萌え声クソザコ装者の話   作:青川トーン

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飛び立つ貴女へ

 イカロスの起動試験が中止になった。

 

 司令がいつまで経っても上がってこない生化学研究所からの「イカロスの蝋による肉体への作用」の報告の遅れに痺れを切らし、独自調査を行った所。

 研究所が「モルモット」での実験結果を黙秘・偽造し、私の安全性を度外視していたのが発覚したからだ。

 

 司令から聞いた話だと、私が融合症例だった頃に発生させた大量の「蝋」は様々な視点から研究されていて、イカロスのシンフォギアが作られた時に使われた「イカロス」の欠片と「同じ」聖遺物の欠片として扱われている。

 神獣鏡によってペンダントが破壊された際に中にあった「元々の欠片」は特異性を失ったが、「蝋」を新たに入れ替えた事で「機械起動」では反応を示した。

 しかし、それで私がシンフォギアとして纏えるかどうかのテストを行うに当たって、安全性はどうなのか、再び侵食は起こらないのかと可能な限りの調査をしていた所。

 生化学研究所の実験結果の黙秘・偽造が発覚したという訳である。

 

 

 実験内容、それはイカロスの蝋を使ったモルモットへの「侵食・融合・癒着」の試験。

 10匹中7匹蝋により中毒を起こし死亡、残った3匹は他の個体から移植された欠損部位、移植した「鳥の羽」「機械部品」などと「生体適合」を起こしたが、「抑制」が利かなくなり、研究員に襲い掛かったという。

 

 その報告書を緒川さんが忍び込んで持ち出してこなければ、「偽」の報告書が提出され、私のイカロス起動試験は行われる所であった。

 当然ながら司令は大激怒、研究所には国連と日本政府両方の捜査が入り関係者は全員拘束された。

 

 私もそのままイカロスの起動試験が続行されていたらと思うと冷や汗が止まらない。

 

 「イカロスの蝋」が「神経や臓器を始めとした生体」に影響を与える事と「抑制」を奪う事。

 かつての私の融合症例であった頃のデータ、更にその前の融合前のデータとも照らし合わせると、やはり合致する部分があり。

 

 実際に纏う事で再び侵食が始まる可能性を考慮し、実験は中止。

 

 さらにシンフォギアシステム4号「イカロス」は封印を決定された。

 

 

 これによって私が装者として復帰する可能性は無くなった。

 

 だけど、それに安心する私も居て、私がまた人の身を外れる事が無い様に案じてくれた司令やSONGの皆さんへの感謝もある。

 

 しかし、それはそれとして。

 共に戦って来たイカロスが、人を守る為に作られた力が、危険な物とされ、封印されるのはやはり寂しい気持ちがある。

 

 だから、せめて残った蝋だけでも何かに役立てられるモノである事だけを願うばかりである。

 

 

 それはさておき。

 

 翼さんがもうすぐ日本を離れイギリスへ向かう。

 ようやく、翼さんの夢が本格的に動き出す。

 

 とても嬉しいニュースである。

 嬉しい……ニュースだ。

 寂しくないといったら、寂しくなんかない。

 

 今の時代ネットだってあるし、なんなら互いに番号やアドレスを知っているんだから……。

 

 …………。

 

 

 当たり前ですよ、寂しいに決まってるじゃないですか。

 今まで以上に遠くに行って、気軽に会えない。

 それが寂しくないわけ、ないじゃないですか。

 

 でも、ですね。

 私は翼さんの友達でもあるし、ファンの一人でもある。

 翼さんの夢を応援するに決まっているじゃないですか。

 

 

 だから今日は、今日は応援配信と行きます。

 

『こんばんおりーん』

 「ウワッ!おりんだ!」「ノイズを滅ぼした女」「世界の日陰者」「国連が唯一恐れた女」次々と挨拶代わりのあだ名が飛んでくる。

 

『今日はお歌配信、翼さんの海外デビューを応援する為に、私も歌おうって企画です』

 「清楚おりんが来た」「ただのファン」「翼さんのファン」「寂しさを殺し、応援する友人の鑑」「強がりおりん」強がってなんかいませんよ、ええ、寂しくたって、私は生きていける。

 

『まずは一曲目――FLIGHT FEATHERS』

 

 思えば、あの頃からでしたか。

 私が変わり始めたのは。

 

 翼さんのライブに合わせたように現れたノイズ、それの迎撃に一人で行こうとしたのは。

 それより前の私なら「仕事」だとはいえ命を危険に晒すのは「割に合わない」なんて言って断りそうですね。

 

 それから、翼さんとの距離が少し縮まったりして。

 クリスさんと出会って仲良くなったり。

 立花さんを信じる様になってきたり。

 

 少しずつ少しずつ何かが変わっていく。

 それまでただの人形の様だった私が「人間」になれた。

 

 もしも、シンフォギアと出会わなければ、翼さんと出会わなければ。

 私は今もただの人形の様に「生きている振り」をするだけの存在だったかもしれない。

 

 そう思えば、今歌う中で感じる「胸の痛み」も、生きている証に感じられる。

 

『ご清聴ありがとうございます』

 「翼さんへの執着を感じる」「おりんの愛が重い」「なお本人に聞かれるとクソザコと化すのは変わらない模様」

 

 そうですね、応援配信だから、あくまで翼さんに聞かせている訳じゃないから、歌えるのであって。

 でも翼さんに聞いてもらいたい、って気持ちもありますけど、やっぱり恥ずかしいし……。

 

『次は……オリジナルで行きましょうか「影月」』

 

 そう思えばイカロスも、随分と「濃い」付き合いだった気がします。

 最初のうちはまったく言う事を聞いてくれないじゃじゃ馬でしたが、機動になれてみれば凄く気分のいいものでした。

 自信を得られたのも、またイカロスのおかげでもあります。

 イカロスがなければ、今の私は無かったでしょう。

 

 変わる為の勇気をくれた、開放してくれたのは間違いなくイカロスだと思います。

 

 

『3曲目、演奏無し。アカペラになりますがこれもオリジナルで「イカロス」です』

 

 だから3曲目は、「彼」あるいは「彼女」かもしれない「イカロス」を想って歌う事にしましょう。

 

 イカロスと共に戦う時に歌っていた「歌」を思い出しながら、聖詠の始まるメロディを紡いでいく。

 

 間奏にあたる部分には「絶唱」のメロディを混ぜ、最後は自分の考えた、自分のメロディで閉じる。

 

 これは「レクイエム」か、それとも「カノン」か。

 

 私としてはいつか「イカロス」が生まれ変われる事を願って「カノン」としたいです。

 

 

『はぁ……少し休憩です、歌うとやっぱり体力使いますね』

 「鍛えろ」「いい歌だった」「おりんもCDをだせ」「メジャーデビューしろ」「相棒への想いを感じる」感想を見ながら休憩、評判は良いようで、リスナー数4万ちょい。

 

 何だか随分多いですねぇ。

 

 しかし、これでクソザコにならない辺り、私もやっぱり成長したようです。

 

『こんなに多くの人に歌を聞かれるなんて、昔の私に言っても信じてもらえそうにありませんよ……まったく、ただの萌え声生主が随分遠くまで来たものです』

 「元は萌え声生主」「まだまだ進み続けろ」「止まるんじゃねぇぞ」「喜べ、お前の行く先は未来のスターだ」随分とポジティブなコメントばかり、あのうじうじしたダンゴムシどもは何処へ……。

 

 これじゃあ私もうじうじしては居られません。

 

『さて4曲目、最後としますが、実はこれ……作曲も自力でやってみたんですよね……だからちょっと聞き苦しい部分もあるかもしれませんが……』

 「もったいぶるな」「萌え声で中和しろ」「お前の歌を信じろ」「信じて!」

 正直、別の歌を出そうかと思ったんですが、多分ここでしか歌えるタイミングがない、と思ったので出す事としましょう。

 

『「飛び立つ貴女へ」……こっぱずかしいんですが……翼さんへの応援歌です……』

 「皆の者!録音の準備は出来ているか!」「全部録音してるに決まってる」「後でまとめてアップしろ」

 

 とても、とてもじゃありませんが!翼さんの目の前で歌えと言われたら多分恥ずかしくて爆発してしまうので、こうして配信で歌う事にします。

 

 それは、翼さんの夢を応援する歌、ただそれだけです。

 

 音楽ファイルを開き、作曲し、演奏ソフトで完成させたモノを再生する。

 そしてそれに合わせて、私は歌う。

 

 世界を照らす光となる翼さんを私はどこまでも見守りたい。

 

 たとえ進む道が違っても、光と影と立つ場所が違っても。

 何処までも友として、ファンとして。

 

『以上、です……っと最後に……私は、翼さんの夢を応援します。きっと今までみたいに配信でコラボする機会も減ったりするでしょうけど、リアルで会う機会が減ったりもするでしょう。でも翼さんが笑っていられるなら、それが私の幸せです……!』

 「よく言った!」「ファンの鑑」「見守りつつも自分も進む事を忘れるな」「おりんも夢を見つけて」

 

 どうにか、歌いきりました。

 

 配信を閉じ、布団に倒れこむ。

 

 するとメールの着信があった。

 

 翼さんからだった。

 

『ありがとう、詩織』

 

 それだけ、それだけの内容ですが、翼さんに今の配信を見られていたのを確信し、私は転げ回る。

 

 恥ずかしい、でも嬉しい、翼さんに私の想いを聞いてもらえた事が。

 

 

『がんばってください!いつだって、私は翼さんを応援してます!』

 


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