萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:青川トーン
私の血には歌が流れている。
今はもういないあの人がくれた歌に、私は生かされている。
ならば、私が成すべきは――
-Blue Cyclone-
ノイズを打ち上げ、微塵に切り裂いていく青い光の竜巻の中から少女が飛び出す。
「お前で最後」
-Ray Blade Rain-
右腕に固定された剣を振るえば、巨人の様なノイズに光の刃の雨が降り注ぎ、次々と突き刺さり、やがて形を維持できなくなったノイズは砕け散った。
全ての敵を打ち倒し、地に降り立ったのは一人の少女、褪せた青のギアを纏ったその瞳に光はなく。
勝利したというのに、その顔に喜びも安堵もなく、ただあるのは落胆のみ。
――さて、今日は「黒い奴」がいなかったけれど……
瓦礫の山となった街を見渡す、積もった黒い炭はノイズのモノだけではない、今日も多くの者が死んだ。
その事実に、自分自身の弱さに少女は溜息をついた。
『ご苦労様です、詩織。貴女のおかげで今日も人々の平和は守られました』
『そのつもりはない、ただ私はノイズを始末しただけにすぎません』
『それはそうと、今日こそは「本部」に寄ってくださいよ、そろそろ「除去」を行わないとマズいでしょう?貴女の代わりはいないのですよ』
――まったく、あのクソ野郎め……
心の中で詩織はどくづく。
『今度は何人犠牲にした』
『6人、まぁ大義の為の仕方のない犠牲です』
『私も、貴方もろくな死に方はできそうにないですね』
詩織はそれだけ言うと通信を切る。
加賀美詩織、風鳴訃堂によって「再建」された特異災害対策機動部二課に所属するただ一人の装者であり。
あの「惨劇」のただ一人の生き残りであり、天羽々斬の融合症例。
そして現状「カルマ化」した黒いノイズを倒す事の出来る、ただ一人の存在。
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二課本部、風鳴訃堂を最高責任者とし、その傀儡と大義の為ならば多少の犠牲を厭わない者達によって構成された掃き溜めの様な組織の、最も不快な場所。
正直言えば、詩織はこの場所が嫌いだった。
自分もまた、大義の為の犠牲を厭わない「弱者」の一人にすぎない、と思い知らされる、そんな気がして仕方が無かったからだ。
カラカラと「荷物」の様に運ばれていく「被検体」の成れの果てとすれ違う。
――私もいつかああやって死ぬのか、それとも戦いの中で死ねるのか
「おや、意外に早い到着でしたね」
「着替えぐらいしてから出てきてはどうですか、ウェル司令」
ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス司令、かつてアメリカのF.I.S.に所属する研究者であったが、旧二課が壊滅した後に日本に密かに研究成果と共に亡命し、二課再建の際に司令の座にまで上り詰めた男だ。
とはいえ、彼が行うのは主に司令としての仕事ではなく、研究者・技術者として聖遺物、特にシンフォギアシステムの解析と運用・開発を行う事。
二課の壊滅の被害は二人の装者「ツヴァイウィング」の死だけではなく、開発者であった櫻井了子の死も含まれていた。
「カルマノイズ」とよばれる黒い変異体ノイズはそれほどの傷跡を残したのだ。
「確かに、君の施術に余計な混じり物があっては大変ですからね、英雄さん」
「その呼び方に悪意しか感じません、不快です、死にますよ」
「それは勘弁願いたい、完全な融合症例は貴女一人しかいないのですから」
今、二課で行われているシンフォギアの研究開発方針は、生体との同化運用。
つまり融合症例を人為的に作り出す方向だ。
その為に日夜、孤児や「ホムンクルス」を被検体として実験を進めるが、何が悪いのか破損したガングニールや天羽々斬の欠片に適合する者は現れず、ただ死体が増えるだけ。
「それで、ホムンクルスを使った量産はどうなんですか」
「ホムンクルスへの刷り込みでもやっぱりダメですね、今回の分は全滅です。やはりきちんとした「愛」がなければ」
シンフォギアへの適合は奇跡ではない、それぞれの適性と意志こそが適合を成す。
そしてその根幹となるものが「愛」。
「そう!詩織さんの風鳴翼への想い程に強い愛があれば、間違いなく成功するというのに!」
「まぁ、そんな事はどうでもいいんです、さっさと除去作業して次に備えましょう、量産に成功しようがしまいが、私は死ぬまで戦う、それだけです」
「んもーつれない人ですね」
詩織はウェルの戯言に付き合うつもりはない、と話を切り上げて施術室へ向かう。
「そう、私は死ぬまで戦う。それしか出来ないのだから」
融合症例は、正規のシンフォギアとの適合と違い、適性を少しばかり緩くする事ができる。
オマケに爆発的な適合係数と出力の上昇、そして負荷の軽減が期待できる。
それはかつて二人の装者の命を奪った「絶唱」を発動しても、命にまったく係わらない程に。
だが良い事ばかりではない、聖遺物が肉体を侵食し、最悪命を奪うというリスクも伴う。
故にアンチリンカーと呼ばれる薬品を元に作られた除去剤で神経や臓器の命に係わるレベルでの侵食を除去しなければならない。
おまけに除去を行えば行うだけ副作用として体に甚大な負荷もかかる、故に詩織は定期的に、大きな負荷になる前に除去を行う。
しかし目下最大の問題は、その処置が出来るのがウェルしかいないという事。
詩織はウェルの事がとてつもなく嫌いだった。
それは、彼こそが己の、ただ一人の理解者だから。
そしてただ一人の「仲間」だから。
風鳴翼という「理想」の幻想を追い続ける子供。
英雄という理想を追い求め続ける幼稚な男。
――まったく、気に入らない。
施術台に横たわり、詩織は溜息をついた。