萌え声クソザコ装者の話【and after】   作:ゆめうつろ

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今日は二回更新です


詩織の懺悔

「ああ、姉貴が死んだよ。ちゃんと詩織に殺された」

「そうか、これで「依頼の一つ」は完了だ、我々も仕事は終えた、撤収するぞ」

 

 夜の闇に赤い炎と黒い煙、そして赤い塵、燃えていたのは「S.O.N.G.」の本部と港だ。

 アルカノイズを使った本部艦艇への強襲、そして「Linker」の現物の奪取。

 

 瓦礫がライドネーとフランク向けて高速で飛来する、がアルカノイズを盾にすることでそれを防御する。

 

「このまま逃げられると思うか!!」

 

 投げたのは司令である弦十郎だ、普段は立場上前線に立つ事が出来ないが防衛となれば話は別だ、位相差障壁の弱いアルカノイズなら意外と威力さえ出せばダメージを与えられる。

 防御できない、触れられないのは変わらないが、弦十郎が瓦礫を投擲する事で倒すには十分だった。

 

「今日、俺は聖遺物も錬金術も使わない人間がアルカノイズを吹き飛ばすのをはじめて見たぞ……」

「やべーな親父、あんなニンゲンいるのかよ……私はちゃんと最強のモンスターになれるか心配になってきた」

 

 その光景に思わず呆気にとられる二人、逆に怒りながらも弦十郎は冷静に震脚によって港の上に立つアルカノイズを地面ごと崩落させて始末する。

 

「さすがにアレは想定外だ、構わず引く」

 

 即座にテレポートジェムを使ったフランクの判断は正しかった、二人が消えた次の瞬間、いままで立っていた場所が地割れと化したのだから。

 

 

「……まさか、ここまでやられるとは……な……」

 

 アルカノイズをなんとか全滅させる事は出来た。 

 弦十郎と緒川、そしてエルフナインのおかげで死者こそ出ていない、だが受けた被害はかなりのもの。

 

 

 これまで本部を直接攻撃してきたものは居ない、せいぜいキャロルがオートスコアラーで発電所を破壊して補給を断とうとしてきたぐらい。

 本気でこちら側へ「被害」を与える事を目的として動かれるとこうも脆いのか。

 

 そして、錬金術師とアルカノイズという脅威を改めて思い知る事となった。

 

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 翌朝。

 これまで使っていたタイプの本部の三番艦をS.O.N.G.臨時本部とし、設備と資材を運び込む作業が行われる中、詩織を除いた装者達は集まっていた。

 

「まさか、本部が狙われるとは……」

「しかもLinkerが狙われるなんて予想外デス……」

「皆無事だったからいいけど……」

 

 その表情は皆浮かばないものだった。

 

 発電所への襲撃を迎撃した響と翼、アルカノイズを使った強盗を逮捕した切歌と調は本部が襲われた事とLinkerを奪われた事に対しての落ち込みだったが。

 

 クリスとマリアはまた別の消沈だった、だがそれを「あの場」に居なかった4人には伝えていない。

 

「……とにかく、Linkerに関してはここ以外にも生成する設備があったのが救いね……」

 無力感と、自責の念を隠す様にマリアがつぶやく。

 

「ああ……それに、あたし「たち」が片方は倒したしな……」

 

 クリスは彼女だけに背負わせはしない、と自分に言い聞かせる続ける。

 

 弦十郎には既に伝えていたが、クリスからテレーヌを「排除」した事を切り出す。

 

「倒したって……それって……」

 

 それに対して響が目を見開く。

 

「……武装を解除させて、捕縛するつもりだった……だけど、絶唱を使われて自爆されたんだ。マリア達の助けがなけりゃアタシもここにいなかった……アタシがちゃんと油断せずにどうにか無力化できてりゃ……」

 

 クリスは気を使って、詳細を話そうとはしなかった。

 だが切り出したクリスの判断を見てマリアは年長者として、自分を叱責し、詳細を話す事を決めた。

 

「私達のせいよ……あの敵の装者を死なせたのも、詩織に殺させてしまった事も……」

 

 忘れかけていた、無力化できる敵だけじゃない、ノイズの様な兵器だけじゃない、「命の奪い合い」しか残らない相手だっている事を。

 

 その事実に場が静寂に包まれる。

 

 

 

「……なら、私達がすべき事は詩織を支えてやる事ではないのか!!詩織はどうして今ここにいない!!」

 

 翼が叫ぶ、その手を汚してしまった詩織は今此処にいない。

 

「いいんです、翼さん」

 

 そこに居ない筈の少女がその場にいた。

 

 目を赤く腫らして、微笑む詩織がやってきた。

 

「よくはない、決して……決してよくはないんです、でも。同じなんです、私達がノイズと戦う時に取りこぼした命と同じ、救えなかった命なんです……」

 

 詩織は、まだ割り切れていなかった。

 

「彼女も犠牲になった人なんです、私がすべき償いは……まだわかりません」

 

 でも考える事はやめなかった。

 

 修羅にはなれなかった、いや……ならなかった。

 

「訃堂の爺さんは、私を護国の鬼となれる者といいました。守るべきものの為なら他人を犠牲にし続ける事が出来る人間だって。前の私なら、きっとそうなれた……だけど今の私はそうじゃない……!」

 

 声は震え、止まっていた涙がまた溢れ出す。

 

「殺す殺すなんて平気で言ってた自分が許せない!!信じられない!!どうしてなんで!殺す事が怖くないんですか!?あの人達は!死ぬ事は苦しいんですよ!?怖いんですよ!」

 

 

 詩織はテレーヌを殺した、その命が自分の手で消えていくのを感じた。

 

 それに自分が何度も経験した「死」が重なる。

 

 両親の時も、目の前で一課の隊員達が死んだ時も、知らない人達がどこかで死んでいた時もわからなかった。

 フェニックスが庇って消えた時も、アダムを倒した時も、人柱の神が生命の循環に還った時もわからなかった。

 

 だが自分の手で殺して、自分が何度も繰り返してきた「死」をようやく完全に理解した。

 

「死んでしまったら……それで終わりなんですよ……たとえ歌が残っても、記憶が残っても……もう手遅れなんです……許しあう事もできないし、手を取ることもできない!それがようやくわかったんです……でも、だから何をすればいいんですか!!!私は!何をすればいいんですか!」

 

 生まれて初めて詩織は一度も口にしなかったそれを叫んだ。

 

「誰か……私を助けてください!!!」

 

 心の底からの悲痛な叫び。

 

 両親に愛されず、何度も飢え死にしかけた時も。

 戦いの中で何度も死ぬ様な目にあった時も。

 苦しくて、どうしようもなかった時も。

 

 詩織は逃げる事こそあれど、絶対に誰かに自分から心からの助けを求める事はなかった。

 

 故に訃堂の見立てでは手を汚した事を背負い、詩織の思考は停止し、心は凍りつく筈だった。

 だがそうはならなかった。

 

 詩織は、響が、翼が、マリアが、クリスが、切歌が、調が、弦十郎が、緒川が、エルフナインが、八紘が自分が辿り着けない答えを知ってると「信じて」この場所に「助けを求めた」。

 

 助けてと叫んだ。

 

 

 だから、手を伸ばした。

 

 受け止めた。

 

 

「詩織」

 

 抱きしめたのは翼、だが皆一様に同じ気持ちだった。

 

 さっきまで自責と後悔に重い表情だったクリスとマリアも立ち上がる。

 

 残酷な過去は消せないけど、これからは変えられる。

 響も切歌も調も、続けて立ち上がる。

 

「詩織、私達を信じてくれてありがとう。助けを求めてくれて、本当にありがとう」

 

「翼さん……翼さん!!!」

 

 今にも崩れ落ちそうな詩織を支えるのは共に戦って来た仲間であり、友であり、詩織を理解してくれる者達。

 唯一絶対的な存在、かつてすれ違って、かつて敵と戦って、そして今日ここにいる者達。

 

「共に見つけよう、その答えを」

 

 一人で背負う事はきっと強い、だけど皆で背負えるのなら、もっと強いのだろう。

 

 詩織にとってそれは救いであり、また赦しだった。


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