萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:青川トーン
「皮肉なモノだな、誰よりも人らしく、自分らしくあろうとしたお前は我らと等しくなりかけている」
「……瞬間瞬間の思いつきで生きているもので」
星空の下、虹色の結晶と化した大地に詩織とシェム・ハは立っていた。
ここは詩織の意識の中の景色、証拠に「フェニックス」もまたその場に降り立った。
「君は本当に私の想像をも超える……永遠の命の次は神の埒外な力、いや神そのものか。世界は余程に君が人として生きる事を許してくれはしないようだ」
「何かと思えば、我々の手の外で生まれた異端種(イレギュラー)まで飼っているのか……それはますます只人として生きられぬ訳だ……」
シェム・ハはフェニックスの事を知っている、アヌンナキが関わらぬ方法で、自然に生まれた理外の超常生物。
何度も行われた大量絶滅を容易く乗り越えて、人の世まで生き残ったがそこまで大きな影響をもたらす訳でもない為、見逃された存在。
だがその「力」は理解している、「未来」に存在を確定させる事でたとえ死しても再び蘇るという手品だ。
「私は……神様になろうと、不死身になろうと関係ない。ただ皆の側に居たい」
「残念だが、それはできない事だ……この星は、人の世は悲しいぐらいにもう「立派」に育ってしまった。神はもう、この星のヒトには必要ないのだ」
シェム・ハは嬉しそうでありながら寂しげに、詩織に微笑みかける。
「仮に廃棄された断片とはいえ神を人の身に落とし、さらには2000年の神殺しの呪いを上書いたのはお前一人の力ではない……お前にその力を与えたのは人だ。お前を想う見ず知らずの者達だ……お前はもう自分自身の思うままには生きられない」
加賀美詩織のあり方は、もはや自身で決める事はできない。
人の望む救世主の形でしか加賀美詩織はもうこの世界に存在できない。
「お前は選ばねばならない、この地を去り導なき旅に出るか、それともこの地で朽ちるか」
「あなたは……あなたはどうするのですか、シェム・ハ」
「我はいずれ目覚める断章と合一し、再び星の海へと旅立つ……だがまあその前に月の呪詛を解き、エンキに詫びを入れるつもりだが」
かつて全てを一つと繋げ、完全なる命の祝福を目指さんとした女神は人の可能性を見た。
孤独に泣く事も、傷つけあう痛みも、全てが祝福だと信じた少女達を、それを支える者達を見て、人に未来を委ねる事を決めた。
故に少女に最後の試練を与える。
「そう遠くない内に選択の時は来る。だから詩織、我に可能性を見せてくれ」
それまで俯いていた詩織がハッと顔を上げる、穏やかで、まるで母の様な慈愛の笑みでシェム・ハが語る。
「お前達が見せてくれたのは我ら神ですら知らない光、ならば我が導き出した答え以外の……新たな選択肢を生み出す事だってできるだろう?」
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まるで要塞の様な隔離施設、暗殺や脱走の危険のある大罪人を収容する為の特殊刑務所だ。
錬金術師や忍者など人知を超える危険人物などを拘束する為の場所に詩織は来ていた。
「なんだい、僕を笑いに来たのかい」
「いえ、我が身を考えれば笑える事ではないので」
相手はかつて混沌だった少女、自傷しようとしたもののあまりに肉体がひ弱で痛みにのた打ち回って無様を更に重ねたそうな。
「……だったらなんだい?」
「この宇宙の事を知りたいのです」
「はぁ、なるほどね……概ねその力のせいでここには居られないという奴か」
「まあそれもありますけど、選択の参考にしたいので」
過ぎたる力は群の中で生きるにはあまりに邪魔な存在、それはどこにおいても変わりはしない。
「まあ色々あるよ、それこそ人間の言葉では言い表せない存在が山ほど。旅するならオススメさ……事故にさえ気をつければね」
「事故は怖いですからね……」
自分をこんなひ弱な器に閉じ込めた相手だというのに、もはや憎しみも怒りも感じさせない、混沌だった少女は不思議な気持ちだった。
ただ一つ残念なのは自分はおそらく朽ち果てるまでこの牢獄で暮らす身、格子越しにしか語り合えない身。
きっと贖罪もできず、赦しもされない。
だからせめてそれを望む。
「一つだけ、僕から君に頼みがあるんだ……僕はもはや混沌ですらない、故に名前がないんだ……だから名前をつけてくれないか?」
「私があなたに名前を……?」
名をつける事、それは存在を認める事でもある。
加賀美詩織が倒し、人の身へ落とした存在である事だけでも彼女自身に認めて欲しいという気持ちがあった。
「頼むよ、君に混沌の名すら奪われたんだ。ここの人達だって聞き取りの度に番号で呼ぶのも大変そうだし」
突然の無茶振りに詩織は必死に自分のボキャブラリーを働かせ、それらしき名前を考える。
混沌、黒、翼を元にしたホムンクルス……
「羽黒(はぐろ)で、どうでしょう?」
「安直だね」
「何か文句でも?」
「いや、安直だけどいい名前だよ……僕なんかに勿体無いくらいに……」
決して彼女の罪を赦した訳じゃない、だけど、それでも彼女に名前を与えてやるぐらいの事はしてもいいだろう、と詩織は溜息をついた。
「そろそろ、ジジイの方の相手をしに行かないといけないので……今日はこの辺りにしておきます、それでは」
「うん、またね」
羽黒は心の底から詩織との再会を願って、そう呟いた。
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「ヴァネッサさん達が来てくれて本当に助かりました」
「いいのよ、これは自分達のためでもあるんだから」
本部ではエルフナインの研究をノーブルレッドの三人が手伝っている、これまでS.O.N.G.に一人だけだった錬金術師にヴァネッサが加わり二人に、おまけとして助手程度には働けるミラアルクとエルザの二人が加わった事でエルフナインの仕事効率は爆発的に上昇しつつも適度な休息が取れるようになっていた。
「それにしても、加賀美准尉のあの力でウチらも人間に戻れるって喜んだんだがな~まさか「別つ」力だったとは盲点だぜ」
「そうです……あれは神から諸々のものを削ぎ落として有り余るエネルギーでヒトの形を構築したもの、仮に皆さんに対して使っていたら……そのバラバラ死体になってた可能性が高いかと……」
「でもその分ウチらはエルフナインに期待してるんだぜ?早くもパナケイア流体の毒性を中和して活動時間を延ばしてくれたんだから」
ヒトの身に戻るにはまだ遠い、だけど希望は見えてきた。
それだけで怪物とされたもの達にとっては救いだった。
「それで加賀美准尉は……どうなのでありますか」
「……今の僕ではあの「埒外」の力を宿した詩織さんを元に戻す事は……」
「私達をヒトに戻そうとしてくれているのに、あの人は更に高次へと至ろうとしている……」
今、この場所にいられるのは彼女がいたから。
でも彼女は今、この場所から去ろうとしている。
「だとしても、です。僕は……僕達は詩織さんの手を離しはしません……!あの日、命を懸けて僕を救ってくれたあの手を……!」
それでもエルフナインは世界が押し付ける残酷に、抗う事を諦めてはいなかった。