萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:ゆめうつろ
夜の闇に紛れ、二人、空を飛んでいた。
「本当にやれんのかよ?無理があんじゃねぇか?」
「飛べてはいるから大丈夫な筈です」
フェザークロークをクリスさんのギアと連結、つまりは二人羽織状態で、ヘリでロボットを輸送するかのごとく飛行する。
「足元が無いから不安なんだが」
「クリスさんの頭が胸に当たって違和感がありますけど、大丈夫です……っう」
「お前今「くさい」って感じの声出しただろ!?」
「なんでそんなに鋭いんですか!確かにちょっと匂うなって思いましたけど」
今からとても戦場に向かう様なやり取りじゃない気もするが、無駄に緊張しない分いいかもしれない。
なんでこんな奇妙な格好で戦う事になったかというと、純粋に私の火力不足である。
私のメインの武器はゴミの様な威力の機関銃のみ、ぶっちゃけノイズとやりあうには不安がある事を正直にクリスさんに話したら、こうなったのだ。
「っと敵が見えてきたぜ、撃ち始めるけどしっかりと飛んでくれよ!」
「じゃあ、しっかり当ててくださいね」
通りを好き勝手に暴れるノイズ共が眼下に見える、クリスさんの腰のアーマーが展開し、次々とミサイルが飛び出し、4門のガトリングがノイズを爆発と共に黒い炭へと還していく。
「もうちょっとスピード上げても狙えるな!」
「撃ち漏らしは勘弁してくださいよ!」
まるでシューティングゲームの自機になった様な気分だ、パイロットが私でガンナーがクリスさん、いつだったかリスナーの方とやったSTGの協力プレイを思い出す。
クリスさんのギア、イチイバルは広域殲滅が得意、けれど撃ってる間は移動が疎かになって隙が出来る、それを私のイカロスが足となる事で動きながら撃つ事が出来る。
とても合理的だ。
っと目の前の要塞の様なノイズが私達目掛けて砲撃を仕掛けてきたので、それを回避、回避、両腕の機関銃で迎撃――
「うるせぇ!撃つなら一言先に言え!」
怒られた、よく考えたら確かに頭の上で急に銃声がなったらびっくりするわな。
「すみません、しかし手持ち無沙汰だったので」
地上から対空砲火の如く飛び上がってくるノイズを次々と撃ち落していくクリスさん、私は要塞ノイズから発射される砲弾を機関銃で撃ち落していく。
しかしあの要塞ノイズ、先ほどからちょくちょくクリスさんがミサイルを撃ち込んでいるというのにびくともしません。
「何か火力のある武器はないんですか、あれ効いてませんよ」
「うるせえわかってんだ!あるっちゃあるが姿勢のせいで撃てねえんだよ!背中から肩が自由になんねぇと」
「だったら体位変えますか、ちょっと体真っ直ぐにしててくださいね」
「こうか?」
フェザークロークを伸ばし、私とクリスさんが向き合う形で羽織る、なんというか……そのクリスさんの大きな胸が当たってやわらかくて、ちょっと恥ずかしいんですが!!この際気にしない事にします。
「って、アタシ前見えねぇじゃねぇかよ!!」
「大丈夫です、私が発射タイミングを指示するんで武器の用意とトリガーを引くのはお願いします」
要塞ノイズの砲撃を回避しながら、バレルロールをする。
飛行訓練で散々練習したおかげで多少クルクル回ってももう酔わなくなりました、本当に司令には感謝しかない。
だが。
「うぇっ………」
下を見るとクリスさんの顔色がよくない。
「ごめんなさい、酔った?」
「な……なめんじゃねぇ……ぞ!」
どうやら大丈夫そうだった、4機の巨大なミサイルを腰のハンガーから展開するクリスさん、私は高度を上げ、要塞ノイズの真上を取る。
そして、真っ逆さまに落下を開始する。
「今です!」
「ぶっ飛べ!!!」
そうクリスさんが叫ぶとミサイルは凄まじいスピードで次々とノイズに突き刺さり、大爆発を起こした。
私は爆発の炎を回避し、勝利の旋回、そして地面に両足でランディングし、フェザークロークを解除……
「うっ……うおえっ!」
ってクリスさんが■いたァーッ!!!!!!
嘘でしょー!?ありえんって!!!
「なんてことしやが、ウォェっ……」
即座にクリスさんをクロークから切り離すと私は地面に膝と手をつき――■いた。
貰っちまったぜ、キツい奴。
こうして、私の初めての戦いは勝利と最悪の結末を迎えた―――。
シンフォギアのストレージ機能とバリアコーティングには本当に感謝しかない、汚いキラキラを浴びてもギアを解除すれば綺麗さっぱりだ。
端末を起動して時間を見れば、もう翼さんのステージは終わってしまっていた。
「あー……最悪だよお前、人をブンブン振り回しやがって……」
「すみませんって……私はいけると信じてやったんですよ」
さっきからクリスさんが恨めしげな視線とボヤきを向け続けてくるがとにかく勝利の為の必要な犠牲だった。
いわゆるコラテラルダメージです。
「で……どうすんだよ、あたしを無理矢理にでも連れて行くか?」
「しませんよ、そんなこと」
私がクリスさんが敵対していた装者だと気付いた様に、クリスさんも私が二課の装者だと気付いた。
けれど私はクリスさんを拘束して二課に連れて行くつもりはない。
「私は貴女の意思を尊重します、クリスさんが来たいと思った時にでも来てください」
一緒に戦った仲ですし、そもそも私が無理にクリスさんを連れて行こうにも返り討ちにされるのがオチです。
「お前、本当に変わってんな。アイツらの仲間なら無理にでもアタシを追っかけてくると思ったんだがな」
「私を立花さんみたいな陽キャと一緒にしないでくださいよ、私は自分からそういうグイグイいける性格じゃありません」
「あんなに熱くなってたのにかー?」
確かにちょっと、私らしくなく、熱くなってしまってましたがそれは。
「それは……大事な人の晴れ舞台を潰されたくなかったから……」
「ははーん、アイツだな。風鳴翼」
「っ!?」
「図星かーそっかそっかぁお前の言っていた友達っていうのは風鳴翼の事だったかぁ~そりゃ立ってる場所が違うわな~」
……そうだ、翼さんはとっても有名な人だ、沢山のファンがいて、私なんかが……。
「でも、だからこそ横に居てもいいんじゃねぇか?」
「えっ」
「なんでもねぇ、ただちょっと……一人は寂しい、だろうなって思っただけだ」
「クリスさん……」
……彼女が前に言っていた尻拭いとは、二課と敵対していた時の事なんだろう、最初はノイズを操っていたらしいけど、今は逆にノイズと戦っている。
それはきっと「仲間」を裏切ったか、捨てられたか。
ならば、私も勇気を出してみようと思う。
「クリスさんも、一人が嫌になったなら、いつでも……私の所に来てくれてもいいんですよ?」
「はっ、んな事できるかよ、これ以上お前に迷惑はかけたくねぇ」
「そんなに迷惑に思ってない、むしろ私の知らない所で死なれてたりしたら……」
……ふと力が抜けて尻餅をついた、戦いが終わって、安心したのかな?
「大丈夫かよ?」
……私、死ぬ所だったのかも。
「ごめんごめん、これが初めての戦いだったから、ちょっと気が抜けたら、急に……怖くなって」
「……だから無理すんなって言ったんだ」
はぁ、とクリスさんが溜息をつき、再び聖詠を唱えてギアを纏った。
「家まで送ってやる、しっかり掴まってろ」
すると私を抱え上げ、まるでお姫様抱っこみたいで……これは……恥ずかしいッ!!
「……クリスさんはこれからどうするの」
「これから考えるさ」
「また会える?」
「……その気になりゃあな」
夜空を飛ぶ、まるで夢の様な時間。
「思うんだけどよ、アタシとこんなに話せるなら、大丈夫だろお前」
「でも……」
「もっと自信を持てよ、あんたのお友達だってこうやって話したいと思ってるかもしれないぜ?」
……そうかな。
楽しい時間はあっという間に過ぎる、見慣れた我が家の前についてしまった。
「んじゃ、アタシはここで失礼させてもらうぜ」
「ありがとうね、クリスさん」
「……いいってことよ、んじゃ」
それだけ言うとクリスさんはまた高く跳んで、去っていく。
私は端末を手に取り、二課に連絡を取る。
『加賀美くん!無事だったか!』
通信に出たのは司令だった。
『はい、勝手な行動をしてすみませんでした……この処罰は受けるつもりで……』
『いや、それはいい、君の行動のおかげで確かに救われた者はいたからな……それよりも一人で大丈夫だったのか?』
『いいえ、さっきまで雪音クリスさんと行動を共にしてました、彼女と共同でノイズを倒しました』
『そうか、彼女が……とにかく無事でなによりだ、今は何処だ?』
『家の前です、それより翼さんのライブは』
そうだ、それが一番気がかりだった。
『大成功だった、彼女の笑顔を守ってくれた事、感謝する。けれど次からはもっと慎重に行動するように、報告連絡相談は大事だぞ』
『……はい』
よかった、私は見れなかったけど……。
…………。
『ああ、そうだ。翼のライブの録画を送っておこう、君も楽しみにしてたものな』
……司令、めっちゃ気遣いの民じゃん……ありがとう……ありがとう……。
はぁ、今日はなんだか色々あって疲れてしまった。
けれど、なんというか。
悪い気分ではない、かな。