それと、しばらく私たち全員が書けなかったということもあって文章がちぐはぐになっていることが見受けられます。そのあたりにご注意を。
その日は日付の移行と共に雨が降っていた。最新技術による天気予報ははずれることはなく、この日も晴れとなる筈だった。
では、何故雨が…豪雨と呼ばれるほどに降っているのか。
「いや~こんな天気の中申し訳ないネ。一日も掛かったヨ」
「別にいいけどよ……つうか、“も”どころの話じゃねえだろ」
ここ麻帆良には、外の技術を数世紀は凌駕した科学技術、その中でも秘匿されている「魔法」という存在があった。マフィアや国際組織、そう言った「裏」の物でもほんの一握りしか知らない裏の奥…「闇」と言った方が正しいか。見る人によっては夢見るファンタジー、と答える者もいるだろう。そして、そう言った力に憧れを抱くことも間違いではない。しかい……「闇」と、この魔法はそう呼んだ方が正しいだろう。
「チョトチョト、昨日の戦闘で死ぬ間際に呪いをかけた馬鹿がいたみたいネ。おかげで、この土地の龍脈が乱れテ、ご覧の有様だヨ」
「龍脈ね……やっぱり、とことん存在するもんだな」
魔法は時に、このように天候、土地、人間でさえも「操る」事が出来てしまう。魔法使いはシンデレラの魔女だけではない。白雪姫の魔女だって存在しているのだから。そういった部分が少ないとはいえ、魔法は最下級のものでも「殺す」ことが容易。だからこそ、「闇」と形容するに相応しいと言えよう。
前置きはここまでにしておこう。では、そのような「闇」がもたらした天候の中、千雨が超の元に訪ねたのだろうか?
「それより……」
「おお、忘れそうだったヨ。ハイ、これネ!」
「…悪い」
「いやいや、こっちでも珍しい一点特化の技術の底力を見せて貰ったヨ」
今しがた超が千雨に渡した眼帯のようなもの、「ソリッドアイ」を受け取るためであった。
彼女は手渡されたものが昨日と寸分たがわぬ形のままであることに安堵の息を吐き、丁寧にそれを懐にしまう。
「おや、すぐに起動しないのカ?」
「最初に見る奴は決めてるしな。…所謂プライベートだ」
「ふむふむ、それなら私は退散するとしようカ。また、何かあったら気軽に声をかけるといいヨ!」
「助かった。礼はまたいつか返すさ」
喜色満面で立ち去る千雨を見送ると、超は彼女の姿が見えなくなると同時、その笑みをかき消した。そこに浮かぶ感情はたった一つ。悲哀であった。
「千雨サン、あなたの闇も相当なものネ」
超は一人、虹のかからぬ空を見上げ皮肉気に笑う。自分に対する嘲笑と、胸にともらせた確かな決意の「炎」を燃やしていた。対照的な、継ぎ接ぎだらけの己を再確認した超は、自嘲的な苦笑を洩らす。
―――嗚呼、雨というものはどれほど憂鬱なものとなるのカ。
「それでも必ず、私は………」
握る拳は、己の決意の固さ。薄らと表面に浮き出た文様は、
髪に滴る水が落ちれば、彼女の姿は消えていた。その様は、その時間にはいなかったかの如く。そう、彼女がその時間に居てはならなかった、そんな―――
「ついに、ですか」
高畑・T・タカミチ。麻帆良でも奇想天外な人材を掻き集めたAクラスの担任を務める一教師。その裏では、魔法先生と呼ばれる戦闘要員の役割を担っている。
そんな彼は、一人学園長室に呼ばれていた。来年の二学期、ウェールズにいる「とある人物」が訪ねてくるため、その視察にイギリスまで行ってこい、というのが彼の仰せつかった役目だった。
「そうじゃ。あの子も父親のように……いや、これは言ってはならぬの…。比べるなど、“教師として”有るまじき行為じゃ」
「教師、という役割よりも土地の管理が学園長の役割でしょうに…まあ、僕でよければ行ってきますよ」
「彼とて、気心の知れた相手がよかろうからな。君が適任なのは言うまでもない」
来年には、飛び級で「魔法学校」を卒業して「ネギ・スプリングフィールド」という院物がこの麻帆良の地に赴任してくる手筈となっている。卒業後は証書に浮き出る役割をこなして初めて、魔法学校を卒業した魔法使いは「
今回も例外はなく、赴任するまでの準備を整えておくのが学園長、ないしは魔法先生の役割なのだが、今回ばかりは、相手に「視察」を行うほどの大物だった。
「若干、9歳の少年か……教師をするには酷じゃろうに」
「精霊の
「うむ、あそこには千雨君もいるからのう……」
その名前を出せば、高畑が意外そうな顔をした。彼を見た近右衛門は、ほっほう! と愉快そうな声を上げる。
「エヴァンジェリンではない事に驚いたかの?」
「…ええ。まさか、何かしらが関わっているとはいえ千雨君に焦点を当てるとは……」
「彼女が一番問題なのじゃよ。あのクラスに入れたのも、酷じゃろうが致し方ないことじゃ。
…わしの主観になるが、あのまま麻帆良の非常識を避け続けていては、人間的に壊れてしまう。だと言っても、外の施設には両親がいない彼女では生きて行くのも辛い目にあうことになる可能性もある。麻帆良は、何故か顔のいい人間が多いからの」
言わんとすることは分かるな? と近右衛門は指を立てた。高畑は神妙な顔で彼の言葉で想起した「悲惨な未来」とやらの想像を振り払う。
「じゃから、普通のクラスではバッドエンド。多少の荒療治にはなるが、何かしらの異常を持ったAクラスに入れるのが一番だと考えたのじゃよ」
「学園長、趣旨がずれているような……」
「おお、そうじゃそうじゃ。何故千雨君に焦点を当てたかじゃったな」
それが先ほどのことと関係ある。目で語って間をおくと、手を顔の前で組み合わせた。
「彼女が“非常識”に関わることになった原因じゃよ。現在、わしも総力を挙げて麻帆良中を探しておるが……どうにも見つからん。彼女のあとを追跡魔法で追ってみたが、“法則そのものが違うかのように魔法が消えた”。
今までにないまったくの異例じゃ。彼女の反応そのものが麻帆良からロストする。エヴァンジェリンも同様にの」
「エヴァが…?」
「いつの間にか、仲良くなっておったようじゃ」
子供は元気じゃのう。そう言ってみれば、脳裏には子供扱いするなと駄々をこねるエヴァンジェリンの姿を二人を思い浮かべていた。
「ともかく、これらの現象はまったくの未知。まったくの不明! 本当はついて行ってでも止めるべき“危険”となるのじゃが、高畑君がやられたという前例もあって下手に手出しもできん。……害を与えてこない現状、わしらにとって不利益ということもないだろうしの。更には―――」
「戦闘力はあるが、それは千雨君を守るためだけに使われるだろう…と?」
「その通り」
柔らかな笑顔を浮かべると、学園長はゆったりと髭を撫でた。雨が学園長室の窓を打つ中、しばらくの時間がたった。電車の出発する時間が近くなっていたので、高畑は学園長室を去ろうとドアノブに手をかける。
ドアを開き、そのまま外に出ようとしたところで、思い出したように彼は言った。
「そういえば、どうしてあのロボットの行動をあのように予測したのですか?」
「なに、教師をしておるわしらには簡単なことじゃ。少し考えれば、わかるじゃろうて」
「はあ…?」
「つまり、じゃ。千雨君に手を出せば牙を剥く。それではまるで―――」
―――わしらが大事にしている、子供たちのようではないかのう?
荒い息遣いが、麻帆良郊外近くの整備されていない土地に響いた。その息遣いの持ち主はここまで走って疲れ果てていたのだが、反面に表情は満面の笑み。左手には何かを握りしめて、彼女は機械的なドアの前に立つ。
スキャニングが開始され、開くと同時に彼女は飛び込んだ。――メタルギアRAYの格納庫へと。
「RAYっ!」
「≪チサメ、ずぶ濡れだし、心拍数が上がっているわ。ゆっくり深呼吸して落ちつけて―――≫」
「それよりっ、出来たんだよ!」
「≪それは……≫」
RAYに搭載されているメインカメラは、性格に千雨の手に握られた物体を映し出した。レントゲン映像では多少内装が変わっていたようだが、それは彼女の数カ月の苦労の証。ようやく完成したのであろう、ソリッドアイだった。
合点がいったとばかりにRAYは小さな笑みを漏らした。
「≪…完成したのね≫」
その声には起伏こそなかったが、RAYもまた喜びをあらわにしていた。千雨が左側の光を失ってから数カ月。義眼をはめ込んでいたとはいえ、作り物のそれには光が宿ることなどない、死んでいる瞳だった。それこそ千雨は気丈に振舞っていたが、RAYには持続的に送られてくるナノマシンの生体情報で分かっていた。その精神は少しずつ弱ってきている、と。
そんなRAYの心境を裏返すように、今の千雨は満面の笑顔だった。とはいっても、そのままでは千雨の体調が崩れてしまうであろうから、仔月光に命じて千雨にタオルを渡す。目先の希望もいいが、体調管理にも気をつけてほしい。RAYはそう思わずにはいられなかった。
「ありがとな」
「≪それで、もう試してみたのか?≫」
「いや、初めに見るのはRAYって決めてたからな! 今から起動させる」
「≪最初に、私を…?≫」
「RAYは、私の友達だからな」
人であったならば、まったく、とでも肩をすくめていただろう。
「≪友達……≫」
数か月。確かに、それは長い付き合いになるだろう。
驚異的な出会い、そして二人はいつの間にやら掛けがえのない友となっていた。毎日の付き合い、励ましと成長。千雨にとって中学校の始まりは、同時に非常識の始まりであったといっても過言ではないだろう。つっこみは入れるが、並大抵のことではそう驚くこともなくなってしまった千雨はその時、複雑な心境だとRAYに語った事もある。
そうして己の光を己で作り続け、実にさまざまな事柄、紆余曲折を経た。そうして、最初に味わった最高の絶望にも負けぬ最高の光がここに、千雨の手の中にある。
「起動、するぞ」
「≪………≫」
無言のまま、RAYはその光にゆっくりと首を縦に動かす。
千雨が眼帯のようにソリッドアイをつけると、側面にあるスイッチを軽くタッチ。
高いモーターの起動音が鳴り響き、ソリッドアイには赤い光点が宿る。次の瞬間――
「ッ!」
目と脳に突き刺すような衝撃。いきなり暗がりから明るい太陽を見たときの数倍ほどの痛みが千雨を襲った。一時的に意識が飛びかけるが、じんわりと痛みが引いて行くと意識もはっきりとしてくる。
ぼんやりとだが、
「≪チサメ≫」
声のする方へ。
ソリッドアイが動作の唸りを上げ、モーターを持続的に回し続けて行く。視覚情報はデータ変換され、LIVEで視神経を信号として通って行った。
オレンジ色の枠が見える。
名称は「METAL_GEAR_RAY」。見慣れたグレー、見慣れた尻尾、見慣れた巨体。
そして、久方ぶりの対面。
雨は、千雨の頬を伝っていた。
「……久しぶり、RAY」
「≪こんにちは、チサメ≫」
千雨の左方には、人工の光が輝いていた。
「あ」
彼が窓の外を見ると、土砂降りになるほどの雨が降っていた。
読んでいた本を閉じ、辺りに散らかした古書の数々へ向かって杖を振り上げる。すると、自動的に本は書棚に戻り、彼が来る前の様相そのものに逆再生された。
「雨だ……って、あれ?」
彼が再び外を見れば、千粒だけ落とせばよかったと言わんばかりに雨はあがっていた。どうやらタチの悪い通り雨の類だったらしい。傘を忘れていたが、この分ならば姉に怒られなくても済む。彼はそうして安堵の息を吐いた。
そして、太陽の刺した山の向こうに、彼は…少年は、光を見つける。
「虹…奇麗だな」
瞳には、三原色からなる七色の奇跡。感性に呼びかけるような鮮やかな色。冷たさも温かさも、全てを含んだ人の心を表す極彩色。
少年の胸に、温かな何かが灯った。ずっと本を読んでいた、陰鬱な空気もいつの間にやらなくなっている。
「誰か、笑ってるのかな?」
少年はただ、眼鏡を押し上げ虹に見とれる。
機械越しに見る景色は新鮮であり、ちょっとした面倒くささによる溜息を誘発させた。失っていた景色は己の存在を認めさせ、様変わりして見える麻帆良の真実の姿をオレンジのウィンドウに表示する。一たびスイッチを入れ直せば、景色は緑に覆われて温度を持つものを白くはっきりと映し出す。暗がりは明るくなり、右と左で見える違いに酔いそうにもなった。
彼女はもう一度スイッチを入れ、オレンジのウィンドウが浮かび上がる画面へと戻す。
片手には、寂しげにゆれる眼鏡を持っていた。
「サイズが合わねえ……」
効果音をつけるならば沈み込むような音が丁度いいのだろうか。
ソリッドアイは確かに、千雨の左目を復活させることはできた。景色は良好。オレンジ色のウィンドウが説明文らしきものを表示する以外は、むしろ裸眼の頃よりも視力はいい。
だが、最大の問題が発生した。
知っての通り、千雨はネットアイドルという立場上、パソコン環境を好んでおり、その視力はあまりほめられたものではない。だから眼鏡をかけて視力の調整を行っていたのだが、ソリッドアイをつけてしまうと眼鏡をかけることが出来なくなってしまったのだ。出っ張り的な意味で。
だからと言ってソリッドアイを外せば、当然ながら再び左目は見えなくなり、反対にソリッドアイを付けていれば、視力の悪いままの右目の景色がぼやけてしまう。そのような二律背反は、浮かれていた彼女を現実に引き戻すには十分な威力があった。
「≪チ、チサメ……≫」
「いいんだ、RAY。視界は得た。私も、頑張ってみせるから……」
何と言えばいいのか。当然と言えば当然なのだが、珍しい事にRAYはうろたえていた。ザ・ボスの知識もこういうときには役に立たない。インターネットにもこのような事柄を解消するようなことも書いてある筈がなく、解決手段を得ることのできないRAYには千雨に声をかける事が限度であった。
加えてどこで仕入れたのか、千雨もネタらしきセリフを吐くようになっているということは、内心では相当混乱していると見える。
「そうだよなー。作ってるときになんで気付かなかったんだろうなー。
これが眼鏡の邪魔になることぐらい、大きさ的には分かってたはずなんだけどな……」
自虐の言葉を吐き、千雨の気分も徐々に下り坂を転がり始めた。手に持っている眼鏡は、逆らうことも出来ず主の手の中でぶら下がり続けている。
そんな時、眼鏡のレンズが光を反射して千雨の目に光を差し込んだ。
「うわっぷ!?」
皆さんも分かるだろうが、鏡などで反射した日光が目に入ると、眩しい上に目茶苦茶痛い。思わず出てきた涙を拭きとりながらも眼鏡を見ると、格納庫の外は明るい光に包まれていた。
「≪晴れたようだわ≫」
「……虹、か」
格納庫のRAY搬出用のシャッターが開き、二人で外の光を浴びる。
千雨が見た学園には、天が手をさし伸ばしているのか、天へと続く道になる様にして虹が掛っていた。光の屈折と見ている位置の関係上そうなっているだけなのだが、ここは麻帆良。虹を操る魔法使いもいるのかもしれない。そんなことを片隅に思う。
空にかかった架け橋を見て、RAYは沈黙を保っていた。表情のないメタルギアの体では、千雨にそこから感情を読み取ることはできない。だが、一つ分かることはある。
同じ先を見つめ、千雨は言葉をゆっくりと言葉を紡ぎだす。
「……RAY」
「≪なに?≫」
「ありがとな」
たった一言感謝を。
それだけの事に、彼女の頬には新たな雨が滴り落ちる。貴女に出会う前、流した涙は数百回。もし、もしも……今のが千回目の
詩人を思い、RAYには瞳で語りかける。
―――貴女のために、私は涙を流さない。私はようやく「千雨」と成れたのだから。
ただ一つ、感謝をささげよう。
やっぱり少ないですかね。
それと、発作が出ましたね。シリアスになりきれない、中二病。まあ、それらがなければ書けないということもあるんですが。
では、たったこれだけの話に付き合っていただきありがとうございました。
次回の更新も頑張らせていただきます。適度な休憩をとるように(迫真)