萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:青川トーン
さぁて、どうしたものか。
「いやぁー面目ありませんねー!詩織さん!」
「いいって事です、これも仕事ですからね」
「詩織さん、変わりましたね」
「まぁ、変わらざるをえませんでしたから」
今日は立花さんと二課から同伴で学校に向かう。
それは護衛としてであり、監視でもある。
「とりあえず今朝説明された通り、今立花さんの中のガングニールは不安定です。ですから安定させる方法を確立するまでは戦闘は禁物、もし戦いに巻き込まれそうなら私が翼さん達の到着まで時間を稼ぎます」
「……うん」
「いつも立花さんは頑張っています、だから時には休んでいいのです。私が立花さんを信じる様に、立花さんも私を信じてください」
「……はい!」
立花さんにはこういう明るい前向きな言葉が有効だと私は推測します、それは彼女のポジティブさ「責任感」の様なモノに対する答え。
きっと下手に突き放す様な言葉は余計に彼女の心を締め付けます。
これは司令や翼さん、クリスさんと話し合って決めた事です。
「よう、案外元気そうじゃねぇか」
「いやぁ~ご心配おかけしまして~」
「ああ、安心したぞ立花。だが油断は禁物だ、しばらくは様子見、戦うのは私達に任せろ」
「……わかりました!」
途中で合流した翼さん達もきちんと言い聞かせる感じで立花さんに接してくれてます。
とりあえず一先ずの目標は達成、これからは様子見をしながら、自分の面倒も見る必要が出てきます。
「…あれ、もしかして…」
「加賀美詩織さんだ……」
「復学したんだ……」
皆から離れ、一人別の教室に向かうと遠巻きに私を観察する様な視線を感じるし、小声で話しているのも聞こえる。
これが有名人という奴の気分ですか。
「…話しかけても大丈夫なのかな?」
「ちょっと怖いよねぇ」
「そんな事言っちゃダメだよ、私達の為に戦ってくれてるんだから」
「いやいや加賀美さん自体じゃなくて後ろの政府とか……」
「その前に加賀美さんめっちゃ勉強してるんですけど……話しかけたら迷惑じゃない?」
……思ったより、好奇の目で見られるのは…堪えますね。
早く授業始まりませんかね……。
「あのっ!加賀美さん!」
と思いきや随分思い切りのいい人も居たものです。
「なんでしょう?」
きちんと笑顔で対応、あんまり無愛想にすると広報としてはダメですからね。
「この間のライブの時は助けてくださってありがとうございます!ノイズが現れた時はもうダメだって……」
「私は私に出来る事を、すべき事を、やりたい事をやっただけです。お気になさらず」
「それでも、ありがとうございます!」
「……感謝は受け取っておきましょう」
……こう率直に感謝をぶつけられるのもまたちょっと恥ずかしいですね……。
「あの!」
と、ファーストペンギンが飛び込んでくれば次から次へと来るものですね。
「なんでしょう」
「おりんさんのファンです!サインください!」
は?え?
色紙とサインペン渡されても…ええ……。
「ええと、なんて書けばいいんでしょう。サインなんて初めて書きますよ」
「ホントですか!?じゃあ私が世界で初めておりんさんのサインを得たファンになるんですか!じゃあ「ファーストダンゴムシさんへ、おりんより」でお願いします!」
「ええ……」
私のファンの総称ダンゴムシなんですか……?
えぇ……。
仕方ないのでデフォルメしたダンゴムシを描いて、私の名前を書く。
「ありがとうございます!一生宝物にします!お歌も!お仕事も!配信も頑張ってください!応援してます!」
「え……ああ、ありがとうございます」
いや、ちょっと……困惑ですね……これは。
「すみませーん!この教室に加賀美さんが居ると聞きまして!」
「おりんさん!サインください!」
「あ!本当におりんさんだ!」
すると今度は上級生の方々まで来た……。
ダンゴムシは身近に潜んでいたのか……。
「あ、あのですね!もうすぐ授業なので続きは昼休みに来てください、ここで待ってますので……」
「あ~!生よわよわおりんです!」
「生よわよわって何ですか!私はつよつよですよ!」
「本当におりんだぁー!!」
熱心なファンが近いって厄介ですね!
「あ~ダメですよ!おりんさんは日陰の住人ですから囲っちゃダメですって!」
「いやいやおりんさんは私達の日陰、こうしておりんさんの側で安らぐのはオッケーだって言ってましたでしょう!?」
「おりんさんの生歌ききたーい!」
「わかるー!」
いやいやいやいやいや、待って待ってくださいって、何時の間に女子高生リスナー増えたんですか!
「いやーおりんさんって凄いですよね、私達とそんなに変わらないのに!」
「あのトークスキル!歌うま!しかも戦える!」
えっえっえっえっ……ちょっとなんか気付けばさっきまで遠巻きに見てたクラスメートまで近寄ってきてますし!
「あのですねぇ!私を褒めても萌え声しかでませんよホラ!」
「かわいい!」
「アニメ声やってみて~」
ウッ!!!これは陽キャのノリです!しまった!囲まれたぞ!
どうやらそのようですね!
既にリディアンも陽キャの巣窟と化してましたか!
早く脱出しなければ!
「ていうか、加賀美さん肌つやすっご!!」
「マジで!?ていうか触っていいですか!?」
「ホントだ!何つかったらこんなにつやつやになるの!?」
うわぁ!腕触らないでくださいよ!ほっぺもだめです!服の中に手を入れたの誰ですか!?
お……おどりゃこの陽キャども~!!このか弱いダンゴムシをいじめてたのしいか!
「はーい!授業はじまりますよー!席に戻ってくださーい!後明るい皆さんが加賀美さんを囲ったら加賀美さん弱っちゃいますからねー!」
た、助かった……。
有名人って……大変ですね……。
それにしても授業も、久しぶりに受けてみればすんなり頭に入ってきます。
やっぱり勉強しなさすぎもダメですね。
……体を触られた時、蝋の事を上手く隠せてよかったです。
それにちゃんとイカロスに侵食されて灰色になってる部分にきちんと「色を塗って」来てよかった、色落ちもなさそうですしこれからもそうしましょう。
「加賀美さん、授業についてこれてますか?」
「大丈夫です」
「わからない事があればすぐ言ってくださいね」
大丈夫、まだ大丈夫……ちゃんと予習してきた範囲だ。
もう頭おりんとは言わせない……。
「じゃあこの英文読んでみてください」
「――Trust me.」
「はい、正解……じゃありません!」
英語は苦手なんですよぉっ!!!
単語なら何とかなりますけどねぇ!英文なんて訳せますかぁ!
「ぷっ……」
「英語よわよわ……」
くそっ笑ったな貴様ら!顔覚えたからな!
はぁ……早く授業終わりませんかね……?
なんとか授業をやりすごし、休み時間をやり過ごし、放課後。
「はぁ、お好み焼きですか?」
「そうなんだ、皆で食べに行く事になって。詩織さんもどうです?」
「私、死ぬほど猫舌なんですよね……」
今朝、いつもの癖でコーヒーを飲んだら口の中の蝋がぬるぬるしてあんまり味分からなくなってちょっと辛かったんですよね。
どうしましょう。
「ふらわーのお好み焼きは少しぐらい冷めてもおいしいよ!」
「そうですね、たまには付き合って行くのもいいでしょう……」
響さんがどうにもお友達に誘われ、お好み焼きを食べに行く事になったので護衛たる私も行く事になりました。
というか人と一緒に外食なんて初めてですね、自分で稼ぐようになってから一人焼肉はよく行ってましたが、後一人回転寿司。
なんか緊張しますね。
でもまぁ、なんとかなるでしょう。
なんとかならなかった……響さんのお友達は皆滅茶苦茶元気だし、そういえば二課の事知ってる人達だったし、私がことごとく誘いを断る事を知ってたから、この機会に色々聞き出そうと、もう大変だった。
しかも緊張して熱いままのお好み焼きを口に入れたせいで、溶けた蝋が溢れて「加賀美さん涎凄い事になってる!」なんて言われてしまいましたよ。
「私、お好み焼きが大好きなんですよ」
咄嗟にそんな嘘をつく事にもなりましたし、本当に散々でした……やっぱ陽キャの群に突っ込まれるのは無理ですって!
「加賀美さんの隠された一面が沢山みれて良かったです」
「そうだね、それにビッキーも元気でたし」
「誰かさんが滅茶苦茶心配してたもんね」
「えっ……」
「鈍感だな~ビッキーは」
「もちろんヒナだよ」
「未来が?」
でもこの帰り道、とても女子高生って感じがします。
私には無縁だと思っていた様な日常。
これも、私達が守らなければいけない世界の日常。
だけど。
目の前を凄い勢いで走り去った3台の車、そして続く爆発音。
「ッ!!」
響さんが駆け出したので、私も置いていかれない様に駆け出す。
その先で見たのは、炎、炭の山、そして。
「ソロモンの杖」を持った男。
「ドクター……ウェル……!!」
「ああ、あの裏切り者ですか……!」
……響さんを戦わせる訳にはいかない。
「私に任せ」
「ひぃ!なんでお前がここに居るゥ!?ウ……ウワーッ!!」
突然叫びだしたあのクソ野郎がソロモンの杖を振り、ノイズが飛び出してきた。
まったくなんだというんですか!
この勢いだと聖詠は、間に合わない……!
後ろには……皆がいる!
ならば。
私は聖詠を口ずさみつつも、前へと踏み出す!
「待って!詩織さ……!」
右手を「蝋」で固定、ノイズに衝突と同時に「剥離」させ隙間を作る。
ノイズとてこちらを攻撃する時には「当たる」。だからこそ、ノイズの動きが止められる。
おまけに私の体は「シンフォギア」だ。
「詩織さぁん!!!」
「人の身でぇ……ノイズに触れたァッ!?」
おどろけ、私だってシンフォギア装者だ、これくらいやってみせる。
イカロスを纏い、腕の機銃を「接射」しノイズを蹴散らす。
「私の身も、私の心もシンフォギアです!」
さぁて、この手でぶっ潰してやりますよ、この裏切り者野郎。