萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:ゆめうつろ
纏うは、偽りの
コスプレ衣装製作会社に発注してた「イカロス」の「アームドギア」が届いた。
お値段34万、製作期間2週間。
用途は配信用衣装である。
これでも安くなったものである、最初は試算すると47万であったが、「衣装モデル」になる事とサイン入り写真を店頭に置く事を条件に13万円引き。
それで私のギアのインナースーツ衣装も付属。
着心地こそ、まぁ本物とは違うけれど、デザインの再現度は非常に高く、アームドギア部分も頑丈に出来ていて、さすが職人の技である。
今回利用したコスプレ衣装製作会社はヒーローショー用の動かす衣装を作ることを主な仕事としているので「個人」との取引はとても珍しいそうだ。
それはさておき、久しぶりに「イカロス」を纏い配信の準備、と行こうとしたら電話が鳴る。
『はい、なんでしょう翼さん』
『ちょっと近くまで来たから寄って行こうと思って』
『はいはい、大丈夫ですよ。もう着きますか?』
『もう家の前に居るの』
『はやいっすね……』
電話を切る、格好は……少し驚かせてあげましょうか。
ドアの前で唱えるは「聖詠」。
もちろん意味はない。
意味はないが。
扉を開ける。
「そ……それはまさかイカロス!?どうして!?」
「翼さん……」
「まさか、完全に除去しきれて……いえ、違う……それは衣装!?」
「そうですよ~発注してたのが届いたので」
「紛らわしい事をしないで欲しい!本当に心臓に悪い!」
とりあえず初見では引っかかる事が分かりましたね、こんどクリスさんや立花さんが来た時もやりましょう。
「で、何の為にそんなに精巧なイカロスの衣装を……」
「配信の為ですよ~私、配信で世界を獲る事を決めたので」
「それはまた……」
「あっ今ちょっと笑いましたね」
久しぶりに翼さんと会えた、配信している時間もいいですが……やっぱりこの時間だけは、特別です。
「まぁ、上がってくださいよ。コーヒー淹れますから」
とりあえずアームドギア部分だけ取り外して置き、台所へコーヒーを淹れに行く。
私の数少ない特技、市販のコーヒーをおいしく淹れる事が出来る。
だから来客時にはこうやってコーヒーを出す。
来客といってもクリスさんか翼さんしか居ないんですけどね!立花さんはまだ家に呼んだ事ありませんし。
夕陽に照らされる部屋の中、こうして二人静かにコーヒーを飲む。
私の、至福の時間です。
「最近、忙しかったからこうするのは久しぶりですねぇ」
「ああ、あっという間だ、けどようやく私の夢にまた一歩近づけた気がする」
「私も嬉しいですよ、翼さんの夢が叶うのは」
そうだ、どんなに距離があっても。
距離があるからこそ、かもしれませんね。
「そういう詩織の夢は、見つかった?」
「まだまだ、です。でも時間もまだまだありますし、ゆっくりと見つけていきますよ」
「私も詩織が夢を見つけるのを応援してるし、夢を見つけられたならそれを聞かせてほしい」
「ありがとうございます」
そういえばこんな言葉がありましたね「別々の道を共に立って往けるのが友達だ」と。
私は日陰の様なネット世界、翼さんは輝く舞台、それぞれ違う道だけどお互いを応援できる。
翼さんが夢へと進んでいくのを見て、負けてられないな、と思える。
「そういえば、最近学校に来てないと雪音や立花が心配してたけれど……」
「あーそれですか、自分の趣味に没頭しててサボり癖がついちゃいまして」
「む、それはよくない。きちんと学校には行ったほうがいい」
うーん……翼さんに言われてしまうとなぁ……行かなきゃいけない気になりますね……。
「仕方ありませんねぇ……明日から登校再開といきますかなぁ……」
「……不安な事でも?」
「あの二人ですよ、切歌と調でしたっけ?ちょっと気まずいんですよね」
「でも、会ってみなきゃ何も進まない」
「そうですよねぇ」
こうやって不安を吐き出せる相手なんて今まで居なかったから、こういう事を言ってもよかったのかなとも思うけれど、翼さんは真摯に答えてくれる。
私はそれがとても、とても嬉しい。
「まぁ、明日行って挨拶だけでもしてきますよ」
私も本当に変わった。
翼さんが帰った後、今度こそ配信をしようとして考える。
何を配信したものか。
こういう時は、ゲームかな。
『おりんりーん』
「えっ!?」「シンフォギア着てる!?」「ファッ!?」「まずいですよ!」ほほう皆の者慌てておるな?
『正義の装者、イカロスが今日は戦争を止めて見せますからねぇ』
「正義(独善)」「正義(暴力)」「正義(個人の感想)」うるせぇ!正義なんて人それぞれなんだよ!
今日プレイするゲームはFPS「War Rider 4」シリーズ物の王道なシングルプレイFPSです。
さっそくストーリーモードで始めましょう、難易度はノーマル、チャプター1くらいなら1時間で終わるかな。
オープニングムービーで説明される世界観とストーリー、このゲームの目的はテロリストに占領された「宇宙エレベーター」と「対隕石迎撃システム」を取り戻す事。
『平和の為に作った技術がこうやって兵器利用されるのってやっぱ嫌ですねぇ……』
「おりんが言うと重みがやばい」「シンフォギア纏いながら言うと不吉だからやめろ」「というかそれコスプレか!今来てびっくりしたわ!」今来たさん、あらいらっしゃい。
それにしてもシンフォギアも考え方によっては兵器利用とかされそうですよねぇ、しかも纏えるのは少女だけ。
自動的に少年兵が使うシステムですよ。
そう考えると運用してたのが二課で本当によかった。
……FISの元となった米国の組織が何のためにシンフォギアを研究してたかは考えない事とする、本当に辛くなる。
『さて、ゲームスタートです。初期武器はアサルトライフルで行きます』
FPSならグレネードランチャーとショットガンを使うのが得意なんですが、このゲーム初期選択のショットガンがしょぼいらしいので途中で敵から奪ったのを使うほうがいいらしいんですよね。
『序盤の敵なんてねぇ、大体的なんでここは強行突破して後ろから殲滅します』
所詮は難易度ノーマル、敵のエイムはそこそこ、遮蔽物を盾にしながら一気に駆け抜け威力の高いライフルを持ってる敵から殲滅していきます。
『フロア制圧、まあこんなものでしょう』
「イキりん」「おりんのエイムが相変わらず早い」「そらおりん歴戦だし……」歴戦といってもゲームの仕様でエイムが付けにくい時もあるので割と得意不得意も分かれるんですけどね。
『次のフロアは、シールド持って死んでる奴いますねあれ貰いましょうか』
「容赦なく追剥」「バンデット」「グロ死体に動じない女」
多くのFPSは倒した敵の武器を奪う事が出来る、このゲームは味方の死体からも武器を取れる。
このゲームのシールドはバリアの様なもので、持ち運びして地面に設置して使える。
その代わりエネルギーが切れると使えなくなるので程々に交換が必要です。
『階段の上取られてますね、シールド投げて直接キルしましょう』
「容赦ねぇ!」「冷徹女」「見ろ、この冷静さを。これが本物の戦場を歩いた女だ」
シールドは発生時だけ攻撃判定があるので投げて敵にぶつけてキルを取れる。
これで階段を確保しつつ移動。
フロアを次々制圧していき、時に作業用通路などで迂回して裏を取って襲撃。
『さて、通信が入りましたけどこれボス戦ですよね。作業重機が乗っ取られてるって』
「そうだよ」「操縦席を狙うんやで」「うそつけ無人機やぞ」「ボスのアームは即死やぞ」たまにこういうコメントは嘘が混じってるので自分で見た物だけを信じる事にしている。
『なんですかあの虚弱な足の付け根は、狙ってくださいっていってるようなものじゃないですか』
「草」「こマ?」「もう弱そう」「強敵やぞ」「いやそうでもないです……」凄まじく戦闘には向いてなさそうなのが出てきて思わずびっくりです、私がイカロスを纏ってたら即ホーミングレーザーで始末できそうですね……。
『とにかくアーム怖いので、懐入りまして……ってこれ格闘押せって出て……あっ』
「容赦無く破壊して草」「たかが歩兵一人に破壊される重機の屑」「鉄屑」「がらくた」特殊なモーションが入り、扉を抉じ開ける為のブレードで作業重機の足の付け根を破壊、瞬く間に無力化しました。
『道中の歩兵とドローンの方が強かったですね……今日はこの辺りにしましょう』
「実際こんな事件が起きてもおりんがシンフォギア纏ってたら何とかなりそうですね……」「おりんを対テロ部隊に編入しろ」「ダメだろ、おりんは独断先行するタイプだ」「つまりワンマンアーミーなら……?」
というかリスナーにすら独断先行を言われるのはちょっとキますね……。
『確かに私は独断先行するので、本当にこういった事件とかを解決するのには向いてないかもしれませんね……こういうのはやっぱ専門家がいますので……』
「まあ元気だして」「タスクフォースにはぶられた女」「そのうちいい事あるって」「というかそのシンフォギアのコスプレは許可貰ってるの…?」
『はぁい、では今日はこの辺りで配信終わり!閉店!』
配信を終わり、重かったイカロスのアームドギアを外す。
結構長時間着るには重いですねこの衣装。
次からアームドギア着けずに配信しましょう。