萌え声クソザコ装者の話【and after】   作:ゆめうつろ

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決意の代償

 フィーネの宣戦布告から一週間。

 

「おかしい、動きが無さ過ぎる……」

 

 布団に横たわり、端末を手にする。

 

『今日も動きは無し、加賀美さんは安静にする様に。明日はメディカルチェックの為、8時には出られる様に』

 二課からのメールを見て溜息をつく。

 

 

 恥ずかしながら、ちょっと調子に乗って夜更かしをしたら体調を崩した。

 

 ………そしてもう一つ、リディアンでの授業が全免除となりテストを受けるだけで高卒資格を得る事が出来る様になった。

 学校に行く理由がなくなってしまった。

 

 

 …………。

 

 決して行きたくなかった訳ではない、でも、今更どんな顔をして行けというのだろう。

 それにもしも行ったとして、名前も知らない相手に直接悪意を向けられたら、と思うと少し気分が落ち込む。

 

 それに現状、学校に行っている場合ではない。

 

 体調は不全、背負った役目は重い、責任を果たすまではそれどころではないだろう。

 

 

 ……孤独、というか、孤高というか。

 

 

 いざ大きな存在となってみると、自分と並ぶ者が見えなくて不安になってくるものですね。

 ……いや、今でさえ心はちっぽけな存在のつもりです、けれど、こうやって広告塔となってみると、少しばかり寂しくなる。

 

 ふとパソコンが目に付く。

 

 

 いつもなら、サボり配信が出来るって喜ぶ所なのに。

 今はもうサボってはいけないんですよね。

 

 今日の配信予定は体調不良により延期、と告知する。

 

 イキったり、失敗したり、闇を笑われたり、闇を笑ったり、もう出来ないのでしょうか。

 

 ………悲観的になりすぎですかね。

 

 

 平和が戻れば……いつ戻るのだろう。

 

 

 気がつけば既に月が昇る。

 

 不安を抱えたままの夜、たまにはこういう時もある。

 

 そう自分を納得させて、目を閉じる。

 

 

 

 

 夜が明ける。

 

 相変わらず体調は悪いけれど、最悪ではない。

 

 もう「慣れた」迎えの車に乗り、二課本部へ向かう。

 

 

「おはようございます、司令」

「おはよう、加賀美くん」

「状況は動きましたか?」

「ああ、昨晩。武装組織フィーネ、いやF.I.S.のアジトを特定して装者三人による突入を試みた」

「終わったと言わないという事は逃げられたんですね。それで、F.I.S.とは何ですか?」

「彼女等は米国の聖遺物研究機関に所属していた、日本の情報開示以前から存在し、おそらく……フィーネが米国と繋がっていた際に出来た研究機関だったそうだ」

「なるほど、ちなみにこの辺りの情報はまた発表とかやるんですか?」

「いや、その必要はまだない……それよりも、体調は大丈夫か?」

 

 動きはあった様です、アジトを一つ潰せたとはいえ、あのフィーネ、あとどれくらい隠し玉を持っているやら……。

 あの女がまだ存在するというだけで気が重くなります。

 

「はぁ……そこそこ悪いです、なんていうか体が重いですね」

「……今日はギアを展開した場合のデータも取る、君の場合はそこが関係するかもしれないからな」

 

 

 メディカルルームへ向かい、医師達の指示に従い全身をチェックされる。

 いくら医療目的といえどやはり他人に体を見られるのも恥ずかしいし、気が重い。

 

「ギアとの適合率が下がっていますね……」

「そうですね、体調が良かった時と比べると確かに」

「臓器もギアと考えると、適合率の低下がそのまま体調不良に繋がっている可能性があります」

「確かに、少し侵食されている臓器の動きも悪いですね」

 

 医師達が議論を交わしてるのを聞きながら鏡で自分の体の現状を見る。

 

 肌の色がイカロスの侵食によって所々灰色になって、まるで蝋人形の様です。

 

 適合率の低下が体調不良に繋がっているというのなら、逆に上げれば体調はよくなるんでしょうか。

 それとも体調が悪いから適合率が下がってるんでしょうか。

 

「結論が出ました、侵食率は変わらず、しかし適合率の数字がやはり気になります。この結果は司令にお伝えしましょう」

「適合率ですか……」

「ええ、臓器の動きや神経物質の量などもギアを纏っている時とそうでない時で変わっています、おそらくですが、イカロスを纏う事で改善する可能性があります」

「確かにギアを纏ってから少し楽になった気もしますが……」

 

 そうかぁ、悪い所をイカロスを活性化させて作り直す……ですか。

 

「ならちょっとやってみますか」

 

「加賀美さん!?」

 

 私はそのままイカロスを展開し、歌を歌い始める。

 気付きましたが、私……今「聖詠」無しで展開しましたね?

 

 そろそろ本格的に一つになり始めてますね。

 

 意識を集中させ、内臓の動きを確かめる様に、這わせる様に……力を通す。

 

「適合係数上昇、各種機能値も正常値に戻っていきます!これは!?」

 

 やっぱりですか。

 私の体そのものがアームドギアの様に「フォニックゲイン」を求めている。

 

「信じられん……まるで生体機能そのものがシンフォギアと一体に……これは新たなブレイクスルーを起こすかもしれん……」

 

 と、私はふと気になりました。

 私の体に繋がっている「ケーブル」にまで感覚がある様に感じます。

 

 それを手繰る様に……ッッ!?!?

 

「脳波に異常!加賀美さん直ぐにギアの展開を中止してください!!」

 

 ……頭が痛いです、ですがもう少し、もう少しです。

 

「観測機器が勝手に!?一体何がッ!?」

 

「私が……やってます」

 

 間違いありませんこれは、「ハッキング」いえ「操作」です。

 

「馬鹿な……これは、とんでもない事だぞ!?一体どうやって!」

 

 ふぅ、落ち着きました。

 

「イカロスの「蝋」を染み込ませて手繰ってみました、ちょっと頭に負荷が掛かりましたが……案外すんなりいけるものでしたね」

 

 染み込ませた蝋からギアにするのと同じように「意思」を送り込み操作しようとしましたが、少しばかり負荷が掛かったので「演算装置」を優先して侵食しました、これのおかげで頭への負荷も直ぐに消えました。

 

「イカロスは技術の象徴、そういう特性があるのかもしれん……しかし……」

 

「わかってます、下手に使わない方がいいでしょう」

 さすがにこれ以上負荷を増やす能力を使うとまた司令に叱られますし……。

 

「それだけではない、この事はここだけの秘密とする。司令には伝えるが記録には残さない」

「どうしてですか?」

「君の能力はあまりに危険すぎる、悪意ある者がこれを知ればあらゆる手段を使って君を狙うだろう」

 

 ……確かに冷静になってみれば、あらゆる電子機器へのハッキングとは現代社会を支える技術基盤への「ジョーカー」。演算装置と意識さえ足りれば無限に連結できそうな気もします。

 

「この力は、人の身には過ぎた力だ。それを忘れてはいけないぞ、加賀美くん」

 

 念を押すように、医師が言った。

 

 

「全く、また厄介なモノを出してきたな」

「すみません、やれると思ったので」

「やれると思った事を実行する前に相談をしろ!」

 

 司令に結果を伝えたらまた叱られた。

 

「でもこれ他の装者の皆さんの役に立つ能力だと思ったんですよ」

「頭をイカロスに侵食されすぎていないか?本当に大丈夫か?」

「酷い事言いますね!?」

「加賀美君があまりにどんどん人間離れしていくから俺も頭が痛い」

 

 司令に人間離れしていくって言われるのって心外なんですが!!

 

「これ開発部に持っていきましょうよ~櫻井理論解明の役に立ちますって!」

「だから何故そうも嬉しそうなんだ!」

「かっこよくないですか!?」

「重大な問題をかっこよさで語るな!」

 

 司令が深い溜息をつく。

 

 でも本当にこの力、かっこいいし絶対役に立つし……何だか全能感に満ちて……あれ……?

 ……私どうしてこんなに気分がいいんでしょう?

 

 あれ?

 

 どうして?

 

 

「いいか、伝承では太陽に近づきすぎたイカロスは蝋を熱で溶かされて墜ちた。過ぎた思い上がりは……」

 

 ああ、そうか。

 

「司令、ちょっと既にヤバいかもしれません」

「……何?」

「今すごい全能感でした、本当に脳やられてるかも」

 

「何……だとォ!?」

 司令が凄い顔で叫んだ。

 

 この後再びメディカルルームに叩き込まれ、安静を言い渡された。

 

 

 ………。

 

 結果として、脳の感情を司る部分にまで侵食が入ってました、体の侵食率と適合率と体調の関係ばかり見てて見落としてた形でした。

 

 どうやらこれも体調と同じく適合率で変わるようで、体調不良時は80%を下回っていた適合率が、この全能感に溢れている時は99%を叩き出してました。

 

 

 ちょっとこれはいよいよヤバいかもしれない。

 


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