萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:青川トーン
夢を見た、私が舞台で衣装を着て歌って踊る夢を。
目が覚めて死ぬほど動悸がした。
もしかして翼さんに、外堀埋められてる?気のせい?
私が舞台に立つ?いやいやいや無理無理無理ねぇ無理、勘弁して欲しい。
SNSを開く、通知がヤバい事になってる……。
内容は当然ながら翼さんとのコラボ配信だ。
おまけにネットニュースの芸能にまで出てる……。
私の闇が……安楽の闇が……消えてしまう……これは、面倒な事になった……。
なんで断らなかった昨日の私、なんで許可した昨日の私。
とにかく、だ。
翼さんに会って、詳細をつめないと……やると言ってしまった以上楽しみにしているリスナーを裏切りたくはない。
というか翼さんPCスキルどれくらいあるんですかね、通話配信とか出来るかな……。
…………嫌な予感がするぞぉ……これは……とりあえずメールで翼さんと待ち合わせの連絡を入れる。
身支度をし、ようやく通学に慣れてきたリディアンへ辿り着く、そして少し人気の少ない場所へと向かう。
この場所こそ、私の様な陰キャの楽園、昼休みの逃げ場所だ。
「待ちましたか翼さん」
「いや、今来た所よ」
「翼さんはどれくらいパソコン扱えます?ネット通話とか出来ます?」
「……その全然」
やっぱりかぁ、やっぱり通話配信きついかぁ……。
……あっ!そうだ!
「そういえばマネージャーさん居ますよね、男の人の」
「そうか!緒川さんに頼めばいいのね!」
……って、そういえば。
「所で、私の配信コラボ、マネージャーの……緒川さんの許可貰ってやってます?」
「いや、私の自由にしていいと言っていたから……貰ってない……」
貰ってないんかい!とにかくまずはその緒川さんに連絡だ!
「緒川さんに連絡してください」
「わかったわ」
と翼さんが端末を取り出す、そういえば緒川さんも二課の人だったね……。
「……その、加賀美……ごめんなさい、私の家のPCではダメみたい」
ダメかぁ……これはもしかして機材を買いに行く所から始めなきゃ……
「だからスタジオに一緒に来て配信する様にして欲しいと」
は?えっ?スタジオ収録?
「翼さんとオフで会ってる事がバレたらマズくないですか?私炎上しちゃいませんか?」
「緒川さんと話しますか?」
「ちょっと借りますね、もしもし加賀美詩織ことおりんです」
翼さんから端末を受け取り、電話の向こうのマネージャーさんに挨拶する。
『こんにちわ、翼さんのマネージャーの緒川です。今回は翼さんとのコラボにOK出してくださってありがとうございます』
「いえいえ、それむしろこっちのセリフです。よくコラボ許可だしましたね、私もただの配信者ですよ」
『基本的に翼さんがやりたい事を応援したい、というのがスタンスなので。それでコラボ配信の件ですがもしよければ「スタジオを借りて」やりませんか?一応、こちら側から誘ったという形なので問題は無い筈です』
「いえそれはいいんですけど、いいんですか?知名度的に私は無名もいい所ですよ、それがいきなりこんなコラボ……ちょっと私側が燃え上がりそうで怖いんですけど」
『その件は大丈夫です、前に翼さんが公式アカウントであなたの配信を見に行った事は周知の事実、翼さんが興味を持った配信者なら、翼さんのファンの方も納得してくれますよ』
よかった、嫉妬で燃やされるおりんはいなかったんや……とふと思った、私の配信……二課の方々にどのくらい見られてるの?
「一つ、気になったのですが私の配信ってその……どのくらい監視されてるんですか……」
『監視って程じゃないですが、一応私は見れる分には見てますよ、アーカイブも含め。なんせ翼さんが興味を持った方ですし、二課に所属する装者でもありますからね』
…………やば。
「その、私のその……暴言や、愚痴みたいなものは……」
『大丈夫です、おりんさんは十分マナーがいいですよ、機密の漏洩所か愚痴や暴言にも入りませんよあんなもの、ただ翼さんとの放送では全年齢対象ゲームにしておいてくださいね?』
よかっ……よかねぇよ!全部見られてたじゃん!?
「はい……おりん、善処します……スタジオ収録を前提に企画を考えておきますので……ありがとございます、失礼します」
とりあえず焼きおりんになる心配は置いておくとして、どうしたものか。
「という事で翼さん、通話配信じゃなくてスタジオ配信になりましたので公式コメントに入れておいてください。私も告知を変更しておきますので……」
「そうか、でもうれしいな……私も加賀美の様に楽しく話せるかな」
翼さん超ウッキウッキだし……というか翼さん自分でラジオ番組持った方が早くないですか?
「思ったんですけど、何故私とコラボなんですか」
「その……やっぱり知っている相手の方が安心するから……」
「そ……そうですか」
普通に現実的な問題だった、しょうがねぇな!
こう人の闇とかダメな所を見つけると安心しませんか、コイツも所詮は私達と変わらぬ人間よぉ!ってな感じで……。
「で、もう一つなんですけど、翼さん。海外チャレンジするんですか?」
「ええ、まだ何処と契約するかまでは決まってないし、卒業後にはなるけれど……」
「……何か切っ掛けでもあったんですか」
「……ええ、自分の気持ちの区切りと再確認が出来たから」
ああ、やっぱり眩しいですね。
翼さんは、私とは違って世界を照らせる光になれる人です。
私とは全然違う綺麗な輝き、だからこそ、だからこそファンになった。
「なら私も陰ながら応援しておきます、私は闇の住人だから同じように舞台に立つ事はないですけどね!」
念のため、ちゃっかり一緒に舞台で歌う事は拒否しておく。
「そうだ、今度のライブ。見に来てくれる?」
そういえばもうすぐライブもやるんでしたね、でもどうしようかな……今からじゃチケットきつくない?
「でもチケット無いですよ?」
「その、VIP席を一つ取れるの」
ファッ!?
「いいんですか?」
「その、お礼というか、いつもよくしてもらってるから……」
よくしてる?どうして?
「どういう…?」
「私も、その人付き合いは多くないから……今度一緒に遊びにと立花に誘ってもらったぐらいで……後は緒川さんと、あなたぐらいだし……」
翼さん、立花さんの誘いに乗ったのか……私が不参加にしたあの誘いに……。
しかし驚いた、翼さんの交友関係とかもっと広いのかと思ってた……、光の中に闇を見るとちょっと嬉しくなる。
って私…?
「えっ……その翼さん、聞いていいですか……」
「……?どうしたの?加賀美」
「翼さんは、私をどういう存在だと思ってるんですか……?」
やばい、ちょっと動悸がやばい、顔が熱くなってきた、というかこれ答えがなんでも私死なない?
「仲間で……」
「よかった仲間」
そ、そうだよね装者の仲間だもんね!
「とも……だち……だよ?」
え。
え。
やば。
なんで顔赤らめてんの翼さん。
「だよ」って何だ!?かわいすぎかよ!?私死ぬよ!?死んでしまう!!!!!!!
「その、どうして。とも……だち…?」
「とも……だち……じゃないのか?私だけなの?」
「びっくり…して…ちょっと……えっ……えぐっ……」
あ、あかん涙出てきてちょっとやばい、声もでねぇ。
あの翼さんが、私を友達と…………ダメ限界すぎる、ただのファンだったんだぞ!私は!ただの限界オタクの陰キャのクソザコナメクジを!翼さんが!友達と呼んでくれたんだぞ!!!
「だ……だいじょうぶ!?加賀美!?」
「ごめんね、ごめんね、私予想外な事が起きると、たまに泣いちゃうから、ちょっと待ってね、待ってね」
おちつけ加賀美詩織、友達が0から1に増えただけではないか、四捨五入してもまだ0だ、うるせえよ馬鹿、浅い関係の友達100人より翼さん1人の方が大事だわ!
ふぅ、ふぅ、はぁ。
「落ち着いた?」
「落ち着きました、さて……いつからその翼さんは……私を友……達と……」
「退院した頃から、ね。落ち着いて考えてみれば親身に愚痴を聞いてくれたり一緒に居てくれたから……これはもう友達だって……」
「ふぐはっ」
また鼻血出た、翼さんは私を色々な意味で殺そうとしているのでは?
「加賀美!?」
「大丈夫です、大丈夫。加賀美詩織は、大丈夫。……私は……そう、その、普通に「装者としての」仲間だと思ってて、ちょっとごめんなさい、ひどいよね、私もずっと友達がいなくて、友達ってどういうのか分からなくて」
また涙出てきた、鼻血に涙って最悪じゃない!泣きっ面に蜂だよ!
「とにかく落ち着いて加賀美、顔凄い事になってるから」
あっ!翼さんの手を汚させてはならぬ!ハンカチ、ハンカチだ!
「ふぅ、顔から流れるものは全部流れたので、落ち着きました……でその、私も……翼さんを友達だと思って……良いんですか?」
「……ええ、これで私達はあらためて「友達」、そうよね加賀美」
「だったら、詩織って呼んでください……加賀美だとなんだか……」
「……し…しおり!」
翼さんが顔を赤くして俯く、私の視線が傾く。
あれ、これもしかして私、倒れてる?
頬に感じる痛みと冷たさ、そして床。
これは限界迎えてるな?
限界オタク詩織、ここに死すかな?