萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:ゆめうつろ
萌え声生主「おりん」
「大丈夫?」
「大、大、大、大丈夫です」
大丈夫、私の心臓はそろそろ爆発する、死ぬ。
中学時代、人気(比較的)萌え声生主「おりん」としてゲーム実況をメインに生きてきた私「加賀美詩織(かがみしおり)」は私立リディアン音楽院高等科に進学した。
それはこの生まれ持った萌え声という武器を生かす為に歌を学ぼうと思ったのだ。
それがまさか、あの「風鳴翼」さんに手を引かれ、夕陽に照らされている廊下を共に歩く事になるなど……。
真夏の道路の上のミミズの様な気分である。
私は翼さんのファンである、ツヴァイウィングではなく、翼さん単推しのファンである。
というか翼さんの手ぬくぬくすぎでもうこのまま燃えて死んでしまう、そういえばカエルは人肌に触れすぎると火傷するらしい、私はカエルだ。
「その、本当に大丈夫?とてもその、震えている様だけど」
「大丈夫です、私はクソザコプリンなので震えるものなのです」
「そのクソザコプリンとは何かわからないけど、その急に呼び出してごめんなさい、けれど大事な事なの」
「大丈夫です、誰にも言いませんし、この事は心に秘めて墓場にまで持っていく覚悟です」
「妙に覚悟が決まってるわね」
大事な事、大事な事ってなんだろう、まさか一目惚れ……いや無い無い無い、いやでもどうして手を繋いでるんでしょうか?
まあそれはそれとして肌すべすべだけど力強さも感じる翼さん手がヤバい、配信で自慢したいけど身バレするから話せねぇ!
と、気が付くと見知らぬ廊下、リディアンから出てない筈なのにこんな研究所みたいな場所あったっけ?
「来たわね」
「来たわよ」
「来たのね」
「何をしてるんですか二人とも……」
急に知らない女の人に話しかけられたのでつい配信で使っている定型文が飛び出してしまい、翼さんに呆れられた、というかこの人今私の配信で使ってる定型文に対応しなかった?
「ようこそ加賀美詩織ちゃん、それとも「おりん」ちゃんの方がいいかしら?」
身バレしてた。
「何が目的ですか!お金ですか!体ですか!オフコラボですか!」
「まぁ体がお目当てでもあるけれど、落ち着いてね」
「体ですか!で、どちら様でしょうか?」
「私は櫻井了子、日本政府所属の組織「特異災害対策機動部二課」に所属する研究者よ」
「えっ日本政府……?特異災害……?もしかして私モルモット……に?」
「人聞きの悪い事は言わないで頂戴、ただこのリディアンで貴女に「あるもの」の適性があったから協力をお願いしてもらいたくて来て貰ったの」
あるもの?適性?
「魔法少女とか変身ヒロインみたいな?」
「あら正解」
「それマですか~?」
いや~変身ヒロインは無いでしょう~
「まぁ、身辺調査が終わったからこうして呼んだのだけれど。両親共働きで姉妹兄弟無し、やや借金あり、小遣いは月1000円、機材はポンコツ……もし協力してくれればお給料も出るし、学校の授業も一部免除、あなたにとっても利益になるはずよ?」
ヴッ……それは……。
「その、少し気になったのですが櫻井女史」
「なぁに翼ちゃん」
「さっきリスナーと聞こえたのですが、加賀美さん、あなた「配信」をしているの?」
「し……してますね……」
アッ!!!!!翼さんには、翼さんには聞かれとうなかった……!!!
「そうね~そこそこ人気のあるラジオ番組みたいなものを配信してるそうよ~」
「すごいですね、今度少し聞かせて貰いましょうか」
アッー!アアアアーッ!!!!このアマァア!!!余計な事を!!!
私「加賀美詩織」は「おりん」の名でネットラジオを配信している、しかしその、内容が下品だったり、媚媚だったり、アホなものである。
とてもではないが親にも聞かせられたものではない。
さらには絶対に翼さんに聞かれてドン引きでもされたら生きてはいられない。
「その、ですね!話に戻りましょうか!内容次第では前向きに検討させていただきましょう!ええ!そうしましょう!」
「あら、やる気があるわね、いいわよ、私そういうポジティブな子は好きよ」
この櫻井了子とかいう人、絶対わざと逃げ道塞ぎやがったな……絶対ラジオで告発してやるからな~?
「あ、でもこの先は国家秘密、もし漏らしたりしたら……少し怖い目にあうから気をつけなさい?」
ヒ……ヒェ……
「かしこま……」
どうして……どうして……。
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第4号シンフォギア「イカロス」、現状唯一無二の飛行型シンフォギアシステム。
このシンフォギアというものに適合する人間はとても少なく現状翼さんと、私だけ。
何が凄いってこのシンフォギア、あの「ノイズ」に対して効果があるという事だ。
ノイズの猛威と戦うことはできない。ノイズが向かってきたら、逃げなければならない。
だが、シンフォギアを纏えばノイズと戦うこともできるし、勝つこともできる。
簡単に言えばこういう事だ。
それはそれは超革新的なモノであるが、どうにもこれが現行憲法に抵触する恐れがあるらしく、計画は極秘のモノらしい。
で、私のやる事はノイズと戦う事…ではない、適合者としてのデータ取りである。
毎日授業後、16時から18時までシンフォギアを纏い、色々な訓練を行う、それだけである。
それだけで、10万!ウッハウッハである。
ただ、翼さんのおじさんである司令さんのスーツはダサかったな。
と、今日一日を振り返る。
頭がプリンにでもなったのかな?色々ありすぎてもう処理限界だよ、なんですかノイズと戦う為のシステムって、しかもそれが選ばれたものにしか使えないって、ちょっと欠陥過ぎません?
とにかく配信しよ。
『こんばんおりん~』
今日のリスナーは開始時1200か~平日だしもう新年度始まったしな~20時じゃこんなものか。
『今日はちょっと脳味噌を酷使する事が多くて疲れちゃったよぉ~』
「おりんに脳味噌入ってたのか…」とかいうコメントが多々流れてくる、クッソ……こいつらよく見てやがる……確かに私はバカだよ……。
『ヒドイヨ!!確かにプリンくらいの容量しか入ってないけどおりんも考える事は考えてるんだよ!』
「プりん」「かわいい」知ってる、私はかわいいんだ。
『とりあえず先にご報告、しばらく夕方の雑談配信枠はおやすみにして夜のゲーム実況枠をメインにしていきたいと思いマース!ちょっと機材のアテが出来たのでもしかしたらバイノーラル配信もできるかもね~』
「おりんの小遣いでバイノーラルマイクが買えるわけないだろ!」「おりん、まさかついに枕営業…?」「いや企業所属になるのか!?」とコメントが一斉に流れてくる。
『誰が枕じゃい!普通にお仕事だよ!コンプライアンス的に話せないけどちゃんとお仕事なので安心してくたばって欲しい』
普通のお仕事ではない、けど仕事には変わりない。
だがそういえば、両親には話してもいいんだろうか?まぁ明日聞いてみようか。
とコメントを見ているとなにやら「へんなもの」が見えた。
とりあえずは無視して何時もの如く「お歌」で誤魔化していたが、段々無視できなくなってきた。
っていうかコメントが騒然としている。
何でって、「風鳴翼」が公式アカウントでコメントしやがってるんだよ!!!
歌手という仕事上、時々やはりネットなどで発信する事もあるだろう、けれど!!!よりにもよって公式アカウントで私の配信に来るな!!滅茶苦茶リスナー増えてる!!!6000ってなんだ!?
「いい歌だった、また聞かせてほしい」
ありがとう!!!!!!!!!!クソッ!!!!!
『なんか、変な人が見えましたが、私疲れてるのでしょうか、ちょっとはい、ハイハイハハイ……とにかくですね!皆さん明日は一身上の都合でゲーム配信にさせていただきます』
とにかく1時間、毎日のノルマとして自分に課している配信時間を過ぎたので即座に定時終了し、布団に飛び込む。
これは悪い夢である、朝起きたらきっといつも通りの日常が――――
SNSで話題になってた(最悪)
『萌え声おりんのラジオにあの風鳴翼が!』『萌え声おりんis何者』『5分でわかる「おりん」よくばりセット』と次々と新しい記事が出来ていく、私は死んだ目で学校に向かう。
「おはよう、おり……」
「加賀美です、ネットリテラシーというものはないのですか!翼さん!!!」
すると門の前で翼さんが待っていましたのでつい突撃してしまいました。
「ネットリテラシー?」
「翼さん、公式アカウントじゃなくて自分の個人アカウント使いましょう?」
「あっ……すまない……けど大丈夫じゃないのか?別に他のアーティストのライブを見る事だって普通だろう?」
「知名度の差ですよ!来てくれたのは嬉しかったんですが!滅茶苦茶話題になってて今日の配信滅茶苦茶怖いんですが!普段のリスナー数は行っても2000くらいなのに終盤7000超えしてましたよ!」
「そ、それはいいことなのでは?」
「私のクソザコ力嘗めないでください!心臓が爆発しそうですよ!!!7000人を前に歌えって無茶を仰るな!」
とつい早口になってしまったが、そこで私は気付きます。
周囲の人達に滅茶苦茶見られてる、やばい。
「ねぇ、あの子誰?」
「確か一年の子よね?」
「あ、可愛い声でちょっと話題になってる加賀美さんじゃない?」
「翼さんと一体どんな関係が…」
オイオイオイ、これは死んだわ私。