萌え声クソザコ装者の話【and after】   作:ゆめうつろ

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2回目の更新です


アリアドネの糸

 

 回帰、全ては一つの場所へとやがて辿り着く。

 やがてそれは「想い」を起源へと導くだろう。

 

 

 

 目を閉じれば、モニターに映るべき景色が私の頭の中に直接入ってくる。

 圧倒的な力、無垢にして苛烈な歌。

 

 小日向未来は、立花響の「ひだまり」は今、「シンフォギア」を纏わされ、敵として戦わされている。

 

 そのギアから放たれる光は聖遺物由来のモノを分解する、対シンフォギアに特化したモノ。

 

 だが、そこに私は「可能性」を見た。

 

 

 

 クリスさんは、ノイズと戦っていて手が出せない。

 翼さんは、相手の装者と戦っていて手が出せない。

 

 そして、小日向さんは何処かへと向かっている。

 

 行けるのは、私と「立花さん」だけ。

 

『あのエネルギー波を利用して未来君のギアを解除するだとォ!?』

『私がやります!』

 

 司令と立花さんの会話が聞こえてくる。

 

『現在の響ちゃんの活動限界は2分41秒になります!』

『たとえ微力でも響ちゃんを私達が支える事ができれば、きっと』

 

 そうだ、支える。

 支えるんです。

 

『司令、私も行きます。こういう時に支えあうのが仲間、でしょう?』

『加賀美くん!聞いていたのか!!』

『今日ばかりは、ちゃんと事前相談して、頼って、ちゃんとやりとげますよ』

 通信機で会話で私も混ざる。

 

 

『待って、どうやって聞いていたの?』

『まぁ、その辺りは私の秘密ですよ……それよりも、立花さんをサポートする事に徹します。それならいいですよね?』

 さすがに通信傍受というか、聞き耳立ててたのは秘密だ。

 

『……勝算はあるのか、響くん!加賀美くん!』

『思いつきを数字で語れるかよ!』

『信念を持って、やり遂げるまでです』

 

 私の居る反省室のロックが解除された。

 

『ありがとうございます』

 

 ………私の考えは、こうだ。

 小日向さんが纏っているギアは聖遺物を分解できる。

 あのエネルギー波で小日向さんのギアを解除するのはもちろんだが、同時に、立花さんの体を蝕む「ガングニール」もまた除去できる筈だと考える。

 

 そうすれば、立花さんの命は助かる筈。

 まさに「死中の活」ですね。

 

 ですが、それと同じく。

 私があのエネルギー波にあたればどうなるか。

 それはわかりません。

 完全にイカロスと同化した私は、消えるのか、それとも……。

 

 

 まぁ、いつもの事です。

 死ぬ時は死ぬし、生きる時は生きる。

 何よりも、何も成さずして死ぬよりは良し。

 

 私は私の心に従って、好きに生きる。

 

「立花さん」

「詩織さん」

 

 廊下を移動し、艦上に上がる為のハッチの前で合流しました。

 

「まずは呼びかける、対話フェイズAでしたね」

「詩織さんそれといい……どうやって聞いてたんですか?」

「しおりイヤーは地獄耳ですよ」

「あはは……」

「まあそれはともかく、前とは違って今度は二人で行きましょう。そうすれば勝算も二倍、お楽しみも二倍ですよ」

「なんですかお楽しみって!?」

「それは、お楽しみだからお楽しみなんですよ」

 私は笑う、釣られて立花さんも笑う。

 

「じゃあ、いきましょうか詩織さん」

「はい、いきましょう、立花さん」

 

 ハッチを開け、差し込む光の方へと歩いていく。

 

 

「一緒に帰ろう!未来!」

 私達の視線の先には――色のギアを纏った小日向さんの姿。

 破壊された米国の艦隊から黒い煙が青い空に立ち昇る。

 

「帰れないよ、だってわたしにはやらなきゃならない事があるもの」

「やらなきゃいけないこと……?」

 

「このギアの力で、響がもう戦わなくていい世界をつくるの、平和で穏やかな世界を作るために私は……」

「でも未来!こんなやり方で作った世界は本当に暖かいのかな?私の望む世界は、未来が居てくれる暖かいひだまりなんだ」

 

 ひだまり、立花さんにとっての帰るべき場所、それは小日向さん。

 私の帰結するべき場所、それは。

 それは――。

 

 きっと皆がいる世界を見ていられる場所、なのでしょう。

 

「――私は響を戦わせたくないの」

「ありがとう未来、でも私……戦うよ」

 

 対話フェイズをAからBへ移行。

 

 さあ、イカロス。

 

 私達の役目を、果たしましょう。

 

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron…」

 立花さんが、ガングニールを纏う。

 後ろに控えていた私は、聖詠無しでその姿をイカロス形態へと移行する。

 

「立花さん、合体です」

 

 私にはもう生身の体はない、だから全身をアームドギアにだって変える事が出来る。

 立花さんのガングニールの背中に、武装として被さる事だって出来る。

 

「詩織さん……!これは……!」

 

 立花さんから発せられる余剰エネルギーをこちらで再利用させてもらう、そして発せられる高熱を放射し、立花さんへの負荷を減らす。

 

「空中機動と防御は任せてください、立花さんは小日向さんへ想いを伝える事だけを考えればいいのです」

 

 タイムリミットは2分41秒、だから私も最初から本気でいかせてもらう。

 

 LOCK ON- TARGET ×1

 狙いを定めて、まずは初手でエネルギーを開放、牽制に拡散レーザーを射出。

 

 DISCHARGE

 

 立花さんが跳躍する。

 

「どうしてわかってくれないの、響」

 

 立花さんの余剰エネルギーによって瞬く間にエネルギー許容量が最大になる。

 故に小日向さんのギアから放たれる「聖遺物殺しの光」といえども「純粋なエネルギー」をぶつける事で、こうして。

 

 DISCHARGE

 

 二つの光がぶつかり爆ぜる。

 

 「相殺」できる。

 

 

 拳と、扇状のブレードが激突する。

 立花さんの攻撃に、あわせてくる小日向さんですが……彼女にここまでの戦闘技術は無かった筈。

 つまりギアからのなんらかの補助を受けている?

 

「ぐぅっ!」

 

 

 っと、立花さんが刺突で被弾、私へのダメージは無いですが、距離を開けられました。

 小日向さんのギアの両肩の「鞭」の様なアームが振るわれますが、させません。

 

 LOCK ON TARGET ×2

 DISCHARGE DISCHARGE

 DISCHARGE DISCHARGE

 DISCHARGE DISCHARGE

 

 開放したホーミングレーザーを小刻みにぶつける事で弾く、立花さんが体勢を整えるまでの隙を私がカバーする。

 

「はぁッ―!」

 両足のバンパーで船体を叩き、ジャンプしつつ跳び蹴り、命中。

 対象へのダメージ、軽微。

 

 対象、エネルギーをチャージ。

 正面から撃ちあうには――不利ですね。

 

 

「詩織さん!」

 立花さんの声に答え、私は空中機動を始める。

 

 バレルロールにてエネルギー波を回避。

 

 対象、小型のミラーを展開し、拡散レーザーの射出を開始。

 推奨行動、回避、迎撃、迎撃。

 

 DISCHARGE DISCHARGE

 DISCHARGE DISCHARGE

 DISCHARGE DISCHARGE

 DISCHARGE DISCHARGE

 

 被弾。

 

「詩織さん!大丈夫ですか!」

「問題なし」

 

 推奨、撹乱。

 

 蝋による「保護膜」の構築、そして剥離。

 

 有効、「空蝉」に攻撃が集中した瞬間を狙い機銃でミラーを撃墜していく。

 

 緒川 さんに、学んだ技が、役に立ち まし たね。

 

「立花さん、構えてください20秒後に、突撃を開始します」

 

 タイミリミットは1分を切る、これ以上は立花さ ん の身が もた ない。

 

「わかりました!詩織さんを信じます!」

 

 DISCHARGE DISCHARGE

 DISCHARGE DISCHARGE

 迎撃、迎撃、新たな飛翔体を確認。

 

 リフレクターと認識。

 TARGETのエネルギー波を反射、回避。

 回避。

 

「舌を噛まないで、くださいね」

 

 計算完了。

 TARGET TARGET LOCK ON LOCK ON

 リフレクターの展開位置から、収束を予測。

 

 被弾、被弾。

 直進ブースターに異常。

 

「立花さん――」

 

 ブースターをレーザーキャノンで代用。

 

「はい!」

「行きましょう」

 

 これ以上の連続開放は破損の危険あり。

 

 DISCHARGE DISCHARGE

 DISCHARGE DISCHARGE

 

 私達は、突撃 す る。

 

「未来!」

 

 対象を捕捉、距離0。

 

 タイムリミット12秒、エネルギー収束地点、距離300m。

 

「離して!」

 

「嫌だ!」

 立花さんが――叫ぶ。

 

「もう二度と!離さない!!」

 

 それで― ―い いの です。

 

 アームドギア耐久限界、次の開放が――

 

 

「立花さん――」

 

 DISCHARGE

 

 エンジンユニット、発火。

 ブースター破損、目標距離、エネルギー波、到達まで2秒。

 

 

 これで、よかったのです。

 

 

 

 

 GOOD LUCK MY FRIEND

 

 

 

 

 

 

 光が、全てを覆う。

 青い海も、青い空も。

 

 エネルギーの波に分解され、感覚が消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……けほっ」

 久しぶりに、空気を吸った気がする。


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