萌え声クソザコ装者の話【and after】   作:ゆめうつろ

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エピローグ

『オーケイ、じゃあギアを展開してもらえるだろうか?』

 

 調査官の指示に従い、詩織は胸に浮かぶ歌を口にする。

 それは「ガングニール」の聖詠。

 イカロスとも、フェニックスとも違うけれど、彼女に違和感は無かった。

 

 純白のバリアフィールド内を赤い回路が染める、血と情熱の赤。

 命の赤だ。

 

 滲み出る様に広がるインナー、六角形の欠片が増幅してプロテクターを形成する。

 アームドギアは両腕のプロテクターと一体化した「フライトユニット」。

 彼女にとってシンフォギアは空へと羽ばたく「翼」であった。

 

『興味深い、シンフォギアはまだまだ奥が深いようだ……果たしてこのデータを取った所で我々が解析できるのはどの部分までだろうね……』

「全ては知ろうとする意志です、理解しようと手を伸ばし続ければいつかは届く筈です」

『そりゃあそうだ、じゃあ教えてくれるかな。体調は?』

「ちょっと右肩が痛いぐらいです、決戦の時に全力で投げた時に痛めた分がまだ残ってる感じです」

『あれは見事な一投だったがフォームはよくなかったからね、次はちゃんとコーチに教えてもらってからやろうか。次に簡単に歌いながら軽く準備体操をしてもらおうか、ノイズのホログラムを』

 

 戦闘訓練プログラムが起動し、電子データで作られたノイズのターゲットが出現する。

 

『無理があれば直ぐに言ってくれ、君に無理をさせると風鳴司令が怖いのでね』

「問題ありませんよ、これぐらい」

 

 プロテクター各部のスラスターが展開し、その足が地から離れる。

 

『飛行は問題無し、じゃあ攻撃はどうかな?』

 

 両腕のフライトユニットから突き出す様に伸びる「穂」が分割され、衝撃波がノイズを消し飛ばす。

 

-Twin Sonic Impulse-

 

『ワオ……こいつは強力だ、無双の一振りは伊達ではないということか』

「そりゃ、私が「一番強い」と信じる力ですから」

 

 神の力によって作られたソレはアウフヴァッヘン波形的にも、間違いなくガングニールと認識されている。

 イチイバルでも天羽々斬でもイカロスやフェニックスでもなく、ガングニールを選んだのは決して他のギアが弱いと思ったからではなく、「絆」を形にするのに浮かんだのが響のガングニールが一番だと思ったからだった。

 

『オーケイ、じゃあ検査はこれで終わりだ』

「え、これだけでいいんですか」

 

 ギアの展開と飛行、そして攻撃一撃だけ、まだまだ調査はこれからだと意気込んでいた詩織に掛けられたのは終わりの合図。

 予想外にも程があった。

 

『急ぎという訳でもない、それにギアの検査はあくまで最低限起動できるかの検証だけすればよかったのさ。適合係数も問題無い数値だったし、他にも予定が詰まってるんだろう?早く消化して「パーティ」に出席してきなよ』

 

 調査官は戦闘訓練システムを落としてデータの解析を始める。

 それが「気遣い」である事は詩織にははっきり読み取れた。

 

「ありがとうございます」

 

 一言礼を言うと、詩織は返事も待たず「次」の仕事の為にその場を後にする。

 

『……こりゃお叱りかな』

 

 調査官の自嘲気味な呟きを拾うものは居なかった。

 

 

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『とまあ、その色々ご迷惑をおかけしつつも。統制局長「アダム・ヴァイスハウプト」は倒されて、神の力も爆発四散。事件は解決し、現在は残党の確保に向かっていますが……もしも残党の方がこれを見ていらしたら是非とも自首してください。「司法取引」によって減刑される場合があります。まあ逃げても地の果てまで追いかけて捕まえますので、出来るだけ暴れないでいただきたいです』

 

 日本政府および国連からの公式発表を追って読み上げる。

 今回は配信でもなんでもなく、「会見」である。

 

『また我々は錬金術師や異端技術技術者をいつでも募集しています。共に人類の未来の発展の為に働き、世界の真理を求める事を望みます』

 

 これはアドリブだが、今回の件はS.O.N.G.だけでは絶対に解決できなかった。

 敵であったサンジェルマン達錬金術師、解読されたバルベルデドキュメントをリークしてくれたどこかの諜報機関、反応兵器使用を否決に持ち込んでくれた政府関係者。

 そして最後まで信じてくれた人々。

 

 人は決して一つにはなれない、己の利益の為、信念の為、皆違う道を行く。

 だとしても、共に歩んでくれた事を私は感謝している。

 

『私達は、思想を違えるかもしれない、理想を違えるかもしれない。でも共に存在できる、共にこの星に生きる事が出来る。私はこの戦いで、ここまで生きてきてそう信じられる様になりました』

 

 だから一人でも、手を繋ぐ事の出来る人を増やしたい。

 

『もしも助けが必要ならば、私達を頼ってください。私達は……私は最後まで見捨てません』

 

 一人でも助けを求めている人がいるなら助けたい。

 私が皆にそうしてもらったように。

 

『……最後に、各国の衛星を落としたのはその……アダムなので私じゃありません、知りません。済んだ事』

 

 

 

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「さあとっとと用件を吐いて下さいこのクソジジイ、こちとらまだやるべき事が詰まってて寝れてすらないんですよ!!どうせあなたはこの冷房の効いた屋敷で座って見てるだけなんですから!!冷えてますか~!?」

「やかましいわ若造。それよりもせっかくの神の力を手放しおって!貴重な「資産」が無駄になったではないか!」

「はぁ!?無駄にしたのはあなたじゃないですか!なんですかあの洗脳は!国連にチクりますよ、余計な事をした事」

「やれるならやってみるがよい、だが無駄な事、貴様はあくまで「国」に仕える身だと理解しろ。それよりもだ、貴様には起動して貰わねばならん聖遺物がいくつか増えた」

 

 会見を終えると即座にヘリで鎌倉の屋敷に送られ、詩織は訃堂とかち合う事となった。

 割と詩織は本気で怒りと憎しみを訃堂に抱いていた、彼のせいで今回の事件はかなり複雑化したと言っても過言ではない。

 おまけに響の神殺しの件も知り、正直に訃堂が動かなければもっと早く終わったのではないかという疑念があった。

 

 しかしこの「因果」が無ければ詩織が「人間」に戻る事はできなかった。

 フェニックスも、人柱も「囚われたまま」であったかもしれない。

 

 そう考えると、決して悪い事だけだったとは思えなかった。

 

「……まあよい、だが忘れるな。お前はこの国を守る防人であることを」

「言われるまでもありませんよ」

 

 訃堂の説教を半分聞き流し、文句をひたすら垂れ流し報告を終える。

 

 

 次の予定の為に帰路につく詩織の前に翼の「父」である八紘は居た。

 

「まだ戦いが終わってから二日と経っていないのにこんなに無理をさせてすまない」

「構いませんよ、司令の訓練の方がよっぽど堪えますから」

「……それはそうかもしれんな、だが君にはあまりに多くの事を背負わせてしまった」

「元は……私が求めた事です。それに、得た物もありましたから」

 

 この事件で詩織は否応が無く成長せざるを得なかった。

 それは確かに苦しい事で悲しい事だった。

 だけどそれを知れたから、ようやく自分を受け止められた。

 

「父の……訃堂の影響力を断つ為に、既に我々は動き始めている。後始末の混乱に乗じてより多くの権力を得ようとしている彼を私達は止めようと思う」

「それは……まあ。そうですね、むしろここまでどうやって積み上げてきたのが滅茶苦茶気になりますよ、あの人の権力は」

 

 彼を知る者の多くが「怪物」と呼ぶ程の政治的手腕、かつて二課のトップでもあったが聖遺物紛失で失脚したという。

 今、かつて訃堂を失脚させた勢力とも協力体制を築きながら八紘は新しい未来の為に戦っていた。

 しかしそれはとても辛く険しい道かもしれない。

 

「防人としては、父は正しかったのかもしれない。だが人としては間違っている、父の過ちを止めるのが家族としての……防人としての私の役目だ」

 

 止めてくれる家族、そこまで想ってくれる家族が居るというのにあのジジイは……と内心の嫉妬を浮かべながら詩織は次の「予定」を果たしに向かう。

 

 

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 全てに終わりはある。

 苦しい事も悲しい事もいつか終わる、嬉しい事も楽しい事もいつか終わる。

 だからその時、その瞬間を大事にしたい。

 後悔する事もあるかもしれないけど、その時正しいと思った事を続けたい。

 それが私が生きるという事なのですから。

 

 

「ハッピィバースディ!!!!!響さん!!!!」

「うおっ!?遅れてバカ二号が来たぞ!」

「エルフナインちゃんも!?」

 

 「私」がやる全ての仕事は果たした。

 本部へ報告を向かった後に働き詰めのエルフナインちゃんを「息抜き」させて休ませる為に連れ出して、響さんのバースデーパーティに参上する。

 

 事件によって延期されていたこの祝福がようやく開放できるのです。

 

「ようやくぅ!!ようやく祝える!!祝え!!我が友の誕生日を!!!」

「詩織!?なんか貴女様子がおかしくない!?」

「こいつの様子なんていつもおかしいだろ!」

 

 マリアさんとクリスさんが呆れた様に笑う、そりゃそうですよ私アダム倒してから一睡も出来てないんですから!!!

 

「そういえば詩織さんといえば!こっちにも詩織さんが居て二人の詩織さんデスね!」

「同じ学校に通ってるのにこうして顔を合わせるのは初めてですわね、「寺島」の方の詩織ですわ」

「響さん達からその存在だけは言及されていた「寺島」さんじゃないですか!こちら「加賀美」の方の詩織です!」

 

 こうした新しい出会い、私は今生きていて嬉しいと想う。

 

 

 

「そういえば聞いて下さいよ皆さん!私の「ガングニール」の検査をした「調査官」の人の名前が「響希(ひびき)」だったんですよ!?これなんか運命を感じませんか!?っていうか私普通に立花の響さんが来てるのかとおもってびっくりしたんですよ」

「ええーっ!?すごい偶然もあるもんだねぇ……」

 

 私の知る方の響さんもすごく驚いている、翼さんも驚愕だ。

 

「でもこいつはまず調査官なんてやれる頭をしてないから間違える事はないな!」

「ひどいよクリスちゃん……」

 

 合縁奇縁。

 この出会いに感謝をしたい。

 

 

 

 

 

 この楽しい時間もいつかは終わる。

 でもいつかこの時を過ごした事をよかったと思い続けたい。

 

 私は生まれてきて、皆に出会えてよかった。

 

 そして生かしてくれた「あなた」に恥じない様に生きたい。

 さようなら、フェニックス。


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