萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:青川トーン
「それでよー姉貴はアレと戦ってどうだった?」
「……タイマンなら勝ててた」
「そりゃな、そうじゃなくてどう「感じた」?」
「どうって……特になにもありませんでしたが」
テレーヌとライドネー、二人のホムンクルスがアジトで調整を受けながら雑談を交わす。
詩織が手加減したのもあり、テレーヌのダメージもそう大きなモノではないが、イカロスの性能をうまく一度で出せていたとは言えない。
「戦闘経験値を動きのトレースで真似るのはあまりだったな、付け焼刃というのはまさにこういうものか」
「だが、そうは言うがベル。俺達に武術の心得はないんだぞ?結社から持ち出して来れたデータにも限りはある」
「いっそのこと技は捨てて、パワーで粉砕する方面で行くか?」
いくら達人的な動きをコピーして持ってきても「肉体」「精神」との乖離があれば、その効果はやはり大幅に落ちる。
最も「弱い」とされている詩織相手にこの有様では他の装者を圧倒するのは無理だと、ベルとフランクは判断する。
彼らが望むのは「最強のモンスター」だ。
有史以来、あらゆる怪物が生まれては討伐されてきた。
決して討伐される事なく、世界の頂点に君臨する怪物の王、彼らはそれを夢見る。
だが悲しきかな、現代では殆どの怪物が反応兵器でどうにかなり、もっと言えば風鳴弦十郎を始めとした少し世界を間違えているのではないかという強力な人間がちらほらと存在する。
そう考えると怪物のダウンサイジング、ステルス性能、狡猾さも必要となる。
そう考えれば、やはり「人間」こそが最も「モンスター」の素体として相応しいと彼らは結論付ける。
過程としてパナケイア流体を使った検体や強化人間・改造人間といったもの、様々な失敗作が出来た。
「でもやっぱり可憐さ、美しさも大事だ」
「となるとシンフォギア方面で技術を伸ばしていくしかないな……」
「だがシンフォギアの技術も訃堂の爺さんが寄越してくれたデータだけでは……足りんな……」
彼らには拘りがある、創造物は美しく・強く・何よりも「便利」であるべきだ。
「なぁー親父ー姉貴がなんか具合悪くしてんだけど」
「あ、すまん薬の投与の時間だったな」
「薬……そうか!!」
フランクとライドネーの会話からベルがシンフォギア関連のデータからあるものを思い出す。
それはシンフォギアと装者を繋ぐもの。
Linkerだ。
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「へぶっし!」
「エルフナインちゃん、大丈夫ですか?」
「ふぁい、すみません……体調には気をつけているんですが……くしゃみは急にくるんですね……」
先日のアルカノイズと錬金術師、そして「融合症例」の件は正式にS.O.N.G.と日本政府の協力捜査となった。
その為、詩織はついでといわんばかりに司令と特訓したり色々相談する為に本部に来ていた。
「それにしてもまさか、結社の残党が融合症例まで持ち出してくる……とはな」
「アウフヴァッヘン波形も一致していましたよね、一課……というか旧二課の機材でも検知していたそうですが」
「ああ、寸分の狂いも無く……残酷なまでに、な」
日本政府から提出された資料を見ながら本部のデータベースを照会し、詩織と弦十郎、そしてエルフナインは共に確認する。
「……まさか私の生み出したものがこんな事を引き起こすとは、ですね」
「それは言ってしまえば、世の中の発明品なんかは大概当てはまってしまう。君が気にする事じゃない」
「そうです、何だって結局は使う人次第だとボクも思います」
錬金術も科学技術も、大きな力がある、だから争いの種となり、人を救う光ともなる。
「そういえばカメリアの件はどうなってます?」
融合症例の件もあるが、詩織的にはカメリアの血中にある未知の成分の分析の結果もまた気になるものの一つだ。
「はい、あれは……カメリアさんと対応する「何か」を繋ぐ為のもの、Linkerに近しい何かだとわかりました。その何かが何なのか自体はわかりませんし、まだ全ては解明できてないので全部を除去する……というのはどんな影響をもたらすのかわからないので出来ませんが、今は対処として全血製剤で血液の交換を行う事で害を取り除くという形を続けていく事になります」
「Linker……ですか、となると対応するものの可能性としては……ファウストローブですか」
「可能性はあります」
詩織としては少なくとも急ぎの危機が無い、というのは安堵するべき事だった。
自身や響の融合症例の時の様な、手遅れに近い状態で発覚しようものなら、またあの頃の苦しみを味わう所だっただろう。
だが今は何よりも、エルフナインを信じているから安心できる面もあった。
「本当にありがとう。エルフナインちゃん」
「て……照れます……それにまだわかってない事だらけで……」
「そこは素直に受け取っておくんだ、エルフナインくん」
「し……司令まで……では……はい、どういたしまして……!」
これで懸念事項が一つ減った、次の話題に行く。
「それで……あの融合症例二人の事ですが、私達としてはやはり「確保」「保護」する以外の選択肢はありませんよね。ただ……あの錬金術師の言葉が真実だとするとホムンクルスで、なおかつ私から見て彼らには信頼……いえ……「親愛」の関係があると感じまして……」
詩織から見て、敵とはいえあの装者二人と錬金術師の間に「親しさ」を感じ取れたのもあるが、戦闘後に冷静に考えると、融合症例かつホムンクルスであるあの二人の装者は確保された後にどうなるのだろうかというのが頭に浮かんだ。
やはり検体として徹底的にデータ採取の為にモルモットとされるのだろうか、それとも処分されるのだろうか。
となると、カメリアは救うのに、あの二人は見殺しにするのか?という疑問も浮かぶ。
前提として彼女らは犯罪に手を染めて、自分の意志で戦っているが、それはカメリアの消えた過去にも言える事。
あの瞬間、詩織は錬金術師の事を殺そうとしていたが、そうしていたなら彼女らはどうしていただろう。
もしカメリアを匿っていたあの錬金術師達を「死なせた」のが詩織であると、カメリアが知ったらどうしていただろう。
詩織の心には、正しさを見失う不安が付き纏っていた。
「……難しい事かも知れないが、ならなおさら彼らがこれ以上罪を背負わない様に止める。それが一番だろう。身柄の扱いは、今はまだどうにもならないのだからな」
現実として、まだ彼らを止める算段どころか、彼らの事すら多くは知らない。
しかしそれはこれまでも同じだった。
「……だからどうにかするのが俺達の仕事だ、そうだろう?」
全てが最善と行くかはわからない、だが戦うしかない。
戦う事でしか解決しない。
「そうですね……いつだって、そうやって私達は勝ち取ってきた」
運命に抗い、戦い、そして手に入れる事でしか得られないものを詩織は知っていた。