萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:青川トーン
オリン・イン・ザ・ダークネス
原点回帰という言葉がある。
闇から始まった私は闇に戻る。
「よう詩織!一緒に飯食おうぜ」
「あ、雪音さん、私もいい?」
「ああ、いいぜ。いいだろ詩織?」
…………。
最近、クソ陽キャと化したクリスさんのせいで私の周りに人が滅茶苦茶集まる。
「……あっ……はい」
「やっほー!クリスちゃーん!」
「あっバカが来た」
「バカっていわないでー!」
おまけに立花さんまで来よるわ、もう散々である。
「…………あっちょっと用事思い出したから職員室いってくるね」
「おう、わかった」
当然用事なんてない、騙して悪いがこの空気に耐えられんのでな。
「また逃げ出したの、詩織」
「翼さん……」
「ダメよ、逃げてばかりじゃ」
新しい校舎になっても屋上が開放されていたおかげで相変わらず私の避難場所はここだ、しかし翼さんに先回りされている事も多い。
「翼さんやクリスさんはひだまりの中で生きていける生き物ですけど、私は違うんですよ」
「またそんな事言って、雪音が落ち込むわ」
「……「アタシにひだまりに出る為の勇気をくれたから今度はアタシがひだまりに連れ出してやる」」
「一字一句違わず覚えてるわね」
「真面目な顔で言われましたからね、でもそれやられると私干からびて死にますって」
結構付き合いも長くなってきて、翼さん相手にはマトモに話せる様になってきて、自分の心の内側も曝け出せるようになった。
けれど、クリスさんや立花さん相手にはまだそれが出来ない。
「私の心の闇はですね、人に解決されたくないんですよ……自分で答えを出して、自分で選んだ道を行きたいんです。確かに手を取ってくれるのは嬉しいんですけど私は私でありたいんですよ」
「その気持ちも確かにわかるけれど……難儀ね」
「この面倒な生き方こそ私ですからね」
そうだ、私はねっとりとしたダークネス、こびり付いた闇みたいな生き物、納豆のフィルムに付着したねばり。
ふと、翼さんが距離を詰めて来る。
あっこれは……
「なら……私がこうしてもダメ?」
ひはっ!?私の顎をクイッってしないで!?っていうか!?
「ど……何処で覚えてきたんですか!?!?」
「ふふ、小日向の読んでた本に書いてあったのよ」
あんの所構わず立花さんとイチャイチャしてる陽キャ陸上部~~!!!
「あ……あ………やめてください……目を覗き込まないでください……」
翼さんの瞳から逃れらない!!!!見透かされてるみたいで!
これダメですダメです!ヤバいですって!!!
「ふふ、相変わらず詩織の反応は面白いわ」
「わ、私の心を弄ばないでください!!」
「でも遊びじゃないよ」
「アッ……ア!」
心臓爆発するからホントやめてくだされ!!
「流石にこれ以上はまた鼻血噴いちゃいそうね」
「はぁ…う……」
私は相変わらず翼さんに弱い、というか翼さんがますます強くなってる。
何処からともなく仕入れてきた知識で私をからかって弄ぶのがすっかり癖になってしまっている。
「翼さんはひどいひとですよ!ほんとに!」
はぁ、本当に翼さんはひどい人です。
今の私は翼さんに依存してしまっています、翼さんがいなくなってしまったら私はきっと生きる意味を見失います、けれど翼さんに近づかれ過ぎると今度は心が痛くなって、苦しくなる。
本当に、ひどい有様ですね。
放課後、今日も私は二課に出向。
新しい本部は「船」、揺れこそ少ないけれど……私……乗り物酔いが酷いんですよねぇ。
だから本部召集はちょっと気が乗らないんですよ。
それに今日の目的はメディカルチェック、主に私と立花さんのだ。
立花さんも私とはまた少し違う形だけど体内に聖遺物がある状態、いわゆる融合症例と呼ばれている状態にある。
立花さんが第一号、櫻井了子……私達と戦った「フィーネ」が二号、そして私は第三号。
私の場合は機能の停止した臓器、損傷した臓器などをイカロスの生命維持機能が無理矢理に修復して動かした結果の融合症例、つまりは足りない部分を補う形での融合。
その為、切除すれば遠からず私は臓器不全で死にます。
更に言えばイカロスのコンバーターを遠ざけるだけで不調を来たす可能性もあるので、かなり重症らしいです。
しかし同時に「生体」を「聖遺物」で補うという新しい医療の可能性も秘めているが為に、私の症例は非常に大きな関心が持たれているらしく、こうやってメディカルチェックや特殊な検査を受けるだけでもお金が貰えるのである。
「ちゃんと動いてるんですよねぇ」
鼓動を打つ心臓、しなやかに動く筋肉、全て「生体」と変わらない動きをし、「代謝」まで再現をする。
これは恐らくフェザークロークの再生機能と同じような原理で行われており、今の所「拒絶反応」も無し。
まぁ、今更に悩んでも仕方ありません。
本来ならあの時、櫻井了子を、フィーネを撃てなかった時点で私は負けて死んでいたのです。
命があっただけよかったと思うしかありません。
そんなこんなで機械に横たわり、全身をくまなくスキャンされる。
イカロスの蝋は、蝋と呼ばれますが実際にはナノマシンの様なモノで、結構これが重いらしく、私の体重が+10%くらいされています。
おまけに通常の代謝が行われている部分に入り込むせいでその侵食率が少しずつ増えている、というのも少し気になる所です。
……そのうち、体の全てがイカロス由来のモノに置き換えられてしまったなら、私はどうなるのでしょうか?
まぁそんなテセウスの船の様な疑問ですが。
人間の体は代謝によって常に生まれ変わり続けている、結局その材質が変わるだけで本質は変わらない、と思いたいですね。
今日の仕事を全て成し終えて、家に帰り着く。
もはや帰ってくるのは私一人の、小さな部屋。
変わらず一人、せいぜい家事の量が少なくなっただけの生活。
それと防音設備が整って楽器が弾けるようになったぐらいか。
パソコンを立ち上げて、配信の準備をしながら最新の動画をチェックする。
「うたずきん」ことクリスさんが新しい動画の告知をしているのでそれを拡散する、翼さんの次回ラジオの予定の告知も拡散、そして私は配信枠を取り、開始時間を宣言。
クリスさんは「うたずきん」の名で次々と新曲を世に送り出す期待の新人として話題になって、おまけに翼さんのラジオにもゲストとして呼ばれ、今後が期待されています。
一方で私は話題も落ち着き、人気配信者の地位を得ましたが、相変わらず「音MAD素材」やら「歌だけが清楚な女」「頭おりん」「クソザコダンゴムシ」と呼ばれています。
というか最近では翼さんやクリスさんの放送や動画でも何か比べる時に「基準はおりん」などとされてちょっと腹立ちますね、ちなみに謎解きゲーでの「1おりん」は「15分」らしいです、クソッタレ。
腹が立つので今日は何をしましょうか。
『こんばんおりん~今日もおりんゲーム実況はじまるよ』
「謎解きはやめろ」「謎を解け」「謎を解いたり解けなかったりしろ」「翼さんに解いて貰え」この間の謎解きゲーが効いたらしい、皆必死に謎解きをしろだのするなだの言ってますね。
『じゃあ今日はメック落としまーす』
「メックフォールが来た」「今日はパイロットか」「ロボを労われ」メックフォールとはロボに乗れるFPSである、私の好きなゲームの一つでもありますが、私のプレイスタイル的に一通り暴れたらロボを自爆させるので「クソブラックパイロット」なんて言われてます。
『部屋は立てたので入ってきてもいいです、今日はメックフォールなんでミュートはしてもしなくてもお好きにどうぞ』
「イキりおりん」「まあメックなら配信聞いててもわからないしな…」「ムームの配信で隠れてる場所ばれてたのは草だった」そうだ、対戦ゲームだと配信で現在地がバレたりもするので結構慎重にするべき所もあるけれど、メックなら別に聞かれていても特に問題はない。
『じゃあルールは消耗戦、メックは今日はサムライで行きます』
「脳死自爆やめろ」「薩摩やめろ」「自爆しもす!」サムライは耐久力が低い代わりにスピードと火力の高いメック、メイン武器のソードは実は必殺時以外はあまり威力がないのでサブの銃を使ったほうがいい。
開始から数分はいつも通りの動きでスコアを稼ぎながらメックを呼び出す準備をする、そして準備が整ったらすぐさまメックに乗り、まだメックに乗れてないプレイヤーを虐殺していく。
『養分のみなさーん、たのしんでますかー!』
「相変わらず性格の悪い動きだ……」「弱者にイキる姿はまさにおりん」「悪役ムーブがうますぎる」散々な言われようである。
するとさすがに準備が整ってきたのかメックが次々出てきて袋叩きにされる、サムライの装甲じゃ2対1だと一瞬でスクラップだ。
『そろそろヤバイので自爆しまーす』
ダッシュで敵に近づき、脱出ボタン、メックが光り輝き大爆発を起こし敵を巻き込む。
『やりました。』
「やりやがった!」「メックを労われ」「知恵捨て」スコアこそ滅茶苦茶稼いで優位取っているのに罵倒が次々飛び出す、ほんとこいつら遠慮ないな!
結果は早々にスコアを稼いだおかげで圧倒的勝利、今日の配信はここまでだ。
『おつおりーん、とりあえず告知だけど「うたずきん」さんの新しい動画が近々あがるのでお楽しみに~』
「身内の告知をする配信者の鑑」「うたずきんすこすこのすこ」「翼さんとうたずきんと三人で歌え」
クリスさんは基本的に生放送はしない、意外な事にあやつはネット上では恥ずかしがりなのである。
その為、翼さんがやりたいと言っていた「うたずきん×おりん×風鳴翼/お歌コラボ」はまだ実現していない。
『んじゃ、明日はBLゲームをやるよ』
「お ま た せ」「清楚になれ」「うたずきんを見習ってお歌を歌え」「助けて翼さん」今日も悲鳴を見ながら配信を閉じる。
パソコンの電源を落として布団に倒れこむ。
最近は何だか通学が憂鬱である。
原因は立花さんとクリスさんをメインとした陽キャ軍団。
皆そろいもそろって私を光の中に引っ張り出そうとする。
素直に「影」に居たいと伝えられたらどんなに楽だろう。
はぁ。
…………。
こんな日々がいつまで続くのかな?
明日はどんな日になるのかな……?
そんな事を思いつつ、目を閉じる。
全ては闇の中、である。