帰り支度を続ける。教室の出入り口にをふさぐように立っているタカミチは、答える代わりに千雨の近くまで歩いてくる。

 彼女が目を開けることには、目前までタカミチは近づいていた。

 

「すまなかった」

「…………」

 

 たった一言。ただそれだけを言って、タカミチは深く頭を下げた。

 それは記憶について。それは呼び出しについて。それはRAYについての謝罪。全てを言葉で飾らずに、彼が考えうる中で最高の謝罪だった。土下座、などとなれば彼女に対する無礼千万、お笑い草の行為となるのだが、対して彼は、直立から腰のあたりまで丁寧に謝罪の形式をとっている。

 千雨がそれを見ること、実に十秒。

 タカミチは今か今かと許される時を待つのではなく、ただ罪を償うために頭を下げ続ける。目の治療は彼女自身が何とかすると決めていると言った。ならば、それを手伝うのでもなく、ただ心よりの謝罪をタカミチ自身から伝えよう。というのがタカミチの決定である。今までの事を深く考えなおせば、学園側の対応にも不備があったと話しあったのである。

 

「いいよ。昨日の態度については減点ものだけど、あんたは間違いなく教師だな。“高畑先生”」

「っ、千雨君……」

「頭上げとけよ。こんな不良少女にへーこらしてるんじゃ箔が落ちるぞ」

 

 彼女とて、学園がすべて悪いとは思っていない。相手が狙っていたのは、関西弁少女の近衛木乃香だったわけであり、自分はそれに巻き込まれただけ。実質、目の前の殺人は置いておくとして助けてくれたのもタカミチに他ならない。

 彼女も内心、ちう様ちう様……ネットと現実は違うんだ。私は王様にでもなった気分か、と苦笑していた。

 

「一本、取られたかな。千雨君には」

「偉そうなもの言いになるけど、学園長に言っとけ。“少しぐらい相手の気持ちを考えろ、子供爺”ってな」

「……その点、確かに僕らは子供だったよ。君たちよりも、ね」

 

 「子供先生」とは、参ったなぁ。先ほどから苦笑ばかりのタカミチは、そこで初めて心からの笑みを浮かべる。千雨は深く息を吐くと、溜息もいい意味で増えてきたよ。と言い残してその場を去ろうとした。タカミチは彼女の背中に呼びかけると、千雨も歩みを止める。

 まだ何か、と言いたげな顔の千雨にタカミチは――

 

「本当は、もっと正面切って学園長室で謝ろうかと思ったけど、悪かったのは僕だったから。こんな不意打ちみたいなまねで…すまない」

「教室は、先生と生徒の語らいの場でしょーに。少なくとも、私にとっては真正面だったことは確かですよ」

「……なんか、敬語だと違和感があるかな」

「何言ってんですか、年配教師」

 

 年配…? とタカミチにショックを与えた千雨は、いたずらが成功した時のような笑みを浮かべてその場を去った。呆然と教室に取り残されたタカミチも、はっと気がついたころには、引っ掛かった恥ずかしさがあるように笑っていた。

 夕暮れ時は、良かれ悪かれ、ちょっとした運命があるのかもしれない。千雨はそんな事を思いながら、RAYのいる格納庫に向かったのであった。

 

 

 

 

 到着すれば、いつものようにナノマシンでID認証を受ける。認識口に手をかざすとドアがスライドして中に入れるようになった。

 

「先に邪魔しているぞ」

 

 そこには、いつも一緒に居るかと思われた茶々丸はおらず、たった一人で物色しているエヴァンジェリンの姿。

 

「絡繰はどうしたんだ? いつも一緒だろう」

「あいつなら葉加瀬のところで“めんてなんす”とやらを受けているらしい。魔法と科学技術が融合したらしいのでな。身体検査(めんてなんす)は欠かせないらしい」

「……昨日もボケロボ言ってたが、“魔法”と融合とは知らなかったな。RAY! お前もそう言うのって出来るのか?」

「≪私はもう完成されている。そのような機能を付け足す作業重機もなければ、それを組み込むことのできる技術もない。よって、不可能になるわ≫」

「あ~、そういやRAYはこれ以上は望めないんだったな……悪い」

「≪気にしないで。あなたと話す分にはなんの問題もないのだから≫」

「ほう、信頼関係は築けているのか。だが、貴様もさびしい奴だな長谷川千雨」

 

 エヴァンジェリンが茶化すように言えば、千雨はあさっての方向に視線をそらす。見えていたものの差がありすぎて、千雨にはこれといった友人はあまりいない。居ることは居るのだが、それは他のクラスであったり、ほんの数人だったりと、エヴァンジェリンのいう“さびしい奴”であることは自覚していた。

 さらに、最近はソリッドアイの製造に時間を割いているためその数少ない友人とも話すことは少なくなった。随分痛いところつくな、このロリっ子」

 

「だれがロリっ子か!!」

「やべ、口に出てた」

 

 そんなことより作業作業、と千雨はパーツを机に広げる。

 続きに取り掛かろうとする彼女に、エヴァンジェリンは声をかけた。

 

「そればかり作っているが、義眼の方はいいのか? 箱の上に置きっぱなしみたいだが」

「あー……そういやそっちの方はもう終わってるんだったよな。徒労に終わるかもしれないし、先に付けとくか」

「≪慎重になった方がいい。必ず成功するという気兼ねを持つくらいはしないと、失敗にも繋がり易くなるだろう≫」

 

 RAYの忠告を受ければ、箱に向かう千雨の足は止まる。

 右目をも失いかねない。そのリスクが高いのは重々承知の上で作ってきた。だが、いざ繋げようと思っても、足が縫いとめられたように動かなくなった。この義眼と、ソリッドアイさえ付ければまた見えるようになるが、それは成功した時の話。下手を打てば、資格が無くなってしまう……

 

 千雨の中では、本能が恐怖している。ダンスで例えるなら、頭ではどのようにすればいいかわかっていても、実際に体を動かすとなると思い通りにならない。今回も、目標ではソリッドアイの起動中は視力を取り戻せるが、逆に永遠に視界を無くすかもしれない。

 不安はない、とここで断言できる人がいるなら、そいつには盛大な拍手でも与えてやろう、と千雨は思考の隅でそんなことを考えていた。そんな愉快な想像に反して、自分の体は動かない。何年もの間、ずっと動かなかったかのように停止してしまっている。

 そんな中、彼女の脳裏にはある光景が映し出された。

 

―――すまなかった。

 

 そう言って、じりじりと夕日を受けて頭を下げた教師、高畑。彼は詳細を知らないとはいえ、自分が左目を取り戻せるのだろうと信じて、謝罪だけを伝えに来た。それを、自分が失敗することを恐れているなら、先ほどの高畑の言葉を無碍にするようなものだ。自分こそ、“碌でもない”人間になってしまうではないか。

 

「≪チサメ?≫」

「何でもない。ちょっと躊躇しただけだ」

 

 反面教師として高畑が出てくるあたりは随分毒されている、と千雨は思った。

 思考の時間は長かったようにも感じたが、実際には数秒も立っていなかったらしい。昨日エヴァンジェリンが持っていた箱の蓋を取ると、きれいに保管された自分と同じ色、同じ形の眼球が鎮座していた。

 義眼はただの物。なのだが、こうして見れば自分が試されているようにも思えてくる。妄想癖が現実にまで影響しては、将来は危ないかもしれないと思いながら彼女は義眼を手に乗せた。それを持って鏡の前に行くと、コードが微妙に飛び出ている個所をしっかり確認して、それが奥になる様に自分の空虚な左穴にはめ込んだ。

 

「~~~~~~~ッ!!!!」

 

 途端、全身に激痛が走る。左目の視神経をナノマシンが切り詰め、押し込んだ先のコードのナノマシンと混ざって神経をくっつけるための痛みであった。目の奥に聞くのも嫌な水音と底を押し込んでいた感覚が無くなると、痛みも徐々に引いて行った。余韻程度の痛みはナノマシンが脳内麻薬(エンドルフィン)を生成させてくれるおかげで、波は収まってきた。荒い息を吐くことはなかったが、千雨は椅子に崩れ落ちるように座る。

 

「はぁっ…!」

 

 奇妙な感覚に、右の眼球が左目の異物を認めないかのようにグルグルと回って視界が安定しない。

 それから、しばらくすれば想像上で荒々しく唸っていた動悸も治まり、見える輪郭がはっきりしてくる。一体何をしていたのか、などと痛みのあまりに問いかけていた自問を止め、深く深呼吸をすれば少しは収まってきた。

 

「≪ナノマシン結合を確認した。義眼の方は問題なく動作している。すべて完了よ≫」

「……そっか…良かった」

「なにか分からんが、峠は越えたのか?」

「病気じゃねえんだけど……まあ、使いどころは間違ってないか」

「どうなんだ」

「超えたよ。…っても、これ単品じゃまだ見えないけどな」

 

 これは共用部分(インターフェイス)に過ぎないし。

 そう千雨が説明すれば、人間とは不便なものだ。とエヴァンジェリンが返す。

 

「それにしても、こんなきっかけで貴様と語らうような関係になるとはな」

「突然どうしたんだ?」

「なに、魔法も使わずして、人間とは面白いものだと再確認したまでさ」

「≪ならば……あなたは、チサメの福音(エヴァンジェリン)になるのね≫」

「ほう?」

 

 片目をつり上げエヴァンジェリンが首を傾げれば、RAYはあなたもチサメの友人にはならないのか? とRAYは問い返す。

 友人という言葉に酔ったのか、彼女はくくっと笑みをこぼしていた。

 

「あ~、今日はもう無理っぽい。なんか頭まわんねえ……」

「≪脳が疲労しているようね。チサメ、休息も大事なのだから、今日はこれくらいにしておくといい。時間は限られているわけではないのだから≫」

「私も退散するとしよう。RAY、これは貰ってもいいのか?」

 

 そうして彼女が手にとったのは、45口径ハンドガンのOperator (オペレーター)。使い捨てのサプレッサーを装備可能で、レーザーサイトで照準を合わせやすい実用性の高い銃だった。何のために使うかは分からないが、予備弾薬の45.ACPもついでに持っていくと言い、とRAYが言えばエヴァンジェリンは意気揚々と帰って行った。

 彼女の後姿が見えなくなった時、RAYは千雨が来る少し前にエヴァンジェリンは来ていたな、と思いだすように言ったのだが、千雨は学校で言っていた「用事」とやらがあったのだろう、とRAYに返す。それに言葉を返そうとして、結局は何も言わなかったRAYを不思議に思ったが、千雨もまた、帰宅準備を整えて己の家に帰ることにした。

 

 千雨も格納庫からいなくなって、RAYは思考を始める。

 

(≪内部で確認されている血液量が、従来のティーンエイジャーより一回りほど多かったが……態々“人間”、という言い回しをしている辺り、エヴァンジェリンは人ではない何かなのだろうか。血を吸う怪物、と言えば吸血鬼(ヴァンプ)。だが……≫)

 

 現実的ではない。

 魔法使いがいて、彼女自身も魔法使いだということは知っている。ナノマシンの作用を強めた結果、額に銃弾を受けても数秒で再生が可能なヴァンプ、というリキッドに加担していた人物がいたが、あれはナノマシン技術と身体能力の合わさった結果の産物。よって、血を好んでは居たが直接吸うようなことはしなかった。

 だから、順当に吸血鬼と考えたとしても当てはまるとはRAYには思えなかった。見る限り、あの年で成人病を抱えているということでもなさそう、食生活にも気を使っているようで、生活習慣病という線も考えられない。

 

 そうしてRAYは3時間近く悩むことになったのだが、実はエヴァンジェリンが吸血鬼だということはおおよそ一年と半年後に正式に知ることになる。本当にそのような生き物がいると分かったRAYは、情報収集のためにエヴァンジェリンにもナノマシンを打ちこもうとしたのだが……それは、未来のお話。

 

 

 

 

「失礼します」

「おお、タカミチ君か」

 

 夜の学園長室。今日も“ひと仕事”終えたタカミチは、報告のために学園長の元に訪れていた。

 麻帆良は、日本二大規模の魔法勢力であり、西洋から取り入れた魔法を主に扱うことから、もう一つの名は「関東魔法協会」と呼ばれている。それに対して、関西は日本古来の陰陽道や呪術を主に使用する「関西呪術協会」と呼ばれている。

 現在、トップ同士は同じ血縁の甥とその息子という関係なのだが、下層部では過激派と呼ばれる「関東とは縁を切る」という思想の排国主義の者たちが存在し、その多くはトップの娘であり、孫「近衛木乃香」を両陣営に対する交渉材料とするために襲いかかってくることがある。そんな過激派の連中を相手取るのが、このタカミチ他「魔法先生」「魔法生徒」と呼ばれる戦力になる魔法使い・及び裏に精通している面々だった。

 

「今日は中級の式神、それと下級の式神が合計4体。それを召喚していた術者を捕えましたが、いかがしますか?」

「此方に来たということは、破門も喰らっておるじゃろう。何と言っておる?」

「はい。“異国の人間が関わるな、俺たちの国から出て行け”と。いつもと同じ思想の輩のようです」

「それならば問題ないじゃろう――――消しておけ」

 

 「学園長」は、眉一つ動かさずにその術者の運命を定める。

 そのまま下がろうとしたタカミチを見て、思い出したように「近右衛門」は引き留める。

 

「ああ、長谷川千雨君とは……」

「お恥ずかしい事に、逆に諭されてしまいましたよ。魔法を知っている、というのは嘘で、誰かをかばっているようでしたが……僕からの謝罪は、受け取ってくれました」

「そうかそうか…それは良かった」

「こんなに殺している僕には、勿体ない言葉でしたが」

 

 とっくに血に濡れている。そう言ったタカミチの手には、こびりつく様に血が張り付いているように見えた。それが幻視だということは重々承知。振り払うように、タカミチもその場を下がる。

 一人、学園長室の椅子に座った近右衛門は己の髭をゆったりと撫でた。

 

「……そうじゃな。ワシらは血に濡れ過ぎておる。…このような事が続かぬように願っているというに―――不甲斐無い」

 

 滑稽な老稽…なんちゃって! などと一人で言っては空気をごまかすように笑った。

 ひとしきりに笑った涙をハンカチで拭き取ると、近くの書類に手をつける。こうして、麻帆良のいつも通りの日々が過ぎ去っていくのであった。

 




原作キャラ、スネークとオタコンの友情出演。
年代的にこういう形でしか出せないことが残念でなりません。

大人たちの事情って、子供よりも残酷で深い時ってありますよね。でも、そういうときに子供と話をすると、心が洗われるような時があります。そういう時こそ、初心に帰って初志貫徹。なんて、

ここまで読了お疲れさまでした。
夜にこれを見ている人は、一度目を休ませるといいです。明日死ぬというのでなければ、時間はまだまだあるのですから。
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