抑止兵器マギア   作:マルペレ

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ある意味一番好きなキャラ登場。



☮殺戮人形

 格納庫の屋根上には、何体かの黒い球体が一心に、三本の腕で降り積もる物をどかしていた。ぼす、ぼすっ、と断続的に響く重低音が格納庫の外から聞こえてくる。しかし、どれだけ掻き落せども、一向に屋根に積もった「雪」は無くなる気配を見せない。その原因もテレビを見てみれば理解するだろう。今年の麻帆良の降雪は、今年最高を計測していたのだから。

 12月某日の現在、こういった経緯でRAYの格納庫に製造できるだけの仔月光はフル稼働しているのだった。生産ラインから作られた仔月光は、すぐさま実戦の場(そと)に駆り出され、格納庫の上に積もる雪をどかすために働かされる。

 白い世界に黒の点が動きまわる。実に圧巻な光景であることは確かだろう。

 

「≪……元々水陸両用を目指した私と違い、あなたは生身の人間。自分の体調を優先すればいいのに≫」

「うっせー。自然とここに足が向かったんだから、仕方ねーだろ……うぅ…寒かった」

 

 冷暖房完備の格納庫で一息ついているのは、左目に黒い突起のある物体を装備した千雨。温かなココアを片手に、かつての作業台で温まっていた。

 そんな彼女の様子にRAYは首を振ると、心の中で深く溜息をつく。しかし、その刹那RAYの首下で弾ける音がすると、格納庫の中には轟音が響き渡る。

 地面に伝わる衝撃と共に落ちてきたのは、RAYの首周りの装甲だった。

 

「≪そういえば、装備の点検していなかったわ≫」

「あ、危ねえなっ!」

 

 あっけらかんと告げるRAYに千雨は激しい叱責を浴びせた。

 見れば、落ちているRAYの装甲板には内側に大きなひびが入っており、近くで確認すると、浮き上がっている塩基配列を連想させる六角形が大きく崩れていた。こうして単純なセンサー類がやられていたため、RAYはそれに気づかず装甲板の異常を放っておいた結果、こうしてRAYの首を振る、などといった動作による擦り減りが重なって崩落してしまったということだろう。

 普通、センサー類がやられていては絶対に気づくと思われるのだが、ここ数カ月は戦闘も何もなかったせいで兵器形無しとなってしまっているRAYには、放っておいても問題はないだろうという判断があったために放置されていたようだ。

 

「うわっ、派手にぶっ壊れてるな。治るのかよ?」

「≪ここはもともと私の格納庫。こと私に置いての整備機材は十分にあるわ。私をもう二機程作れる材料も余っているから、問題もない≫」

「そりゃよかった」

 

 そこまで目立つ個所ではなかったのが救いだが、関節付近、しかも命令系統の集結している頭部近くの装甲が薄くなるのは人が搭乗する兵器として大きな欠点を抱えることになる。操縦者を守るにも、首だけになってはどこぞ犬神(モロ)のように這いずることさえできない。兵器(RAY)は現実であって、魔法的・神秘的要素が交わることはできないのだから。

 とにかく、修理のためここは五月蠅くなると言ってRAYは千雨を帰らせた。この格納庫は冷暖房完備で整備員や兵器の管理をするには最高の環境なのだが、実際に兵器の修理をするとなれば機械任せでも十分だからだ。

 

 出入り口の小さなドアが閉まると、RAYは早速修理用の重機に修理プログラムを打ちこんで起動させる。すると、格納庫の奥からリフトが伸び、その上に乗っていた装甲板を受け取った重機が溶接と補修を始める。たちまちに、格納庫内は金属同士が擦れ合う特有の耳障りな音が満ちる空間に変貌した。

 

(≪私も緩んでいた。守ると言っておいてこのザマ≫)

 

 そう言って、念のため全身に異常が無いかプログラムチェックを施す。

 こうして格納庫には、雪を落とす音と機械の駆動する油臭い空気がにじみ始めるのだった。

 

 

 

「しっかし、こうなると暇になるな」

 

 そうぼやく千雨も冬休み。宿題以外することもなく、その暇つぶしのためにRAYの元に訪れていたのだが、ああなってしまうと向こう二日は顔を出せなくなるだろう。実際にそんな時間はかかりそうにもないがあのRAYのこと。突発的な改造途中に出くわし、そのまま追い出されたりして下手を打ちたくはない。

 しばらくの間、近くのベンチに座って考えて込んでいたが、思い立ったように立ち上がる。

 

「あ、超のトコで視力の調整とかできねえかな」

 

 思い立ったが吉日。そう考えて千雨は超のラボへと向かう。

 前述のセリフの通り、彼女の眼鏡問題は未だに解決していなかった。最早生身のものは右目だけになったとはいえ、視力が悪いことは確か。ナノマシンでも体調管理などが限界のため、別の手段を探すしかなかった。

 視覚補正が簡易なソリッドアイの装着も人に見せるようなものではない。そのため、ほとんど人と会わない休日やRAYの元だけ、と限定されていたが、この冬休みの間になら「異常」な技術力を持つ超ならなんとかできるのではないか、と思ったが故の発想だった。

 他人任せで超常現象のような存在へ頼るのは、何となく前から持っていた価値観から反発を受けたような気がしたが、どうせなら楽したいし。とその思いを振り切って走り始めた。

 だが―――

 

「痛ぁっ!?」

「どわっ!?」

 

 すぐ後ろにいた人物にぶつかってしまう。ぶつかった反動で向こうは転んでしまったらしく、ハッと見開いた視界には小柄な人影が映った。年下相手か、と急ぎ千雨は声をかける。

 

「だ、大丈夫か?」

「貴様、誰にぶつかって……ん? 長谷川千雨か?」

「何で私の名前…って、エヴァンジェリン?」

 

 意外な人物に千雨は呆ける。

 小柄な影の持ち主はエヴァンジェリン。ぶつかった時気付いたが、こうして見れば、エヴァンジェリンという存在がどれほど幼く見えるかがはっきりする。西洋系で背丈が高いとはいえ、それは十歳児のもの。体重もそれ相応のものであり、千雨自身はほとんど衝撃を受けなかった。

 そんなことを思いながら千雨はエヴァンジェリンの手を引いて起こした。いつもの高慢ちきな表情で雪を払うと、ぶつかった千雨に早速お小言を言い始める。おそらく、クラスの中でもそれなりにエヴァンジェリンとの付き合いが長いであろう千雨はそれを適当に聞き流していたが。

 数分後、そこには息を切らしたエヴァンジェリンと疲れた表情の千雨が立っていた。

 

「くっ、長谷川千雨、聞いているのか!」

「聞いてません」

「ええーいっ!」

 

 はたから見ればものすごく微笑ましい光景だということに二人は気づいていない。そんな微妙な空気のまま、エヴァンジェリンは思い出したかのように千雨に問う。その内容はRAYの元へ行くからともに行かないか、というものだった。

 

「あ、それ無理」

「は?」

 

 それを語頭において事の起こりを千雨は話した。故に、今RAYの格納庫には行くことはできないと。エヴァンジェリンは聞き返す。

 

「なんだと?」

「そういうことで、私は超の方に向かおうと思ったんだが…」

「む、それは無理だ」

「へ?」

 

 こうして焼き直し(デジャブ)のセリフが二人の口から発せられた。

 何という偶然か。エヴァンジェリンの口から語られたのは、超のラボにはちょっとした事故で大破した茶々丸が運び込まれており、緊急修理を行っているため立ち入りは超と葉加瀬の二人以外は不可能になっているという事実だった。二人して行きたい場所に行けない、という妙な共通点が出来てしまっていた。

 話すうちに顔をひきつらせていく千雨を見て思うところがあったのか、エヴァンジェリンは おお、とポンと手を打って話し始める。

 

「長谷川千雨、それなら家に来るか? どうせ数日は暇になるのだろう?」

「まあ、RAYの修理には時間がかかりそうだしな……」

「そうと決まれば話は早い。さっさと行くぞ」

 

 そう言うと足早にエヴァンジェリンは歩きだした。どうせなら提案に乗るのもいいだろうと思った千雨はその後ろを静かについて行く。何とも異色の組み合わせだが、笑い合う二人にはそんなことは関係ないのかもしれない。

 

 

 

 促されるままにエヴァンジェリンの自宅へとやってきた千雨。しかし、碌なもてなしもないままに彼女は地下室へと案内されていた。自分も人の事は言えないので、道中にあったファンシーな趣味については触れないようにしていたが。

 ともかく、エヴァンジェリンは千雨を置いて少し待っていろ、と辺りを物色し始めた。これでもない、これでもないと探す彼女を見ている最中、千雨はどこからか声を拾う。

 

「……い、………」

「? こっちか」

 

 これといった疑問もなしにその方向へ歩いて行くと、自分には理解することはできないであろうオカルトな本に押し潰された人形が一つ。その本をどけると、人形は先ほどから聞こえていた声で千雨に向かって喋りだした。

 

「ナンダ? 新顔カヨ。オレハチャチャゼロッテンダ、チョットコッチニ寄セテ置イテクレ」

 

 愛らしい見た目にも関わらず、猟奇的な雰囲気があるのは如何なる理由か。その気味の悪さに図らずも一言も話せなかった千雨だったが、言葉に従ってその人形…もとい、チャチャゼロを手に持った。それにしても、魔法使いであるエヴァンジェリン邸にあるのだから喋る、というのは分かるが、動かないというのはどうにも不思議なものだと考える。

 後ろの方も、ちょうどよく探し物も終わったらしく、後ろに居たエヴァンジェリンが呼んでいた。そちらに向き直ると、彼女は珍しい物を見る目つきになる。

 

「チャチャゼロ? 何を遊んでいる」

「ソリャネーゼ御主人。御主人がオレヲホッポリダシタンダローガ」

「そういえば、ここに放り込んでいたんだったな…まあいい」

 

 ついでだ。それも連れてこいというと、エヴァンジェリンは近くの机に置いてあるある物の前に千雨を呼び寄せた。ドームに入ったミニチュアの前には、千雨が初めてはっきり目にした事になるであろう、幾何学的な模様が組み合わさった魔法陣が浮かんでいる。

 エヴァンジェリンはそれの前に案内すると、千雨の手を引いた。

 

「な、何だ?」

「いいから来い。私もこの中でやることがある」

「はっ? 中って―――」

 

 いいえ終える前に、千雨の視界は閃光で埋め尽くされる。ほんの一瞬の間だったが、次に目を開けた先にはリゾート地のような光景が広がっていた。

 砂浜に海に、その他もろもろの自然で開放的な空間。エヴァンジェリンには「別荘」魔法使いでは「魔法球」と呼ばれる時間圧縮隔離空間に、千雨は立っていた。

 

「ようこそ、別荘へ」

 

 自信ありげに胸を張っているエヴァンジェリンを見て、これはコイツの世界か。などとマンガにありそうな設定を思い浮かべる。一瞬、巨漢で重力に逆らった立ち方をした吸血鬼が脳裏をよぎった気がしたが、千雨はその考えを即座に振り払った。

 何故、自分は目の前の幼女と巨漢を比べてしまったのだろうか? 千雨が自己嫌悪している間に、訝しむように彼女を見ていたエヴァンジェリンが声を出す。

 

「一応、驚いたということにしておくが、何故呼ばれたのかは分かっているか?」

「分かるわけねーだろうが」

「ケケケ、新人モ御愁傷サマダナ」

 

 呆れたように返す千雨の腕から、チャチャゼロがひょいっとひとりでに動き出した。しっかりと己の足で地へ降り立つと、血も凍るような笑顔を満面に振りまく。

 

「お、お前立てたのか!?」

「向コウジャ無理ダガ、コッチナラ――」

「余計なことはいい。それより、この間の眼帯をつけろ。持ってきているのだろう?」

「…まあ、あるけど」

 

 ここまで連れてきて一体何をするつもりなんだ。と千雨は渋々言葉に従って懐からソリッドアイを取り出した。眼鏡をはずし、スイッチを入れると神経が繋がった痛みが走って左の視界が復活する。そのウィンドウには、周囲の情報が簡潔に浮かび上がってきた。

 反対に、右の眼はある程度離れたところになると視界がぼやける。

 

「時に、何故貴様は超の元へ行こうと思った?」

「いやまあ…右目は視力悪いから直してもらおうかと思ったんだが。それより、そっちは何で私を呼んだんだ?」

「なに、魔法を見せてやろうと思ってな。どうせ魔法に対する防衛対策などして居らんのだろう?」

 

 図星を突かれ、同時に何を言っているんだと千雨は口元を引き攣らせる。対策はいつもRAYや今でも近くに居るだろうMk.Ⅱがいれば十分だろうし、いざという時のために仔月光も複数体は麻帆良のそこかしこに潜んで隠れている。Mk.Ⅱに至っては、おそらくエヴァンジェリンも気づいていないのだから大丈夫の筈だ。

 そう考えていたのがお見通しだったのか、エヴァンジェリンの視線は冷たい物になっていた。

 

「魔法とは恐ろしいものだ。それくらい、貴様でも知っているだろう?」

「まあ…」

「だから、広範囲殲滅魔法というものを見せてやろうというのだ。貴様がいくら準備しようと、魔力を活用できない一般人では対処できない物をな」

 

 ただの暇つぶし程度だが、貴様には十分易になるだろう? と言い放つ態度は不遜そのもの。だが、魔法をよく知らない千雨にとってはいい機会だった。

 Mk.Ⅱはカメラで見たことをLIVE中継でRAYの元へ送っているだろうし、それなら対策も立てやすくはなると思って千雨は快諾の意を表す。それにますます機嫌を良くしたのか、エヴァンジェリンの魔王のような笑い声がリゾートに響いた。

 

「アーア、アンマリ御主人オダテルナヨ。後ガ面倒ダカラナ」

 

 その横にはうんざりした表情の人形が一体。表情豊かなそれは人間のようだったが、やはり手足に見受けられる継ぎ目などは人形そのもの。それらは人間との違いを明白に理解させるために見せつけている。

 そんな、どこまでも人形なチャチャゼロは、自分の主人(マスター)の子供らしい性格を重々承知の上で千雨にそう言ったのだった。もちろん千雨もそんなことは承知の上。小さくチャチャゼロに頷き返した。

 

「ふむ……」

 

 そんなやり取りを見て、エヴァンジェリンは珍しいものだと鼻を鳴らす。

 チャチャゼロは彼女と数百年前からの付き合いがある「殺戮人形」。ひとたび刃物を持たせてやれば、並みの魔法使いでは束になっても敵わない恐ろしい人形になり果てる。しかし、エヴァンジェリンの力が封印されてから15年間、魔力を注がなければただの人形と成り果てていたチャチャゼロにも、こうした初対面の人間と会えば何か心変りがあったのかもしれない。

 ここ日本には「付喪神」という「物が自我を持った妖怪」になる種族が確認されている。チャチャゼロはエヴァンジェリン自身が作ったものだが、意思を持った物という点では人形として自分の手を離れているのかもしれないな、と人形遣い(ドールマスター)の肩書を皮肉って笑った。

 

「さて、長谷川千雨。チャチャゼロを盾にでも何でもして見ているがいい」

「ケケケ、ソリャネーゼ、御主人」

 

 軽口を叩き合う姿は数百年の付き合いだからこそ。

 こりゃ完全に外野だな、と千雨は肩をすくめていた。

 

 

 

「≪誰ッ!≫」

 

 装甲の改修が終わっていないまま、RAYは格納庫内に突如現れた人影に攻撃態勢をとる。その人影はある程度辺りを見回した後、RAYの試作型特有ツインアイと目線を合わせた。

 視線に籠められた意味は――闘気。

 

「巨大兵器…メタルギア―――か? “形”が随分変わったものだ…」

 

 RAYを見つめ、驚いた表情で「刀」を構えるその人影。上段に刃を向け、強化された筋肉をギチギチと唸らせる。この人影もまた、戦う準備を整えたようだ。

 

「≪あなたが思っているようなものではないのは確か。何の目的で忍び込んだ?≫」

「喋るのか? 生体反応も無い……」

 

 どうやら相手方は此方(RAY)の事を知らないらしい。だが、僅かな時間で生体反応の感知を行ったこと。そして―――身体を覆う「強化外骨格」。その姿と、血の匂いにまみれた歴戦の雰囲気と重なる様は正に「戦う者」。

 先ほどから構えられている刃からは高温の熱が発せられ、周囲の空気に乱れが生じている。つまり、高速振動している刀……「高周波ブレード」とでも言うべきだろう。それを刀という点に技術を転じ、なおかつメタルギアという名称を知っている敵。RAYの装甲は完全ではないため、その点を狙われればその刀で切り落とされる可能性もある。

 

「≪私はメタルギア。でも、あなたの敵になりうる要素は無い。それは証明できる≫」

「敵ではない…? 戦いすらも取り上げられるか」

 

 

 話の分かる相手だったのか、要らぬ戦いは避ける相手だったのか。疑問を胸に抱く間に、RAYの眼前で構えていた人影は刀を何処かへ仕舞う。RAYもまた、辺りに配備している銃を向けさせていた仔月光を雪かき作業に戻らせた。

 再び、格納庫には作業の音が鳴り響く。RAYは目の前の男へ、仰々しくも喜ばしいように首を下げる仕草をする。

 

「≪私はメタルギアRAY。ひとまずは、“ようこそ異世界へ”とでも言いましょうか≫」

「異世界か。信じられんが…これは俺に生きろという啓示か?」

 

 人影はバイザーを解く。自嘲するように笑った彼に、RAYは静かに問いかけた。

 

「≪同郷の士。名を≫」

RAY(0)と言ったか。……俺は―――」

 

 ―――グレイ・フォックス。かつては同じヌル(0)だった者だ。

 

 戦場のマリオネットとして扱われ、それでも己の意志(SENSE)を貫いた男。

 サイボーグ忍者、麻帆良へ降り立つ。

 




高周波ブレード……最初見たとき、サイボーグ忍者のどこに仕舞ってるんだと全員で首をひねった覚えがあります。
とはいえ、また扱いの難しいキャラクターに手を出してしまいました。

グレイ・フォックス、好きな方は居るんですかね? 塩沢さーーーーん!!
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