萌え声クソザコ装者の話【and after】   作:ゆめうつろ

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闇を纏いて、運命に抗う

『ギャルゲやります』

「は?」「ええ…(困惑)」「なんで?」「一週間持たなかったのか……(困惑)」「今日もおりんはかわいいなぁ(白目)」「ギ ャ ル ゲ 配 信 す る 国 防」「ク ソ ザ コ 生 主」「元 は 税 金」コメントが困惑に満ちる。

 それもそうだろう、国民の安心を背負って立つと言った女がたった一週間でギャルゲをしだしたら私だって困惑する。

 

 まさかこんなに早くゲーム配信を再開できるとは思いませんでした。

 これには訳がある。

 

 シンフォギアの完全侵食率が50%を超えた今、私の体にはどんどん面白能力が発現している。

 肉体の変化としては機械との接続が可能になったり、生体部分が聖遺物由来のモノに置き換えられたり。

 適合率の低下による生体機能の低下、適合率の上昇による異常な「万能感」を始めとした精神の高揚。

 

 異常事態が多発する今だからこそ、かつての平凡な少女だったころの生活を送り、精神状態を維持する事。

 精神状態の維持は適合率の維持にも繋がる、故に。

 

『あのですね、最近「適合率」っていうんですけど、シンフォギアとの相性が急激に上がったり下がったりで体調が崩れたりするんで、研究者一同に「精神を安定させて」適性値を維持しろって言われまして。私の精神安定剤代わりの配信なんで今日はぶっちゃけ、まともな話も何も出てきません、それでもよければどうぞ』

 「ええ…(困惑)」「上げたり下げたりして適性値を維持しろ」「ク ソ ザ コ メ ン タ ル」「所 詮 は お り ん」「帰ってきたおりん」「世 界 を 救 う ギ ャ ル ゲ が あ る」私を笑うコメントが噴水の如く噴出する。

 

 好き勝手やっていいという許可が下りたという訳だ。

 

『で、今日やるギャルゲは「2枚目のジョーカー」所謂泣きゲーらしいです』

 「メンタル維持するのに泣きにいくのか(困惑)」「おい適合率の話嘘だろ!」「嘘だゾ絶対ただの趣味だぞ」「これだからおりんは」「名作じゃねぇか!!!」「今、関連商品欄から買った」「滅茶苦茶売れてるじゃねぇか!」「これR-15だぞ」「エロゲじゃないので問題ない」とりあえず今日は5万人くらいがこの放送を見ている様だ、開始時は13万人居たので実に8万人帰った計算になる、すごいふるい落としだ。

 

『適合率の話は一応公開されてる櫻井理論にも書いているんですけどシンフォギアが武装機能つかったりする時にどうしても「反動」がくるんですよ、適合率が高ければ高いほどこの反動は小さくなり、低いほど反動は大きくなる、あまりに低いと体動かすだけで全身に負荷がかかるんです。実動班の方々がつい先日その適合率の問題で少しダメージを負ったので、それのデータ取りのもあるんですよ』

 「ちゃんと仕事だったのか……」「戦ったり戦わなかったりしろ」「シンフォギア装者って大変そう…」そうですよ、大変なんですよ、私なんてまともに戦ってもないのにこの有様ですからね。

 

『まぁ、それは置いておいて。開始していきたいと思います』

 

 私の姿が映るワイプを端っこに寄せて、ゲーム画面を起動。

 オープニングを鑑賞し、セーブデータを作る。

 

 そしてゲームスタート。

 

 「2枚目のジョーカー」は恋愛ゲーだ、選択肢の分岐でエンディングを選ぶタイプの奴で間違えれば死んでゲームオーバーだったりまだ取り返しがついたりもする。

 今の私も、こういう風に選択肢を選ばされている様な気もします。

 

『これがヒロインのはじめちゃんですか、ハートモチーフの服がかわいいですね』

 「おまかわ」「せっかくだからシンフォギア着て配信して」「しおりんも変身して」「今日こそシンフォギア見せて」ええい、アホどもが私にシンフォギアの展開を要求してきます。

 

 そうなんです、配信始めてから事ある事に私にギアの展開を求めてくるんですよ。

 でもギア纏う瞬間、一瞬ストレージに服を仕舞うので裸になるので絶対目の前で展開はしたくない。

 

『ははは、こやつらめ。シンフォギアは展開したら独特の信号が出て本部に連絡が行くんですよ、こんな事で展開したと言える訳無いでしょうが、ライブの時の動画と公式ページの私の動画で見なされ』

 「残念だ」「失望しました、おりんのファンやめます」「あの鉄壁スカートはすごい」「STG自機みたいな姿になるよね」「ホーミングレーザーは卑怯だと思う」「ノイズだけ狙い撃ちしたのはすごかった」そうです、まるでゲームキャラのプロモーションムービーのごとく私の「イカロス」だけ公式ページにて「実動」している動画があるのです。

 武装紹介や、遊覧飛行、特殊機動などをまとめた全12分の動画として投稿している。

 

 そんな事を言いつつもゲームを進める、主人公の「かずま」とヒロインである「はじめ」先輩である「さくや」後輩である「むつき」の4人がストーリーの主役、メインとなるキャラが章毎に変わり、そこでの行動の結果でエンディングが変わる。

 

『なんでカードが一枚も無いのにこんな強敵に立ち向かうんですかホント命知らずですよねこの主人公』

 「ライブの会場で人質取られてノイズに突っ込んでいったお前が言うな」「ノイズを踏み台にした女」「ノイズにマウントを取る女」実はあのライブで生身でノイズ踏み台にしたのもまた世界に流れてた様で、あの私の勇姿(不本意)もよく話題に出てくる。

 

『気合で勝ちましたね……というかトランスデバイスシステムってシンフォギアと似てますよね、適合率で能力変わるとか……』

 「そうなのか」「気合のなさそうなおりんは弱そう」「おりんは覚悟を決めると強いから…」好き勝手言いますね……。

 

 私は覚悟を決めてもそんなに強くなれる気がしません、私の力に必要なのは対価、身を捨てて削ってようやく、並べる様な……。

 やめておきましょう、またむなしくなります。

 

『だからなんで「さくや」も初期状態でラスボスに挑むんですか、むしろ飛ばない方が強いまでありますよ』

 「弱フォーム」「おりんも飛ばずに敵を倒せ」「格闘縛りをしろ」「ああ、ルート決まったぞこれ」先輩キャラを攻略するルートを選ぶ気でちょっと推してたんですが、先輩強すぎ問題。

 

『えっ!?さくや!?』

 「落ちたな…」「おめでとうトゥルールート入った」「初見でトゥルーに行くのか……(困惑)」ええ……死ぬんですか先輩……。

 

 

 先輩のさくやはまるで翼さんみたいでした、ちょっと不器用で、大切な人を失ってて、でも本当に大事に時には強くて。

 

 その先輩が死んだ事で、私は翼さんがいなくなってしまったら。

 なんて考えてしまいました。

 

 多分、こうやって必死に取り繕う気力はなくなりますね。

 きっと待つのは破滅でしょう。

 

 

 少し休憩を挟みます、カップうどんにお湯を入れようとポットの給湯ボタンを押し……アッ熱ッ!!!

 

 お湯が手に掛かって……カップを落としてしまいました……。

 

 よかった、中身は零れてないですね……でも蓋になにかヌルヌルするものが……

 

 あ。

 

 

 これ、蝋ですね……。

 

 私の手の表面、ちょっと溶けてますね……。

 

 

 …………。

 

 はぁ。

 

 本当に聖遺物ってなんなんですかね。

 

 私ってなんなんですかね……。

 

 ちょっとこれじゃあ誰かに触られてヌルヌルベタベタするって言われたらちょっと嫌ですよ。

 

―「わぁーっ!?詩織さんの手がヌルヌルする!?」

 何故だか一番最初に浮かんだのは立花さん、あの人体温高そうですしね……。

 

 ……もう熱いものはやめておきましょう。

 

 汚れたカップうどんは捨て、冷凍焼きおにぎりを取り出す。

 

 

『ただいまー』

 「まて、その手に持っているものはなんだ」「ほう、冷凍焼きおにぎりですか。夜食にバランスもいい」そうとも、冷凍焼きおにぎりは手軽だ。

 

『まぁですね、おにぎりでも食べながらラストスパート行こうと思いますよ』

 「夜食配信だぁああ!」「帰った奴らー!帰った奴らみてるかー!」「女の子の食事を見れるとは夜更かしした甲斐があった」深夜0時過ぎ、視聴者は2万まで減って私の気も大分楽にはなりました。

 

『はむっ……ぐっ』

 「は?」「えっ」「なんで…?」ん?なんか困惑のコメントが……

 

『どうしました?』

 「おりん……おまえ……」「そんなに思いつめてたのか…」「冷凍焼きおにぎりを温めない女」「冷凍焼きおにぎりを凍ったまま食う女」「冷徹女」ああ、冷凍焼きおにぎりが凍ったままな事ですか。

 

『やりませんか?冷凍食品そのまま食べるのって』

 「ええ……(困惑)」「ええ…(ドン引き)」「おりんお前…本当にお前…」「心配して損した」「冷凍食品を温めずに食べる国防女」「装者のエネルギー源」「草」「草」なんか滅茶苦茶笑われたり引かれたりしてるんですが……。

 

『いつも配信の時の間食こんな感じですよ』

 「今までもやってたのか!?」「まってスナック菓子かと思ってたんだが!?」「アイス食べてるのかと……」え、そんなにドン引きしないでくださいよぉ!

 

『と、とにかくですね。続きやってきます』

 「草」「草」「おりんの変なトコみちゃった……」「この国の行き先を憂う」「こんなのに守られてたのか」うるせぇ!

 

 

 最後の敵を倒してエピローグかと思いきや、始まる最終章、怒涛の展開、ヒロインとの敵対、世界の破滅、そして明かされる主人公こそが「2枚目のジョーカー」である事、ちゃっかり生きてた先輩。

 

『ああ、タイトル……ここで回収するんですか』

 「タイトル回収」「おつかれ」「感動のエンディングだぞ、泣け」「おりんの冷凍おにぎりのせいで台無しだよ!」「感動を冷ます女」ひどい言い様である。

 

『これでトゥルールートはクリア、今日の配信はここまでにしたいと思います』

 「おつおりん」「毎日冷凍食品を温めて食え」「明日も配信しろ」「冷凍食品を温めろ」最後の方はもう私の冷凍焼きおにぎりの話題で持ちきりでしたね……

 

 配信を切り、ゴミを捨てて布団に転がる。

 

 よくみればマウスもテカテカに光っている、蝋のせいだろう。

 

「あー私人間じゃなくなっちゃいましたよー」

 

 別に人間である事にこだわりなんて無い。

 多少ふざけた体質になってしまっても生きていれば。

 

「生きてればなんとか、なりますかね」

 

 久しぶりの好きな配信で少し心が落ち着いた、やはり効果はあり。

 

 明日の司令への報告を考えつつ、私は目を閉じる。

 

 

 翌日、二課本部に向かったらいつものメディカルルームが立花さんに占領されてた。

 何故だ。


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