萌え声クソザコ装者の話【and after】   作:ゆめうつろ

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心を癒す、日陰たれ

 聖遺物との融合の進行。

 

 身元バレ、広報就任のドタバタでうやむやになっていたと思っていました。

 

 翌日、再び呼び出された私はメディカルチェックを受けさせられ、またもや面接室に呼び出されました。

 

「加賀美くん、君はもっと自分を大事にしろ!」

 

 理由は「脳へのセンサーの直結」と「脊髄を侵食し尽くしたイカロス」、そして「未知の神経伝達物質の採取」。

 

「いや、ですね。その、別に異常はないんですよ?多少視野が広くなったり感覚が鋭くなっちゃったくらいで……」

「それを異常というんだ!それにだ!背中からのアームドギアの展開は確かに強力かもしれないが肉体を改造してまでするものか!おまけに生身でノイズに触れて無事だったという映像の問い合わせまで来ている!」

「あー。うん、そのですね。行けるって気がしたんですよ……」

 

「やる奴があるかバカ!」

 

 ライブ会場でのアレコレにお叱りを受ける事になってしまいました……。

 

「それでも本当に私は平気なんですって、むしろパワーアップですって!」

「脳にまで異常が出てるのに平気な訳ないだろ!」

 

 レントゲンには脊髄から広がる様に脳にまで達する侵食の図、本当に私は不便してないから大丈夫ですのに。

 

「とにかくだ!広報部に所属する事になった以上、体の異常には今まで以上に気をつけねばならない!それにだ、君に何かがあったら俺達も、翼達も、悔やんでも悔やみきれない」

 

 ……そこまで言われてしまうと、言い返せませんけど……。

 

「わかりました、出来る限りは通常のシンフォギアの運用をします。でも本当に緊急の時は、手段は問いません。やっぱり私は皆さんより経験が浅く弱いので」

 

 そうだ、多少感情の昂ぶりや無理を言わして身を削ればあの時の様に大暴れできるが、基本的に私は4人の中で最も弱い。

 

「そもそも、これから君は広報と開発部での活動がメインになる。実動班としての仕事はもう振られる事はない」

「でも緊急時や距離が近ければ戦ってもいいんですよね」

「あくまで救助を目的とする限りは、な」

 

 そう、広報部に異動させられたが故に私が戦場に立つ機会は強制的に減らされた。

 これから先もどんどん戦いの経験は置いていかれそうである。

 

「広報部繋がりなんですけど、問い合わせフォームはやっぱり特異災害対策機動部の公式ページで設置してくれるんですか?」

「ああ、君個人の問い合わせフォームを閉じてもらった理由だが」

「わかってますよ、中傷・個人攻撃を避ける為ですよね。その点は感謝してますよ、さすがに世界の人間全ての不平不満、やり場の無い怒りを受けきるくらい私は頑丈ではありませんから」

 

 今まで私が連絡用に使ってたメールフォームや伝言掲示板は閉じさせられる事となった、やはり人間70億もいればいい人ばかりではない。

 

「あーでもですね、一つか二つぐらいなら「キツいの」も質問返答分に混ぜておいてくださって大丈夫だと伝えておいてください」

「何故だ?」

「やっぱり広報として、ノイズと戦える「希望」として、人々に安心を与えるのも、私の仕事でしょう?行き場の無い怒りだって誰かに知ってもらう事で少しは癒えるでしょう」

 

 そうです、人とは不和を持つ事さえあれど、共感の生き物、痛みを知ってくれる人が居ればきっとそれだけで救われる人も居ます。

 

「……兄貴が君を広報部に異動させるのを賛成した理由がわかった気がする」

「兄貴って……つまり翼さんのお父さんでしょうか?」

「そうだ、「風鳴八紘」翼の父であり、内閣情報官だ。二課の後ろ盾として色々と便宜を図ってくれている。当然ながら君のこれまでの人間性などの調査書なども送っている、君の配信もその資料として……どうした?」

 

 ああ、翼さんのお父さんにまで私の配信見られてたんですか……。

 

「いえ、なんでもありませんよ……ちょっとこれからの配信について考えてました」

 

 そうですよね、世界に立つ広報となってしまった以上ヘタな配信はもう出来ませんよねぇ。

 

「そうだな、君にとってはそれも大事な事だったな。しばらく落ち着くまではゲーム配信は出来そうに無いのは覚悟しておけよ」

「わかってますって、しばらくはお悩み相談か歌で凌がせて貰いますが……どの程度までなら「シンフォギア」の事を触れていいんですか?マニュアルとか出来ません?」

「……そうだな、基本は君の立ち位置ぐらいにしておけ、それ以上はマニュアルが出来るまでは答えられないと言っておけ」

「了解です」

 

 はぁ、それにしても大変な事になったものです。

 

 完全に日陰の存在だった私がこうして広告塔みたいなモノになってしまうとは。

 

 

 

 面談を終えて、ようやく昼食を摂れると食堂に行くとそこには翼さん達が居ました。

 

「詩織さんッ!」

「な……なんですか、立花さん」

「よかった無事だったんですね!ずっと心配してたんですよ!」

 立花さんに抱きつかれました、ちょっと翼さんとは違うドキドキが襲ってきますけどなんでしょうこれ……。

 

「おっさんにたっぷり叱られたか詩織?」

「ええ、二日かけて叱られてもうくたくたです」

「ならアタシからは何もいわねぇ、ただ……よかった」

 

 クリスさんも、何処か嬉しそうな表情でこっちを見てきますが……

 翼さんの様子がすごく変です、というかこれ、滅茶苦茶落ち込んでますよね。

 

「はぁ、翼さん……そう落ち込まないでくださいよ。悪いのはフィーネ、そうでしょ?」

「落ち込んでなんか……それよりも詩織は、広報の仕事など本当に大丈夫なの?」

「……大丈夫、とは言い切れないけど、やりますよ私は。それに」

「それに?」

「なんだかやっと私らしい戦い方を見つけた、様な気がしないでもありませんから」

 

 そうだ、情報もまた武器、私が表に立つ事で世間の目から翼さん達を守る。

 これ以上無い役目かもしれませんね。

 

「そうです、翼さん達を世間の心無い言葉や中傷から守る避雷針として、私は皆の日陰を守る存在になれるチャンスかもしれませんから」

 

「……っ!」

 少しばかり立花さんが身を震わせる、そういえば立花さんはあの惨劇の「生き残り」でしたね、やっぱりあの頃の「攻撃の対象」にされた事もあるんでしょうか。

 

「当然立花さんも、守りますよ。あのライブの惨劇の様なあんなクソみたいな事は二度と起こさせません」

 

「えっ」

 

 なんですか、結構……私にもやれる事……あるんじゃないですか。

 本当に私にピッタリですね、この仕事。

 

「皆さんはノイズと戦ったり人を守ったりする。私はそんな皆さんを守る、それでいいじゃないですか」

「それじゃ詩織が守られてねぇじゃねぇか」

 クリスさんがそう言いますが、私はチッチッチと指を振って笑います。

 

「守られてますよ、司令や二課の人達、それに皆さんにも」

 

 これが「信頼」というモノでしょうか、結構悪いものじゃないですね。

 

「だから、任せてください。前みたいにただただ風に流されるだけの私じゃありませんから」

 

 これが「大人の力」みたいなモノな感じですかね、司令が私や皆さんを守ろうという気持ちが少し分かった気がしないでもないです。

 

 

 

 家に帰ると私は自分のホームページなどを最新情報に更新していく。

 

「さよなら、おりん」

 

 「おりん」というハンドルネームに別れを告げ「特異災害対策機動部所属装者 加賀美詩織」の名を刻む。

 

 そして最新のニュースを確認しながら、配信の準備をする。

 どうやら私の予期せぬ飛び出しのおかげで「世界への宣戦布告」を失敗したフィーネがネット上に再度「犯行声明」を上げた様だ、だが嘗めるなよ、世界を敵に回したお前達と違って私達は世界と手を繋いでやる。

 

 

 配信を開始、視聴者数はもう20万を超えていて、もはやタダの配信ではなくなってしまった。

 

 初めてのカメラ目線に若干戸惑いながらも、挨拶から入る。

 

『こんばんは、配信者「おりん」改め、シンフォギア装者「加賀美詩織」です。皆さんお待たせいたしました』

 「配信者おりんは死んだのか…」「萌え声なのに見た目もかわいい-114514点」「詩織……死おりん、しおりん!」「なんだ結局おりんじゃん!」「ゲロを吐いた口で歌って人を救う女」「マジかぁ。昨日の会見マジかぁ……」「もうBL配信できないねぇ」「BL配信しろ」「配信してないでノイズと戦え」こんなナリになってもまだおりんと呼んでくれるのか……感謝しかねぇな!

 

『今日はですね、私の立ち位置やこれまでの活動について報告しようと思います、許可が下りた分だけですけど』

 「マジか!」「国家機密じゃないの!?」「おりんの歴史がまた一ページ」「シンフォギアってなんだ」「櫻井理論概要とシンフォギア概要は特異災害対策本部のページで公開されてるのでそこを見ろ」さすがに皆うろたえている、いきなりぶっこんでくるとは思わないだろ。

 

『私はかつて適性があったのでスカウトを受けて、あくまでデータ取りの為に装者になりました。基本的な仕事は歌って、武装を展開して、細かい数字を出すそんなものでした、毎日2時間だけの仕事でした。しかしある時からノイズが異常に出現する様になり、「実動班」と呼ばれる方々だけでは対処できず、私も戦線に参加する様になった次第です。そして先日のライブでその姿を公開してしまったが故に広報に正式に異動となった訳です』

 「実動班がいるのか」「そらそうよ、自衛隊でも事務とかもあるんだろうから」「おりんの仕事は戦う事じゃなかったのか」「でもライブの時の動き凄かったよね」皆さんある程度予習はしてきていたらしいですがコメントは様々、まぁこんなものでしょう。

 

『こうしてノイズと戦うとやはり目の前で救えなかった命なんてものもあります、私が最初に救えなかったのは同じ機動部の1課の隊員さん達でした。避難通路の確保の為に命を張っていた方々でした。いくらノイズと戦えるとはいえシンフォギアは現状、ごく限られた数しか存在しません。やはり間に合わない時もあります、救えない人も居ます。ですけど、装者の方々を責めるのはやめてください、皆、等しく命を張って戦ってます。不満ややり場の無い怒りは私が受け止めます、それが私の、広報としての、「日陰を作る者」の務めです』

 「おりんが、ここまで大きな存在になるとは思ってなかった」「すごい覚悟だ」「日陰はもう俺達だけじゃなく、皆のものでもあるんだな……」……そうです、もう小さな日陰ではいられません。

 多くの人の日陰であるために大きくならなければいけません。

 

『同時に装者の方々だけではなく、皆さんの命を守り、安心させる事も私の役目です。いかにして特異災害対策機動部は皆さんの安全を守るかも、いずれは紹介していく次第です』

 「対策マニュアル皆も読もうな」「近場のシェルターや避難方法も確認していけ」「子供にばかり頼るんじゃねぇぞ」……こういう時、こんな子供で良かったと思います。

 庇護欲というのでしょうか、それとも見栄っ張りかな、コメントの中でも私に負けまいと頑張ってる人も見受けられます。

 

 

 それが自尊心を満たすためのモノであっても、誰かの為になるなら、偽善でもなんでも構わないと私は思います。

 

 

『ありがとうございます、今日の配信は一曲歌って終わりにしたいと思います、これは特異災害による犠牲者の皆様への鎮魂歌として「やすらぎ」を』

 「ありがとう」「これからも続けて欲しい」「たまには息抜きな配信もして」「平和になったらBL配信を復活させろ」「もうゲロは吐くなよ!」「これからも応援していく」「(更に応援していく方向に)切り替えていく」「最後までイキり生き続けろ」「再びおりんとしてイキれる日を待ってる」

 

 

 そして私の「日陰」を与える者としての、新しい戦いの日々が始まった。


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